東方双神録   作:ぎんがぁ!

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序章はこれでお終いです。
次回から本編。

あと、次回の投稿は一週間後の2月20日になります。
ちょっと本気で煮詰めたい章なので、ご了承ください。

ではどうぞ。


第百四十四話 切れていた繋がり

"世界"、と言ったら、どんなものを思い浮かべるだろうか。

 

 

海と大陸が混在した、この星の事を意味する世界?

ある条件の下に集められた集合ーー"界隈"とでも言えるような世界?

それとも…冥界や現界、神界や天界、そして平行世界さえも一括りにした、真の意味で総合的な世界だろうか?

 

 

はっきり言って、俺は答えが一つではない様に思う。

 

 

そもそも、世界という言葉に様々な意味が込められているのだし、その言葉を使うタイミングによっても意味が変わってくるのだし。

早い話、人によって意味は異なる。

当然、思い浮かべる"世界"というのも変わってくるだろう。

 

 

ーーそう、人によって異なる。

 

 

俺が思い浮かべる世界とは、海と大陸でもなく、条件下の概念でもなく、大きな一括りでもなく、ただ、一個人(・・・)なのである。

 

一人の人間、一匹の妖怪、一柱の神。

そのそれぞれに、実に様々な思惑があり、考えがあり、そしてそれをレンズのよう通して、視界に映るものを理解している。

同じお(さつ)を見ていたとしても、価値観が違えば、それは貴重な生活資金にもなるし、ただの紙くずにも成り得るのだ。

 

 

そう、だからこそ、一個人に見る世界が真実を映し出すことなど、むしろ少ない。

 

 

みんなそれぞれに世界を持っていて、その中の一部分、他の人達と重なったほんの一部分だけを共有し、生活している。

一つの事象ですら、そんな思惑を孕む多数の世界の中で見ているのに、自分ただ一人が真実を見出す事など、不可能に近い。

他人の世界を覗き見て、その思惑を全て理解し、その膨大な情報を駆使して一つの真実を導き出すなんて事は、到底出来ない。出来っこない。

 

故に、当然、俺が見て理解したものが、真実とは限らない。ーーいや、俺の知ってい(・・・・・・)るもの(・・・)とは限らない。

 

この世界の真実(・・・・・)を、俺の世界を通して見ても、それは俺にとっての真実にしかならない。

故に、客観的に見た結果である"世界の真実"には、誰であろうと、中々辿り着けないのであるーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び登り始めてどれ程か、取り敢えず、あと少しの所まで来たのは確かだ。

 

文の働きのお陰か、川を離れてから天狗に襲われる事はめっきり無くなった。あまりにも"そう"なるのが早かったものだから、"天狗達が様子をうかがってるだけなのかも"なんて事も考えたが、曰く速さに自信がある文の仕事なのだから、これくらいが普通なのかなとも思った。

 

何はともあれ、頂上付近まであと少し。俺の疑念を解消できる時も近い。

 

ーーそう言えば、現人神、というのは一体なんなのだろうか?

 

どこか気が抜けたというか、あと少しだという高揚感からか、ふとそんな事を考えた。

何も自分の存在を否定しているつもりは無いが、実際不可思議極まる存在である事に変わりは無い。

 

神と人の両面を持つ存在……そもそも、どうやってそれが生まれるというのだろう?

 

「(半妖ってのは、居るんだよな。妖怪と人間のハーフ)」

 

香霖堂の森近霖之助に、人里の上白沢慧音。よくよく考えてみると、そちらもどうやって生まれたのか分からない。普通に生殖行動をして生まれるものなのだろうか。

 

まぁ、どちらも"生き物"だからまだ分かる。

理解不能と言ったら、半人半霊の他は無いだろう。

 

「(人間と幽霊のハーフって……マジで分かんないな…)」

 

異種族どころか、片方死んでいるのにどうやってハーフになったんだよ。死体に欲情でもしたのか?……いや、流石にそれはないか。

 

……なんだか、妖夢がとても怖い存在の様に思えてきた。

 

全く、正体が分からないというのも案外恐ろしいものだ。

 

「(まぁ、そんな事を言い出したら、転生した俺は何なんだって話になるけどな)」

 

元は人間、普通の高校生。

転生し、今度は半身を天罰神とする現人神。

長く生きて沢山の経験をしたし、その所為でおかしくなってしまった所もある。人間だった当時からでは、考えられない事だ。

もしかしたら、俺は相当に数奇な人生を送っているのかもしれない。

 

