東方双神録   作:ぎんがぁ!

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早めに序章終わらせないと…

ではどうぞ!


第百四十一話 神、河童、そして…

紅葉に染まった妖怪の山。

 

ある一人のーーいや、一柱の神の少女が頑張ってくれた故の、美しい風景である。

比較的高い場所にある紅葉は、緩く吹き抜ける風に揺られて、ヒラヒラと絶え間なく落ちていく。ーーそれらが積み重なってできた紅葉のベッドに、何となく誘惑されてしまうのは、仕方ないのだと思う。

 

さて、そんな紅葉を眺めながら、あるいは襲ってくる天狗達をあしらいながら山道とも言えぬ山道を登って来たわけだが…どうにも、この美しい景色には似つかわしくない、不気味な気配を感じる。

お陰で気を張りっぱなしだ。

 

「……天狗の相手だけでも面倒なのに…何が潜んでるんだよ」

 

百年近く幻想郷に住んでいる俺ですら、未だ知らない所や人物がいる。飽きがこないという意味では嬉しいに違いないのだが…同時に、それが良くない気配ならば警戒してしまうわけで。

面倒臭がり屋の俺には拷問に近い。

 

ソワソワして余りにも落ち着かないものだから、気にしないで歩き続けるというのも難しい。

 

ーーなら、早めに正体を突き止めておこうか。

 

舞い散る紅葉の中、立ち止まった。

 

「なぁ、この不吉な気配を漂わせてるの誰だ? 落ち着かないから出てきてくれ」

 

木々の間に俺の声が響いていく。

ただ直ぐには現れてくれない様で、風が葉を擦る音だけが俺の鼓膜を震わせている。

 

「(………来ないか)」

 

不吉な気配は消えていない。

攻撃の為に力を溜めている気配もない。

俺は、敵意の感じられない向こうから出てくるのを、感覚を研ぎ澄ませながらジッと待っていた。

 

ーーすると。

 

 

 

「………ゴメンなさい、警戒をさせたみたいで」

 

 

 

目の前の茂みから、済まなそうな表情の少女が出てきた。

 

「……この気配はお前のか?」

 

「ええ。私は鍵山雛(かぎやまひな)。ここらに住んでいる厄神よ」

 

明るい緑色の髪を紅色のリボンで纏め、同じような色のドレスを着ている人形の様な少女である。

 

雛と名乗るその少女からは、全く敵意は感じられない反面、目の前に出てきたことでその気配はより一層強く感じる。

 

「…俺は神薙双也だ」

 

戦う気はないものの、また、相手にも戦う気が無い事を理解しつつ、しかし警戒は解かない気構えを整える。

 

そんな様子を見てか、雛は仕方なさそうな表情を向けてきた。

 

「…そんなに身構えなくても大丈夫よ。私に近付かない限りは」

 

「…厄神って言ってたな…この気配は、"厄"か」

 

「正解よ。だからこうして距離を取っているの。近付くと厄が振りかかっちゃうから…」

 

「…悲しい性質をしてるな、厄神ってのは」

 

彼女の厄神としての性質、それを聞き、初対面ながらに少しだけ同情した。

"近付くと周りを不幸にしてしまう"…厄を引き受けて流すーーつまりは汚れ役を引き受けているというのに、自分だけは一人ぼっち。

……なんとも、報われない神だ。

 

「いいのよ、そう言う神だもの。偶に厄病神と間違われるのが唯一不満かしらね」

 

「ふっ、確かに間違えやすそうだ」

 

少しだけ和やかな空気が流れる。ただ、雛から放たれる厄の気配でろくに落ち着けやしない。

こんな状態で和むのも無理があるし、ダラダラと話し続けて目的を見失うのも馬鹿のする事。

 

取り敢えず、本題に入ろうか。

 

「で、雛。こんな世間話をする為に出てきたんじゃないだろう?」

 

「…その通りよ」

 

俺に向けられる視線が鋭く、真剣なものになった。

 

「少しの間後ろをついてきたから分かる。確かにあなたは強いけど……引き返しなさい、まだ間に合う」

 

「…何故?」

 

「何故? ……あなた、天狗と戦争でも起こすつもり?」

 

