東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最初に言っときます。
椛ファンの方すいませんでした……。

ではどうぞ!


第百四十二話 天狗のお役目

取り敢えず抱えたにとりを降ろし、土煙の向こう側にいる"椛"と名乗る天狗を睨む。

不意打ちとは、中々ヤな事してくれるもんだ。

 

「にとり、その場から離れてください。巻き込まれますよ」

 

「ッ! でも椛! この人間は私の盟yーー」

 

「離れて、ください」

 

椛の強い言葉に、にとりは少しだけビクついた。

 

「……ゴメン双也、私じゃどうにも出来ないよ…」

 

「いや、良いよ。ありがとなにとり」

 

そう言って、にとりはこの場を退いた。

話を聞く限りは、二人は友達、もしくは知り合いの様だが、この山特有の縦社会においては椛の方が上らしい。

恐らく、彼女の強い言葉には"巻き込みたくない"という思いもあるのだろう。

 

 

 

 

ーーまぁ、それはそれとして、だ。

 

 

 

 

向こうがあんなにやる気では、何やかんやのうちにここを抜け出す事は出来なさそうだ。そうでなくとも、彼女の気配は中々強力。簡単に逃がす訳はない筈。

俺はゆっくり、天御雷を抜刀した。

 

「あくまで抵抗する気ですか。どうなっても知りませんよ」

 

「こっちにだって事情があるんだ。そう易々と出頭する事は出来ないな」

 

「…そうですか。なら、負けても文句は言わないでくださいね」

 

ーーふと、"敢えて捕まっちゃえば嵐にも会えて、その上和解出来るんじゃね?"なんて事を思い付いたが、すぐに切り捨てた。展開的にもう遅い、何より俺のなけなしのプライドが許さない。

取り敢えず、もう耳も治っているだろうし、にとりに貰った補聴器(?)は外しておこう。

外した二つをポケットにしまい、再び椛を見据えた。

 

「…行きますっ!」

 

掛け声と共に、椛は妖力弾を複数放った。

天狗だからかどうかは知らないが、普通よりもかなり速い。

そして弾幕と同時に、椛も刀を構えて飛び出してきた。

彼女自身も結構速いらしく、弾幕に追いついた彼女はそれを纏っているようだった。

 

「アステロイド・相殺弾(ブレイクシュート)

 

「っ!? 何ですかその弾!」

 

邪魔な弾幕がある時重宝するアステロイド。掌から離れた弾は、一直線に椛の方へ向かい、一発残らず妖力弾を撃ち落とした。

 

纏うものが無くなったと言っても、椛自身の速度は落ちない。勢いのついたその斬撃を、俺は両手持ちで受け止める。

……結構重い一撃だな。

 

「そぅら、よっ!」ガガガガガガンッ!

 

「ぐっ!」

 

鍔迫り合いをしていても始まらない。

俺は妖夢戦の時にしたように連続で結界刃を発動させ、椛を強く弾き飛ばした。ついでに普通のアステロイドも放っておく。

 

「なんのッ!」

 

しかしさすが天狗、地に足を着くこともせず、空中で体を翻す。そして俺のアステロイドを瞬時に見据え、しっかりと斬り落としてみせた。

……割と強めに撃ったつもりだったんだけどな。まぁ解放一割以下じゃこんなもんか。

 

「…意外とデキるみたいですね」

 

「降参するか? まだ受付は間に合うぞ?」

 

「戯言をっ!!」

 

少し怒ったような口調で、椛は再び突っ込んできた。

ただ、先程と違って途中で姿が消えたーー否、俺の周りを高速で旋回し始めた。

 

「これなら…どうですっ!!」

 

どこか響くようにそう聞こえた直後、四方八方から弾幕が放たれた。狙うは勿論、中心の俺。

ふむ、じゃあ俺はこう対処しようか。

 

「魂守の張り盾 〜鎧刀(がいとう)の型〜」

 

例の如く、魂守の張り盾を発動し、広げていく。

ただ、今回は俺を中心にして纏うように(・・・・・・・・・・・・)、である。

"飛び道具の無力化ーーただし限界は有りーー"。攻撃型である纏刃の型の双璧、防御型の張り盾である。

 

飛来する妖力弾は、俺の発動した張り盾によって悉く斬り落とされ、突破される気配は微塵もなかった。

まぁただの妖力弾で突破されちゃ面子が立たないのだが。

 

向こうの攻撃は届かない。こちらは自由に行動できる。

となれば、こちらからも攻撃しよう。魔理沙ではないが、やられっぱなしは性に合わない。

 

「アステロイド・低速散弾(スロウトラップ)

 

アステロイドの元である霊力の箱を、とにかく小さく小さく分けていく。そしてそれを投げる事で周囲にバラまいた。

速い奴には、動きを抑制するのが得策だ。

 

「ぐっ、うあっ!!」

 

ばら撒かれたアステロイドは、僅かに移動しながらも空中に止まる。高速で移動していた椛に避けられる程の隙間はなく、その勢いのままに大量被弾した。小さいが、一発の威力は中々高い。軽いダメージでは決してないだろう。

転げ落ちるように足を付けた椛は既に、少しばかりボロボロになっていた。

 

ーーだが、情をかけるつもりも無い。

 

「旋空!」

 

俺は立ち上がろうとする椛に向けて、多量の旋空を放った。緩いカーブを描きながら、鋭い結界刃が椛を襲う。

 

