東方双神録   作:ぎんがぁ!

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 最近、やっと鈴奈庵を買いました。
 一言だけ感想言わせてもらうと………

 小鈴ちゃん激烈カワイイッ!!!

 ではどうぞ。


第百八十一話 遠慮なんてしてられない

 ーー"好奇心とは、何にも勝る原動力である"

 

 ……別に有名な誰かの言葉ではない。 俺の言葉だ。

 でも、俺の言いたい事を伝えるには十分な言葉だと思う。

 

 人を動かすのは、人の気持ちだ。

 それは興味だったり、楽しさだったり、はたまた重圧だったり、憎しみだったり。

 結局の所、人は何か原動力がなければ行動しない……いや、行動出来ないのだ。

 そりゃ、何も感じない奴が行動なんて起こせる筈がない。 何も感じないんだから。

 あまり使いたくない言葉だが、廃人とかが良い例かな。

 

 そして、そんな多彩に存在する"原動力"の中で一番力を持つのが、俺は"好奇心"だと思っている。

 誰しも、自分がやりたくもない事を一生懸命になってやるのは辛いはずだ。 投げ出したくもなるし、実際諦めてしまう事だってある。

 でもそれが、自分のやりたい事だったならば、という話だ。

 

 自分が進んでやりたいと思う事ならば、人は身体が限界を迎えるまで行動する事が出来る。

 例えるならば、マイペースな奴。

 時間にルーズで怠ける時は怠けるが、一度好奇心を刺激されれば抜群の行動力を生んだりする。

 何故か?

 それがそいつのやりたい事だったから。

 

 少々長く話したが、結論を言うとこうだ。

 不可思議すぎて普段なら絶対に行かない様な所でも、興味をそそられればついつい行ってしまう。

 

 そんな有りがちな現象の要因は、人の(さが)に他ならない、という事ーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーなんて弁解を考えてみたんだが、どう思う?」

 

「どうも何も……必要ありますかソレ?」

 

 双也の問い掛けに、早苗は苦笑いで応える。

 その表情は、彼女が暗に"何の話をしているんだコイツは"とでも言っている様にも見えた。

 髪を撫ぜていく風も、虚しい返答をされてしまった双也には何処か冷たく感じた。

 

「……念の為さ。 もし穏便に済ませられるなら、その方がいいだろ?」

 

「……いやいや、穏便になんてそんな、私達の言えるセリフじゃないですよね!?」

 

 

 ーーだって、無断侵入してるんですよっ!?

 

 

 まぁそうだけども。

 双也は早苗の反応に満足したらしく、少しだけ笑って言った。

 

 現在二人は、ある場所に無断で侵入していた。

 これは最早、長々と無駄に答えを焦らす必要すら無いだろう。

 そう、上空で二人の頭上に影を落とした、空を飛ぶ不思議な船である。

 異変解決を目的に行動していた二人としては、当然この船も調査対象に当たるのだ。

 ただそう(・・)は言っても、無断侵入とは、異変の最中には不可抗力的に犯してしまう罪なので、双也にとっては躊躇うまでもない行為だった。

 しかし元現役高校生である早苗には、少々分からない感覚の様である。

 穏便に、なんて言葉も、無断侵入した時点で争い事は避けられないので、全く以って無意味である。

 

「早苗、異変の主犯者、もしくはそいつのいる建物とかに遠慮なんてしてたら、異変解決なんて出来ないぞ?」

 

「うっ……! て、天罰神とは思えない言葉ですね……!」

 

「生憎だな。 俺は今神格化してないからちょっとくらいの悪知恵は働くんだ」

 

 と言われると、早苗は何となく"なんかズルいなぁ"とふとした感想を抱くのだった。

 そしてそんな感情を抱くのと同時に、こんなことを考える。

 何というか、最近の彼は遠慮が無いな、と。

 前からーーとは言っても早苗からすれば一年半という短い期間ーー双也は行動力のある方だった。

 それは勿論、妹である霊夢だって分かっているし、あまり長くは接していない早苗でも知っている事である。

 紫に至っては、それを知らない、なんて事は天地がひっくり返ったってあり得ないだろう。

 

 今はそれに、歯止めが無いというか。

 兎も角早苗には、何となく双也が、これまでにも増して自由に行動している様に見えた。

 自由奔放。 天衣無縫。

 今の双也は、そう形容するのが相応しい。

 

「ーーって、こんな話してる時間は無いな。

 誰か出てくるのを待ってる理由も無いし、さっさと入ろう」

 

