東方双神録   作:ぎんがぁ!

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久しぶりに長かった…!

というわけで長めの一話です。

ではどうぞ


第百五十六話 簡単な理由

「はぁ…はぁ……ちっ」

 

丘は既に、荒地と化していた。

生い茂っていた草花は土ごと吹き飛び、伸びていた木々は幹が穿たれてちりちりと火の手を上げている。

双也が怒りと共に放ったギルティジャッジメントは、幻想郷を見渡せる程には広いこの丘を丸々と呑み込んでいた。

生きるもの全てを咎人と認識する彼の技は、植物という命さえ瞬く間に刈り取り、幻想郷の自然の一部を悉く焼き払ったのだ。

 

怒りと技による消耗で軽く疲弊した双也は、少し荒さの残る呼吸の中で舌打ちをした。

 

ーー熱くなりすぎた。

 

右手を額に当て、目を瞑る。

それは自身の頭を冷やす為の行動であったが、今の彼には逆効果だった。

 

「…ッ」

 

目を瞑ると、フラッシュバックする。

今まで裁いてきた者達の顔が。声が。そしてその時の"俺"の気持ちが。

 

ーー紫の所為だ。 こんな事を思い出すのは。

薄く目を開き、今度は彼女へと舌打ちする。

今更後になんて引けない。

引くつもりもない。

オレにはやるべき事がある。

だから殺す。全て。その決意に揺らぎは無い。綻びなんて許されない。

 

双也は軽く頭を振り、その決意だけを残して考えを振り切った。

そこには既に、紫の言葉に揺さぶられた彼の姿はもう無い。

ただ一人の、荒々しい神へと戻っていた。

 

「!」

 

そうして彼が決意を取り戻した直後、今は彼しかいない荒地の上に、見慣れた物が現れた。

端を赤いリボンで結ばれた不気味な物体。

中に無数の目玉が蠢く裂け目の様な物。

ーースキマである。

 

「ぐっ…ぅ…」

 

「やっぱり避けてたか。まぁ、俺の能力の前じゃそのスキマもただの"壁"だがな」

 

吐き捨てる様な彼の言葉に、しかし紫は言い返す事が出来なかった。

 

打ち下ろされる瞬間、振り絞った妖力を用いて四人共スキマに逃げ込んだ。

ここは紫独自の空間。

彼女からの許しを得ない限り、中に入ることはおろか、干渉することも出来ない。

 

ーーそう、普通ならば。

紫という咎人を超越した双也に限り、その理は通用しないのだ。

スキマに逃げ込んだとしても、その能力によって双也は彼女の是非など関係無いとばかりに干渉し、こじ開ける事ができる。

そしてそんな彼の放つ技の前で、スキマという境界は紫達との間にある"壁"でしかなく、その衝撃を明確に、確実に響かせるのだ。

中に逃げ込んだ四人にも確かに、決して小さくはない衝撃が降りかかったのだ。

 

ーーでも、正解だった。

紫の超人的な頭脳は確かに最善手を選びとっていた。

死んでしまっては元も子もない。

まともに食らえば塵も残らないであろう技の威力を抑え込めたのであれば、スキマを使った意味は十分にあった。

 

ーーしかし。

しかし、だ。

 

スキマを通して生き延びることは出来ても、戦いはまだ終わってなどいない。

四人のうち幽香とレミリアは既に動けず、霊那も武器を振るえる状態ではない。かく言う紫も…既に限界を超えている。

天罰神を相手に四人でこれだけ立ち回ったことは最早大武勲であるが、忘れてはいけない。

彼女らの目的は彼に勝つ事であり、更にはその先で、双也を正気に戻す事だ。

 

ーーこれだけ頑張ったんだ。

ーー格上にこれだけ食らいついたんだ。

 

だから何だ、という話である。

負けた時の言い訳か? そんなの、勘違いも甚だしい。

勝たないといけないのだから、そんなのは当たり前だ。ただの過程に過ぎないだろう。

 

