東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最近シャドウバースってアプリを始めたんですけど、やっぱりTCGは難しいですね。
あとガチャ運足りない。

ではどうぞ。


第百八十二話 UFOの正体

 結局の所、戦況は一方的であった。

 

 双也の力は、余りにも他と隔絶している。

 それは天罰神の能力を使えずとも変わらない、厳然たる事実だ。

 早苗をして、今回双也と対峙した一輪という少女も、実力的には相当高い位置にいる。

 雲山と呼ばれる入道雲から放たれる一撃は空気を引き裂き、まるで大気に亀裂でも走るかの様な拳である。

 それを操る一輪自身も高い実力を持っている事は、傍から見ていた早苗にも分かることだった。

 

 しかし、その程度(・・・・)、だったのだ。

 

 一撃必殺の拳?

 双也はそれを容易く打ち砕く。

 

 大気を揺らす衝撃波?

 双也は一振りで空間すら引き裂くだろう。

 

 一輪は確かに善戦していた。

 双也の斬撃や、初めて見るはずの鬼道すら避けて見せ、反撃などは数え切れぬほど打ち込んだ。

 それはそれは、余程の接戦を繰り広げている様に見えただろう。

 

 しかし、当の一輪自身が誰よりも分かっていた。

 己と、目の前の男との、明らかな差を。

 

「(くっ……! なんて……)」

 

 斬撃は擦りながらも避けれど、少しずつ確実に避けられなくなっていく。 

 ーー刀傷は、深くなっていく。

 打ち出した拳は、単なる足捌きで避けられる。

 ーー刃は常に、襲い掛かってくる。

 挙句、双也は薄く笑っていた。

 

 力の差を、感じざるを得なかった。

 

「(なんて……強さなのよッ!?)」

 

 一輪は半ば自棄になって、しかし洗練された形をそのままに拳を打ち出す。

 雲である雲山に疲れは無く、一輪の気合いによって、拳の威力はむしろ上昇していた。

 強烈な衝撃をもたらす剛腕が、大気を裂いて飛ぶ。

 

 ーーしかし、現実とはかくも厳しい物である。

 

「風刃」

 

 刹那、伸びていた剛腕は、床から噴き出した複数の霊力の刃によって乱斬りになった。

 自棄になってまで打ち出した拳は、明確な力の差の前に甲斐なく敗れたのだ。

 一目瞭然の差。

 一輪は散り散りになった雲山の破片の合間に、双也を睨み付けた。

 

「(……私の負け、ね……)」

 

 寄せていた眉根から力が抜け、体からも力が抜け落ちる。

 握っていた拳は既に、いつの間にか緩み始めていた。

 一輪は、自身のその身体にやっと追い付いたかの様に、ふと、しかしすんなりと、"負けた"という事実を飲み込んだ。

 

「霊刃『飛燕の蒼群』」

 

 (とど)めに放たれた無数の刃は、不思議と、それ程痛くはなかった。

 

 

 

 

 

「さて」

 

 キンッ、と軽い音を立てながら、双也は刀を鞘に納めた。

 それによって戦闘の終わりを確信した早苗は、少しばかり小走りに彼へと駆け寄る。

 一輪は、双也の視線の先で倒れていた。

 

「気絶なんかしてねーだろ雲居 一輪。 加減したし。

 さっさと起きてくれ」

 

「うぅ……容赦ないわね……」

 

 のそ、と少しばかり気だるそうにして身体を起こす。

 加減したといっても、結局疲れやダメージは無くならない訳であって、やはり身体は重くなる。

 ーー自分でやった癖に、情けの欠片もないなんて。

 初対面とは言え、双也の事を若干苦手に感じる一輪である。

 

 ……やめだ。 考えていても仕方がない。

 一つ息を吐き、一輪は心で愚痴るのを止めた。

 その代わり、その思考は初めへと立ち戻る。

 そもそも、自分は何をする為にこの者達の前に現れたのか、と。

 勝負に負けてしまった今、それすら意味の無い事だと分かってはいても。

 

「……それで、どうするつもり?

