東方双神録   作:ぎんがぁ!

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"人々から削り取られた、空白の雨"


今回ちょっと長いです。長くなってしまいました。
いろいろ詰め込みたかったんですよっ

ではどうぞ。


第百四十七話 込められた想い

ーーそう、あの日は雨が降っていた。

 

黒々と積もった雲に覆われ、虫の声も消え失せた真夜中に、ざぁざぁと、大粒の雨が。

 

雨は清浄や恵みなど、清らかなものを表す反面、悲しみや惨めさなどの暗い感情も呼び起こす。

 

その日は、"きっと誰かが悲しんでいるのだろうな"と自然に思えるような、そんな夜だった。

 

 

 

 

 

『コレは…双也?』

 

妖怪達の処理をしている最中、紫は突然爆発的な力の増長を感じ取った。

それは、彼女にとっては見知らぬものでは決してなく、むしろ感じ慣れた程のもの。

しかしだからこそーー彼女は酷く焦った。

 

何せ、その時感じた双也の霊力は、完全開放近く(・・・・・・)まで大きくなっていたのだ。

 

加え、ゴウゴウと大気を揺らすようなその霊力は余りにも荒く、"双也の身に何かがあった"事を刻々と示していた。

 

事態を急に感じた紫は、半反射的にスキマを開き、その中に飛び込む。目的地は当然、双也の向かった、人里の向かい側である。

 

『……………ッ』

 

頬に流れる汗を拭う。

しかしそれによって、彼女の焦りに同調するように吹き出す"嫌な予感"が消える事はない。

そんな事で拭いされる程、生温い予感ではなかったのだ。

 

そして、出口。

 

飛び出す様にスキマから出た紫は、ただただその眼を見開いた。

 

『ッ!? どう言う…事よ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、血を浴びた髪と瞳を白く輝かせる双也と、対峙する柊華の姿があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の視界は他に、斬り結ぶ二人の周囲も鮮明に映し出した。

それは即ちーーズタズタに斬り裂かれ、完全に絶命したと思われる妖怪達と人間達(・・・・)

 

その光景を目の当たりにして、浮かび上がってしまった"悪い推測"。

それに自分自身が驚いて、彼女は首をフルフルと振るった。

 

『(っ……今はとにかくーー)』

 

きっ、と意識を絞り、未だ激しい戦闘を続ける二人を見やる。

一見互いに拮抗している様に見えるが、完全に柊華が押されている。

紫はその合間を縫い、スキマで柊華を引き寄せた。

 

『! 紫…いいところに来たわね…』

 

柊華は紫に向けて軽く微笑んだ。

しかし、その身体に生々しく刻みつけられた傷が、彼女の笑顔を少しだけ苦しそうに見せている。

その姿に、紫はピクリと眉を揺らした。

 

『……一体、何が起きたの?』

 

先程の悪い推測を噛み殺し、紫は静かな声音で問い掛けた。

 

ーーどうか違っていて下さい。

 

そんな、ある種の願いが篭った様な声。

 

彼女の切実な想いはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『……双也が…人里の人間を殺し始めたのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

いとも簡単に、砕かれてしまった。

 

見事なまでに、紫の予測は当たっていたのだ。

双也と柊華が戦っているという状況。

刀疵(かたなきず)と思しき死体達の傷。

その他細かな情報から、一瞬で導き出してしまった、確信に近い推測。

彼女は初めて、自分の頭脳を恨めしく思った。

親しい人物を疑ってしまう様な頭脳なら、欲しくなんてない、と。

 

『殺し始めたとは、聞き捨てならないな』

 

二人の会話に、突然聞き慣れた声が割り込んでくる。それは当然、双也から発せられた言葉。

しかし、今の二人には、その声がどうしても別の他人の様に聞こえるのだった。

 

『オレは、やらなきゃなんない事をしてるだけだぜ?』

 

『っ……本当にどうしたのよっ! あなたはこんな事をする人じゃないでしょう!? ねぇ双也ッ!!』

 

