東方双神録   作:ぎんがぁ!

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後半が雑だったかな、と反省しております…、

ではどうぞ!


第百五十七話 "終わる"刹那に

蓬莱山輝夜の初恋の相手。

 

それは、会った事も話した事もないある一人の少年だったーー。

 

 

当時の輝夜と言えば、月でも有力な蓬莱山の家に生まれた正真正銘の姫君。

特に、その美しさによる知名度が群を抜いて高かった。

 

言葉を話ようになった頃にはもう、誰が彼女の婿となるかの言い争いなど日常茶飯事であった。

勿論、年相応の知識しか持ち合わせていなかった彼女に、将来誰が自らの伴侶となるべきかなど判断が付く訳もなく。

彼女に群がる男共は、日々輝夜とその家族の住む家へと押し掛けては、母と彼女の前で醜い言い争いを続けていた。

そして彼女は、それを当然の光景なのだと思っていた。

 

人間にして、齢十程の頃ーー。

輝夜の下に、一人の女性が訪れた。

名は八意永琳。

本名はもっと難しい発音をするそうなのだが、呼びやすいからという理由でそう紹介された。

その頃の輝夜はある程度知識も付いてきて…むしろ、両親が優秀な人であった為、同年代の子と比べても知識レベルは高い程だった。

 

ーーそう。高かったからこそ、現在の状況にうんざりとしていた。

 

相も変わらず、自分に集る男共は毎日の様に訪れる。

そして不毛な言い争いを繰り返し、話がこじれたら一言自分に挨拶をして帰っていくのだ。

 

ーーなんとつまらない男達。

ーー婿となるのに、嫁の気持ちは関係無いというのか。

 

輝夜は既に、男達が純粋な好意で婿になろうとしている訳ではない事を見抜いていた。

あるいは地位。あるいは金。あるいは色欲。

皆不純とも言える下心しか身に宿していない事を、輝夜はその洞察力を以って知っていたのだ。

そしてそんな心を隠そうとして、表面だけの笑顔を取り繕う男達を毎日見るのにも疲れていたし、何よりもつまらなかった。

 

ーー永琳は、そんな我が娘を見かねた母が、娘に良い刺激をと思って紹介した女性だった。

 

当時でも、八意永琳と言えば月の頭脳と謳われる程高名な存在であった。

あまりにも有名な人だった為、そんな人が家に…どころか、自分の為だけに来ているなど、当時の輝夜でもすごいなぁと思った。

ただ、その理由に関しては深く考えてはいなかった。

 

永琳は毎日輝夜の下へと訪れていた。

彼女を迎える時の輝夜は何時も笑顔だった。

永林が来てくれる事を心の底から嬉しく思っていたのだ。

群がる男達とは違い、永琳は一人の友人の様に接してくれる。

輝夜としては形式上の主従関係など煩わしい限りであり、永琳が普段自分に対して使っている敬語すら、本当は止めてもらいたいと思う程だった。

 

相変わらず群がる男達の数は減らない。どころか、輝夜が少女へと成長するにつれ、掛け算式に増えていく。

だがそれでも、その頃の輝夜は、昔の様に日々をつまらないと思う事は殆ど無くなっていた。昔よりも笑顔が増えていた。

それらは全て、永琳のお陰だった。

 

そんなある日。

勉強の休憩がてらに聴いていた永琳の昔話に、一人の英雄のお話があった。

 

何千年か昔ーー輝夜達の先祖に当たる月人達が、まだ地上にいた頃のお話。

御伽話のように伝えられる、しかし真実の物語。

 

当時の月人ーーこの時は人間ーー達が、この月へと逃げ延びる道を切り開いた偉大な少年。

当時、彼の他に一般兵もいたそうだが、攻めてきた妖怪の軍勢に押し負け、最後に残ったのが隊長であった少年だけだったそうだ。

そしてその少年は、そんな絶体絶命の危機に瀕しても諦めず、結果未だ数万体と残っていた妖怪達を相手に相打ちを果たしたーー。

 

この伝説は、一般家庭にも語られているほどメジャーな御伽話。

輝夜自身も一度は聞いたことのある話だった。

 

だが、それを語ったのが永琳だったからこそ、輝夜は強く興味を惹かれた。

 

まるで本当にその人を見てきたかの様に、古い友人を懐かしむ様に、永琳は輝夜に語って聞かせた。

彼の性格、ドジを踏んだ時、修行の話、そのひたむきさーー。

会った事もなく、話した事もない相手だというのに、輝夜の中でその英雄の姿を思い描くのに、然程の苦労は必要無かった。

 