ーーそれは身に染みるほど分かっていながら、それでも身体は動かない。

 

四人にはもう、精神論で補えるだけの力が残っていなかった。

限界が、訪れたのだ。

 

「…やっと終わりか」

 

冷めた視線が、四人を貫いた。

先程の怒りは驚く程冷め切って、淡々と"殺す"という作業をこなすだけの様な表情だ。

薄く嗤うその顔に、紫と霊那は底知れない冷酷さを感じ取った。

 

ーーこの咎人達は少々目障りだったな。

ーーああ、でも、それも終わる。

 

掲げた刃が、不気味に光る。

 

「この一振りでーー」

 

 

 

 

 

 

 

「終わり、だとでも思った?」

 

 

 

 

 

 

 

刹那、上空から無数の弾幕が雨の様に飛来した。

鋭く早く、それでいて高い威力を秘めたその弾幕は、双也に直撃する事こそ無くとも、彼の行動を完全に阻止し、怯ませるには十分の物だった。

 

土煙の立ち昇る中に降り立つ、二つの影。

地に伏す紫達の前に現れた二人はーー

 

 

「やっほー双也っ、会いに来ちゃった♪」

 

「やんちゃが過ぎますね、姫様…」

 

 

ーー月の民、蓬莱山輝夜と八意永琳。

不老不死の二人組だった。

 

「あらあら妖怪の賢者さん? そんなにボロボロになって、遂に歳なのかしら?」

 

「…っ…うる、さいわね…歳の事を、あなたに言われる筋合いは…ないわよ…!」

 

「そっ」

 

血飛沫と苦言の舞う戦場に来たとは思えない。

そんな感想すら抱かせる輝夜の態度に、紫は僅かに眉を顰めた。

 

気に入らないわねーー。

輝夜の態度は、まるで貴族がお試し気分に戦場へと出向いた様な…そんな"不真面目さ"といえる雰囲気を放っていた。

普段の紫ならば真っ向から叩き伏せて、戦いにおけるその態度をキッパリと改めさせるところだ。

改めさせるところーーなのだが。

 

今の紫には、その態度が"余裕"の様に見えてしまうのだった。

 

"相当参っているらしい"、と自己分析してやると、連鎖的に"こんな事は何時ぶりだろう?"、なんてどうでもいい事を考えてしまう。

きっとこの状態が、彼女らを余裕にみせているのだろう。

大妖怪となって幾星霜、負ける事はおろか追い詰められる事も無くなった昨今、今思えば、ここまで死と隣り合わせの状況になったのは本当に久しぶりだ。

 

輝夜のあの態度は気に入らないものの、助けに来てくれたらしい二人に対して感謝を抱く自分も確かに存在する。

きっと自分の中で、何処か安心した部分があったのだろう。

それくらい張り詰めた空気の中で、窮地に立たされていたのだから。

 

ーー双也を元に戻せるのなら、誰の手でも借りてやろう。

ーー今は少しだけ、あの二人に任せましょうか。

 

限界故に生じた妥協案に、紫は素直に従う事にした。

きっと間違ってはいないだろう。今無理に戦おうとしても、足手まといになるだけだ。任せた方が賢明であり、至極常識的な判断と言える。

そう、足手まといーー大妖怪である自分が、まさか足手まといとなる日が来るなんて。

内心で苦笑を零しながら、紫は輝夜達へと視線を戻した。

 

輝夜(・・)、分かってはいると思うけれどーー」

 

「生半可な気持ちで挑むな、でしょ? 分かってるわよ。双也の強さは、あなた自身の口から何千回と聞いたんだから」

 

心配無いわーー。

 

そう語る輝夜の横顔をちらと見る。

確かに彼女からは、いつもの軽々しい態度こそあれど、侮りなどは見て取れない。変に強い分油断をする事も多々ある彼女に、それが無かった事には安堵する反面、心の何処かに不安な部分も確かに存在した。