終いには、俺を睨みつけてきた。

"厄神は基本人間の味方、だから山に侵入した人間に引き返すように忠告する"…それは理解出来る。人間の味方であろう雛ならば、そうしていても別段不思議はない。

 

でも……

 

「戦争なら、もう起こってるみたいなもんだろ?」

 

刀の、鯉口を静かに切る。

 

「……双也さん?」

 

「俺がここに侵入した時に…さっ!」

 

 

ヒュンッ

 

 

同時、俺は振り向き際に刀を切り上げた。

滑らかに空を滑った刀身は、向かって来て(・・・・・・)いた天狗の槍を見事に斬り飛ばした(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「観念しろ侵入者っ!」

 

「会話の途中に入ってくんな!」

 

槍を切り裂かれた天狗は、腰に付けてある刀を引き抜き、向かってくる。

俺は振り下ろされるそれを結界刃で断ち切り、腹の浅いところを斬り抜いた。

 

「ちょ、ちょっと…」

 

「悪い雛、邪魔が入った。……んでも、ゆっくりはしてられそうにないから、もう行くよ」

 

続いて、天狗達が迫ってきている気配がする。

このままここに居ると雛まで巻き込みそうだ。

 

「雛!」

 

「…なに?」

 

「寂しかったら、話し相手くらいならなってやるからな」

 

去り際、雛の肩に手を置いて能力を発動しておいた(・・・・・・・・・・)

コレで気兼ねなく先へ進める。

 

「じゃな!」

 

ポカンとした様子の雛を尻目に、俺は駆け出した。

 

 

 

 

「……あら? 厄が…霧散していく…? …不思議な人だったわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ここまで来ればいいか…」

 

雛と離れ、漸く天狗達を撒いたと思うと、俺は川辺に辿り着いていた。

覗き込めば、山の上流だからか水が澄んでいてとても綺麗だ。普通に飲んでも大丈夫なんじゃないか、と思う程である。

 

ーー少し、休もうかな

 

ずっと天狗達に追いかけ回されていたことだし、少しくらい休んでもバチは当たらないだろう。……まぁバチを当てるのが俺の役目なんだけど。

取り敢えず、休むというのに立っているのもバカらしいので、川のすぐ側に座り込んだ。

…うむ、川のせせらぎと景色が見事にマッチしている。

 

「(それにしても……現人神、か)」

 

ふと、穣子の言っていたことを思い出す。

まさか、記憶にない異変を突き止めに来たら同族と出くわす可能性が出てくるとは、全くもって予想外だ。

 

そして、神社。

神社もあるという事は、最悪神の誰かと対決することになるだろう。そんなに信仰の大きくない神ならばどうにかなるはずだが……まぁ気は引き締めていた方がいい。

 

「なんだか面倒な事になって来てる気がするな…」

 

…考え過ぎても、気分が沈むか億劫になるだけだろう。

そう結論に至った俺は、取り敢えず、もう少し別のことを考えることにした。

 

ーーそう言えば、妖怪の山には河童も居るんだっけ。

 

「河童、か…」

 

そう聞いて、想像する姿は大抵どんな人も同じだと思う。

四足歩行で緑色の身体。指の間には水かきが付いていて、口は黄色いくちばしになっている。そして頭には、割れたら死ぬと言われるお皿。

 

…正直、本当に出てきたら恐ろしい事この上ない。

 

少なくとも、俺はそうだ。

俺はただ戦闘に秀でているだけで、怖いものがないわけではない。今でもホラー映画とか見れば普通に怖がるだろうし、なんならキレた時の幽香や霊夢だって怖い。

 

それに比べて河童なんて……。

聞いた限りでは、河童は皆人間の事を"盟友"と呼んでいるらしい…反面、内心見下してもいるとも聞いた。

そして川辺で人間を見つけると、"盟友が遊びに来た"なんて言いながら川に引きずり込み、最後には尻子玉を抜くーーつまり殺すのだと言う。

 

……こんなの怖いに決まってる!!

例え都市伝説でも、そこらのホラー映画よりよっぽど怖い!!