そして奇しくも、その思い描いた姿は輝夜が憧れるのに十二分に足る物だったのだ。

 

空想だ、妄想だ。

そもそも既に死んでいる。

 

そんな事は百も承知でありながら、初めて己の心を奪った少年への想いは、天井を知らず募るばかりだった。

その代わり、毎日押し寄せる男達への視線は、無意識の内に冷たくなる一方であった。

 

ーーそんな生活を、一体どれ程続けただろう。

 

百年? 千年? ーーいや、もっと。

気の遠くなる時間を、変わらぬ日々で塗り潰した。

その間何時だって永琳は来てくれていたし、未だ多いには変わりないが男共の数も上限は減ってきていた。

だがそれでも、どれだけ時が経とうとも、輝夜の少年への想いが薄れる事は無かった。

 

長い間ーー本当に長い間、輝夜はその少年の事を想い続けた。

現実味など無く、その想いが届かない事は分かっていながら、それでも。

一億年以上想いを募らせ続け、爆発しそうになるのを耐え、それでも想いは留まる事を知らない。

それまでの長い間、一度だって自慰行為に及ばなかった事実が、彼女の真摯な気持ちを表していると言っても良いだろう。

 

空想で描いた人物を使って、そんなはしたない事をするなんて馬鹿馬鹿しいーー。

 

頭では何処までもそれを理解していた。 何度もその言葉を反復した。

ただそれでも、夜布団に入った折に無性に寂しく思った時、無意識に下腹部へと伸びていた指を何度急いで引っ込めたか。

その回数だけは数知れなかった。

 

そうして更に時が過ぎた。

男共はいつまで経っても答えを出さない。 相変わらず不毛で無意味な口論を続けるだけ。

そうーー無意味。

例え相手が決まったとしても、輝夜にその婚姻を受ける気は欠片ほども無かった。

 

そしてその事に自分自身が気付いた時…輝夜は、今の生活に自身が心底うんざりしている事に気が付いた。

 

永琳といる事は楽しい。

彼女とはもう長い長い付き合いで、主従関係を超えてお互いに遠慮が無くなりつつある。

本当に心配している時や二人だけの時にだけは、敬語を止めてくれる様にもなった。

ーーでも、それだけ。

 

その他の事に、何の面白みも見出す事は出来なかった。

輝夜の周りには、彼女をちやほやするだけで何にも意見しない、彼女と話す事さえ恐怖を感じてしようとしない者達ばかりだった。

 

月という場所では、月人は本当にただ生きているだけなのだ。少なくとも輝夜の周りでは。

空気を吸って、吐いて。

栄養を摂って、寝て。

そんな日々のサイクルを、粛々とこなしているだけ。

そこに人生の楽しみと言うものは存在しない。

 

ーー果たして、それを"生きている"と言えるのか…?

 

輝夜は思い悩んだ。

悩んで悩んで悩み抜いた結果、彼女はやはり、"生きていたい"と思った。

永琳はその願望を、ちゃんと受け入れてくれた。

 

だから輝夜はーー望んで罪を犯す事にした。

 

罪を犯せば、月というこの退屈な牢獄から出る事ができる。

そして地上で、"生きる"事が出来る。

 

しかし一つだけ、不安な事があった。

それは、思い焦がれ続けた少年の事。

 

永琳は、少年は人を超えていたと言った。もしかしたら寿命と言う概念すら超えているかもしれないと。

だがしかし、それを楽観視しようとする輝夜の前に、"相打った"という厳然たる事実が突きつけられていた。

 

"本当は大戦を戦い抜いた"

そう言うのなら、まだこの時代に生きている可能性がある。

だが事実は、"相打った"。

伝説となったその日に、死んでいる筈。

 

地上に行けば、成る程、確かに彼女は生きる事ができるだろう。

だが少年は? この想いは?

今まで、事実を認めないとでも言い張るかの如く想い続けた彼の生存の可能性。 それを、自分の目で否定してしまう様な気がして、どうしようもなく怖くなった。

 

永琳は準備が出来ている。

狙い目の日取りも考えた。

後は、彼女のそうした覚悟だけが必要だった。

 

怖い。怖い。認めるのが、確かめてしまうのがどうしても怖い。

でも進まない訳にはいかない。

私はどうしても"生きていたい"

でもーー果たして、認めてしまった後に"生きていたい"だなんて、思っていられるだろうか…?

