東方双神録   作:ぎんがぁ!

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ゴメンなさいっ!!
投稿予約日を設定し間違えていましたっ!!

ではどうぞ。


第百八十七話 ちょっと惨めな大妖怪

 ある森の一角。

 宝船騒動が集結し、幻想郷にもある程度の平穏が戻ってからしばらく経ったある日の事である。

 もう春先、大抵の人間ならばその暖かさと気分に浮かされて、のほほんと家でのんびりしていても可笑しくはない時期。

 だと言うのに、根っからの面倒臭がりを自称する双也は、まるでそんな事など気にしていないかの様に外を飛び回っていた。

 

 勿論、何の理由も無く飛び回っている訳ではない。

 現にこうして、彼は目標としていた人物を追い詰める事に成功しているのだ。

 

「全く、いい加減諦めろよ。

 もうあの事件から大分経ってんだぞ?

 子供って歳じゃないだろお前は」

 

 と、酷く面倒臭そうな表情で、目の前の人物に告げる。

 彼の雰囲気こそ、張り詰めたものでは決してなかったが、それを向けられたその相手としては相当気分を害した事だろう。

 何せ、本心を包み隠さずに表した言葉だったから。

 案の定、それを向けられたーー言い換えて、追い詰められた人物は、心外だとばかりに喚いた。

 

「歳の事なんかあんたに言われたくないよ!!

 何さちょっと脅かしただけでムキになっちゃってさ!

 そっちの方が子供なんじゃないの!?」

 

 ビシッと指差し、双也に向けてこれでもかと文句を飛ばす。

 その相変わらずな様子に、双也は頭をガリガリと掻き毟った。

 

「ムキになんかなってないし。 そもそも驚いてないし。

 ……じゃなくて、そういう事言いたいんじゃねーよ。

 いい加減諦めて、一言でいいから白蓮達に謝れっての、"ぬえ"」

 

 ぬえーーそう彼に呼ばれた少女、封獣(ほうじゅう) ぬえは、彼の言い分に"むむむむぅっ!"と唸っていた。

 

「やだねっ! 今更謝る気なんてないもん!

 そもそも、妖怪がイタズラとかしちゃいけないわけっ!?

 あんたはあたしらを根絶やしにするつもりっ!?」

 

「うるさいな。 そこまで考えてねーよ。

 そもそも、んな事しなくても人間は今日も平和に妖怪を恐れてるよ。

 その心配は杞憂ってやつだ」

 

「はぁ!? 何もしない妖怪を人間が恐れる!? ハッタリも良い加減にしときなよ!

 何もしなかったらあたしの存在意義が危ぶまれるでしょうーがっ!!」

 

「………………(あぁ〜もう面倒臭ぇなコイツ……)」

 

 諦めずに屁理屈を並べ続けるぬえに、双也は段々とイラつき始めていた。

 それも当然だろう。

 何せ、この手の言い合いは何度も勃発し、その度になんやかんやと逃げられ続けて来たのだから。

 

 初めは、宝船騒動が収まってから数日後だったろうか。

 簡単に言えば、ぬえが双也を驚かす事に失敗したのが発端であった。

 

『がぉぉおおっ! 食べちまうぞぉお!』

 

『………………』

 

 能力によって、巨大な怪物の姿(のつもり)で襲いかかってきたぬえに、しかし双也は無言で苦笑いする。

 勿論だ。 何故なら、双也にはぬえの能力が殆ど効いていないから。

 要は、本体である少女の姿が見えているからだ。

 大昔に初めて出会った時でさえ、双也は能力を発動したぬえの姿に違和感を覚えていた。

 当時よりも格段に強くなった双也に、今のぬえの能力が効く道理など微塵もないのである。

 

 彼の様子に、明らかな違和感を覚えたぬえ。

 様々な疑問が浮かび上がる中で、彼女はふと"あれ、なんか前にもこんな事があった様な……"と思い返した。

 そしてそれがきっかけであったかの様に、次々と復元されていく昔の記憶。

 双也の事を思い出した時には既に、その顔は真っ赤になっていた。

 

『うわぁぁあんっ! また失敗したぁぁあああっ!!』

 

『うぉいっ! ちょっと待てよっ!』

 

