東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最近サブタイトルに困る事が多くて……。

ではどうぞ。


第百八十三話 役者は揃う

 進み始めて少し経ち。

 一輪に連れられた双也と早苗は、ある大きな一室に到達した。

 勿論その間、一輪の相手は早苗が勤めていたので彼女の顔は若干の気疲れを催していたが、その部屋に着くなり、一輪は早苗から少し離れて行く。

 

 やっと終わった……。

 そんな呟きの聞こえてきそうな溜め息を吐く早苗に、双也はポンポンと、彼女の頭を撫でた。

 

「村紗ー! ちょっと来てー!」

 

 二人よりも前に出た一輪は、そう声を張り上げた。

 その声の反応として、グォングォンと鈍い音を奏でる船内に"はーい"という返答が響き渡る。

 声の主は、そのすぐ後に現れた。

 

「よっと。 んで何、一輪?」

 

 二人の前、かつ一輪の隣に降り立ったのは、外界で言うところの白いセーラー服と、頭に碇の模様のある帽子を被った少女だった。

 新たな妖怪の出現に、早苗は無意識の内に構えそうになるが、それは双也がさせない。

 今は"協力している体"をしている身である。

 警戒心を煽る行動は、少なくとも今は良くない。

 双也の軽い小突きは、上手く早苗を制していた。

 

 "村紗"と呼ばれた少女は、一輪への問い掛けの返答も聞かぬうちに二人へと視線を向けると、何処か訝しげな表情をした。

 

「……誰、こいつら? 言っとくけど、客だからってもてなす程優しくないよ私は」

 

「えっとね、この人達わざわざ飛倉の破片を持ってきてくれたのよ!

 折角だから、乗せてあげない?」

 

「お! 本当!? そりゃありがたいね! お茶出しとこう!」

 

 

 ーー変わり身早え……。

 

 一輪の一言のみで百八十度変わった村紗の態度に、二人は少しばかり呆れを零した。

 なんというか、ちゃっかりした性格してそうだな、と。

 物で吊られそうな、現金な人ですね! と。

 だが、彼女のその性格のお陰で衝突する事はまずあるまい。

 追風(ついて)に帆を上げた感じは否めなかったが、話がこじれたらその時はその時である。

 二人は一先ず、話に乗っかる事にした。

 

「えー、紹介するわ。 こちらこの船の船長であるーー」

 

村紗(むらさ) 水蜜(みなみつ)だよ!

 この度は破片を持ってきてくれてありがと! 助かるよ!」

 

 眩しい程の笑顔で差し出された手を、早苗は若干戸惑いながら取った。

 "フリ"をしている身としては余り良くはない反応だが、早苗ならば仕方ないか。

 彼女が先祖共々のお人好しであると知る双也は、ふとそんな妥協とも取れる甘い結論を心の内で繰り出すのだった。

 

 ーーが、それが本当に甘い結論だとすぐに思い知る事になる。

 

「は、はい。私は東風谷 早苗って言います。 こちらは神薙 双也さんです。

 ……えっと、村紗さん? 早速一つお訊きしたいのですが」

 

「何かな?」

 

「この……飛倉の破片? これは何に使うんですか?(・・・・・・・・・・・・)

 

「(前言撤回っ! こいつ今の状況何にも分かってねーっ!)」

 

 協力している(という体の)者が、その目的も知らない。

 これは絵に描いたように矛盾した状態である。

 目的も知らないのに協力するなんて、そんなのは相手方からすれば、"怪しい"という印象を得るのに十分な理由であろう。

 フリをしているーー言い換えれば相手を騙している二人からすれば、それは自らの立場を悪くする明らかな悪手であった。

 

 だのに早苗は、それを堂々とやってのけた。

 

 何なら彼女は、双也に横目でウィンクを飛ばしていた。

 

 お人好しだからフリをするのは得意ではないだろうーー。

 そんな考えが角砂糖のように甘っちょろい考えだったのだと、早苗の様子を見ながら、双也はひしと感じた。

 いや、もしかしたらこれは彼女なりの作戦なのか?

 協力している立場を利用して目的を訊きだそうとしているーーなんて馬鹿な事を考えたという事なのか?

 実際、この双也の考えはぴったりと当たっている訳だが、それはこの際どうでもいい。

 問題なのは、そんな間違った考えを堂々と早苗が実行してしまったという事ーー。

 

 

 

「ああ、えっとね、ある人を復活させるのに使うんだよ」

 

 

 

「(あ、あれ……?)」

 

 それは全く以って、予想外の返答だった。

 

「復活? どなたをですか?」

 

「私達の恩人よ。 私も村紗も、その人に大きな恩義があるの。

 本当はもう一人居るんだけど……まぁその内来るわ」

 

 三人の会話には軋轢の生まれるどころか、むしろ輪が形成されつつある。

 気付かぬ失言を零した早苗に、一輪と水蜜は平然として受け答えをしていたのだ。 それこそ、不信感などまるで無いように。

 しかし、双也だって"フリ"をしている身である。

 "お前ら、今の発言に違和感無かったのか?" なんて問いは当然出来るはずもなく。

 双也には、最早蚊帳の外となった立場で黙々と疑問を募らせる事しか出来ないのだった。

 

「じゃあ、その白蓮って人が封じられてしまったので、彼女を封印から解き放つ事で恩に報いようと……」

 

「そう! まさにそういう事よ!

 いやぁ話の分かる子で嬉しいわ!」

 

「まぁ理由も聞かずに破片を集めてくれたくらいだからね!

