東方双神録   作:ぎんがぁ!

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"どれ程磨き続けても届かない力"

ではどうぞ。


第百四十六話 未来予期

新しく来た神社ーー守矢神社での一件の後。

傷付いた霊夢達一行は、ふらふらの足取りながらも、無事に博麗神社に辿り着いた。

しかし、神社の庭に降り立つのと同時に倒れ伏してしまう程、皆が皆、消耗し、傷付いていた。

 

「ッ!! おいお前ら! どうしたんだよっ!?」

 

「ぅ……魔理、沙……」

 

「とにかく、全員中に運んでやる! おいお前らも手伝えっ!!」

 

皆の惨状を見、飛び出してきたのは魔理沙だった。

彼女は何時に無く心配そうに、そして焦ったように、彼女の呼び掛けに応じた面々と共に、皆を神社に運び入れ始めた。

 

「全く…一体何がどうなってんだ…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛むであろう身体に気を使いながら皆を中に運び込み、少しの間休憩を取ると、その空気は何処となく重くなってしまった。

 

当然である。

神社に居合わせた面々ーー魔理沙、咲夜、レミリア、妖夢ーーそれぞれに面識のある二人が、死ぬ寸前まで傷付いて戻ってきたのだから。

今だって、傷の酷かった紫、霊夢、二人の神は、神社の奥の部屋で治療を受けている。

 

「全く、いつも通りの異変解決かと思ったら…地震で揺れるし、二人は死にかけるし…一体何が起こってるんだよ」

 

いささか不機嫌な声音で言う魔理沙は、ガジガジと後頭部を掻きむしった。謎が多すぎて、如何にもイライラしている様である。

 

 

霊夢同様、神社騒動を嗅ぎつけて山を登っていた魔理沙。彼女も当然、あの大地震に襲われた。

しかし、好奇心の塊と言ってもいい彼女は、臆する事もせずに、どころか更にスピードを上げて登ろうとしていた。

それを止めたのが、紫だったのだ。

 

『魔理沙、これ以上進む事は許さないわ。すぐに引き返して、博麗神社で待ってなさい』

 

『はぁ? なんでだよ! 異変解決は私の仕事だろっ!』

 

『あなたの意見なんて聞いていないわ。これは、命令よ』

 

『…何時から私はお前の(しもべ)になったんだ。それに、なんで私がこんな"面白そうな事"放ってーー』

 

『"面白そうな事"…?』

 

その瞬間、紫の雰囲気は取り殺されそうな程鋭いものへと様変わりした。

 

 

『……あなたは、この状況の重大さが分かっていないッ!』

 

 

弾幕勝負では決して見る事のないーーいや、こんな雰囲気を纏ってはいけないという程、鋭い殺気。

それを浴びた瞬間、魔理沙の身体は、無意識に震えたのだ。

 

 

「…あんな殺気ぶつけられちゃあ、言う事聞くしかないぜ…」

 

その時の事を思い出して、魔理沙は頬に汗を垂らしながら言った。

 

霊夢達の負傷、先程の大地震ーー良くないことが連鎖的に起こり、それを鑑みて、俯く妖夢が言葉を零した。

 

「やはり、と言いますか…大分危ない状況な様ですね…」

 

「…そういえば、あなたは何故ここに来たのかしら?」

 

ふと、咲夜は妖夢に問い掛けた。

彼女は半分幽霊であり、冥界にある白玉楼の庭師という仕事を務めている。

冥界への影響ーー主に力の余波ーーがあったとしても、彼女がここにいる理由にはなり得ないのだ。

問われた妖夢は、特に困った顔も見せずに言った。

 

「…あの妖力の余波は、冥界にも響いて来ました。それだけなら私が来ることもなかったのですがーーあれに、幽々子様と似た(・・・・・・・)()を感じたのです」

 

幽々子の力。それは"死に誘う程度の能力"。

咲夜がレミリアの強大な力に慣れてしまっていたのと同様、妖夢と幽々子の間にも、そんな関係がある。

彼女自身がその能力を使う事は滅多にないが、つまりは、長い時間を彼女の側で過ごしてきた妖夢には、その"感覚"が肌で分かる様になっていたのだ。

 

そんな中、彼女に似た性質の妖力を感じ取った。

心優しい少女である妖夢は、一言主に断っただけで、飛び出してきたのだ。

結果的には確かに非常事態にはなっていたのだが、それも見越していたのか、その主たる幽々子は何も言わずに、見送ったのだった。

 

「結界を超えたら、既に妖力も途絶えていたので、取り敢えず博麗神社に急いだのですが…正解だった様です」

 

 

 

 

 

「…ホントにね。不本意だけど、あんた達が居てくれて助かったわ」

 

 

 

 

 