 言っておくけど、この船は宝船でも何でもなければ、何処にもお宝なんて積んでないわよ」

 

「……は?」

 

 そら来た、その顔。

 勝手に思い込んで、勝手に入ってきた挙げ句、勝手に落胆して勝手に帰る身勝手だ奴らの顔だ。

 首を傾げる双也の様子に、一輪はむっとしながら思う。

 

「"空飛ぶ宝船の噂"を聞いてきたんでしょうけど、それ、全くのデマだから。

 苦労して来た上に私を負かした所で悪いけど、完全な無駄足だったわね。

 ゴメンなさい?」

 

 と、一輪は分かりやすい表情で二人ーー主に双也ーーを皮肉った。

 当然だ、こちらは何も悪くない。

 噂が広まったのは不可抗力だったし、それを信じて侵入して来たのは向こうの責任。

 宝船ではないことを説明しようと姿を現し、その扱いに不満を持って勝負を挑んだのは他でもない一輪だが、それすらも元を辿れば、侵入して来た二人が彼女の逆鱗に触れただけの事。

 

 ーー多少扱いが雑になるのも、一輪としては当然の事である。

 要は倒され損、だったのだから。

 

 しかし、当の二人の反応は、彼女の想像とは大分かけ離れた物だった。

 

 

え、宝船って何の事だ?(え、宝船って何の事ですか?)

 

 

「…………は?」

 

 一呼吸置いて、一輪からも間の抜けた声が漏れる。

 それに続いて、双也達も"え?"と声を重ねた。

 はて、こいつらこそ何を言っている?

 宝船がどうこうと奪いに来たのは、そちらだろう?

 一輪は、大きく剥いた目を段々と細め、訝しげな視線を二人に向けた。

 

「……あなた達、この船へ宝を探しに来たんじゃないの?」

 

「いや違うし、その噂も初耳だ」

 

 その視線に妙な居心地の悪さを感じた双也は、取り敢えず、ここに自分達が来た目的から話してみることにした。

 噛み合っていない会話は、どちらかが譲歩する事で解決出来るのである。

 

「えっと……俺達がここに来たのは、異変の調査の為だ。

 ……お前らが犯人じゃないのか?」

 

「……異変?」

 

「はい! 幻想郷の空に沢山、こんな物が飛んでいるんです。

 心当たりはありませんか?」

 

 と言って、早苗はいそいそと先程捕まえた物体を取り出す。

 早苗には相変わらずUFOに見えているようだったが、双也も相変わらず、それはただの木片にしか見えていなかった。

 そのどちらかだろう、と暗黙の内に予測していた二人は、しかし盛大に裏切られることになる。

 

 ーー即ち。

 

 

「……ッ!! それ、飛倉(とびくら)破片(はへん)じゃないのッ!」

 

 

 一輪の瞳には、また別の物として映っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、宝船ってのは?」

 

「ん〜見つかんないな」

 

 まるで他人事の様にあっけらかんと言い放つ魔理沙に、霊夢はさらに苛つきを募らせた。

 霊夢としては、"異変解決と称して"宝船を捜しに来たのだから、そろそろ何かしらの進展が欲しいのである。

 

「ちょっと、うまい話があるって言うから来たのよ?

 言い出しっぺのあんたがそれでどうすんのよ!」

 

「見つかんないもんは仕方ないぜ。 私だって、何処ぞの天狗みたいに千里眼を持ってるわけじゃねーんだ」

 

 それに、簡単に見つかったら面白くないだろ?

 魔理沙は一発、大幣で叩かれた。

 

「屁理屈も程々にしなさい」

 

「ったく容赦ねーなー」

 

 帽子の上から頭をさすりながら、魔理沙は軽く愚痴を零した。

 文句が出ないのは、彼女自身が霊夢の言い分を理解しているからである。

 

 ーー霊夢! 宝船の異変だぜっ!

