東方双神録   作:ぎんがぁ!

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勇儀っていい性格してますよね。

ではどうぞ!


第百六十九話 因果巡って

「あぁあぁぁあ〜…いってぇぜ…」

 

ムクリ。

もう砂埃も舞い切った店の中で、一匹の鬼が唸りながら起き上がった。

その声を聞いたのか、彼の元へ何人か別の鬼が歩み寄ってくる。

 

「おーゴズ、派手やられたな」

 

起き上がった鬼ーーゴズは、そんな言葉をかけてくる鬼を横目で見遣り、ふっ、と口の端を歪めた。

そこに、敗北から来る恨み辛みは、清々しいほどに混じっていなかった

 

「全くだぜ。 何にも出来ぬままぶっ飛ばされたからな。まさか人間の(むすめ)に投げ飛ばされるなんて思わなんだ」

 

「ホントになぁ。 今までそんな奴ぁ一人も……あいや、一人いたか」

 

と、思い出したかの様な口振りで、鬼はゴズの方を見遣った。

その口元は、僅かに笑っている。

 

そしてゴズも、懐かしむ様に口元を歪めていた。

 

「ああ、昔いたよ一人だけ。 ヒョロっと出てきたと思ったら、馬鹿みたいに強ぇ奴でよ」

 

「あん時もお前、似た様な技でやられたよな」

 

「今となっちゃいい思い出だ。 何せ四天王に勝った人間と喧嘩出来たんだからな」

 

「一瞬だけどな」

 

「ハッハッハ! それを言われたら立つ瀬がねぇぜ!」

 

今となっては、いつの事だったか覚えてやしない。

だがその人間の事だけはよく覚えていた。

卑怯になった人間に辟易していた頃にポッと現れた、言わば"世にも珍しい人間"だったから。

今彼はどうしているのだろうか。

心にその姿が焼き付いてはいても、今の鬼達にそれを知る術は無いのだった。

 

「ーーんで、またあいつみたいな強い人間が現れた訳か。 あの娘はどうなった?」

 

「それがな…」

 

問いかけるゴズに対し、鬼はゆっくりと人だかりーーならぬ鬼だかりを指差す。

そして少し興奮気味な声音で、言い放った。

 

「意外に善戦してんだよ! 勇儀姉さんとも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉらぁああッ!!」

 

怒号にも似た、力強い咆哮が響く。

同時に放たれた拳は風を巻き込んで空を裂き、キッと彼女を睨みつける霊夢へと真っ直ぐ飛んだ。

 

「…見えてるわ」

 

掠りでもすればたちまち肌が弾けそうなその拳を、霊夢は大幣を剣のように扱って受け流す。

巻き込んだ風が小さく鎌鼬を生み出し、霊夢の頬を薄く切った。

 

そのまま大幣を返し、迫ってくる勇儀の額へと振り払うべく力を込める。

しかしその腕は、残っていた勇儀の左腕によって、動く前に受け止められた。

 

「頭がお留守だよッ!!」

 

掴んだ腕に体重をかけ、勇儀はその場で回転して裏拳を放った。

"相手に体重を掛けて裏拳"なんて常識外れな行動を目の当たりにし、霊夢は一瞬驚いた。

 

が、霊夢も妖怪退治を生業としてきた博麗の巫女である。

驚くのも一瞬に抑え、すぐに冷静な思考を取り戻す。

 

そして瞬時に、三枚の結界を頭のすぐ側に展開した。

 

ガシャァンッ!

 

ガラスの割れるような音が響き、勇儀の裏拳は、ヒビが入っているものの、最後の一枚で受け止められた。

 

結界越しに、霊夢は勇儀へと不敵な笑みを向ける。

 

「誰の頭がお留守って?」

 

「ははっ! やるねぇっ!」

 

嬉しそうに笑い、しかしその闘気は欠片も緩ませず、勇儀は壊れかけの結界に再度力を込めて振り抜き、今度こそ粉々に砕いた。

 

その裏拳を難なく避けた霊夢であったが、その視線の先には、反動を使って更に拳を振るおうとしている勇儀の姿があった。

 

「喰らいなッ!」

 

裏拳で振り抜いた反動を使うべく構え、拳を振るうべく一歩を踏み出す。

それが"殴る"という行為に必要な動作。

 

勇儀は構える、見据える、定める、そしてーー地を踏み抜く。

 

その瞬間、霊夢はポツリと呟いた。

 

 

「……掛かった」

 

 

カッ! っと踏み抜いた地面から光が溢れる。

突然の事に驚いた勇儀の足元には、一枚の札が落ちていた。

 

 

神技『八方鬼縛陣』ーー。

 

 

宣言するその声を、勇儀は遠くで聞いた気がした。

これはちとヤバいーー。

勇儀の意識は既に、足元で放たれようとしているエネルギーへと向かっていた。

 

「はぁぁあああッ!!」

 

前方へ放つ寸前だった拳に急激なカーブをつけ、勇儀は半ば反射的に、地面を強烈に殴りつけた。

 

ぶつかり合ったのは、力の奔流である。

元々力の強い鬼の中でも、更に"力の勇儀"と称えられる存在の拳。

そして、彼女と同じく四天王である伊吹萃香を沈めた、高火力の陣術。

 

無限に続くかと思われるほど高い天井と、それに比例した広い空間にも爆音が響き渡る。

その途方も無い衝撃は、一瞬激しい風と光を巻き起こし、爆発する様に粉塵を巻き上げた。

 

周囲の鬼達が固唾を飲んで行方を見守る中、粉塵から少し離れたところに降り立った霊夢は、その土煙に映るシルエットを見て、苦笑いを零した。

 

「……ったく、頑丈にも程があるわよ」

 