 羞恥を隠す様に逃げ出したぬえを、双也は咄嗟ながらも追い掛けた。

 実は双也の方も、ぬえにちょっとした用があったのである。

 ただ、もともと"偶然会ったらでもいいか"と後回しにしていただけに、突然現れた彼女に不意を突かれたのだった。

 しかし、ぬえだって仮にも長い時を生きた大妖怪の一人。

 その身体能力は、そこらの木っ端妖怪とは格が違う。

 双也も咄嗟に追いかけ始めた為、その時はあっという間に見失ってしまったのだった。

 

 そんなこんなで、なんやかんやと逃げられ続けた双也は、やっとの事でぬえを森の一角に追い詰める事に成功していた。

 既に、ぬえがその能力によって当時飛び回っていた飛倉の破片にイタズラしていたことは知れている。

 そしてそれを認めていながらもぬえは頑として謝ろうとはしないのだった。

 何度も何度も、それこそぬえを見かける度に説得を試みる双也であったが、成果は未だ得られない。

 そのまま、今の今まで、ズルズルと先延ばしにしてしまっていた。

 そんな経過を経て時既に大分経ち、彼のイラつきもピークに差し掛かりつつあったが、ここまで来れたのならもうどうでもいい。

 後はどうにかして、こいつを命蓮寺まで連れて行くだけだ。

 双也は軽く深呼吸し、突沸しそうになる心をどうにか鎮めた。

 

「あのなぁぬえ、そりゃ妖怪にとって恐れられることは存在するのに必要不可欠だけど、無理矢理恐がらせる必要も特に無いんだよ」

 

「はぁ?」

 

「お前だって分かってるだろ?

 そもそも幻想郷は"そういう前提"の元に作られてるんだ。

 "人は妖怪を恐れ、妖怪は人に退治される"っていう掟を前提にな。

 お互いに譲歩して共存を成し得てるのに、そこでお前が大なり小なりやり過ぎれば、成敗の対象になる。

 俺だって別に、お前を成敗したくて追い回してるんじゃないんだから」

 

 危ういバランスを保つ中で自分を主張しすぎるものがいれば、天秤が傾かない様に取り除く必要がある。

 それが殺す事に直結する訳ではないが、痛い目にあうのは確かだ。

 ぬえだって馬鹿な訳ではない、それくらいの頭は使える筈である。

 そもそも、双也は驚かされたのを憤って追い掛けていた訳ではないし、"ぬえが最近暴れてるから退治してほしい"と紫に頼まれた訳でもない。

 色々と、すれ違いが起きているのだ。

 

「……でも、妖怪の本分には変わりないじゃないの!

 だからやめようとも思わないし、イタズラしたって謝んないからね!」

 

 ふいっ、とそっぽを向き、ぬえは再び空に飛び上がった。

 追い詰められた為上方向にしか逃げられないのだろう。

 その様子に、双也はもう一度深い溜め息をついた。

 

「はぁ〜……仕方ないな。 ちょっと手荒だけど……引き摺っていくからな」

 

 ーー縛道の六十三『鎖条鎖縛』

 

 放たれた霊力の綱が、空飛ぶぬえの足首に巻き付き、続いて身体中を巻き上げた。

 

 ーー縛道の六十一『六杖光牢』

 

 続いて現れた光の錫杖は、勢い良くぬえの身体に突き刺さる。

 

「何時までも懲りないお仕置きっつー事で、次いで」

 

 ーー破道の十一『綴雷電』

 

「ぎゃぁぁぁあああっ!! 痛い痛い痛いぃっ!!」

 

 鎖条鎖縛の綱を伝い、バリバリと電撃が襲い掛かった。

 死んでしまうほどの威力ではない故にお仕置きにはちょうどいい破道なのだ。

 "そうだよ、最初からこうしてりゃ良かったじゃんか"と、双也も内心で呟いた。

 

 双也は"綴雷電"を止めると、プスプスと少しだけ黒い煙を上げるぬえを引き寄せ、文字通り彼女を引き摺り始めるのだった。

 向かうは、人里近くの命蓮寺である。

 

「ぅぅうっ、鬼ぃ! 悪魔ぁっ! 幼気(いたいけ)な女の子を簀巻きにして引き摺るなんて何事だぁっ!」

 

「はいはい、幼気幼気」

 

「何だその言い方はぁっ!!」

 