 

何せーーあんな状態の双也を、自分は知らないのだから。

 

半身が天罰神である事は知っていた。それこそ一億年以上前に彼の口から聞かされたのだ。

その時の衝撃といったら、今でもその時の事を鮮明に思い出せるくらいには強かった。

しかしーー肝心のその力を行使する瞬間を彼女は見た事がない。

初めて行使したあの時、永琳は月へ向かうロケットの中で双也の帰りを待っていたのだから。

結局、帰還した彼に"おかえり"と言う事は出来なかったけれど。

 

ともかく、永琳にとってその力は未知数。不安が残るのは当然の事だ。

少なくとも、紫や幽香、先代の巫女などを同時に相手して圧倒する程の力だ、相当厳しい戦いになるだろう事は容易に想像できるし、少し極端なことを言えば、全力で戦っても負ける可能性すらある。

 

「(侮りの有無で変わる程度の実力なら、良かったんだけどね…)」

 

相手は双也。

当時ですら、妖怪数万体を相手に勝利を収めた存在。

勝ち目は、良くも悪くも未知数である。

 

ーーそう、何も策が無いのならば(・・・・・・・・・・)

 

「(やってみなけりゃ、分からないわね)」

 

油断ではなく、嘲りでもなく、ただ覚悟の表れのように不敵な笑みを浮かべ、永琳は輝夜と共に、双也を見据えた。

 

「次から次へと…よっぽど俺の邪魔をしたいらしいな、幻想郷の奴らは」

 

「あら、私達はそんなつもりで来た訳じゃないわよ? あんまり暴れすぎる様だから、昔の(よしみ)として拳骨の一つでもと思ってね」

 

「余裕のつもりか永琳? 不老不死だからって死ねない気でいるようだが、何もかもを超えて罪を裁くのが天罰神だ。…勝てるなんて思わない方がいいぞ」

 

「……本当、物騒極まりないわね。 まぁそうでなきゃ、スペルカードルールを完全無視なんて暴挙には出ないわよね」

 

永琳はそう言い、薄く呆れたように笑みを浮かべる。

 

「これは遊びじゃない。オレという神から、罪深い者達への厳正な裁きだ」

 

対し、双也は堂々の態度で応える。

ーー当然の事だ。

そう厳かに語るような彼の態度に、永琳は更に、軽く溜息を零した。

 

「厳正な、ね。"無差別殺戮"が厳正なら、この世のどんな事も正当化出来るんでしょうね」

 

ーーその考え、私達が叩き直してあげるわ、双也。

 

互いの弾幕が、交錯を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーいたぞ! 彼処だ!

 

ーーおい何だこいつっ! 斬っても斬っても…ぎゃぁあ!!

 

ーー早く! 応援を寄越して! 保たないよ!

 

妖怪の山には、そんな天狗達の叫び声が木霊(こだま)していた。

それは、"侵入者に容赦はない"というある種普段通りの声でありながら、しかし何処か悲痛な物を孕ませた、怒号にも近い叫び声だった。

 

ある所では、見つけた侵入者へ臆せずに斬り込む声。

ある所では、その侵入者の異質さや異常さに絶望する声。

ある所では、必死に抵抗するも窮地に立たされている声。

 

強力な妖怪として有名な天狗が、その侵入者に対して追い詰められている事は明白だった。

 

そんな山を根城とする天狗の一人ーー射命丸文。

彼女は、彼女自身も戦闘要員として動員されていながら、上空から山を見下ろして、唖然としていた。

 

「な、なんて数よ…これだけ動員されても、相手をし切れないなんて…」

 

眼下に広がる山肌には、雲によって暗くなった視界の中でもくっきりとわかるほどの"黒い点"が無数に広がっていた。

それこそが、此度の侵入者。

黒い身体をぐねぐねと動かし、その細い枝の様な腕を振るって攻撃してくる怪物。

 