 

分からなかった。

分かる筈も無かった。

ただ、今までの自分ではなくなる様な予感だけが、確かにあった。

ーーなら、覚悟しよう。

どちらも譲れない願望。どちらも心からの本心なのだから。

 

どちらも叶えるためには、一度想いを振り切る覚悟が必要だ。

仮に、伝説の通り少年が死んでしまっていた時…そう確かめてしまった時、自分が自分でいられる様に。

 

輝夜はその日の夜だけ、自分を甘やかす事にした。

一億年近く振り切らなかった想いを、振り切ってしまう為に。

一度だけ、たった一度だけ、少年の空想に縋り付く事を自分に許したのだ。

積み重なった感情と我慢の爆発である。

彼が隣に居たら、彼と笑い合えたら、彼が自分のーー伴侶だったら。

そんな空想で一度だけ心を満たし、輝夜は罪を犯す覚悟を決めたのだ。

 

 

故にーーいざ地上でその少年と出会った時の感動は、本当に胸が張り裂けるような大きさだった。

 

 

輝夜の周りには相変わらずつまらない男共ばかりが集まっていた。

"絶世の美女だ"と、口々に言っていた。

ただそんな下心だらけの言葉も、もしかしたら生きているかもしれない少年が耳にして、ちらとでも見に来てくれるかも知れないと考えるだけで、我慢できた。

 

そしてあの日ーー月夜の下、少年との出会いを果たした輝夜は、涙が出そうになるのを必死で抑えながら少年と語り合った。

 

ああ、楽しい。嬉しい。このままずっとこうしていたい。ずっと笑い合っていたい。

少年は、輝夜が思い描いた通りの優しい少年だった。

大戦を生き抜いただけあるとても強い存在だった。

そしてそれが感じられない程、穏やかな人だった。

彼が自分の憧れのままであった事にこれ以上ない程の嬉しさを感じた。いっその事、今ここで押し倒してしまいたい衝動すらあった。

しかし、それは出来ない。

そんな欲望の発露は、一度きりだと決めていたから。

 

だからせめてもの願いとして、少年に、共に月へ帰る事を請うた。

それは何処までも本心からの言葉。

気持ちは余す事なく伝えたつもりだった。

それでもーー少年は、それを断ってしまった。

 

まだやるべき事があるーー。

見届けなければならない事があるーー。

そう語る少年の瞳には強い決意が宿っていた。 そしてそれを曲げる事は、きっと自分には出来ないだろうと悟ってしまった。

その事を本当に残念に思い、泣き出しそうになるのを必死で堪えた。

その気持ちが伝わったのかどうか、それは分からないが、少年は最後に、輝夜へと最高の贈り物をした。

 

生き続ける為の場所、そして時間。

 

会ったばかりである筈の自分達のために動くその姿。

その背中に、輝夜は深い感謝をしながらも改めて惚れ直すのだった。

 

そして時は流れーー幻想郷。

異変での再会を超え、ある丘にて永琳と共に双也に対峙した。

 

睨むかの様な鋭い表情、押し潰されそうな重い雰囲気…様々なものを一瞬で感じ取った末に出した、輝夜の答えとは。

 

ーーこれは、私の求めた双也じゃない。

 

彼はもっと優しい。

彼はもっと穏やかだ。

彼はもっと、人に優しい事ができる。

 

この惨状と、彼の雰囲気と。

思い描いた彼とのあまりの違いを感じ取った輝夜にはもう、一つの事しか見えてはいなかった。

 

双也を取り戻す。

私の大好きなあの人を、連れ戻す。

 

どれだけ傷付こうと、どれだけ彼に罵られようと、絶対に戻してみせる。その為にどんな力も惜しまない。

輝夜の想いは、容易くそれを決意させる程に強かった。

 

その決意があったからこそ、永琳の唐突な要求にも、二つ返事で答える事が出来たのだ。

 

「輝夜ーー出来る限りの"須臾"を集めて、私達に掛けて」

 

須臾、とは時間の最小単位。1000兆分の1を表す、人が認識出来ないほどの短い時間の事である。

輝夜はそれを操り、集めて、誰にも認識出来ない時間の中で行動する事ができるのだ。

 

視界を埋め尽くす光を前に、二人は"この場の皆の認識から外れた"。

そして双也は、突然二人が消えた事を"消し飛んだのだろう"と結論付けた。

…結論付けてしまった事実が、彼の能力から二人を外させた。

 

永琳の狙いは、これだったのだ。

 

双也からどうにかして意識を外し、輝夜の能力によって気が付かれずに近付きーー薬を打ち込む。

 

目の前で光に包まれる双也を、輝夜は何処か安堵した表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発的な光に呑み込まれた双也の姿を目の当たりにした霊那。

彼女は目を見開き、その光景に驚愕した。そして同時に、焦った。

 

内側から焼き尽くすーー確かに凄まじい方法であったが、それはつまり、彼が死んでしまう事と同義なのでは?