殺す事がさも当然の様に語る双也に、柊華は真摯な叫びをあげる。

なぜ突然、こんなにも非情になってしまったのか。殺す事を躊躇わなくなってしまったのか。

心を救われ、彼を大親友だと語る柊華には、とても受け入れられない事だった。

そんな彼女に対し、双也は。

 

 

 

 

 

 

『そうだな』

 

 

 

 

 

 

ただ、一言。

 

悩む素振りなど見せず、ほぼ即答であった。

 

『確かに言う通りだ。"俺"はこんな事しない。というより、出来ない。優しすぎてな』

 

 

ーーだから、"オレ"がやるんだ。

 

 

刀を構えた彼から、吹き飛ばされそうなほどの強力な神力が溢れ出す。

その瞳は、眩しいくらいに輝きを放っていた。

 

『……まるで別人みたいな言い方ね』

 

『…まぁ、想像するのは勝手だ。ーーさぁ、裁きの時間だ』

 

ヒュヒュッ

 

剣跡の全く見えない速度で、刀が振るわれた。

辛うじて反応し、身構えた二人だったが、予想外に衝撃は襲ってこない。

代わりにーー地面に大量の神力が、多数の線となって引かれていた。

 

『ーーッ!!!』

 

ドウッ!!

 

神力は刃となり、天を()くかの如く噴出する。

紫達は、間一髪のところでスキマを用い、なんとか上空へと避け切った。

が、その技の威力に二人はただただ驚愕するしかなかった。

 

 

『何よ…この規模はっ!?』

 

 

神力で放たれたその技は白く煌々と輝き、真夜中だというのに幻想郷全てを照らし出してしまいそうなほど、巨大な刃の摩天楼を形作っていた。

大地そのものを断ち切っている様な、そんな錯覚さえ覚えてしまう。

 

"風刃だ"

 

紫は瞬時に結論へと達した。

それは双也が戦闘の際によく使っていた技。地面に引いた線から、霊力の刃を勢いよく噴出する技。

 

ーーそれが、この威力。

 

双也にとっても、決して大技とは言えないあの技が。

 

驚愕のみが二人の心を包んでいた。

きっと"あの双也"にとっても、大技とは言い難い技なのだろう。しかしーーあんな物を自分達が喰らえばどうなってしまうのか、間近でそれを見た二人に、想像は実に容易かった。

 

『……ッ』

 

光が収まっていく中、二人は覚悟を決め、構えを取り、今や敵として立ち塞がる双也を見据えた。

 

 

ーーしかし、そこに彼の姿は既になかった。

 

 

『余所見』

 

『!!』

 

咄嗟に振り向く。

余りの速さで二人のいる上空へと上がってきたのは、当然ながら双也である。

 

二人に向けて掲げられた刀は、今や無慈悲にすら思える神力の雷鳴を纏っていた。

 

『神剣「断咎一閃の剣」』

 

ガァアンッ!!

 

そこらの妖怪が受ければ、コンマ数秒のうちに塵となって消えるだろうその雷鳴は、一瞬の内に打ち下ろされて、その激しい光に二人を容赦無く呑み込んだ。

 

大気が爆ぜるような閃光の後、影も形もなくなったその空間を見据え、神也はポツリと、呟く。

 

 

『…流石ーー博麗の巫女だな!』

 

 

振り向き際に振り払った双也の結界刃は、背後から迫る柊華の刃に衝突した。

 

一瞬だけ、それでも相当な力を込めた結界によって防御に成功した二人は、それが砕かれる直前にスキマで退避し、致命傷を避けたのだった。

それでも相当なダメージになった事は変わりない。今の二人に対して、認めたくはないけれど、双也の力は圧倒的である。

先程よりも更にボロボロの姿となった柊華は、荒い息遣いをしながらも双也を睨みつけた。

 

『辛そうだな。さっさと諦めたらどうだ?』

 

『……諦める訳…ないでしょっ!』

 

"喰らいなさい!"