 縛り上げられて引き摺られる。

 余りにも惨めな姿となったぬえの叫びは、森中に木霊していたという。

 

 

 

 

 

「ところで、ぬえ」

 

「……何さ」

 

 ズルズルと引き摺る音の中に、ぬえの不満気な返答が混じる。

 最早文句を飛ばし続けるのにも疲れたぬえは、ただただそうして不満の意を目と声で発信するしかできないのだった。

 しかし、当の双也は何処吹く風。

 彼女の不満などないものの様に、言葉を返していく。

 

「お前、まだ何かイタズラしてんのか?」

「……は? 何言ってんの?」

 

「いや、まだ俺に幻覚見せようとしてんのかと」

 

「……はぁ??」

 

 心外だ。

 そんな叫びが聞こえてきそうな程にぬえは声を歪めた。

 だって、自分は追いかけ回された上に電撃を浴びて、挙句簀巻きにされて引き摺られているのだ。

 これ程惨めな姿は無い。

 そこから更に疑われるなんて。

 あまりと言えばあまりの扱いに、ぬえは瞬間的に怒りを滾らせた。

 こんな惨めな状態で発露する怒りが、同様に惨めな物だと何処かで分かっていながら、それを心の内で叩き伏せられる程度には。

 

「あんた、そこまでしてあたしを悪者にしたいのか!!

 そもそも、あたしの能力は通用しないってあんたが一番知ってんでしょうーが!」

 

「いや、確かに効かないんだけどさ……なんか、幽霊がたくさん見えるから、幻覚なのかと……」

 

「幽霊ィ??」

 

 他意なく、且つ素直な疑問だとぬえはなんとなく察したが、それで怒りが萎えることはない。

 その程度で萎える様な怒りを覚える程、ぬえは真っ直ぐな性格をしていないのだ。

 隙さえあれば難癖付けて、次いでに悪戯できたら万々歳。

 そういう意味では、ぬえは実に天邪鬼な妖怪だった。

 

 とは言っても、双也の口にした話に気が向かないと言えば嘘になる。

 疑われたのは心外だったが、同時に、自分の仕業ではない事柄となるとどうしても気になるものだ。

 

 ーーまぁそうは言っても、幽霊なんて木っ端妖怪と同じくらいいると思うけど……。

 

 自分の考えも心の内で浮かばせながら、やっぱり気になる。

 そもそも、"幽霊が珍しくない"なんて事は、自身よりも長い間ここにいる双也だって分かっている筈だが?

 若干の違和感を覚えながら、しかしその興味の向くままに、ぬえは動かしにくい首をどうにか回して周囲を見渡す。

 ーーその拍子だった。 ぬえの強烈な怒りが消し飛んでしまったのは。

 

 

 

「〜〜ッッ!!?!??!?!?」

 

 

 

 すぐ、目の前に。

 それこそ、もう少し近付けば唇が触れてしまう程近くに、それ(・・)は居た。

 曖昧な姿、透き通った身体。

 漂う冷気と、辛うじて確認出来る虚ろな瞳。

 眼球が飛び出るのではと思う程見開きながら低い声で唸り、息が掛かる程の至近距離でぬえの瞳をジッと見つめている。

 唐突過ぎる出現に、ぬえは声にならない絶叫を上げた。

 

 ーー目の前に、幽霊の顔があった。

 

「あっ、あがががっ、そ、双也ソウヤそうやぁっ!! ゆ、ゆゆゆ幽霊ゆーれいっ!!」

 

「おぉうなんだなんだ!

 ーーってなんだソレか。 だぁから幽霊たくさんいるんだけどって言ってんだろさっきから」

 

 ぬえの震え切った声に少し驚くも、双也の声音はすぐに面倒臭そうなものに切り替わった。

 ーーホントこいつ、あたしと居る時は面倒臭そうな顔ばっかするわね!

