あ、マミさんの能力については大部分が独自解釈なので、それを忘れずに。
いやぁ、あの人ならこれくらいできてもいいと思うんですよね。
ではどうぞ!
『化かす』という事がどういう事なのか、双也は戦闘の最中に、その意味を如何に理解していなかったのかを思い知った。
化かすとは、主に狐や狸が何かに成り切ったり、それらが人間を驚かす、という意味で使われる。
実際、その手の事例は数多くあるし、最も一般的な認識と言える。
だが、双也が噛み締めた事象は、その程度の甘っちょろい術ではなかったのだ。
『化ける』とは即ち、別の物として姿を変える事。
ならば『化かす』とは、どう捉えられるのか。
確かに驚かすという意味もあるだろう。 一般的な言葉の使われ方としてはむしろそちらが正しい。
ーーしかし根本的な意味としては。
あるものを別の物として見せるーーつまり、"姿を変えさせる事"を『化かす』と言うならば。
最早それは、物質を金属に作り変えると言われる錬金術に近い。
いやむしろ、何に作り変えるのかを限定しない分、より強力な術と言えよう。
そんな能力を操る者と対峙したのならどういう立場に立たされるのか、最早想像には難くないはずだ。
つまりーー。
「厄介極まりねー能力だなっ!」
「お主の周り、全てが儂の攻撃範囲と思ってくれて構わんぞ!!
そぅらッ!」
マミゾウの放った大量の石ころ。
それは白い煙を噴き出すのと同時に姿を変え、多くの手裏剣となって双也に襲い掛かった。
石ころが"化けた"と言っても、それは本物の手裏剣と大差はない。
触れれば切れるし、当たれば刺さる。
『化かす』事によるマミゾウの猛攻を受けていた双也は、敢えて前方へと駆け出した。
「アステロイド『
放たれた弾が、中心を駆ける双也の周りで弾けて消えていく。
最短距離を最速で駆け抜けた双也は、急速にマミゾウへと肉薄すると、躊躇いなく横に一閃。
ーー斬り裂いたのは、"木の壁"だった。
「危ないのぅ!」
大きく仰け反って避けたマミゾウは、そのまま後方へばく転し、次いでとばかりに双也が斬り飛ばした木に能力を掛けた。
白い煙が噴き出し、現れたのはーー元の木ほどはある巨大な木刀。
それが、真下にいる双也目掛けて襲い掛かる。
「それで終わりでは、ないぞ!」
遠慮はなかった。
マミゾウとて久方ぶりの強敵との戦闘である。
巨木刀だけでは足りないと、彼女は小枝を鋭い刀へと化けさせ、大妖怪の名に恥じぬ速度で一瞬にして双也の周囲に立つ木々を断ち切った。
切れれば、木は当然倒れる。
巨木刀が落ちてくるよりも早く、周囲の木々が双也にのしかからんと倒れていく。
潰されれば、人の身では到底耐え切れないのは確かな程の重量である。
マミゾウは、僅かに口元を釣り上げた。
ーーしかし。
「特式三十七番ーー」
落ち着き払った表情で霊力を練る双也の姿が、彼女の背筋をぞくりと震わせた。
「ーー跳弾反吊星!」
双也の頭上に張られた座布団のような霊力が、倒れてくる木々と巨木刀を一気に止めた。
驚愕するマミゾウを尻目に、双也は更に手を突き出す。
掌から溢れ出る雷を視界に捉え、マミゾウは慌てて防御体制をとった。
「特式六十三番『雷虎ノ咆哮』」
その宣言とほぼ同時。
止められていた木々がまるで意志を持ったかのように浮かび上がり、マミゾウ目掛けて勢い良く飛んだ。
その先駆けとして着弾したのは、鋭く収束された雷の衝撃波である。
弾けるような炸裂音と共に、マミゾウの身体はいとも簡単に吹き飛び、それを追撃するように木々の超重量が襲い掛かる。
「っ! まだ、じゃよッ!」
吹き飛ぶ身体を踏ん張って止めながら、マミゾウはきっと正面を睨んだ。
迫る木々。 変化は解いても結局は木が飛んでくる。
この状況でマミゾウが選べる手段は、自ずと限られていた。
「ーーはぁッ!!」
納めていた膨大な妖力を、一瞬だけ解放する。
妖力版の霊撃ーー所謂、妖撃である。
大妖怪たるマミゾウのそれは、相応しい威力で木々に衝突。
突風を巻き上げながら、襲ってくる巨木達を粉々に砕いた。
「はぁ、はぁ……成る程のぅ。
こりゃ、とんでもない奴じゃ。
木々を破壊するでもなく投げ返してくるとは、中々に焦ったわい」
「……その能力も大概だな。
そこら全てが危険に見えて仕方がない」
「ふぉっふぉっ! 最早それも皮肉に聞こえるのぅ!
その余裕が恐ろしい限りじゃよ!」
双也にとっては、それは皮肉でもなんでもなかった。
彼の言ったことは全て事実であり、全てが本音である。
マミゾウの能力を、彼は心底厄介に思っていた。
その応用力のみを見れば、"繋がりを操る程度の能力"にすら匹敵しかねない強力な力。
それをよく分かっているのだ。
化ける、もしくは化けさせる事による攻撃の多彩さは、今まで対峙してきたどの妖怪とも比較にならない。
次の瞬間には一体何が襲ってくるのか、全く以って予想出来ないのである。
「(霊力をもっと解放しても良いのかもしれないけど……そうすると周りの被害がな……。
こいつに勝つためだけにここら一帯更地になんてしたら、絶対紫に怒られるし……)」
森にいるからこそ掛かってしまう、能力の制限だった。
解放度合いを上げれば、成る程、マミゾウに勝つだけなら容易だろう。
それこそ全解放したならば、この場を動かずとも次の瞬間には目の前の景色を丸ごと消し去る自信はある。
ーーしかし、実際問題そんなことは出来ない。
人道的にも道徳的にも、言ってしまえば双也の性格的にも不可能な事だ。
力を制限しながら、ある程度被害を出さずに済ませる必要があるーー。
「……ふぅ」
「ん? なんじゃ、バテたのか?
