東方双神録   作:ぎんがぁ!

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ちょっと短いです。

ではどうぞ!


第百五十話 双也にとって

ーー龍神。

 

それは、この幻想郷で崇められている神の一柱、最高神。

この世界の創造と破壊を司ると言われる頂点の存在である。

 

その姿は巨大な龍とも、荘厳な男性とも…多岐に渡って語られており、真の姿を見たものは片手で数えられる程度。

 

そしてその力はーーこの世界に生きる者達よりも、数段上の次元だと言われている。

 

「ほ、ホントに…龍神様…?」

 

目の前に現れた、龍神だと名乗る少女ーー天宮竜姫に、皆が驚きと不信の目を向けていた。

 

当然だ。世界の神、それも最高神がこんなアッサリ出てくるなど、誰が考えようか。

そんな事、"本人を見たことのある者"にしか、信じられはしないだろう。

 

ーーしかし幸いにも、"その者"はこの中にも一人だけ居た。

 

「……龍神様…改めて、お久しぶりですわ」

 

「久しぶりじゃの、八雲紫」

 

紫は、竜姫に向けて軽くお辞儀をした。少なくとも百年以上ぶりの再会なのである。

 

紫が竜姫と出会ったーーいや、竜姫の下を訪れたのは、まさにこの幻想郷を創造する際。

新たに世界を構築するとあっては、それを見守る神が必要である。紫はこの頃、その役目を担ってくれる神を探して彷徨っていた。

 

その最後に出会ったのが、竜姫。

 

龍神というのは、この世界に限らずトップクラスの力を持った存在。普通ならば、たった一つ出来た程度の世界(・・・・・・・・・・・・・)の神の座に座る事など無い。

神を探し、成り行き上竜姫にも頼んでみた紫も、位の高過ぎる彼女に対しては、"この方には断られるだろう"と諦めすら感じていた。

 

しかし存外、竜姫は二つ返事の下に承諾したのだ。

 

それが二人の出会い。百年以上前の事である。

彼女がアッサリと承諾した理由については、紫ですら未だ答えを出すに至っていないが、紫が"片手で数えられる内の一人"となったのはこの時だった。

 

「……本当に龍神様なのか? こんなちっこいのが」

 

「………魔理沙」

 

二人の軽いやり取りを見ていた魔理沙は、イラついた声でそう言った。

紫が制しようとするが、彼女は構わずに竜姫へと厳しい視線を向ける。

 

「とてもじゃないが信じらんないな。こっちはこれ以上なく焦ってんだよ、そんなハッタリ娘(・・・・・)に構ってられるほどの余裕なんざ持っちゃいないんだよ」

 

「ほう……なら、試すか?」

 

僅かに口の端を歪めた竜姫は、その指の間に一本ずつ、計三本の小太刀を顕現させた。

その臨戦態勢と取れる様子を見、魔理沙も黙って八卦炉に手をかける。

 

「お二人とも待って下さいっ!」

 

そう促したのは妖夢だった。

彼女の声が響いたからか、二人は攻撃せずにジッとしている。

 

ーーと、次の瞬間。

 

 

 

「……プッ、くくく…」

 

 

 

竜姫は突然、吹き出して笑い始めた。

 

その行動で更に皆の眼光が鋭くなる中、竜姫は顕現させた小太刀を消し、笑い晴らすようにして言った。

 

「いやはや、中々の気概じゃあないか! あやつをどうにかすると言うからには、そういう奴がおらんとなぁ!」

 

「……龍神様、試すのは構いませんが、万一戦闘になったらどうするのですか」

 

「心配要らんよ、八雲紫。もしそうなったら、すぐに神力で押さえつけていたしの」

 

かっかっか!

竜姫は、その容姿に似合わない高笑いを上げた。

どこか性質の掴めないその様子に、紫は溜息を、その他は首を傾げるのだった。

 

「それで、龍神様。あなた程の方が来たという事は、これがそれなりの大異変でーー」

 

「うむ。解決策もあるにはある、という事じゃ」

 

"解決策がある"

竜姫の放ったその言葉に、全ての者の瞳に光が宿った。

特に早苗は、原因となってしまったかも知れないという責任感の反動でか、涙すら零している。

 

しかし、そう言った竜姫自身は、笑う事もせずに険しい顔をしていた。

 

「ーーが、条件が厳しくての。普通に…言わば今まで通りに、頭数を増やしての力技では、如何あってもあやつには勝てん」

 

そうして皆の喜びを一蹴すると、竜姫は人差し指を立てた。

 

「まず第一にそれが問題じゃ。ただ闇雲に攻撃しても神格化した双也には敵わん。……"あの異変"の時はどうにかなったが…」

 

二本目ーー中指が立てられる。

竜姫は少しだけ目を細めた。

 

「二つ目ーーそもそも、双也に打ち勝つだ(・・・・・・・・)けでは解決(・・・・・)しないのじゃよ(・・・・・・・)この異変は(・・・・・)

 

「……どういう事?」

 

レミリアの問いかけに一瞬だけ目を向けると、竜姫は少しだけ、悲しそうな表情をした。

そうしてゆっくり、口を開く。

 

「……それを説明するには、私の知る双也自身の事を話す必要があるのじゃ。ーーあやつが、転生者である、という事を」

 

 

 

ーー転生者。

 

そう聞いて、一瞬の内にそれを理解出来るものはこの場に居なかった。

当然の事である。転生というのは死後に起こる事であり、その世界にいた者達の耳に"あいつが転生した"、"こいつが転生出来た"などという話が入る事はあり得ないのだから。あったとしても、それに気が付く事はできない。

 

ーーなら、双也が転生者、というのは?

 

皆がそう言った疑問に辿り着いた頃、竜姫は更に顔を俯かせた。

 

「双也はもともと、この世界の存在ではないのじゃ。もとはごく普通のーー力も何も持たない、普通過ぎるくらいの人間じゃった」

 

ごく普通の人間。

そのそれを聞いた瞬間、早苗の肩がピクリと跳ねた。

人間で、この世界の者ではない。それでは自分と同じではないか。ならば、やはり、何処かで出会っていたのだろうか、と。

 

「違う」

 

「…え?」

 

無意識に顔を俯かせていた早苗の様子を見、察した竜姫はキッパリと否定した。

 

「違うのじゃ、東風谷早苗…。お主と双也は出会っておらん。……出会っておらんから、こんな状況になったのじゃ…」

 

そう絞り出す様な言葉を落とした竜姫は、誰が見ても分かるくらいに歯軋りをしていた。

 

「そしてそう(・・)なってしまったのは、私の浅はかな考えの所為。双也の想いを、甘く見過ぎていた」

 

ーー話しておこう。

 

竜姫は静かに、早苗へと指を指した。

 

「双也にとって、"世界"がどんなものか、という事をの」

 

 

 

 

 

 




さーて……書きだめがつきそうです……。

ではでは

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