 相変わらずな彼の態度に怒りが再燃しかけるぬえだったが、今はそれよりも、驚きの所為で激しく拍動する心臓が、文句を飛ばす事に抵抗していた。

 だから、懲りもせず視線だけで意を唱える。

 

「ほら、俺ばっか睨んでないで、周り見てみろよ」

 

「うん? ーーッ!!」

 

 顎で示された方へ首を回す。

 先程はそれで完全な虚を突かれたが、今はもう心構えが出来ている。

 だから、大して驚かないつもりでいた。

 ーーつもりではいた、のだが。

 

 二人が見回した視界には、異常な数の幽霊が、ゆらゆらと映っていた。

 

「な、何、この数……! 異常だよこんなの……」

 

「……って事は、ぬえの仕業じゃないのか」

 

「まだ疑ってたのかっ!! 

 ーーってそれはもういいよ! 問題なのはこれが普通じゃないって事!」

 

「……確かにな」

 

 ぬえの訴えに、双也も素直に同感した。

 そもそもよく考えてみれば、ぬえの能力は幻覚を見せる事ではなく、物体を別の物に見せる事だ。  仮にぬえの能力が発動していたとして、幽霊達の正体が何の物質か分からずとも、こんな数の宙に浮く物体など双也は知らないし、聞いた事もない。

 だからどの道、ぬえの仕業ではない。

 内心で彼女にちょっとした罪悪感を感じながらも、双也はそれを無視する事にした。

 彼女の言う通り、それは今問題ではないからだ。

 

 更に、双也に言わせてみれば、たった今漂っている幽霊達が、唯の幽霊の様には感じられなかった。

 これだけの異常事態である、異変である事は最早明確だとしても、原因や概要が分からない以上、彼の不安はやはり拭えなかった。

 

「……あれなんだ? ただの幽霊って感じじゃないんだけど」

 

「……あれ、神霊ってヤツだよ。

 確かに普段から存在はするけど、普通こんなには出てこない。

 ……なんか、あたし達が思ってるよりも大変な事になってるんじゃ……」

 

「……ふむ、神霊か」

 

 ポツリと双也は呟いた。

 何か心当たりがあるのか、それとも唯の納得の証なのかはぬえに判断が付かなかったが、彼が何かを思案している事は分かった。

 

 ーーま、まぁ私が何かする訳ではないんだけどねっ!

 

 成り行きで深刻な雰囲気になってしまい、ふとそのまま自分が異変解決に参加させられる気がしたぬえは、慌てて心の中で反論した。

 勿論双也に聞こえる訳はないのだが、自分の意思を改めて確認する事はできる。

 だから何を言われても反抗する心構えがこの時出来た。

 

 よし、絶対こいつに協力なんてしないぞ。

 頼まれても絶対断る!

 頼まれる可能性自体低くはあったが、この際それはどうでも良かった。

 頼まれないなら頼まれないで手伝うつもりが無かったからだ。

 だから、頼まれた場合の対応だけが重要なのだ。

 そして散々と双也に振り回されたぬえとしては、最早神霊云々よりもそちらが大事だった。

 これは唯のプライドの問題である。

 そしてぬえにとってプライドに勝る理由はない。

 だから。

 

 ーーズルズル。

 

「……?」

 

 不意に、ぬえの視界が横に流れ始めた。

 最早説明の必要など微塵も無いが、まぁ当然、双也が再び引き摺り始めた為である。

 しかし、ぬえはそれを少し不思議に思った。

 いや、不思議というよりも、不自然に感じた。

 

「あの〜、双也? この神霊達はどうするつもり?

 っていうか、何であたしを簀巻きにしたまま移動を始めてるのかな?」

 

「ん? いや、別に理由なんて無いけど。

 神霊達に関しては、まぁ霊夢が何とかするだろ。 霊に関する事だから、今回は妖夢も来るかもしれないな」

 

 いや、その妖夢ってのは知らんけど。

 それはぬえの求める答えとは違った。

 

「いや……え? 何、あんた異変解決しに行くんじゃないの?」

 

「はぁ? 何で俺が異変解決しなきゃならないんだ?

 成り行きとか、頼まれたならまだしも」

 

「……えっ?」

 

 ぬえは、只々ポカンとしていた。

 ちょっと頭がショートしていた。

 

 え、あれ? こいつって異変解決者じゃなかったっけ? だって前の異変の時船に乗ってたよね? あ、でもあれって厳密には異変じゃなかったらしいし……ああいや、でも解決に出た時点では異変だって思ってた訳で、異変解決に乗り出した訳であって……。 あれ? そもそも何でこいつこんな事言い出すの? あんたの妹、異変解決者だよね? 手伝ってあげてるんじゃないの?