 

瞬間、ギリギリと鍔迫り合いをしていた柊華の刀は、ブワッと無数のお札に戻り、二人の周囲に舞い上がる。

その全てに、青く視認できる程の強力な霊力が込められていた。

 

 

 

ーー零式・夢想封印

 

 

 

無数の札は、それぞれが瞬く間に小さな陰陽玉へと姿を変え、激しい光を放つ。

直後、その光の玉は中心の双也へと殺到し、その一つずつが、通常の夢想封印の何十倍もの大爆発を連鎖させた。

 

しかしーー立ち昇る雲の様な煙の中からは、さして傷ついた様子もない双也が、平然と空を歩いて出てくるのだった。

 

『………紫』

 

『…何かしら』

 

大技を食らわせ、大したダメージにはならなかった様だけれど一旦地上に降りてきた柊華は、小さな声で彼女に呼び掛ける。

紫はスキマから現れると、柊華の険しい表情を見て更に眉根を寄せた。

 

そして、次の彼女の言葉に、紫は、ただの一言も言葉を返すことが、出来なかった。

 

 

 

 

『……多分、私達じゃ…あの双也には勝てないわ』

 

 

 

 

紫は、黙り込むしかなかった。

 

口に出して認識してしまうのが、怖かったのだ。

 

ここで止められなければ、恐らくは自分達を斬り伏せて、他の人間達ーーいや、もしかしたら、この幻想郷に生きる全ての者を殺すべく動き出す事だろう。

 

どうにかして止めなけらばならない。

でも、止める事など不可能だと思える程に、実力が隔たっている。

たった数回の打ち合いで、それを悟ってしまった。

 

この世界を守らなければならないという重圧と、手も足もでなくてどうにも出来ない遣る瀬無さが、紫の心に渦を巻いた。

それは何処までも暗い色をしていて、気を抜けば引き込まれてしまいそうなほど、ドロドロとしている。

 

 

 

『ーーだから、少しだけ時間を稼いで貰えないかしら』

 

 

 

『…え?』

 

パッと、顔を上げた紫の視界は、柊華の表情を一点にして見つめた。

その表情はやはり、辛そうだ。

でも、諦めているわけでもない。

無謀に挑もうとしている訳でもない。

 

その表情は、何かを願っているようなーーある意味、巫女に最も相応しいと言える表情をしていた。

 

『……分かったわ』

 

一言だけ。

紫はそう呟くと、双也に対峙すべくスキマを開いた。

 

紫だって、柊華の言ったことが正しい事は分かっていた。

彼女自身の気持ちなどはもう関係ない。それが明確な事実。

 

ただーー柊華の表情を見、彼女を信じるべきだと、漠然と思ったのだった。

理由は分からない。しかし、彼女の大親友を想う気持ちに、きっと賭けたくなったのだ。

 

"強い想いならば、きっと届く"

 

ーーと。

 

 

 

スキマから飛び出た紫は、間髪入れずに攻撃を開始した。

幻想郷において最強の妖怪とされる八雲紫、その、本気の攻撃である。

 

『双也ッ!!』

 

『よう紫』

 

妖力弾はもちろん、スキマから放たれるレーザーに、時折放られる多種多様な武器など。

そのほぼ全てが強い妖力を秘め、双也へと向かっていく。

 

しかしその全てが、彼の小さな一挙一動によって弾かれ、防がれ、断ち斬られていく。

紫の劣勢は、明らかだった。

 

『こんなもんか?』

 

『〜〜ッ!』

 

しかし、今の紫に退くという選択肢はない。

逃げれば全てが終わる。この幻想郷に生きる全ての者が、きっと死に絶えてしまう。何よりーー柊華を信じると決めたのだ。

 

紫の攻撃はむしろ、更に苛烈さを増した。

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

紫の攻撃は、その衝突音が幻想郷に響いているかの様な激しい音を生み出していた。

全てが全力、絶え間などあってはならない。

彼女の覚悟そのものが表れたかのような攻撃だった。

 

『喰らいなさいッ 「深弾幕結界」ッ!!!』

 

その極め付けは、彼女の最終奥義に類する結界術。

 

隙間など存在せぬ程の弾幕の羅列が、双也を中心に張り巡らされ、結界を形作った。

そして、空間を包み込むように張り巡らされたその弾幕は、中の者を圧殺せんと急激に収縮していく。

 

