あと、今夜8時頃に活動報告で大事なお知らせをするので、そちらも目を通しておいてください。
ではどうぞ!
今の私の心を表す一言、と言うなら、"予想外"だと思う。
ああ、これだけだと意味が分岐するから、もう少し付け足そうか。
訂正して、三言で言い表そう。
"予想外"と"不安"、そして"不可解"だ。
「…私の行動は、どうやらあなたにマイナスなイメージばかりを連想させた様ですね」
「ん? ……まぁ、そうかしらね」
その原因の元はこの少女。
地霊殿の主だと言う、この古明地さとりだ。
彼女は先刻、鬼達と私の前に現れてこう言った。
"地底にようこそ、博麗の巫女さん。 地霊殿までは、私が案内しましょう"
ーーと。
これが"予想外"。
正直に言って耳を疑った。
だって私は、こいつが異変の首謀者だと思ってここに来たのだから。
まさか向こうから出てきて、況してや"案内する"だなんて。
凡そ地底の管理人たる犯人ーーと思しき者ーーの行動は思えない。
この子もしかしてアホ?
「…酷い事を考えるのですね。 いくら嫌われるのに慣れているとは言え、そこまでストレートに思われると傷付きます」
「知らないわよ、あくまで私の感想なんだから。 考える事までいちいちあんたの気持ちを鑑みないといけないわけ?」
「…尤もな意見です。 私はやはり、少々感覚が違う様ですね」
ーーと。
遠廻しだが、"不安"とはこの事だ。
まるで私の心を読んでいる様に、彼女は度々私の心の呟きに返答してくる。
口に出さなくても伝わる辺り便利だなぁとは思うが、異変解決の真っ最中で心境を悟られるのは正直困る。
この先で話し合いとかになるなら尚の事。
だからさ、どうせ"心を読む程度の能力"とか言うんでしょ?
読まない様には出来ないわけ?
「…よく訊かれる質問です。
それでもやめていない辺り、私がどんな答えを返すかは分かるでしょう?」
「はぁ、読まない様には出来ないから、嫌われてるわけか」
「……正確には、出来ない訳ではありません。 ですが…"読まない様にする"という事は、"私が私でなくなる"という事と同義なんです」
「……? ふーん…」
なんだろう、さとりは少し悲しそうな声音をしていた。
何故突然そんな心境になったのかは皆目見当も付かないが…なんだか、私が気にする事ではない様に感じる。
ーーと言うより多分、
素っ気ない様だが、そこら辺の線引きは相手が誰であろうとしておかなければ。
「…察しが良くて助かります」
「こっちも言う必要が無くて助かってるわよ」
皮肉交じりにそう返すと、さとりは"ふふっ"と小さく笑った。
もう一度言うが、これは一応皮肉である。
幾ら何でも、"話すのが面倒"なんて人として破綻した考えは持っていない。
故に、心を読まれて助かっている、なんて半分くらいしか思ってないのだ。
さとりもそれくらい分かっているはずなのだけれど。
「ふふふ、分かっていますよ。 だから笑ってしまうんです。
"心を読まれて助かる"なんて、例え半分でも思える人間がいるなんて、って」
「私が変わり者って言いたいの?」
「どう解釈するかはあなた次第です。 ただ、悪意だけは無いので悪しからず」
さとりはまた"ふふっ"と笑う。
今度は一体どういう意味の笑いなのだろう。
合間合間に挟むこの笑いは、何故か聞いているとだんだん胡散臭く聞こえる様になる。
そして彼女の含みありげなその笑い方は、何処ぞの賢者と通ずるものがあるのだ。
私が違和感を感じるのも当然の事だと思うのだけど、その辺どうよ?
「どう、と訊かれましても…。 不快にさせたのなら謝ります。 ですが、これは癖なので治りません」
「治す努力はしたの?」
「今初めて言われたので」
ああそりゃそうか、地底の住民みんながみんな、紫を知っている訳が無い。
「ただまぁ…御名轟く大妖怪、八雲紫さんと似ているだなんて、光栄ではありますかね」
「ふーん…」
紫と似ていると言われて光栄、か。
心にも無い言葉なのは明白だが、それでも地上では絶対に聞けない言葉No. 1ね、きっと。
だから一応、一言だけさとりに言っておくとしよう。
あんたホントに、ズレてるわ。
「……早くも読心に慣れてしまっているあなたが言うのもおかしいと思いますが」
「うっさい。 何事にも囚われないのが私なのよ」
ところでーー。
と言いかけた折、さとりは唐突にこちらを振り向いた。
その顔はなんとも申し訳なさそうな顔というか……何故そんな顔をしているのかは分からないが、兎角明るい表情ではなかった。
「"不可解"、なんですよね、私の行動が」
「…ええ。 わざわざ自分から出てきて地霊殿まで案内するなんて、犯人のする事としては酷く非効率的だわ」
「……いちいち私を小馬鹿にしないで下さい」
そんなつもりはなかったのだけど。
まぁ向こうがそう思ってしまったのなら、そういう事なのだろう。 謝らないけどね。
それで、その"不可解"がどうかしたのかしら?