あくまで彼を元に戻すための戦いだったと言うのに。

そう思い至った霊那は、未だ収まらない光をジッと見つめる永琳に言った。

 

「え、永琳さん! まさか、双也さんを……」

 

「……そんな訳ないじゃない」

 

少しだけ振り向き、横目ながらに答える。

 

「ちゃんと、爆散しない程度に形質転換率を調節しておいたわ。 内側から焼けるのは変わらないけど、せいぜい激痛で気を失う程度よ」

 

その横顔が、僅かに微笑むのが見えた。

この場に、双也の身を案じていないものは一人だっていない。

霊那は、その事を改めて再確認した。

 

紫は弟子として。

レミリアは恩人として。

永琳は古い友人として。

輝夜は彼を心から好く者として。

 

それぞれにしっかりとした理由があり、気持ちがあった。

それを疑う余地などは欠片も存在しない。

 

これだけの想いなら、きっと彼自身にも届くーー。

 

心に陽の光が差した様な錯覚を覚えながら、霊那はふわりと微笑んだ。

 

 

 

ーーが。

 

 

 

「………!」

 

何かが、おかしい。

眩しかった光もだんだんと収まり、今は殆ど土煙だけが立ち込めている状態と言っていい。

故に視覚的には何も確認できはしないがーー確かに、違和感があった。

 

気を失ったならば、地面に落ちる音がするはず。

話の最中だったとしても、こんな中途半端な状況で気を抜き切る馬鹿者はいないだろうし、それならば音を聞き取った者がいても良いはず。

 

更に言えばーー本当に薄っすら、"力"を感じるのだ。

 

それは、髪に埃が付いた瞬間のような本当に微かな違和感だった。

言うなれば、寝ている状態でも感じる程度の大きさ。

だが"その程度"の事でも、今の彼女らには、警戒するには十分過ぎる要素だった。

 

キッと睨み付ける。

緩く流れる風に乗って、舞い上がった土の粒子が掻き消されてく。

その様子を、眼球が乾くほどに凝視していた。

そしてその土煙が薄まり切ったその時。

 

 

 

ーー全員を、神力の衝撃波が襲った。

 

 

 

「ぐっ…」

 

「きゃあっ!?」

 

「うっ…!」

 

警戒していた皆に、それは決して致命傷にはならなかった。

防御の姿勢も出来ていたし、少し後ずさりした程度で何の問題もない。

だが、"問題なのは"そこではないのだ。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……くそっ!やってくれたな永琳…っ!!」

 

 

ーーそう、双也が戦闘不能となっていなかった事。

 

確かに傷は出来ていた。

初めの頃に比べれば考えられない程に。

そして彼の消耗の具合は、紫達がどれだけ攻撃しようと達する事のできなかった程のものであった。

 

その姿をーー否、自らの秘策が通じなかった事実を目の当たりにし、永琳は珍しく驚愕している。

その視線が捉えたのは…大量の血を流す、彼の足だった。

 

「まさか……痛みを上塗りして、意識を保ったの…っ!?」

 

見抜いたか、とでも言いたげな、そんな視線が永琳に向けられた。

それでも言葉を発しないのは、彼女の秘策でそれ程までに消耗したという証なのだろう。

双也の瞳には、強い殺意が覗いていた。

 

「はぁ…はぁ……殺す…っ!」

 

刹那、その場から双也の姿が消えた。

いや、もう皆が見慣れて知っている。

瞬間移動にも等しい速度の移動法、瞬歩。

ーー彼は一瞬で、紫達の中心に躍り出た。

 

「神撃『罪弾(つみはじ)きの(たま)』ッ!」

 

圧縮された神力が、爆発する様に彼から噴き出す。

霊撃にも似た形のそれは、成す術なく呆然としていた彼女らを容赦なく吹き飛ばした。

 

ーーそして矛先は、輝夜の方へ。

 

「特式六十三番『雷虎ノ咆哮』ッ!」

 