 

「…幻想郷は、変なもんばっかり居るな」

 

なんて、今更な事を考えてしまう。

不思議に溢れる、非常識が世の常。一見魅惑的な言葉だが、突き詰めてみると意外と面倒だ。

そんな事に少し溜め息を吐き、流れる川に再び目を移す。

 

ーーすると、予想外の光景が目に映った。

 

 

ジー「………………」

 

 

川の中から、少女が俺を覗き込んでいる。

帽子と目だけが水上に出て、ひたすらに俺を覗き込んでいた。突然の事過ぎて声が出ない。

 

「………君は、人間?」

 

「え? あ……まぁ」

 

半分だけだけど。

人間には変わりないから、そう答えた。

すると少女は目だけでも分かる歓喜の色を示しーー

 

 

 

 

「盟友が遊びに来たぁぁああっ!!」

 

 

 

 

水面から勢い良く飛び出した。

 

水飛沫が舞う中、俺が捉えた少女の姿は、大きなリュックに水色の服、スカートだった。

 

ストンと川辺に美しく着地した少女は、降り立つなり突然迫ってきて俺の腕を掴む。

 

「さぁさぁ盟友! ここまで来たからにはウチに寄って行きなよ! 面白いもの一杯あるよ!」

 

「ちょ、ちょちょちょ待ってくれ! 俺休んでただけだから! 決して遊びに来たわけじゃないから!」

 

「またまたぁ〜そんな遠慮しなくて良いんだよ? 何たって私達と人間は盟友同士なんだから。故に! ここで出会った私と君も盟友同士! 盟友が盟友の家に訪れたら変?」

 

「いやそういう意味じゃなくて! そもそも遠慮でも何でもないからっ!」

 

…なんと強引な少女だろうか。

"寄って行きなよ"という割にはぐいぐいと引っ張って行こうとするその様は、どちらかと言うと"引きずり込もうとしている"の方が当てはまる気すらする。

 

取り敢えず、このまま掴ませておくと本当に引きずり込まれかねないので、何とか振り切った。

少女の表情は、何となく戸惑っている様だった。

 

「…君、ウチに来るのは嫌?」

 

「や、会っていきなり盟友とか言われても困るだけだろ。そもそも誰さ、お前は? 自己紹介とかしてくれよ」

 

…まぁ、種族については何となく予想がついている。何たって、さっき考えていたものとピッタリ一致しているのだから。そりゃもう、恐ろしいくらいに。

 

「……私は河童の河城(かわしろ)にとりって言うんだ。その…強引に引っ張ったことは謝るよ。確かに、自己紹介の方が先だったね」

 

「ああいや、パニックになっただけだからそんなに沈まないでくれ。…俺は神薙双也だ」

 

「双也、ね。うん、覚えたよ盟友」

 

少女ーーにとりは一つ頷いて微笑んだ。

 

改めて見てみると、大分イメージと違う。

まず身体が緑色でなく普通に肌色、服ですら鮮やかな水色だ。口は黄色くない普通の唇だし、見た感じ指にも水かきは付いていない。

至って普通の少女に見える。何なら顔立ちは整った方だ。

 

「えっと…にとり、お前本当に河童? 河童のイメージと随分違うんだけど」

 

「え、どんなイメージだったのさ?」

 

思わず口に出てしまった問いに、にとりは興味ありげに聞き返してきた。

聞かれてしまったら、仕方ない。

 

「えっと、身体が緑で水かきが付いてて、黄色いくちばしとお皿を持ってる恐ろしい妖怪」

 

「ず、随分と偏ったイメージなんだね。…でもこの通り、河童は君達と同じ様な姿をしてるよ。強いて言うならお皿があるかどうかだね」

 

ポンポンと、にとりは自分の被っている帽子を叩きながら言った。一瞬見てみたいとも思ったが、帽子を叩くだけに(とど)めたあたり、簡単には見せてくれないのだろう。

それならそれで、構わないが。

 

「それで、双也っ。自己紹介も終わった事だしウチに行かないかいっ?」

 

と、にとりは再び表情を輝かせて提案してきた。

まぁ家に行って遊ぶのはやぶさかではないが、こっちにも用事がある。それに……そのまま行ったら溺れるだろ。

 

「うーん、悪いけどホントに休んでただけなんだよ。にとりの家に行って遊ぶほどの余裕も無いし、絶対息も続かない」

 

「あ……そっか。人間は水中では息が続かないのか。…河童はみんな、人間に会うと嬉しくて遠慮が無くなっちゃうんだよね。まぁ水中で息が出来るようになる機械もあるんだけど、そうなるとぽっかり忘れちゃって」