「…あなたが来たという事は、やはり異変が起きているのでしょう? その犯人について、お話があるんです」
「ほう? 犯人を知っている?」
「はい。…というより、身内です」
……は?
内心で惚ける私を尻目に、さとりはすぐ隣の部屋のドアをガチャリと開け放った。
「先ずは、腰を掛けてお話ししましょう」
…まぁ取り敢えず、座っておくとしようか。
立ちっぱなしで話すのはヤだしね。
「なるほど、ね」
「分かって頂けましたか?」
「…まぁ」
そう言い返すと、心なしかさとりが微笑んだ様に見えた。
そして目の前のさとりから目を外し、彼女のすぐ後ろに控えている猫耳の少女を見てみると、こちらはこちらで心底の安堵の表情をしていた。
彼女は火焔猫 燐というらしい。
怨霊を地上に放ったのは彼女だとか。
「つまり、あんたのペット? の一羽が何かとんでもない力を手に入れて、手が付けられないから助けて欲しい、と」
「そういう事です。 私も数刻前にこのお燐から
『無責任ね、古明地さとり』
不意にさとりの言葉を断ち切り、紫が冷たい声音で言い放った。
確かに、それは私も思っていた。
いや、無責任とまでは考えていなかったけど、つまりこいつらは自分の過失の尻拭いを、私達にさせようとしている訳でしょう?
そんなの私が……況してや紫が、"はいじゃあ懲らしめてきます"なんて二つ返事をする訳がない。
「……そうですね。 あなたに地底の管理を任された身としては、酷く無責任だと分かっています」
『ならそう簡単に助けなんてーー』
「ですが」
さとりの言葉が、今度は紫の言葉を断ち切る。
仕返しか何かだろうか。 何かバチバチと弾けてきそうで怖い空気になってきた。
……そう考えると、やっぱりさっきの"光栄だ"っての、心のない空っぽの言葉だったのね…。
「私に"強い力で支配する事"が出来ないのは、あなたなら分かっているでしょう?
あなたが私をこの地位に就けたのは、私の能力が嫌われ、疎まれているから。 暴力的な支配力なんて皆無だと知っているはずです。
ーー"力による抑制が必要となる事態"が起こる事を想定しなかった、あなたにも責任があるのでは?」
『……………』
陰陽玉だから表情は伺えないが、どうやら紫は言い返せない様だった。
紫がこの手の読み合いで黙り込むなんて珍しい、とは思う反面、少しばかりさとりに関心した。
この子、意外と大物のようだ。
地底の管理者だとかそういう意味ではなく、もっとこう……カリスマを持っているというか。
案外、だから紫は陰陽玉での同行を考えたのかもしれないわね。
話し合いになった場合、心を読まれる事なくフェアに言い合えるのだから。
……でもこのままでは、平行線になるだけね。
「はぁ…もうこの際、責任云々はどうでも良いわよ。 異変はここで起きてる訳じゃないの」
「…では」
「気に入らないけどね。 私はただ頼まれた程度で"赤の他人"の尻拭いをする程お人好しじゃない。 地底だけで済む問題なら軽く蹴っ飛ばしてた所だけど……」
『そこの火車の話を聞く限りそうでもない……どころか、主に被害を被るのは地上ね』
「……そういう事」
火車…お燐だったかしら? 彼女の友人である空という子は、手に入れた力に溺れて調子に乗っているらしい。
地底だけでその力を振るうなら何も言わないけれど、その力で地上に攻めてくるとなれば話は別。 途端に私が処理するべき問題になる。
全く、迷惑ったらありゃしない。
地底だけでやって下さいって感じだ。
そもそも誰だそんな力を与えたのは?
むしろそっちを懲らしめるべきではなかろうか?
いや分かってる。 目の前の問題の方が先だ。
その空ってのにお灸を据えて、元凶には後で懲らしめてやれば良い。
「…ありがとうございます、霊夢さん。 引き受けてくれるようで」
「引き受けるも何も、もはやこっちの問題よコレは。 偶々あんた達も助かるってだけ」
「ふふ、そういう事にしておきます」
さとりは薄く微笑んで、ぺこりとこちらに礼をした。
強気な言葉を使った手前、素っ気ない態度しか取れないけれど、彼女のそんな所は少しばかり好感が持てる。
礼儀正しい奴に悪い者は居ない。
ちょっとした私の持論である。
『さて、決まったなら進みましょう。 ここで話していても、異変は解決しないわ』
「そうね。 ちゃっちゃと終わらせて、元凶に拳骨食らわせに行かなきゃね」
紫の促しに応え、私は先へ進む事にした。
途中まではさとり達が案内をしてくれるそうだ。 ただ、戦力にはなり得ないから空のいる所までは行けないそうだ。
まぁ、今一人二人頭数が増えても邪魔になるだけだし、むしろその方がありがたい。
ーーというのは流石に黙っておいた。
さとりには聞こえているかもしれないが。
ともかく、こうして私は、地霊殿の地下にある灼熱地獄跡へと足を踏み入れた。
既に燃え尽きた筈の炎が燃え盛る不可解な光景を眺めつつ、私は真っ直ぐに最深部へと向かった。
結局、お燐は隠し通せませんでしたとさ。
ではでは。