「うぅ、分かりました……。

 諏訪子様、神奈子様、どうやら私、悪い子になっちゃったみたいです……」

 

「ンな大袈裟な」

 

 早苗の悲痛な呟きには適当な相槌を返しながら、双也はスタスタと歩いていく。

 ここは言わば甲板。

 降り立ったというだけで、中に入ってはいない。

 そういう意味ではまだ無断侵入ではないが、どちらも早苗には同じ事である。

 少しだけ縮こまりながら、早苗は双也の後に続いて進んでいく。

 

 その後を、青い光の球がスーッと横切る。

 その事に、二人は全く気が付かなかったーー。

 

 

 

 

 

「……人がいないな」

 

「こんなに大きいのに……」

 

 船内へと侵入を果たした二人は、内部を見回しながら歩いていた。

 しかし、如何にも人影が見当たらない。

 大きな船には相応の人出が必要なはずであるが、兎も角二人には、船員(クルー)の一人すら見当たらなかったのだ。

 船内は奇妙な程に静まり返って、歩みを刻む自らの足音すらうるさく感じる。

 そんな内部の様子に、双也はふとした想像を口にした。

 

「……もしかして、無人船?」

 

「……え? む、無人船っ!?」

 

 突然、早苗の声がなけなしの静寂を打ち破った。

 何処か興奮した様なその大音量の声音に、双也は少しだけ肩を跳ねさせて振り返る。

 彼女はどうやら、わなわなと震えている様だった。

 

「もしやコレは、巨大な空中航海自動式戦艦という事ですかっ!?

 幻想郷もいつの間にかそんな技術を……」

 

「いやいやっ、何処からその発想が出てきた!

 確かに河童連中なら実現できるかもしれないけどさ!」

 

 双也自身、欠片の想像もしていなかった早苗の反応に、半ば反射的な返答を返す。

 突然何を言い出したコイツは。

 異変の最中であってもある意味ブレない早苗には、双也も軽く嘆息せざるを得なかった。

 そしてふと考える。

 っていうか、それって何処の戦艦ヤ○ト? あいや、あれは自動船じゃなかったはずだけど。

 ーー勿論これは、内心で呟いた言葉である。

 

「だって、人が誰も居ないのに動いてる巨大戦艦ですよっ!?

 しかもそれが進むのは青い空!

 きっと何処かに武装が隠されていたりするんですっ!!

 分かりますよねこの浪漫!」

 

「いや分かんねーよ」

 

 早苗の興奮冷めやらない様子に、幾分か冷やかな言葉を投げ掛ける双也。

 彼にとっては、こういう状態(・・・・・・)の早苗の相手はお手の物なのだ。

 何せ、前世でだって同じ様に接してきた。

  "船"から"戦艦"にランクアップしているのをスルーしたのも、早苗の扱いを心得ているからである。

 勿論、彼女とのそんな会話を楽しく感じる彼もそこにはいる。

 そして、平行世界でも早苗は早苗なんだな、という妙な安心感に心を浸す彼も、そこにはいた。

 

「いやぁ是非ともこの戦艦の動力部を見てみたいですねっ!

 見ても全然分からないと思いますけど、やっぱりゴツゴツした機械がガシャガシャ動くのはカッコいいですからね!」

 

「知らん。 俺はロボット系見てなかったし」

 

「……………あの〜」

 

「えっ!? じゃあガン○ムとかもですかっ!? 勿体無いですよソレは!! 永遠の名作ですよっ!?」

 

「あー、お前はガン○ム好きだったな、そう言えば。

 でも生憎、俺はB○EAC○派なんだよ。 ロボットはあんまりだな」

 

「ちょっとぉ〜、あなた達ぃ〜?」

 

「B○EAC○? それって双也さんの世界の漫画ですか!?  この世界には無いタイトルですねっ!!」

 

「えっ、そうなのか? てっきり普通にあると思ってたけど。

 ……あー、残念。 お前なら絶対好きになるのに……っていうか前の世界じゃその漫画で二時間以上お前と話せたよ」

 

「………………」

 

 二人の会話は、他ならない二人の予想を超えて盛り上がりを見せた。

 双也ですら、簡単に話を切り上げるつもりがいつの間にかのめり込んでしまっている始末である。

 ミイラ取りがミイラになる、とは正にこの事だ。

 

 話が脱線している事に、二人は清々しいほど気が付かない。

 話の中に入り込んだ人々というのは、周囲から何かしらのアプローチが無ければ得てして気が付かないものである。

 更に言えば、二人の相性などは今更検証の余地などない程に良い。

 時間が経てば話が詰まる、というのも"話が終わる"一つのパターンではあるが、この二人にそれは無いも等しいのだ。

 時間による路線修正は絶望的である。

 故に。

 ミイラ取りは、指摘されなければミイラになった事が分からない。

 況してやこの二人には。

 

 ーーそう、何かしらのアプローチが無ければ。

 

 

 

 

「〜〜っ、良い加減気付きなさいよこの侵入者共ォッ!!」

 

 

 

 

 ゴォッ!!