 この子は最早、私達の同志よ!」

 

「(あぁ、あいつらの中ではそういう解釈になったのか……)」

 

 はぁ、と。

 双也は人知れず、その呆れとも疲れともはたまた安心とも取れる、小さな溜め息を零した。

 兎も角、ここまで来ては仕方ない。

 早苗も何故か二人の話に乗ろうとしている様だし、これはもう文字通りの"乗り掛かった船"である。

 話を聞く限り、今回は幻想郷に悪影響を及ぼす現象ーー即ち、異変の成分は皆無な様だし、もうどうにでもなってしまえ。

 異変ではないと確信して力の抜けた双也は、投げやりにそう結論を出した。

 だって、影響無いんだからいいじゃん?

 

「という事ですよ双也さん!

 折角ですし、最後まで手伝っちゃいましょうよっ!」

 

「あー、いんじゃね?」

 

「決まりですっ!

 その白蓮さんには義理も恩義もありませんが、頑張る人には恵みを与えるのが神様ですよっ!」

 

「おおっ! 流石っ!」

 

「頼りにしてるよっ!」

 

 如何やら、協力する事は決定した様だ。

 三人は楽しそうだし、幻想郷に危険は及ばない様だし、今回は特に頑張る必要も無いのである。

 強いて心配する事があるとすれば、異変だと乗り込んできた霊夢達に、協力している自分達が怒られないかどうかだけだ。

 

「(まぁ、その点に関してもーー)」

 

 もっと異変らしいモノはあるから、それを餌にすればいいか。

 

 双也は振り向き、歩いて来た廊下の向こうーー外を見透かす。

 そこに飛んでいたのは、興奮した妖精、何処からか飛んできた弾幕、UFOに見える飛倉の破片、そしてーーふいよふいよと緩やかに浮かぶ、青白い光の玉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁっと見つけたわ!」

 

 ふんす、と、霊夢は溜め息混じりの鼻息を零す。

 そんな彼女の背後では、少しだけボロけたナズーリンが渋々と肩を落としていた。

 見つけたのは私なんだがね……。

と小声ながらに呟くナズーリンの肩に、魔理沙はポンと手を乗せた。

 

「まぁ諦めろ! 負けたんだからしょうがないさ!」

 

「……"勝った方の要求を呑む"なんてルールも、聞いた事が無いんだがねぇ……」

 

 皮肉混じりの返答にも笑って返す魔理沙を見、ナズーリンは大きな溜め息を零した。

 全く今日はツイていない。 踏んだり蹴ったりだ。

 主人の代わりに宝塔を探さなければならなくなったし、探し始めたら理不尽な巫女に叩きのめされるし、挙句案内役までやらされるとは。

 ナズーリンは、如何やって船に乗り込むかを思案する霊夢の背中を見上げた。

 

「(……いや、待て。 これはこれで、好都合じゃないか?)」

 

 ーーだって、結局飛倉の破片は船に入る訳だし。

 

 中には仲間も居る。 何より神の代行人である主人がいる。

 船の中にさえ入れてしまえば、そこはもう我らの根城。 人間から物品を奪うのなんて、さもない事なのでは?

 

ポンポン「まぁ何にせよ、助かったぜナズーリン!」

 

「!」

 

 不意に頭を撫でられ、ビクリと震る。

 手の伸びる方を向けば、魔理沙が快活な笑みをナズーリンへと向けていた。

 

「(……何を考えているんだ、私は)」

 

 妖怪とは言え、仮にも七福神の弟子が"人間から奪えばいい"だなんて。 笑い話にしても質が悪い。

 魔理沙の屈託の無い笑みを目の当たりにして、ナズーリンはそう思い返した。

 人に恵みを与える神、その弟子である自分が、数にものを言わせて奪い取る……そんな事、神の弟子がしていい事ではないのだ。

 それは、妖怪であるが神の弟子でもあるナズーリン自身が、許せない事でもあった。

 

 人のものが欲しいのならば、奪うのではなく貰い受ける。

 それが正しい行動と誠意というものだ。

 そんな基本的な事にも気が付かないとは、先程負けて少々血が上っていたらしい。

 ナズーリンは改めて、そして何より自分自身に向けて、大きな溜め息を吐き出した。

 

「ん? 如何したナズーリン?」

 

「いや別に……。 って、君随分と馴れなれしいんだね」

 

「昨日の敵は今日の友ってな! まぁ私は戦ってないんだが」

 

「加えて、"昨日"と言うほど時間も経ってないしね」

 

「にししっ それもそうだ!」

 

 ーーま、過ぎた事はしょうがないか。

 

 魔理沙との会話に少しの面白味を見出しながら、ナズーリンはそう思った。

 過ぎた事を嘆いても意味はない。

 反省する事柄でもない。

 ならば先を見据えよう。

 きっと師匠も主人も、そうした方がいいと言うだろう。

 

 ナズーリンには何となく、根拠も無く、上手くいくような予感がしていた。

 元々彼女自身が望んだ目的ではなかったが、主人の望んだ事である。

 神の弟子がするべきは、神の勅命を受ける事と恵みを与える修行をする事ーー極限まで簡潔に言えば、生きとし生けるものを笑顔にする事でもある。

 ナズーリンは、子供のように喜ぶ主人の姿を思い浮かべた。

 

「(上手くいったら、ご主人は喜ぶかな)」

 

 確信はないが、予感がある。

 何の根拠もないのにそれを信じずにはいられないのは、彼女が神を師に持つからか、それとも楽観思考な主人を持つからか。

 

「さぁ、仕方ないから案内してあげよう」

 

 それを聞いた霊夢の笑みは、期待にはそぐわぬ不敵な笑みだったが、まぁそれはさて置き。

 ナズーリンは、"負けたから"という大義名分と成功の予感を胸に、船の方へと飛び上がった。

 

 

 

 

 




ナズーリンは何故かクールなイメージ。

ではでは。

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