 

 グルグルと意味のない疑問が渦を巻く。

 そしてぬえはそこから抜け出せないでいた。

 直前とはいえ、あれだけ想定して今度こそ振り回されまいとした彼女の対策は、双也の前に呆気なく敗れ去ったのだった。

 そりゃ、想像の斜め上をいく返答を返されれば、ショートしてしまうのも珍しい事ではない。

 ただ、ここまでの経過を経たぬえにとってはそれが屈辱でもあり。

 

「ほら、俺達は構わず命蓮寺に行くぞ」

 

「〜〜ッもうヤダこの人〜っ!!」

 

 ーー再び、彼女の悲痛な叫び声が、幻想郷に響き渡る羽目となるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーこれは一体、どうした事だろう?

 

 聖 白蓮は困惑した。

 只々困惑して、それを表に出さないように偽ろうとするのに精一杯だった。

 寺の中はいつも通りだ。

 朝起きて、軽く掃除をし、教えを説く準備を整える。

 大抵はこの間に一輪や星や水蜜が起きてきて、食事の準備とか、寝間着の回収だとか、そういう手伝いをしてくれる。

 そしていつも、午後には説教を始められる状態である。

 

 そこまでは今日も同じだった。

 いつも通りに人が集まり、そして妖怪が集まる。

 現に、自分は今だって皆の前で教えを説いているところだ。

 

 ーーしかし、ただひたすらに集中できないでいた。

 

 始終ずっと上の空というか、自分が何を言っているのか理解できていないというか。

 目が右に左に泳ぎまくっている事だけは確かだ。

 幸いなのは、それが白蓮だけではなく、目の前にいる一部の妖怪達も同じ状態に陥っているという事だろう。

 これが白蓮一人だけの様子だったら、さすがの彼女も恥ずかしくて説教なんて続けられない。

 

 だが、余りにも集中を欠いているのは事実である。

 "目の前にユラユラと揺れ動く神霊達を見て"、白蓮は心の中で深い溜息をついた。

 勿論口だけは動いている。

 動かして喉を震わせているというだけで、意識などほんの一欠片だって相手には向いていないのだが。

 

「(……やっぱり、アレ(・・)の所為ですよね……)」

 

 口と意識を切り離しながら、器用にもそんな心配を膨らませる。

 とういうのも、この事態には少しだけ、心当たりがあるのだった。

 大分前の事だが、自分達が幻想郷へ来た時に施したある"予防線"。

 そしてその予防線となっている自分自身の力が足りなかったという事実。

 白蓮は思わず、大きな溜め息を吐きそうになった。

 

 ーーっといけないいけない。 あくまでもお説教中でしたね……。

 

 白蓮はハッとして、再び思考を元に戻した。

 こんな大勢の前で突然溜め息なんかしたら、どんな目で見られるか。

 少しだけ臆病とも思えるそんな恐怖感でどうにか思考を持ち直し、白蓮は今度こそ集中しようと前を見た。

 

 ーーそんな折の事である。

 

「………………」

 

「(……?)」

 

 静かに側に寄ってきた一輪に、ちょんちょんと肩をつつかれた。

 何事かと不思議に思ったが、白蓮が問いかける前に一輪は顔を寄せ、そっと耳打ちをした。

 

「! そうですか。 では、説法の方は星に頼んでおきます」

 

 あくまで小声で。

 白蓮はそう一輪に言い残すと、すっとその場を後にした。

 向かうのは客間である。

 何でも、彼女に客が来ているらしい。

 勿論、唯の客だったならば、説法を抜け出してまで相手などしない。

 だが、今回はそうもいかないーーというより、白蓮自身も少し頼みたい事のある相手だった。

 

「(向こうから来てくれたのならば、丁度いいですね)」

 

 心の内でそう思いながら、若干申し訳ない気持ちも湧き上がってきて。

 何とも複雑な気持ちのまま、白蓮は静かに客間の戸を開けた。

 そして、微笑みかける。

 

「お待たせしました。 歓迎しますよ、双也さん」

 

 客間には、既に双也と見知らぬ妖怪(簀巻きにされたぬえ)が座っていた。

 

 

 

 

 




ぬえって弄り甲斐のあるキャラですよね(笑)

ではでは。

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