 

 魔理沙が神社を訪れた時、初めに放った言葉である。

 勿論これは、"霊夢なら絶対に食い付くだろう"という、彼女の経験則に基づいた推測を鑑みて発した言葉だ。

 つまり、魔理沙は食い付くと分かっていたそう言った。

 

 飛び立つまでは予想通り。

 しかし、そこからは計算外だった。

 

 巨大だと言われていた船は中々見つからず。

 どころか、見知らぬ円板状の物体まで飛んでいて。

 挙げ句延々と空を漂う羽目となり。

 

 言いだしといて情けねー。

 もう少し作戦とか考えとけば良かったなぁ。

 

 文句を飛ばせない程度には反省し、そしてそれすら後の祭りだと認識する。

 魔理沙は、言い返せなかった。

 

「まぁ何にせよ、飛び回るだけじゃ効率悪いって事だな。

 もっと良い方法探そーぜ」

 

「調子いい奴……」

 

 でもまぁ、そうするしかないわよね。

 口では魔理沙を皮肉りながら、しかし内心では納得していた。

 時間が無駄になった感じは否めないが、今更それは戻って来ない。

 ありきたりな言葉ではあるが、前だけを見るべき、という格言は正しく真理を表している。

 降って湧いた考えでも、霊夢はちょっぴり、関心した。

 

「で、そうなると必要なのは手掛かりね。

 丁度怪しいのがここにあるけど」

 

「お、流石霊夢。 私と考えが同じだぜ」

 

 懐から、先程飛び回っていた際に見つけた見知らぬ物体を取り出す。

 形は同じだったが、霊夢のと魔理沙のとでは色だけが違った。

 

「こんな形した物、なんかで見た事あるわね……なんだっけ?」

 

「えっと確か……ゆ、ゆ……UFOだ!

 香霖堂にある本で見かけた事あるぜ!」

 

 それだ! とでも言うように、霊夢は魔理沙へと簡単な目配せをした。

 そう、確かUFOだ。

 未確認飛行物体だか何だかという。

 霊夢の勘はやはりというか、この上なく怪しい物をぴったりと探り当てたのだった。

 

「んだが、このUFOが手掛かりだっつっても、どう宝船と関係してくるんだ?」

 

「それなのよね……」

 

 顎に手を添え、考える。

 確かに怪しい物ではあるが、宝船とUFOなど余りにも関連性が乏しい。

 強いて言うならどちらも飛んでいるものだそうだが、正直幻想郷に空を飛ぶものなどわんさかといる。

 何なら人間だって飛んでいる世界だ。

 

 ならば、何か。

 

「えーと……済まない、君達。

 聞きたい事があるんだが」

 

 思考の奥深くまで沈んでいくその意識は、唐突にも第三者の声によって引き上げられた。

 ハッとして気が付くも、その声に聞き覚えはない。

 それは魔理沙も同様のようだった。

 

 なんとはなしにそちらを振り向けば、其処には灰色の大きな丸い耳のある妖怪が立っていた。

 

「……妖怪?」

 

「ああ、私はナズーリンという。 少し探し物をしていてね、丁度君たちが居たから訊いてみようと思ったんだ」

 

 ーー妖怪が自ら話しかけてくるなんて。

 

 霊夢も魔理沙も、内心で少なからず驚愕した。

 幻想郷で、博麗の巫女の名を知らない者はいない。

 それは当然、"妖怪の敵"としてのイメージを強く孕んだ上で広まっている名だ。

 もちろん一部の妖怪は彼女と親しくしている訳だが、それは彼女らが強者だから。

 他大部分を占める弱小妖怪にとって、博麗の巫女に話しかけるという事は自殺志願に等しいーー少なくとも妖怪にはそう思われているーーのだ。

 そんな中で、彼女に話しかける妖怪とは。

 

「(……怪しい)」

 

 少なくとも、この幻想郷に慣れているものではなさそうだ。

 私を博麗の巫女と思わずに話しかけたのか、それともその"一般常識"すら知らないだけなのかーーいや、丁度いい仮説が立てられるではないか。

 霊夢は少しだけ、目つきを鋭くした。

 

「おでんのような形をしていて、真ん中が光っている宝塔というーー」

 

「ねぇあんた……ナズーリン?