凄絶な勢いと威力で迫るそれを見据え、双也はしかしーーほんの少しも表情を崩さなかった。

 

『………(ぬり)ィな』

 

 

 

ーー神罰「咎を砕く雷鳴」

 

 

 

弾幕が彼へと衝突する直前。

双也が放つ五つのレーザーによって、一瞬にして、紫の結界は粉々に砕かれた。

弾幕諸共、その剣のように振るわれるレーザーに掻き消され、けたたましい音を上げて崩れていく。

 

心を驚愕に染められ、大きく見開かれた彼女の瞳は……ニヤリと笑う双也の顔を見た。

 

 

ズドドドドッ!

 

 

『ぐぅっ!!』

 

気が付いた時には、彼女の身体は無数の刃に斬りつけられ、噴き出すように鮮血を舞わせた。

 

『まだあるぞ、紫!』

 

それだけには終わらず、双也は距離を神速で詰めて次々と斬撃を放つ。

スキマで回避を試みても、双也の扱う"無限流"によって全くの意味を成さない。

追い詰められるのは、あっという間であった。

 

『〜ッ…く…』

 

『……思ったんだけどさーー

 

結界刃で縫いつけられ、最早身動きも取れない紫を、双也は冷めた瞳で射抜いた。

 

 

 

 

お前って、案外弱いんだな。ガッカリだ』

 

 

 

 

ーー破道の三十三「蒼火堕」

 

 

 

 

無情の炎が、紫の目の前で輝きを放つ。 今にも炸裂してしまいそうなその光を前に、彼女は未だ、強気に双也を睨みつけていた。

 

そして、次の瞬間ーー

 

 

 

 

 

 

 

双也の身体は、強い衝撃に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

強い衝撃を受け、それこそ吹き飛びはしなかったものの、着地した先で、双也は少しだけ顔を顰めてその方向を見やる。

 

 

そこには、無数のお札を周囲に浮かべている博麗柊華の姿があった。

 

 

『……なんだそりゃ』

 

『私の、とっておきよ』

 

今の柊華は、どこか蒼い澄み切った空気を纏っており、周りに浮かぶお札たちは、まるで柊華の指示を待つかのようにフワフワと待機していた。

当然ながら、彼女の放つ霊力も凄まじいもの。ただーー荒さなどは一切無い、流麗極まるものである。

 

 

ーー夢想天生 〜魂憑之神(たまつきのかみ)

 

 

それは、代々博麗の巫女が持ち得る最終奥義ーーその、極致である。

 

通常の夢想天生は、圧倒的な霊力を込めた札を無数に衝突させるものーー霊夢のもう一つの型は彼女独自ーーである。もちろんそれだけでも比類の無い強力な技ではある。

 

しかし、それはまだ完成では無いのだ。

 

完成系ーーつまり"魂憑之神"は、その霊力を完全に掌握し、意識し、無数にある霊力の束(お札)の一つ一つを意のままに操る状態の事である。

無数のお札を一瞬にして攻防に転じ、あまりに硬い防御、あまりに強い攻撃を次々と繰り出すーーそれが、魂憑之神。

 

歴代の巫女達の中に、初代以降この境地に達する者は現れなかった。

実力が無いわけではない。ただ、人間にとってはあまりに高度なのだ。

 

それでも、史上二人目としてその境地に到達したのが、第十八代博麗の巫女、博麗柊華。

 

驚くべきは、その完成度が初代をも凌駕していた事。

 

他の技の完成度ならいざ知らず、柊華が"歴代最強"と言われる所以は、ここにある。

博麗柊華とは、才能の塊のようなーーいわば"真の天才"なのである。

 

『…………双也、必ず…あなたを取り戻してみせる』

 

ゆっくりとお札の刀を掲げる。

すると、無数にあったお札が彼女の周囲を高速で旋回し始め、徐々に上へと伸びていく。

 

そうして圧縮された霊力は、ビリビリと大気を揺らしながら、巨大な刀身を作り上げた。

 

『行くわよッ!!』

 

魂憑之神の性能を攻撃のみに振り切った霊刀。

 

柊華は出来うる限りの速度で、双也へと、その鋭過ぎる刃を向けた。

 

 

 

 

ガァァァアアアンッ!!