 

「…機械? 河童は機械に強いのか?」

 

「ッ! そうだよ! 河童の作る機械は幻想郷一さ!」

 

俺の問いに、突然テンションを鰻登りさせるにとり。背中の大きなリュックを下ろし、中を弄り始めたかと思うと、彼女は一つの機械らしきものを取り出した。

 

「コレ、音波増幅器! ここに音源を近付けると、この広がった部分から大きくなって出るんだよ!」

 

「へぇ…」

 

と、少し感心するが、見た感じは唯の拡声機だ。少し違うのは、側面にゲージと小さなレバーがある事。

にとりからそれを受け取った俺は、取り敢えずそのレバーを弄って見ることにした。

まずはーー右端にしてみよう。

 

「…ッ! ちょっと待ーー」

 

「わあああああっ!!」

 

 

ズドンッ!!

 

 

瞬間、俺は強い衝撃を受けて後方に吹っ飛ばされた。

 

って、何? 何が起こった? すっごい耳がキンキンするんだけど。

ぶつかった背中に少し痛みを感じながら起き上がると、にとりが心配そうに駆けてきた。

……10mくらい飛ばされたらしい。

 

「………! ………!?」

 

「…?」

 

…にとりが口をパクパク動かしている。全然聞き取れない。困っていると、それに気が付いたのか、にとりは再びリュックの方に戻り、中から小さな機械を持ってきて俺の耳に取り付けた。

 

「…(ぁぁ)ぁぁああ! 聞こえる双也?」

 

「ん、あー聞こえる」

 

「良かったぁ〜、鼓膜が破れてたらどうしようもなかったよ」

 

そう言い、にとりは見るからにホッとした表情を浮かべた。心配してくれたのは嬉しいけど、取り敢えず説明して欲しい。

 

「えっとね、さっき君が弄ったレバーは出る音量を調節するものなんだよ。それを右端ーーMAXの状態で使ったもんだから、音波の衝撃波が反動になって吹き飛んだんだよ」

 

「あー…俺の所為か」

 

「いやぁ、説明しなかった私も悪かったよ。ゴメンね」

 

と、にとりは申し訳無さそうに謝ってくる。

別に危害を加えたかったわけじゃないなら怒ったりしないんだけどな。

妖怪には似合わず、実に心優しい少女である。人間を盟友なんて呼ぶくらいなのだから、当たり前と言えば当たり前なのかも知れないが。

 

「因みに、今耳に付けたのも音波増幅器の小型版だよ。外の音を拾って拡大してるんだ」

 

「へぇ〜…便利なもん作るなぁ」

 

「そうでしょ!? 後はねー、こんなのもあるよっ!」

 

なんてしばらく、にとりの作った機械の説明を受けていた。その間の彼女はものすごく生き生きとしていて、まるで水を得た魚ーーいや、まさに河童だった。

 

先程の拡声機を始め、彼女の発明は凄いものばかりだ。

細かいところは専門的過ぎてよく分からなかったが、物凄い長さまで伸びるアーム、リュックから飛び出るプロペラ、そして服さえも光学迷彩スーツなのだと言う。

どんなオーバーテクノロジーだよ、なんて何度思ったか知れない。

 

ーーと、楽しく会話していたその時。

 

「それでねそれでね! コレは山にある鉱石を使ってーー」

 

「ッ! 伏せろにとり!!」

 

「ひゅいっ!?」

 

強い殺気を感知し、伏せたにとりを抱えて飛び退いた。

そのすぐ後には激しい爆発音が響き、見てみれば、そこは何かがぶつかったように抉れていた。

 

「ちっ…避けられましたか」

 

「……………新手か」

 

声を聞き、見上げる。

感じるのは、今までよりも一回り重くて強力な妖力。

 

「侵入者っ!! 我らの山で随分と暴れたようですが…それもこれも、この犬走椛(いぬばしりもみじ)が斬って終わりですっ!!」

 

紅葉柄の盾、鋭い刀。

白い尻尾、一見巫女のようにも見える服。

 

 

 

 

 

ーーそこには、鋭い気配をした一人の白狼天狗が立っていた。

 

 

 

 

 




にとり、私は可愛いと思います(真顔)

決して尻子玉を抜かれたくはありませんが。

ではでは。
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