椛ファンの方すいませんでした……。
ではどうぞ!
取り敢えず抱えたにとりを降ろし、土煙の向こう側にいる"椛"と名乗る天狗を睨む。
不意打ちとは、中々ヤな事してくれるもんだ。
「にとり、その場から離れてください。巻き込まれますよ」
「ッ! でも椛! この人間は私の盟yーー」
「離れて、ください」
椛の強い言葉に、にとりは少しだけビクついた。
「……ゴメン双也、私じゃどうにも出来ないよ…」
「いや、良いよ。ありがとなにとり」
そう言って、にとりはこの場を退いた。
話を聞く限りは、二人は友達、もしくは知り合いの様だが、この山特有の縦社会においては椛の方が上らしい。
恐らく、彼女の強い言葉には"巻き込みたくない"という思いもあるのだろう。
ーーまぁ、それはそれとして、だ。
向こうがあんなにやる気では、何やかんやのうちにここを抜け出す事は出来なさそうだ。そうでなくとも、彼女の気配は中々強力。簡単に逃がす訳はない筈。
俺はゆっくり、天御雷を抜刀した。
「あくまで抵抗する気ですか。どうなっても知りませんよ」
「こっちにだって事情があるんだ。そう易々と出頭する事は出来ないな」
「…そうですか。なら、負けても文句は言わないでくださいね」
ーーふと、"敢えて捕まっちゃえば嵐にも会えて、その上和解出来るんじゃね?"なんて事を思い付いたが、すぐに切り捨てた。展開的にもう遅い、何より俺のなけなしのプライドが許さない。
取り敢えず、もう耳も治っているだろうし、にとりに貰った補聴器(?)は外しておこう。
外した二つをポケットにしまい、再び椛を見据えた。
「…行きますっ!」
掛け声と共に、椛は妖力弾を複数放った。
天狗だからかどうかは知らないが、普通よりもかなり速い。
そして弾幕と同時に、椛も刀を構えて飛び出してきた。
彼女自身も結構速いらしく、弾幕に追いついた彼女はそれを纏っているようだった。
「アステロイド・
「っ!? 何ですかその弾!」
邪魔な弾幕がある時重宝するアステロイド。掌から離れた弾は、一直線に椛の方へ向かい、一発残らず妖力弾を撃ち落とした。
纏うものが無くなったと言っても、椛自身の速度は落ちない。勢いのついたその斬撃を、俺は両手持ちで受け止める。
……結構重い一撃だな。
「そぅら、よっ!」ガガガガガガンッ!
「ぐっ!」
鍔迫り合いをしていても始まらない。
俺は妖夢戦の時にしたように連続で結界刃を発動させ、椛を強く弾き飛ばした。ついでに普通のアステロイドも放っておく。
「なんのッ!」
しかしさすが天狗、地に足を着くこともせず、空中で体を翻す。そして俺のアステロイドを瞬時に見据え、しっかりと斬り落としてみせた。
……割と強めに撃ったつもりだったんだけどな。まぁ解放一割以下じゃこんなもんか。
「…意外とデキるみたいですね」
「降参するか? まだ受付は間に合うぞ?」
「戯言をっ!!」
少し怒ったような口調で、椛は再び突っ込んできた。
ただ、先程と違って途中で姿が消えたーー否、俺の周りを高速で旋回し始めた。
「これなら…どうですっ!!」
どこか響くようにそう聞こえた直後、四方八方から弾幕が放たれた。狙うは勿論、中心の俺。
ふむ、じゃあ俺はこう対処しようか。
「魂守の張り盾 〜
例の如く、魂守の張り盾を発動し、広げていく。
ただ、今回は
"飛び道具の無力化ーーただし限界は有りーー"。攻撃型である纏刃の型の双璧、防御型の張り盾である。
飛来する妖力弾は、俺の発動した張り盾によって悉く斬り落とされ、突破される気配は微塵もなかった。
まぁただの妖力弾で突破されちゃ面子が立たないのだが。
向こうの攻撃は届かない。こちらは自由に行動できる。
となれば、こちらからも攻撃しよう。魔理沙ではないが、やられっぱなしは性に合わない。
「アステロイド・
アステロイドの元である霊力の箱を、とにかく小さく小さく分けていく。そしてそれを投げる事で周囲にバラまいた。
速い奴には、動きを抑制するのが得策だ。
「ぐっ、うあっ!!」
ばら撒かれたアステロイドは、僅かに移動しながらも空中に止まる。高速で移動していた椛に避けられる程の隙間はなく、その勢いのままに大量被弾した。小さいが、一発の威力は中々高い。軽いダメージでは決してないだろう。
転げ落ちるように足を付けた椛は既に、少しばかりボロボロになっていた。
ーーだが、情をかけるつもりも無い。
「旋空!」