不意に、声がした。

全員が予期していなかったその声に皆がそちらを向くと、そこには身体中に包帯を巻いた霊夢が立っていた。

 

「! 大丈夫かよ霊夢!」

 

「ええ、一応ね。内臓が潰れ掛かったりはしたけど、大丈夫よ」

 

まだ痛みはあるだろうに、霊夢は少しだけ微笑んで見せた。それはとても弱々しくはあったが、取り敢えず、命に別状が無かった事に関しては、皆が皆、のしかかる重りから解放される様な気持ちであった。

 

「後の三人はまだ治療してるわ。特に紫は…重症みたいよ」

 

………………。

 

紫が重症。

その事実は、この件が如何に危険なものなのかを痛烈に叩きつけた。

この中の誰一人として、紫に適う者は居ない。そんな中で、その紫自身が殺されかけたとあれば、皆が戦慄するのも無理は無かった。

 

黙り込む皆を前に、霊夢は一つ溜め息を吐いた。

 

「………怖がっていても仕方ないわ。この異変を解決するには、どうしたって…不本意だけれど、彼と戦う事になる。…取り敢えず……事情を聞かない事には、始まらないわね」

 

そう言った霊夢の視線は、未だ気を失ったままの少女ーー東風谷早苗に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よく、分からないわね」

 

起き上がった早苗から告げられた事に、霊夢はポツリとそう零した。

皆彼女の言葉に反応してそちらを向いているが、その眼は"確かに、そうだ"と暗に語っている。

 

「…何がです?」

 

「全部よ。双也にぃは、百年ほど前には既にこの幻想郷にいた筈よ。あんたはどう見たって普通に十代の女の子だし、出会うはずは無いのに…色々と時間的な矛盾が出てきてる」

 

双也は既に一億年以上の時を過ごし、その最後として、百年ほど前に幻想郷入りを果たした。

それならば、今回初めてここを訪れた早苗が、彼と会っている事は物理的にあり得ない。

 

こうなると、実質正しいと言えるのは早苗の方だ。

彼女はこの事実に従って、彼とは初対面だというのだから。

 

ーーならば、双也は何故早苗の事を知っていたのだろう。

 

勿論、彼女らの誰一人として、この世界における双也の成り立ちを知る者はいない。

だからこそ、結局、皆の疑問はそこに行き着く。

会った事もない人物を既に知っていて、更には彼女が覚えていなかったことで変貌を遂げている。

双也という存在の謎が、また深まったのだ。

 

「あの…すみませんでした。私の所為でこんなことになってしまって…もう、何が何だか…」

 

「いーや、今回はお前の所為じゃないと思うぜ。だって言ってる事は正しいからな。……むしろ、おかしいのは双也の方だぜ。今までも不思議なやつだなーとは思ってたが、ここまでくると、最早別の世界の奴みたいだ」

 

守矢神社の二柱ーー諏訪子と神奈子が傷付いた事も相まって、泣き出しそうな声で話す早苗に、魔理沙は慰め程度に言葉を返した。

未だ目尻に涙が溜まってはいたが、早苗は小さく"有難うございます…"と呟き、再び俯く。

 

「…それで、駆けつけた紫様と霊夢さんが応戦した、と」

 

纏めるようなその言葉に、全員が少しだけ顔を顰めた。

応戦したけれど結果は惨敗だったのだ。それを思えば、皆に戦う意思があったとしても、気落ちするのは仕方がない。

 

「ともかく、情報の共有でもしようぜ。どうせ、この中に逃げ出す奴なんていないだろ? 気落ちなんてしてるより、対策してた方がまだマシだぜ」

 

「……そうね。魔理沙の言う通りだわ」

 

いつでも前向きな彼女の性格は、普段こそ彼女自身が開き直ってしまう原因にもなっているが、こういう時には助けられる。

内心微笑を零しながら、霊夢は繋ぐように話し出した。

 

「正直に言って、共有出来るほどの情報も得られちゃいないけどーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、そんな……」

 

「…あいつがそんな状態になってるとは…考えたくもないな……」

 

霊夢から双也の状態や強さを聞いた面々は、ただただその表情を蒼白に染めた。

 

霊夢の惨敗

紫の苦戦

そしてそれでも、まだ本気を出していない様な雰囲気を醸す、双也。

 

何故そんな強行に走ったのかは、全くもって分からない。

加えて、そんな双也が無遠慮にその凶刃を振るうとなれば、恐ろしさを感じるのはむしろ自然である。

 

それらの事実は、実質二人よりも実力が低いとされる面々に戦慄すら感じさせた。

 

 

ーーそんなの、どうやって止めりゃ良いんだよ。

 

 

と。

 

「……ともかく、見た運命に従って正解だったという事ね」

 

「はい、お嬢様…」

 

「…何を見たんだ? レミリア」

 