そうーー怪物。

妖怪、なんて生易しい物では決してなかった。

黒い木はどうやら、今まで相対した天狗達をその腕のひと突きで悉く屠ってきた様である。

それは擦り傷であっても例外なく。文字通りのひと突きで。

まさに、"触れたら死ぬ"なんて形容がこれ以上なく当てはまる。むしろ、実際にそうではないかとすら思える。

 

そしてその攻撃をかいくぐり、やっとの事でその細い身体を両断したとしても、黒い木は短時間で再生してしまう。斬りつけただけでは、それこそ一瞬である。

その耐久力といったら、月夜の吸血鬼にも並ぶのではないか。

 

更に厄介なのは、その神出鬼没さであった。

奴らは麓から登ってくるのではない。

たった今頭上でゴロゴロと不気味な音を奏でる黒い雷。その落下点から、まるで木の芽が芽吹いた様に湧き出てくるのだ。

それ故に、白狼天狗を前衛として侵入者を拒んできた、この天狗社会の防御網そのものが崩れ去ったと言ってもいい。

前だけを見ていたら、気が付かぬうちに後ろから刃を差し込まれていたのである。

 

ーー全く、洒落にならない。

笑い話にもなりはしない。

これを怪物と称せずして、なんと呼称しようか。

 

今現在、己を含めた全天狗で事に当たっているが、状況は一向に好転しない。どころか、こちらの兵力はますます削られている。

一部の強い力を持った天狗は何体も斃している様だが、所詮は一部でしかない。

まさに、壊滅の危機。

千年以上続いた天狗社会の崩壊ーーそのカウントダウンが鳴り響いている様だった。

 

「ともかく、私だけサボってる訳にはいかないわね」

 

文は上空で身を翻し、眼下に映った怪物へと急降下した。

その手に団扇を構え、能力で風を凝縮していく。

同時に風を操り、文自身の速度も累乗式で加速していく。

怪物まで残り数mまでくると、彼女の姿は残像すら残らない程となっていた。

 

「巻き込まれたくなかったら少し下がりなさいっ!」

 

怪物と戦っていた白狼天狗達に一言叫ぶ。文はその返答を聞く間も無く、地面に着く寸前に方向を変えて、速度を落とす事なく怪物の周囲を音速で回り始めた。

 

ビュビュッ

 

彼女を敵と定めた怪物が、その姿を捉えんと腕を振るう。

触れれば確実に死に至る攻撃には確かに恐ろしいものがあるが、音速の世界で生きる文にとってはナメクジもいいところ。横目で交わすのにも何ら支障は無かった。

 

そうして竜巻の様に旋回しながら、文は団扇に溜めておいた風の弾丸を連続で放っていく。

ただ、音速で回りながら連射するものだから、実際には四方八方から弾丸を撃ち込んでいる様なものである。

 

捉える事もできず、防御する事もできず、怪物の身体は無惨に抉り取られていく。

文という旋風の内側に入るものを悉く塵に変えていく弾幕の嵐。

 

 

ーー『無双風神』

 

 

文がその脚を地に付ける頃には、怪物の姿は黒い粒となって消え果てていた。

 

「一丁上がり! さてさて、他のところにも加勢に行ってきますか!」

 

一つ不敵な笑みを浮かべ、文はひらりと空に舞った。

自分の力で戦況が変わってくれるなら、どんな力にだってなってやろう。

普段から天狗の仕事を面倒だ何だと愚痴る彼女は、今だけそんな事を思っていた。

妖怪の山が壊滅したらーー更に言えば幻想郷が壊滅したら、そんな愚痴も言えなくなると分かっていたから。

 

ただ、まぁーー。

 

「こんなスクープ、逃す訳にもいきませんよねぇ♪」

 