 広がり続ける無駄話(・・・)を切り裂いて響き渡ったのは、実に意味明朗な怒号であった。

 船内の空気すら震わせたかと思う程のその声は、いつの間にか予期しない盛り上がりを見せた話すらも吹き飛ばし、一瞬で二人の頭を冷やしていく。

 

 ーーああ、また癖が出ちゃいました……。

 

 早苗は。

 

 ーーおっと、ついつい乗っかっちまってたな。

 

 双也は。

 

 唐突に引き戻された二人は、そのまま少しばかり硬直してしまった。

 

「ちゃんと説明してさっさと帰って貰おうと思ってたけど、変更よ!

 話も聞かない失礼な侵入者には、鉄拳が振り下ろられて然るべきだわっ!!」

 

 カチャリ、といった軽い音を聞いて我に返った二人は、息を合わせたようにそちらを振り向く。

 そこには、巨大な雲を背景に二人を睨みつける、頭巾を被った少女が立っていた。

 

「え、えぇと……何ですかあの後ろの?」

 

「さぁな。 知らない、がーー」

 

「行くわよ雲山っ!

 鉄拳……

 

 

 構えと同時に、背後の雲が形を成す。

 それはハッキリと、巨大な拳の形をしていた。

 

 

 ーー制、裁ッ!!」

 

「敵であるには、変わりねーだろっ!」

 

 少女の小さな拳に合わせるように、雲の鉄拳が途轍も無い迫力で打ち出される。

 空気を巻き込んで飛ぶ拳は、無礼な侵入者を吹き飛ばさんと真っ直ぐに伸びて行った。

 まるで遠慮など無い、"これが鉄拳か"と悟らざるを得ない様な、圧倒的な拳である。

 

 双也は咄嗟に、早苗を後ろへと追いやった。

 

「特式三十一番『赤焔拳』ッ!!」

 

 赤く煌めいた拳が、その何百倍もあろうという大きさの鉄拳に衝突する。

 しかしその衝突による強烈な衝撃が船を揺らすのは、実は一瞬の事だった。

 

 ーー単純。

 赤焔拳の爆発が、雲の拳を散り散りに吹き飛ばしたのだ。

 

「ッ!! 雲山の拳をいとも容易く……っ!?」

 

「あらら、そちらさんはここがどこだか分かってないのか?

 ここは、美しさこそが強さを証明する世界、幻想郷だぜ?」

 

 双也の依然とした態度に警戒を増しながら、少女は再び構え直す。

 そんな彼女に、幻想郷の法の番人(・・・・・・・・)は静かに告げる。

 

「そんな場所で暴力行為とは、頂けないなぁ?」

 

「くっ、入ってきたのはそっちでしょうに……っ!」

 

 カチッと、双也は響かせる様に刀の鯉口を切った。

 それは、相対する少女に対してのある種宣言でもある。

 ーー暴力は、暴力で捩伏せるぞ。

 そう、暗に語っている様な雰囲気であった。

 少女は一筋、汗を流す。

 

「弾幕勝負じゃないから、俺が相手する。

 ちょっと待っててくれ、早苗」

 

「え、あっ、はい! ……え?」

 

「よし」

 

 早苗が反射で答えたことは、誰よりも双也が分かっていた。

 敢えてそうしたのは、殴り合いになりかねないこの少女と早苗を戦わせない為である。

 暴力沙汰は、俺が引き受けよう。

 ルールも正せて一石二鳥だ。

 双也の思惑は見事に成功していた。

 

「神薙 双也だ。 叱ってやるからには、遠慮なんてしないからな?」

 

「……雲居 一輪。 そして雲山。

 まずはあなたから、とっとと出て行って貰うわッ!」

 

『〜〜〜〜〜ッ!!!』

 

 一輪の背後の雲ーー雲山が、地鳴りの様な声を響かせる。

 拳と刃が交錯したのは、その刹那の後だった。

 

 

 

 

 




 というわけで、いつか小鈴ちゃんを中心にした小説も書いてみたいなーなんて思ってます。
 あ、次回作じゃないのは確かですけどね。

ではでは。

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