「ッ! ま、だ…ですっ…!」

 

しかし、未だ致命傷は受けていない彼女は、飛び退いて避けて見せた。

まぁ予想済みだ。なら、俺は絶え間なく追撃を続けよう。

旋空、風刃、鬼道、アステロイド、様々な物を放つが、椛は偶に被弾するくらいで大体は避けている。

ーー代わりに、彼女の攻撃回数は激減した。

 

「最初の威勢はどうしたよ椛!」

 

「うる、さいです!」

 

悪態を付きながら、椛はフラフラながらに一枚のカードを取り出した。

俺の弾幕の隙に輝かせ、宣言。

 

 

天駆(てんく)天翔(あまかけ)一匹(いっぴき)オオカミ』ッ!!」

 

 

「…お?」

 

宣言の直後、椛の周囲に突風が発生し、彼女の動きが飛躍的に上昇した。動く度に弾幕が放出されるらしく、それがあのスペルの効果なのだろう。

 

風の力で空を動き回る椛。放出される弾幕は美しい毛並みのようで、鎌鼬は爪と牙。

……なるほど、確かにアレは、オオカミだ。

 

「やぁぁああああっ!!!」

 

彼女のスペルの前に、今の俺の弾幕は意味を為さなかった。それを見たからなのか、椛は全速力で此方に向かい、その牙を突き立てんと迫ってくる。

 

ーー俺は、天御雷を両手で構えた。

 

「ふぅ…魂守りの張り盾 〜一閃無双(いっせんむそう)の型〜」

 

構えた刀を、回転しながら振り払う。

それはしっかりと、突撃してきた椛の刺突にぶつかり、剣を砕いてみせる。そして椛は、俺の剣跡に残った(・・・・・・)"斬れる霊力"に巻き込まれて、切り刻まれながら空から転がり落ちた。

本当は、一振りで何重にも斬りつける技なのだが、今回は椛を巻き込むのに使ってみた。上手くいってくれたようだ。

 

「ぅ…ぐ…っ!」

 

「…お前の負けだ。殺しゃしないが、これ以上戦うのはオススメしないな」

 

未だ立ち上がろうとする椛。

これだけ傷ついてまでーー俺がやったのだがーー戦おうとするとは、最早関心を通り越して呆れてしまう。

しかし椛は俺の言葉を聞き、諦めるどころか、どこか怒ったような口調で言うのだった。

 

 

 

「ま…だ、です…っ!」

 

 

 

「…………………」

 

ーー少し、イラッとした。

 

「…なんでそんなに戦おうとするんだ? 戦って傷付いて、もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」

 

「私は、天狗です…っ! 天狗である限り…役目は、全うしなければ…ならないんです…っ!」

 

「……それは、命を懸けてもしなけりゃならない事なのか…?」

 

その問いに、彼女はーー

 

 

 

「当たり前、です…っ! 私は、この役目に命を懸けてるんです…っ!!」

 

 

 

はっきりと、言い放った。

 

「……自分の命を軽く見るのも、ある意味では罪、か」

 

人は争う。妖怪も争う。神だって争う。

争う事は仕方ない事だ。それぞれに理由があって、それぞれの正義があって。

それらがぶつかってしまい、自分の譲れないモノを通す為に争う。それ自体は、悪い事とは思わない。

 

でも、"こんなの"は違う。

 

役目なんて、そんなモノの為に命を懸けるのは、違う。

侵入者を食い止める為に命を捨てるなんてのは、間違ってる。

自分の生を何だと思ってるんだ。

 

「お前は、命の使い方を間違ってる」

 

一瞬だけ、少しだけ、髪と目にチリッと刺(・・・・・・・・・)激を感じた(・・・・・)

 

「ぐ…ぅぅうああああっ!!!」

 

折れた剣を振りかざし、椛は最後の力を振り絞って攻撃してきた。最早ボロボロ、動きもヨロヨロ。とても戦える状態じゃないというのに……"残念ながら"彼女の言葉に嘘はないようだ。

 

ーー掌の原子結合を強化。

 

ガッ「もう止せ。戦える体じゃないだろ」

 

「うるさいっ!!」

 

剣を受け止められても動揺せず、椛は掌に妖力を溜め、こちらに向けてきた。弱々しくはあるが、食らってもダメージが無いというほどでもない。

…其処まで戦おうとするなら、動けなくなるくらいまでしないとダメらしいな。

能力を発動し、向けられた腕の健を結界刃で断ち切った。

 

「ぐあっ!?」

 

「…少し、頭冷やせ」

 

がら空きになった彼女の腹に、浅く一閃。

振り上げた刃を、椛の肩口に振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「待って下さいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ーー直前、そんな叫びと共に突風が吹き荒れた。

 

椛と俺の間に一瞬発生したそれは、その強い力で俺の刀を弾き、同時に俺と椛の体を引き離した。

 

聞き覚えがあるぞ、今の声。

全く、ここに来てから随分探した。

 

「文か。久しぶりだな」

 

「………ご無沙汰してます、双也さん…」

 

少しだけ睨みつけるように、彼女は言った。

 

 

ワイシャツに黒いスカート、黒い羽。

千年前に見た射命丸文(しゃめいまるあや)の姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

 




最後少し急ぎ足でした。
あと、椛のお役目に対する気持ちは私の独自解釈ですので、ご注意下さい。

ではでは。

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