首から下げるカメラは既に、シャッターに指が掛けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン! ズドォン! ーー爆音が響く。

 

「そこッ!」

 

「何処狙ってんだッ!?」

ーー怒号が響く。

 

神と人との決戦は既に、他人の介入の余地すら無い死闘となっていた。

片や、何処までも強くなる天罰神。

片や、彼と同等の時を生きてきた蓬莱人二人。

当然と言えば当然のカードである。

相も変わらず、頑として双也が優勢にあったが、永琳と輝夜も中々どうして、彼に食らいついていく。

 

永琳の動きに至っては、紫ですら目で追うのがやっとの程。

スペルカードルールを除けば、人外というのはこんなにも強いものか。

目の前の戦闘を目の当たりにし、霊那は唖然としていた。

 

「双也さんにここまでついていくなんて……伊達に長生きしていないという事ですか」

 

「……それだけでは無いわね」

 

彼女同様、しかししっかりとした目付きで戦闘を凝視していた紫は、霊那の呟きにポツリと返した。

ーーえ?

霊那がそう問う前に、紫は彼女へと言葉を続けた。

 

「必死なのよ、あの二人も」

 

「必死…ですか」

 

「ええ。結局はあの二人も、双也を元に戻したいと願う私達の仲間、という事ね」

 

汗に紛れて血を流す永琳と輝夜。

紫はそんな二人を見て、そう思った。

 

彼女がそんな結論に至ったのは、特に難しい計算や難解な思考解読を行った訳では無い。

至極、簡単な事だった。

 

ーー永琳は、最も古い双也の友人。

ーー輝夜は、億単位で双也に焦がれ続けた少女。

 

文字にして二行で収まる、それだけの理由。紫はその事を知っていた。

そして、少なくとも永琳の気持ちに関してはよく理解出来ているつもりだった。

単位こそ違えど、お互いとても長い間双也の友人を名乗った身。

彼が喜べば自分も嬉しくなるし、彼が落ち込めば慰めたくなる。

彼が間違っていたのなら、どんなに苦労してでも正そうとする。

 

そうーーそれだけの事なのだ。

たったそれだけの事で、永琳も紫も必死になれる。

"双也が間違えた。はいそうですか"

そんな淡白な間柄では決してないのだから。

 

「……輝夜、ね…」

 

ポツリと呟いた少女の名に、何処かチリとした痛みを感じた。

紫は、正体の分からないその刺激に少しだけ首を傾げたが、直ぐに考えを打ち切った。

ーーどうやら、戦況が傾いたらしい。

 

「やっぱりしぶといな。流石はオレと同じくらいの時を生きた存在ーーってか?」

 

「はぁ……はぁ……あら、随分強気ね双也。一体いつから、私にそんな口を利けるようになったのかしら」

 

「さぁな。ただ…オレは昔とは違う。 月でのうのうと暮らしてたお前よりも、ずっと濃密な日々を送ってきた」

 

必死に抵抗し、反撃し、それでも届かない双也を前に、永琳と輝夜は片膝を着いていた。

その斬撃の跡は深々と肉を抉っていた。そしてそんな傷を受ける間際にはいつも、蓬莱人としては不思議な事に"圧倒的な恐怖"を感じるのだった。

死ぬ事に対しての恐怖など、蓬莱人にはある筈がない。しかし、"元々は生きていた人"としての本能が危機を察知したのだ。まともに喰らえば死ぬ、と。

蓬莱人の体質、真の意味で無意味となっていた訳である。

そしてそんな彼女らを前に、双也は一切の躊躇いも見せず、突き出した掌に神力を溜めていた。

 

「ーーそれだけでも、人生の価値としてはお前より上だと思わないか?」

 

 

ーー破道の八十八『飛龍撃賊震天雷炮』

 

 

言葉の終わりと共に、莫大な神力で現された強大な爆撃が放たれた。

煌々と輝くそれは、それを前にした二人の視界を光で埋め尽くす程の巨大さを誇っていた。

 