「(まぁ、願ったり叶ったりだけど…な)」

 

最早遠い昔となってしまった記憶の事を思う。

思い返せば、あの頃の記憶として残っているものなど、一つだけしかない。

 

家も、街も、学校も、先生も。

そして友人も、親の顔さえ、覚えていない。

全て時の流れに流されてしまった。

 

でも、たった一つだけ。

 

俺にとって、忘れてはいけないたった一つの事だけは、しっかりと覚えていた。

忘れる筈はない。忘れてはいけない。

どれだけの恩があるのか、あいつ(・・・)は知らない。

 

きっと他人にもするように、そうしただけだったのだろう。でも、それが俺には……俺の心には、強く響いて反響した。

 

なんたってーー俺の世界を、変えてくれたんだ。

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの、どちら様ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその衝撃は、今までの何よりも辛いものだった。

 

 

 

「あ、参拝客の方ですね! 本殿はあちらですので、ご案内します!」

 

「…………………」

 

俺とほぼ同じくらいの見た目。特徴的なカエルと蛇の髪飾り。そして何より…長くて綺麗な、若葉色の髪。

 

服装は違う。いつも見ていたブレザーではなく、白と青の巫女服。だが見間違える筈はない。だって、忘れた事など一度も無いのだから。

 

ーーでも。

 

 

「……? どうしたのですか?」

 

「…お、俺の事が…分からない…のか?」

 

 

激しい動悸の中で、必死に言葉を絞り出す。

対して、巫女服の少女ーー東風谷早苗は、不思議そうな表情をしていた。

 

 

「どういう…意味です?」

 

「は、は? 俺だ…神薙、双也だ…! なんで……思い出してくれっ! 早苗っ!!!」

 

 

朝は毎日、早くに起きて二人で登校した。

分からない問題は教えあった。

お昼はよく二人で食べた。

帰り道はいつも一緒だった。

俺の最期には……涙を流してくれた。

 

悲哀に近く、怒りに近く。

焦りに近く、狼狽に近く。

俺の頭の中は、最早気が狂いそうになる程グチャグチャになっていた。

ガンガンと頭痛も酷く、心にのしかかる重みに潰されてしまいそうだ。

 

千年以上前からーー稲穂に出会ったあの瞬(・・・・・・・・・・)間から(・・・)、ずっとずっと耐え続けて…折れそうになる心を会いたい一心で支え続けて。

 

……それなのに。

 

「…何を言ってるんですか? 思い出すも何もーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達、初対面じゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーああ、もう…限界みたいだ。

 

「ぅ…ぅうっ! ぁぁああぁ……」

 

 

気力がもう、保たなくなってしまった。

 

遂に心が、折れてしまった。

 

こんなにも、望んでいたのに。

早苗との繋がりは、俺の気が付かない内に、切れてしまっていたらしい。

 

 

全てが、無駄だった。

出会い、別れを繰り返し、死に行く友人を何人も看取り。

それでも耐えて、どうにか壊れない様に、心を狂わせない様に……生きてきたというのに。

 

「な、んで……そんな……っ! 嘘だ……っ!」

 

切れていた繋がりをもがき求めて、"人生"という、意味を失った拷問に耐えてきたというのか。

既に切れていた繋がりなんて、求めてしまったが故に、無意味な生を、無意味に過ごしてきたというのか。

 

 

 

ーーそう、無意味。

 

 

 

ああ、世界というのは、こんなにも容易く…繋がりを断ち切ってしまうのか。

 

 

 

ーー繋がりにはもう、意味が無い。

 

 

 

だとしたら、誰かと繋がる意味なんて……絆を結ぶ意味なんて、無いじゃないか。

 

 

 

ーーみんな死んでしまう。

 

 

 

繋がりが切れてしまうのはこんなにも苦しいのに。

 

 

 

ーー後に残るのは犯した罪のみ。

 

 

 

最後に残るのは、途方もない悲しみだけ。

 

 

 

ーー生きる事で罪を犯すなら、生きる事こそが最大の罪。

 

 

 

繋がっても苦しいだけなら、絆なんて、無意味だ。

 

 

 

ーー生きる事が罪ならば、命なんて、無意味だ。

 

 

 

なら。

 

 

 

ーーならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「こんな世界、必要ない」」

 

 

 

 

 




……………。

ではでは。
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