ではどうぞ!
ーー龍神。
それは、この幻想郷で崇められている神の一柱、最高神。
この世界の創造と破壊を司ると言われる頂点の存在である。
その姿は巨大な龍とも、荘厳な男性とも…多岐に渡って語られており、真の姿を見たものは片手で数えられる程度。
そしてその力はーーこの世界に生きる者達よりも、数段上の次元だと言われている。
「ほ、ホントに…龍神様…?」
目の前に現れた、龍神だと名乗る少女ーー天宮竜姫に、皆が驚きと不信の目を向けていた。
当然だ。世界の神、それも最高神がこんなアッサリ出てくるなど、誰が考えようか。
そんな事、"本人を見たことのある者"にしか、信じられはしないだろう。
ーーしかし幸いにも、"その者"はこの中にも一人だけ居た。
「……龍神様…改めて、お久しぶりですわ」
「久しぶりじゃの、八雲紫」
紫は、竜姫に向けて軽くお辞儀をした。少なくとも百年以上ぶりの再会なのである。
紫が竜姫と出会ったーーいや、竜姫の下を訪れたのは、まさにこの幻想郷を創造する際。
新たに世界を構築するとあっては、それを見守る神が必要である。紫はこの頃、その役目を担ってくれる神を探して彷徨っていた。
その最後に出会ったのが、竜姫。
龍神というのは、この世界に限らずトップクラスの力を持った存在。普通ならば、
神を探し、成り行き上竜姫にも頼んでみた紫も、位の高過ぎる彼女に対しては、"この方には断られるだろう"と諦めすら感じていた。
しかし存外、竜姫は二つ返事の下に承諾したのだ。
それが二人の出会い。百年以上前の事である。
彼女がアッサリと承諾した理由については、紫ですら未だ答えを出すに至っていないが、紫が"片手で数えられる内の一人"となったのはこの時だった。
「……本当に龍神様なのか? こんなちっこいのが」
「………魔理沙」
二人の軽いやり取りを見ていた魔理沙は、イラついた声でそう言った。
紫が制しようとするが、彼女は構わずに竜姫へと厳しい視線を向ける。
「とてもじゃないが信じらんないな。こっちはこれ以上なく焦ってんだよ、そんな
「ほう……なら、試すか?」
僅かに口の端を歪めた竜姫は、その指の間に一本ずつ、計三本の小太刀を顕現させた。
その臨戦態勢と取れる様子を見、魔理沙も黙って八卦炉に手をかける。
「お二人とも待って下さいっ!」
そう促したのは妖夢だった。
彼女の声が響いたからか、二人は攻撃せずにジッとしている。
ーーと、次の瞬間。
「……プッ、くくく…」
竜姫は突然、吹き出して笑い始めた。
その行動で更に皆の眼光が鋭くなる中、竜姫は顕現させた小太刀を消し、笑い晴らすようにして言った。
「いやはや、中々の気概じゃあないか! あやつをどうにかすると言うからには、そういう奴がおらんとなぁ!」
「……龍神様、試すのは構いませんが、万一戦闘になったらどうするのですか」
「心配要らんよ、八雲紫。もしそうなったら、すぐに神力で押さえつけていたしの」
かっかっか!
竜姫は、その容姿に似合わない高笑いを上げた。
どこか性質の掴めないその様子に、紫は溜息を、その他は首を傾げるのだった。
「それで、龍神様。あなた程の方が来たという事は、これがそれなりの大異変でーー」
「うむ。解決策もあるにはある、という事じゃ」
"解決策がある"
竜姫の放ったその言葉に、全ての者の瞳に光が宿った。
特に早苗は、原因となってしまったかも知れないという責任感の反動でか、涙すら零している。
しかし、そう言った竜姫自身は、笑う事もせずに険しい顔をしていた。
「ーーが、条件が厳しくての。普通に…言わば今まで通りに、頭数を増やしての力技では、如何あってもあやつには勝てん」
そうして皆の喜びを一蹴すると、竜姫は人差し指を立てた。
「まず第一にそれが問題じゃ。ただ闇雲に攻撃しても神格化した双也には敵わん。……"あの異変"の時はどうにかなったが…」
二本目ーー中指が立てられる。
竜姫は少しだけ目を細めた。
「二つ目ーーそもそも、
「……どういう事?」
レミリアの問いかけに一瞬だけ目を向けると、竜姫は少しだけ、悲しそうな表情をした。
そうしてゆっくり、口を開く。
「……それを説明するには、私の知る双也自身の事を話す必要があるのじゃ。ーーあやつが、転生者である、という事を」
ーー転生者。
そう聞いて、一瞬の内にそれを理解出来るものはこの場に居なかった。
当然の事である。転生というのは死後に起こる事であり、その世界にいた者達の耳に"あいつが転生した"、"こいつが転生出来た"などという話が入る事はあり得ないのだから。あったとしても、それに気が付く事はできない。
ーーなら、双也が転生者、というのは?
皆がそう言った疑問に辿り着いた頃、竜姫は更に顔を俯かせた。
「双也はもともと、この世界の存在ではないのじゃ。もとはごく普通のーー力も何も持たない、普通過ぎるくらいの人間じゃった」
ごく普通の人間。
そのそれを聞いた瞬間、早苗の肩がピクリと跳ねた。
人間で、この世界の者ではない。それでは自分と同じではないか。ならば、やはり、何処かで出会っていたのだろうか、と。
「違う」
「…え?」
無意識に顔を俯かせていた早苗の様子を見、察した竜姫はキッパリと否定した。
「違うのじゃ、東風谷早苗…。お主と双也は出会っておらん。……出会っておらんから、こんな状況になったのじゃ…」
そう絞り出す様な言葉を落とした竜姫は、誰が見ても分かるくらいに歯軋りをしていた。
「そして
ーー話しておこう。
竜姫は静かに、早苗へと指を指した。
「双也にとって、"世界"がどんなものか、という事をの」
さーて……書きだめがつきそうです……。
ではでは