俺は立ち上がろうとする椛に向けて、多量の旋空を放った。緩いカーブを描きながら、鋭い結界刃が椛を襲う。
「ッ! ま、だ…ですっ…!」
しかし、未だ致命傷は受けていない彼女は、飛び退いて避けて見せた。
まぁ予想済みだ。なら、俺は絶え間なく追撃を続けよう。
旋空、風刃、鬼道、アステロイド、様々な物を放つが、椛は偶に被弾するくらいで大体は避けている。
ーー代わりに、彼女の攻撃回数は激減した。
「最初の威勢はどうしたよ椛!」
「うる、さいです!」
悪態を付きながら、椛はフラフラながらに一枚のカードを取り出した。
俺の弾幕の隙に輝かせ、宣言。
「
「…お?」
宣言の直後、椛の周囲に突風が発生し、彼女の動きが飛躍的に上昇した。動く度に弾幕が放出されるらしく、それがあのスペルの効果なのだろう。
風の力で空を動き回る椛。放出される弾幕は美しい毛並みのようで、鎌鼬は爪と牙。
……なるほど、確かにアレは、オオカミだ。
「やぁぁああああっ!!!」
彼女のスペルの前に、今の俺の弾幕は意味を為さなかった。それを見たからなのか、椛は全速力で此方に向かい、その牙を突き立てんと迫ってくる。
ーー俺は、天御雷を両手で構えた。
「ふぅ…魂守りの張り盾 〜
構えた刀を、回転しながら振り払う。
それはしっかりと、突撃してきた椛の刺突にぶつかり、剣を砕いてみせる。そして椛は、俺の
本当は、一振りで何重にも斬りつける技なのだが、今回は椛を巻き込むのに使ってみた。上手くいってくれたようだ。
「ぅ…ぐ…っ!」
「…お前の負けだ。殺しゃしないが、これ以上戦うのはオススメしないな」
未だ立ち上がろうとする椛。
これだけ傷ついてまでーー俺がやったのだがーー戦おうとするとは、最早関心を通り越して呆れてしまう。
しかし椛は俺の言葉を聞き、諦めるどころか、どこか怒ったような口調で言うのだった。
「ま…だ、です…っ!」
「…………………」
ーー少し、イラッとした。
「…なんでそんなに戦おうとするんだ? 戦って傷付いて、もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
「私は、天狗です…っ! 天狗である限り…役目は、全うしなければ…ならないんです…っ!」
「……それは、命を懸けてもしなけりゃならない事なのか…?」
その問いに、彼女はーー
「当たり前、です…っ! 私は、この役目に命を懸けてるんです…っ!!」
はっきりと、言い放った。
「……自分の命を軽く見るのも、ある意味では罪、か」
人は争う。妖怪も争う。神だって争う。
争う事は仕方ない事だ。それぞれに理由があって、それぞれの正義があって。
それらがぶつかってしまい、自分の譲れないモノを通す為に争う。それ自体は、悪い事とは思わない。
でも、"こんなの"は違う。
役目なんて、そんなモノの為に命を懸けるのは、違う。
侵入者を食い止める為に命を捨てるなんてのは、間違ってる。
自分の生を何だと思ってるんだ。
「お前は、命の使い方を間違ってる」
一瞬だけ、少しだけ、
「ぐ…ぅぅうああああっ!!!」
折れた剣を振りかざし、椛は最後の力を振り絞って攻撃してきた。最早ボロボロ、動きもヨロヨロ。とても戦える状態じゃないというのに……"残念ながら"彼女の言葉に嘘はないようだ。
ーー掌の原子結合を強化。
ガッ「もう止せ。戦える体じゃないだろ」
「うるさいっ!!」
剣を受け止められても動揺せず、椛は掌に妖力を溜め、こちらに向けてきた。弱々しくはあるが、食らってもダメージが無いというほどでもない。
…其処まで戦おうとするなら、動けなくなるくらいまでしないとダメらしいな。
能力を発動し、向けられた腕の健を結界刃で断ち切った。
「ぐあっ!?」
「…少し、頭冷やせ」
がら空きになった彼女の腹に、浅く一閃。
振り上げた刃を、椛の肩口に振り下ろす。
「待って下さいっ!!!」
ーー直前、そんな叫びと共に突風が吹き荒れた。
椛と俺の間に一瞬発生したそれは、その強い力で俺の刀を弾き、同時に俺と椛の体を引き離した。
聞き覚えがあるぞ、今の声。
全く、ここに来てから随分探した。
「文か。久しぶりだな」
「………ご無沙汰してます、双也さん…」
少しだけ睨みつけるように、彼女は言った。
ワイシャツに黒いスカート、黒い羽。
千年前に見た
最後少し急ぎ足でした。
あと、椛のお役目に対する気持ちは私の独自解釈ですので、ご注意下さい。
ではでは。