 

 

 

 

地響きの様な炸裂音が響き渡る。

 

あまりに激しく、直視など到底できない様な光が、漸くと止んで行く。

 

光の粒とお札が舞う中では

 

 

 

 

ーー柊華が、双也の結界刃に貫かれていた。

 

 

 

 

『うっ…く…ぅ…』

 

『言ったろ、(ぬる)すぎるんだよ』

 

バチャバチャッと、柊華の口から血が噴き出す。

最早力も入らなくなった彼女の身体は、刀に貫かれたまま、双也にもたれかかる形となった。

 

『柊華ぁぁあああっ!!!』

 

紫は、反射的に叫んだ。

普段なら決してあげる事のない、悲鳴に近い叫び。

 

彼女だって、柊華との付き合いは短くない。むしろ、ほぼ毎日の様に会っていた。

絆ーーというと大袈裟かもしれないが、少なくとも、紫の中で柊華は立派な友達なのだ。

 

そんな友達が、こんな惨状になどなれば、普段の振る舞いなど忘れて叫んでしまうのも仕方のない事。

 

すぐにでも助けに行こうと、もう動かなくなりかけている足を曲げる。

そんな紫の目の前で。

 

 

 

柊華は、双也を優しく抱き締めていた。

 

 

 

『や…っと……話、せる…わね…』

 

ゆっくりと、途切れた言葉を紡いで零す。今の柊華には、もう唇を動かす事すら難しくなっていた。

 

 

『ねぇ、双也……私、は…ね、あなたに、救われたのよ』

 

 

白く霞がかかった様な、そんな頭の中で、双也と出会った時の事を思い出す。

 

 

『そりゃ…最初、は…不思議な、人、程度に、しか…思って、なかっ、たけど、ね…』

 

 

一万円もお賽銭してくれるおかしな人で。

時代すら分からない変な人で。

馬鹿みたいに大きな霊力を秘めた強い人で。

 

 

『それ、でも…あの時言っ、て…くれた、言葉……どんなに…嬉し、かったか…!』

 

 

"友達になってくれないか?"

一人じゃないって、分かった時の喜びは、泣き出してしまう程心に響いた。

 

"心まで強くなくていいんだ"

冷え切った氷の様な心が、しとしとと溶けていく様だった。

 

 

『だから…ね…? 私、あなたの、為になら……死んだって、良いくらい…感謝…してる、のよ…』

 

 

思い出して、また涙が流れていく。

もう殆ど血も無いというのに、涙だけは、流れていった。

 

 

『双也、あなたは…優しい。私なんかを、救ってくれた、優しい…人よ。だから…お願い…!』

 

 

消え入る様な願いの声。

 

"その"双也の中で、ドクンと何かが跳ねた。

 

『ぅ……うぁぁああッ!!』

 

 

ドパァン

 

 

白い輝きが全て吹き飛びーー双也は、柊華を持たれかけさせたまま、カクリと膝を落とす。

 

ビリビリと肌を刺激する様な神力は、感じ慣れた優しい霊力に変わっていた。

 

そしてーー程なくして、目を覚ます。

 

柊華の双也を想う気持ちが、双也の内にすら響いて、意識を引きずり出した。

 

"双也に戻ってきてほしい"という、とても強い想い。

 

巫女としてでなく、一人の人間として。

柊華が最後に願ったのは、お金に恵まれた生活ではなく、

幻想郷の平和でもなく

 

一人の少年の、安息だった。

 

 

 

 

 

ーーそう、この日は雨が降っていた。

 

誰かの悲しみを思わせる様な、暗く澱んだーーでも、純粋な悲しみの念。

 

この日の雨を覚えている者は、もう、殆ど居はしない。

 

 

 

 




過去の話を書くのって難しいです。
なんかもう、過去じゃなくて現在形になってる気がする。

ではでは。

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