その呆れにも近い言葉を受けたのか、中のシルエットは、巻き上がる粉塵を腕の一振りで払い、その少しだけボロけた姿を現す。

勇儀の拳は、霊夢の陣に打ち勝ったのだ。

 

「はっはっはっはっ! いいね、いいよ、凄くいい! まるで昔に戻ったみたいだ!」

 

「お気に召して良かったわよ。ったく」

 

全くくたびれた様子のない勇儀の姿に、霊夢は皮肉を込めて言い捨てた。

 

本当に、"ったく"である。

悪態も吐きたくなるというもの。

 

鬼の四天王という強大な相手に対し、人間である霊夢は確かに善戦している。

早過ぎる拳は的確に避けているし、反撃にも出ているし、その上勇儀をトラップに嵌めてすら見せた。

観戦している鬼達からすれば信じられない事だろう。

 

だが、その消耗具合には明確に差が現れていた。

 

当然と言えば当然の結果である。

そもそもの身体能力が、鬼と人間では違い過ぎるのだ。

善戦はしていても、もともとそう長く続くものではない。

息が上がっている訳ではなくとも、霊夢にはそれがよく分かっていた。

 

長期戦は不利ーー。

 

次の衝突に向けて、戦闘の更なる構成を練っていた霊夢。

しかし、その思考もすぐに打ち切られる事になってしまった。

 

 

「こんなに楽しい喧嘩はいつぶりか…そうだ、双也(・・)とやった時以来だね!」

 

 

ーーえっ?

と思ったのとほぼ同時、霊夢はすぐに思い直した。

ああ、またこのパターンか、と。

 

もう霊夢に驚きはない。

何せ兄に関しては、驚愕に値する事柄を既に多く聞いていたから。

例を挙げればキリがない。

強いて驚いた例を挙げるなら、彼が億を超える時を生きているという事柄だろうか。

 

だから霊夢は、あくまで淡々と勇儀に言葉を返す。

 

「何、あの人はあんたとも面識があるの」

 

「ん? あぁ、あるとも。大昔に喧嘩した仲さ。 ーーって、その口ぶりだと、お前は双也を知っているのか?」

 

「知ってるも何も……私、あの人の妹同然だしね」

 

 

ーーそう霊夢が言い放った瞬間、勇儀の表情が固まった。

それは嬉しさではなく、悲しさでもなく、怒りでもなくーーそう、無表情だった。

 

感情の全く見えない顔ではあったが、それもすぐに破顔する。

 

「…く…ふふふ、はははははっ!!

そうかそうか、あいつの妹か! これも運命なのかね!」

 

突然の高笑いに、霊夢は内心で首を傾げた。

一体、このタイミングで笑う要素など何処にあったのだろう。

不思議には思ったものの、霊夢はただ笑う勇儀をジッと見つめた。

 

「いや、悪い悪い。 なんだか可笑しくなってきちゃってね。

こんな力のある人間が双也以外にいたのかって思っていたら、まさかあいつの妹とは…全く、世界ってのは意外と狭いもんだね」

 

「…言っておくけど、血の繋がった兄妹じゃないわよ?」

 

「分かってるさ。

お前はどう見ても生身だ、双也と血が繋がっている訳がない。

だがまぁ、それは今どうでもいい」

 

勇儀の纏う雰囲気が、フッと変わる。

何処か楽しんでいる様な感じから、真剣な冷いものへと。

 

彼女をジッと見つめていた霊夢にはハッキリと"見えた"

その雰囲気とともに、彼女の表情が塗り変わったところを。

 

明るく豪快な笑いよりも、ずっとずっと危険な笑み。

対する者に悪寒を走らせるような強者の笑み。

いつか萃香が見せたよりも、もっとずっと野性的な、"果し合いたい"という本能に実に忠実な笑みだった。

 

「あいつに負けてから、何度リベンジを望んだか知れない。

望み望み望み切ったこの時、私の前に現れたのがあいつの妹とは、なんという因果かね」

 

静かにそう呟く勇儀からは、ビリビリと肌を刺激するような妖力が放たれていた。

いや、それだけではない。

霊夢は、彼女の妖力よりもむしろ、放たれる気迫を強く感じていた。

 

「失礼した、博麗霊夢。

人間とやる時は加減をする、ってのは、昔から鬼が人間と喧嘩する時の暗黙の了解だったんだが、あんたに手加減をするのはむしろ大変な失礼に当たるね。許してくれ」

 

「……いえ」

 

「だから」

 

おもむろに上げられる拳。

さして力が入っているとも思えない様子の拳はしかし、地面に打ち下ろされた瞬間にゴオッと空気の衝撃波を生み出した。

 

「ここからは、本気の本気で行かせてもらう。 あんたに勝てなきゃ、双也にだって勝てやしない…ッ!」

 

勇儀の放つ雰囲気は最早、戦闘狂のそれに近かった。

ただひたすらに戦いたい。

己の負けた奴にリベンジしたい。

戦闘に大した関心を持たない霊夢にさえそれが伝わる程、今の勇儀は圧倒的な気迫を放っていた。

 

後戻りは出来ないかーー。

彼女の雰囲気にそれを悟った霊夢は、再び大幣と札を構える。

それを戦う意思と捉えた勇儀は、その口の端をニィっと歪めた。

 

「改めて。 鬼の四天王、星熊勇儀だ。 お前の兄には世話になった。 また思いっきり喧嘩をしてみたいものだよ。

ーーだがまぁ、それはこの際置いておいて、だ」

 

 

 

 

 

続きを、始めようじゃないかーー!

 

 

 

 

 




"あん時の鬼かよッ!"って思った人、挙手。

ではでは。
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