 その前に一つ聞かせてくれるかしら?」

 

「何だい?」

 

 唐突に会話を断ち切った霊夢にも嫌そうな顔をせず、ナズーリンは彼女を見上げる。

 霊夢は彼女を、睨み付けた。

 

「あんた……宝船、もしくはこのUFOに、心当たりはない……?」

 

 霊夢の視線は鋭かった。

 並の妖怪ならばたちまち逃げ果せるか、その場で縮こまり兼ねない程の眼光。 ある意味、殺気とも取れるその瞳。

 ーーしかし、皆が皆、弱いからといって矮小な心を持ち合わせている訳ではない。

 少なくともナズーリンは、そんな眼光など気にもとめず、むしろ別の物を凝視していた。

 

 

「君……それは……飛倉の破片かいッ!?」

 

 

 いやUFOだけど。

 なんて無粋な指摘は、しなかった。

 心当たりがあるならば何でもいいのだ。

 この物体がUFOだろうが飛倉なんちゃらだろうが、霊夢にとっては関係ない。 更に言えば、魔理沙にだって関係ない。

 何せ二人の目的は宝船、なのだから。

 

「ふぅん? 心当たり、あるみたいね?」

 

「宝塔探しは一旦中止だ。

 君、その破片を貰えないだろうか?

 大切なものなんだ」

 

「あら、これは私の物よ? さっき其処で捕まえたんだから

 珍しいし、家に飾っとこうと思ってたんだけど」

 

「……君が持っていても、何の意味も成さない木片だよ。

 飾る程の物とも思えない」

 

「それは私が決める事よ。 なんなら其処の魔理沙も持ってるけど、私と似たようなこと言うと思うわ」

 

「……どうしたら貰える?」

 

「どうしたら貰えると思う?」

 

 二人の会話には、始終棘があった。

 それは、近くで聞いていた魔理沙にさえ苦笑いをさせる程悪い空気を醸し出していたのだ。

 霊夢にそれを渡す気は無く、

 ナズーリンは彼女の態度に業を煮やし、

 魔理沙は話に入れず苦笑いをするばかり。

 

 この時点で、話の帰結は確定したようなものだった。

 

「……この世界には、弾幕勝負と言うものがあるらしいね」

 

「あるわよ。 因みに私達はそれのエキスパートよ」

 

「……いいだろう。 大願を成すならば、其処にどんな壁があっても私の望むところ。

 ーー力尽くで、貰い受けることにするよ」

 

「いい度胸じゃない!」

 

 霊夢とナズーリンは同時に距離を取り、これまた同時に懐からカードを取り出す。

 戦闘開始の合図も無いようで有る、という状態で、戦闘は開始した。

 

「結局こうなるのな、この世界じゃ……」

 

 まぁ、分かってたけど。

 魔理沙の呟きは、弾幕の風を切る音に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、双也と早苗は。

 

「いやぁ、飛倉の破片をわざわざ持ってきてくれるなんて嬉しいわ! ありがとう!」

 

「い、いえ……私達はそんな……」

 

「………………」

 

 興奮で痛みを吹き飛ばした一輪は、船の中へと二人を案内しながら頻りにその嬉しさを語って聞かせていた。

 それに対する早苗の対応は、それはもうぎこちない事この上なかったが、興奮してある意味周りの見えていない一輪には、気が付く事はできなかった。

 

「(そ、双也さん、変わって下さいよ! もうそろそろ私この人のテンションについていけません!)」

 

「(我慢してくれよ。 せっかく"それを持ってきた(てい)"でこいつらに介入しようとしてるんだからさ

 ……それにテンションの事言ったらお前も負けてないぞ?)」

 

「(このタイミングで要らない告白!?)」

 

 小声で訴える早苗を、双也は実に軽くあしらった。

 高いテンションは確かに苦手だし、何より早苗でもう十分だったからなのだが、最大の理由は其処では無い。

 彼はまた、考え事をしていたのだ。

 

「(飛倉の破片……木片が、UFOに見えていた? ……でも、俺には初めから木片に見えてたんだよな……)」

 

 先刻抱いた疑問が、再び浮き上がってきた。

 そして先程よりも何処か、思い出せそうな予感がしていた。

 木片……空を飛ぶ……UFO……物体…………認識?

 

「……!」

 

 ハッとして、双也は周囲を見回した。

 しかし彼の周りには、語り口をやめない一輪とそれに愛想笑いを返す早苗のみ。

 他には何もいない。

 

「(……いないならいないでも、いいか)」

 

 心の内でそう結論を出し、考えを頭の隅に追いやった。

 

「おっと、はぐれちまう」

 

 双也は騒ぐ彼女らの後に続くように、船の廊下を小走りに駆けて行った。

 

 

 

 

 




最後の最後が少し駆け足でしたね……。
あ、双也がって意味じゃないですよ?

ではでは。

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