ボロボロの二人があれを喰らえば、どうなるかなどは想像に難くない。

そして、防御し切れる程生温い攻撃でもない。

決定的な絶望の瞬間に、しかし永琳は、未だ冷静な思考を止めずにいた。

 

そして、一言。

 

「輝夜ーー」

 

 

 

 

 

ーーあまりに強力な爆撃が過ぎ去った。

大きく巨大で、それでいて一瞬の閃光のようだったその破道は、通り抜けた空間を削り取るようにして消え入りーー呑み込まれた全てのものを悉く塵に変えた。

 

「……あれだけ粘った割には、呆気なかったな」

 

全てのものが消え去ったその空間を見やり、双也は吐き捨てるように呟く。

最も古い友人と、自らに好意を抱く少女を跡形も無く消しとばしたというのに、その言葉には少しの後悔や罪悪感も含まれていなかった。

そのあまりの非情さが、今の双也の心の有り様を示しているようだった。

 

「さぁ、次はお前達だ…紫」

 

既に両目が濁った桜色に染まった瞳で、双也の視線は紫達を射抜いた。

己の時間も残り僅か。だがそんな時間でも、今の彼女らを屠るには十分過ぎる時間だ。

何せ相手は瀕死なのだから。

 

そう、瀕死。

その事実がーー双也の気を、ほんの少しだけ緩めさせてしまった。

 

 

チクッ

 

 

不意に、首筋に何か細い物が刺さる感覚があった。

眉を顰める程度に刺激を感じた双也は、痛んだ首筋を手で確認した。

そして刺さったが手に触れ、抜いて見ると、それはーー

 

 

 

 

 

 

ーー既に中身の無い、注射器だった。

 

 

 

 

 

 

「なにーーッ!!?」

 

ドクンッ

 

突然襲いかかった痛みに、双也は初めて苦痛の表情を表した。

胸の内から込み上げるその痛みはあまりに鋭く、そして焼き焦がす様な痛みだった。

 

苦痛に耐えながら、誰の仕業かと考えた双也は、直ぐにその人物を思い浮かべる事が出来た。

注射器ーーそんな物を持っている可能性のある者など、一人しかいない。

 

「何を…した…ッ! 永琳…ッ!!」

 

彼が見遣った視線の先には、一本の液体瓶を片手に不敵な笑みを浮かべる、先程消し飛ばした筈の八意永琳と輝夜の姿があった。

 

「"液状内包型皮膚形成体因子"ーーと言って、分かるかしら?」

 

チャプン、と瓶の中の液体が揺れる。

そんな軽い音ですら、その全く得体の知れない物を身体に捻じ込まれた双也には、とても恐ろしく感じるのだった。

 

「これは、身体に含んだ瞬間に皮膚を"力を内に留める性質"…つまり、外に逃がさない様にする性質へと形質転換させる物よ」

 

「な…に…!?」

 

彼女の持つ謎の液体。

その正体を薄っすらと認識した双也は、内に滾る痛みを押さえ込む様に胸を押さえた。

 

「あなたの能力では、どうにもできないわよね? 何せ薬は、罪とか罰とか関係ないのだもの」

 

痛みが膨れ上がる。

焼き焦がす様な熱さは、激痛とともに彼の意識すら朦朧とさせた。

 

「神の様に強い存在が、最も恐れるものって、なんだと思う? それはねーー"自分自身"よ」

 

 

 

 

ーーあなたは自分自身の力で、内側から一気に焼き尽くされる。

 

 

 

 

瞬間、自らの身体が炎を噴き出したように感じた。

 

 

 

 




今回の戦闘はオリジナルって訳では無かったですね。

そうです。なに原さんが藍なんとかさんに掛けた術です!
因みにあれ、封殺火刑って名前らしいです。

ではでは。
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