呟くレミリアに、魔理沙は問い掛けた。

レミリアの"運命を操る程度の能力"は、場合によってとても有用な効果がある。戦闘にこそ使用しないが、それは先の運命を見るーー言うなれば未来予知に限りなく近い能力なのだ。

 

ともすれば、その予知を見たというレミリアに、問い掛けない手はない。

 

「……ボヤけて上手くは見えなかったけれど、酷く傷付いた霊夢が見えたの。だからここに来た。彼女が打ち負けるほどの異変になるなら、私たちの力も必要かと思ってね」

 

それとーー。

 

そう言葉を区切り、レミリアは少しだけ目を細めた。

 

「壊れそうなくらい苦しんでいる、双也の姿が見えたわ」

 

「ッ……」

 

ギュッと、霊夢は胸を締め付けられるような錯覚を覚えた。

それが何なのか、なぜ胸が痛むのか、それは彼女自身も分かっていた。

 

 

ーーきっと、怖いのだ。

 

 

小さな時から側にいて、本当の兄の様に接してきて。

一度は仲違いしたけれど、結果的には更に絆が深まった気さえ感じる。

 

せっかく仲を戻す事ができたのに。

昔みたいに兄妹でいられるのに。

当の双也は、また離れていってしまう。それが、霊夢にはどうしても怖いのだった。

 

そんな霊夢には気にも留めず、魔理沙は相変わらず顎に拳を当てて考え込んでいた。

少しの間続いた沈黙は、やはり魔理沙の言葉で破られる。

 

「んでもよ、今の双也は、紫の何やらすごい封印術を食らって消耗してるんだろ? なら、案外そこまで怖がる必要も無いかもしれないぜ?」

 

「…そうね。妖怪の賢者が苦戦したと言っても、無限に体力があるわけでは無いし、何か弱点がある筈よ」

 

魔理沙の言葉に、レミリアも同調して言う。

天界にある"緋想の剣"の特性のようにーー此処にいる者達がそれを知るはずは無いがーー、相手の弱点を突く事は非常に有効である。

 

いくら絶望的なまでの戦力差があろうと、弱点を突いて突いて突きまくれば、もしかしたら勝機が見えてくるかも知れない。

 

魔理沙の考えは、至極妥当だ。

 

しかし

 

 

 

 

 

「そう上手くは、行かないのよ」

 

 

 

 

 

ーーそれを打ち破ったのは、紫の声だった。

 

「…ッ! 紫、もう大丈夫なの?」

 

「大丈夫ではないけれど…ね。境界を少し弄っておいたわ」

 

そう笑顔を浮かべる紫は、やはり少しだけ、苦しそうである。

だが、自力で歩いて、笑える程には回復した事に霊夢はただ一安心した。

 

「…それより、上手くは行かないって…どういう事よ?」

 

霊夢の隣に腰を下ろした紫に、咲夜は的確に問うた。

紫の復活で少しだけホッとした様な空気に、再び緊張が戻る。

 

紫は、心なしか暗い表情をした。

そしてゆっくり、口を開く。

 

「……あの封印ーー架々八天封印は、まだ未完成なのよ」

 

「アレが……未完成?」

 

霊夢の言葉は、完全に無意識だった。そりゃ、アレだけ高度で複雑に編み込まれた術式を見て、未完成だなんて到底思えない。思うはずが無い。少なくとも、霊夢はそうだった。

唖然とする彼女を横目で見た紫は、弱々しく頷く。

 

 

「…あの封印術は、私が長い年月をかけて編み出し、遂に完成し得なかった術。

ーー対双也用の(・・・・・)…ね」

 

 

ーーえ?

 

全員の頭が、たった一つの疑問に支配された。

 

対双也用? という事は、紫はすでに"こうなる事"を知っていた、という事か?

全員が思った事は、ほぼ同じだった。

そしてその事を紫が見抜くのは、赤子の手を捻るより容易なことだった。

 

全員の疑問を解決すべく、紫は、"事の始まり"について、語り出す。

 

「あなた達の想像通り、私は大分前から予想していたわ。ああなった双也の危険性も、恐ろしさも。だからこそ、今の今まで…その時のために(・・・・・・・)架々八天封印を磨き続けた。………でも、どんな工夫を凝らしたって、どんなに複雑な計算を解いたって、あの双也の力を上回る事はーー封印する事は、出来なかった」

 

彼女が彼のアレ(・・)を知ったのは、昔の事。

未だスペルカードルールが確立されておらず、揉め事は実力行使で解決していた時代。

 

「単刀直入に言うわ。アレは、双也が神格化した時の姿。そしてーー双也ではない(・・・・・・)、別の存在よ」

 

 

 

 

ーーそれは、百年近く前に起きた、ある異変での出来事ーー

 

 

 

 




おかしなところがないかとても心配です…。

ではでは。
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