双也の掌から、前へ前へと収束された衝撃が放たれる。

落雷の如く空を引き裂いて飛んだ雷撃は、輝夜を呑み込んで直撃した。

 

「次ィッ!!」

 

続いて、双也は振り向く様にして刀を振り抜いた。

残された神力は刃を作り出し、嵐となって飛ぶ。

その先にはーー紫の姿があった。

 

「くっ…うぅ…!」

 

弾幕の如く飛来する刃。

紫にはもう、殆ど避ける力が残ってはいなかった。

体力は限界を超え、妖力はもう尽きかけている。 スキマに逃げ込む事すらままならない状況だ。

しかし、今の双也に遠慮という物はない。

 

気が付いた時には一閃を振り抜かれ、続いて無数の結界刃が紫の身体をズタズタに引き裂いた。

 

そして霊那、永琳ーー。

今戦う事の出来る四人は、しかし何の抵抗も許されなかった。

抵抗する前に、抵抗する為の力を失う。

双也の攻撃は苛烈を極め、四人を圧倒的な力で切り刻んでいく。

 

彼を止める術など、既に無かった

 

「ぅぅ…ここまで…なん、て…」

 

「……そろそろ、終わりにしよう」

 

スーッと、双也の手が高く掲げられる。

掌に神力が集まっていくのに反応してか、黒い雲が赤く染まり始めた。

何処か、ギルティジャッジメントとの似通った光景である。

しかしそれよりも、禍々しさがとても強い事は明白だった。

 

「知ってるか? 天罰ってのは、基本どんな神でも起こすことができる。それは竜巻だったり津波だったり…所謂"天災"ってヤツだ」

 

神力の高まりによって、地面が揺れ始める。

空はますます赤黒く染まった。

 

「かつて起こった大災害……巨大隕石の衝突も、天災の一部なんだよ」

 

 

 

ーー天滅『ディス・カーディナル』

 

 

 

死の雲を突き破って現れたのは、赤黒く燃え上がった、一つの巨大な隕石。

空を赤く染め上げるほどの、超巨大な"天災"であった。

 

「うそ…でしょ…」

 

紫は思わず声が漏れてしまった。

そのあまりにも現実離れした光景と、それをやってのける双也の力に、かつてない程の恐怖を感じる。

 

あんな物が衝突すれば、この星の大部分が更地と化すであろう。

幻想郷だけではない。 というよりも、幻想郷を丸々呑み込んで、外の世界にも大規模な影響を及ぼす筈だ。

 

この場も誰もがそれを分かっていながら、どうにかしなければと思ってながら、最早身体が動かなくなっていた。

 

ーーこんなの、どうにも出来ない。

 

彼女達の身体自身が、警鐘にも似たけたたましい音を絶えず鳴らしていた。

 

「さよならだ、幻想郷」

 

冷酷な瞳で薄く嗤いながら、双也は告げた。

 

巨大隕石はもうすぐそこ。

赤黒い火を纏って落下してくるそれによって、既に気温が上がり続けている。

いよいよもって、何も出来ない。

 

逃げる事も、止める事も。

何も、出来ない。

 

諦めに近い感情に心を揺さぶられ、一筋涙が頬を伝う。

それを拭う事も忘れて、紫はただ呆然と、迫り来る隕石を見つめていた。

 

ーーその刹那、一筋の光条が閃いた。

 

本当に細い光だ。

厚い雲の隙間をどうにかして通り抜けてきた様な、僅かな光。

しかしそれは、真っ直ぐに隕石へと迫ると

 

 

ズドォォオンッ!!

 

 

ーー瞬く間に、それを粉々に打ち砕いた。

 

本当に衝撃的な光景である。

心の内に諦めすら漂っていた四人は、ただだだそれを見つめ、声も出せずにいた。

 

そして、そんな四人の前に降り立つ一つの背中。

 

服と離れた白い袖。

髪を結わえた大きなリボン。

そんな姿の至る所から、陽炎の様に霊力を揺らめかせている。

普段持っているはずの大幣は、何故か長い錫杖となってシャンッと心地良い音を奏でた。

 

 

 

「…待たせたわ、みんな」

 

 

 

そうして霊夢は、凛とした微笑みを浮かべた。

 

 

 

 




今回は疲れました…いやほんと。

あ、あと、昔スペカ提供師の方から頂いたスペルカード名、やっと使う事が出来ました。
本当にありがとうございました。

ではでは。
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