それなら潔く負けてくれないかのぅ。
疲れたなら、休みたいじゃろ?」
「バカ言うなよ。 あれくらいじゃ疲れないし、はいよと負けてやるつもりもない」
「じゃあ何の溜め息じゃ」
「……正直、俺も早めに終わらせたい気持ちはある。
そりゃ本気でやればすぐに終わるけど、周りの被害がでかすぎてな」
「……まだ、本気ではないと。
分かりやすい挑発じゃ」
「そう思うならそれでも良い。
だからまぁ、少し視点を変えてだなーー」
ゆっくりと、反射して輝いていた月光が小さくなっていく。
蒼い刀身が隠れて行き、終いにキンッと軽い音を立てる。
ーー双也は、天御雷を鞘に納めた。
「……?」
そして、訝しげな視線で睨むマミゾウに向けて、両の手を突き出す。
双也は不敵に、笑っていた。
「"被害を出さないように"、じゃなくて、"被害が出る前に倒す"方向で、戦おうと思う」
ーーアステロイド「
その、瞬間。
マミゾウの直ぐ横を駆けた一閃の光が、後方で凄まじい炸裂音を響かせた。
振り向かずとも、背後から届く鮮烈な光と音が、その威力を端的に物語っていた。
そして、その光の弾丸を少しだって目で追えなかった事実が、マミゾウを戦慄させた。
ーー止まっている場合ではないッ!
その驚異的な速度と威力に止まりそうになった思考を、マミゾウは無理矢理回転させた。
怖がって動かないのでは確実に当たる。
怖いからこそ、動いて躱すべきだ。
マミゾウが咄嗟に飛び退いた地点では、次の瞬間には弾丸の嵐が吹き荒んでいた。
「なんっじゃその弾はぁっ!?
お主、程度ってものを知らんのかっ!?」
「失敬だな。 確かに当たれば痛いが、せいぜい気絶する程度だ」
「痛みでショック死しかねんではないかっ!」
文字通り、目にも留まらぬ速度の弾丸が機関銃のように放たれる。
着弾した地点からは光が炸裂し、その度に汗を浮かばせるマミゾウの姿を夜闇の中に浮かび上がらせた。
例えこの世界の自然に影響がないとしても、当たれば致命傷は確実である。
それこそ、マミゾウにはその弾丸が、痛みによる気絶を通り越してショック死しかねない威力に見えた。
まさに"
笑えないネーミングである。
「ちっ! 避け続けても不利かの!」
大妖怪と言えど、体力が無尽蔵にある訳ではない。
それこそ双也程の強者と相対したとなれば、その消耗は本人が思う以上のものとなるだろう。
マミゾウはそれをしっかりと理解していた。
理解していたからこそーー攻めの一手に出た。
「(あの弾丸の威力は計り知れん。
しかし、一発で万物が滅び果てる様な理不尽な物ではない。
ーーそこに勝機がある!)」
マミゾウは、嵐の如く襲い来る弾丸にその身を掠らせながら高く飛んだ。
浮かび上がった大きな月を背に、彼女の瞳が鋭い光を放つ。
「万物を化かす儂の本気ッ!!
受けてみよッ!!」
その、瞬間。
マミゾウの振り絞った妖力が、二人の頭上で巨大な煙となって"爆発"した。
その轟音は凄まじく、また巻き起こった突風が、森中の木々の葉を掻き鳴らす。
絵の具の様な不可思議な白煙は黙々と立ち上って、その中身を徐々に明らかにしていく。
現れたのはーー空を覆うかと思われる程巨大な、岩。
否。 それは最早、突如現れた隕石そのものだった。
「儂が誇る最後で最高の術、『大気の変化』ッ!!
止めてみるのじゃ、神薙 双也ァッ!!」
最早マミゾウには、妖怪達の助っ人などという目的は頭になかった。
ただただ、目の前の見た事も聞いた事もない程強大な存在の、力の底を見てみたかった。
自分がそれをこじ開けられるとは思っていない。 しかし、その片鱗が見られれば彼女としては満足だった。
だからこそ、世の化け狸の中で彼女のみが辿り着いた変化の境地ーーこの世に無尽蔵に存在する"大気の変化"を発動したのだ。
大気そのものを変化すれば、事実上どんな物でも、どれだけ多くとも、どれだけ重くとも、正に万物に化かす事が出来る。
"究極の変化"こそがマミゾウの底力。 これこそがマミゾウの真の実力。
彼女は、その大きな瞳を精一杯に開き、己の本気を向けた相手を期待と興奮の眼差しで見つめた。
「……だから、被害がでかいっつーの」
既に、"滅びを運ぶ弾丸"は放たれていない。
そしてその強烈な炸裂音が響かなくなった事で、マミゾウは、双也のそんな呟きを聞いた気がした。
「特式九十六番ーー」
膨大な霊力が双也の掌で溢れ出し、炎の様に揺らめいている。
危機的状況とは思えぬ程にゆっくりとした動きだったのはきっと、マミゾウの感覚遅延が理由ではない。
目を瞑り、双也はただ掌の霊力を練り上げる事だけに意識を向けているのだ。
揺らめく炎が激しさを増していく。
深海色の霊力がはち切れんばかりに詰め込まれ、しかしその統率を失わず、掌の上で時が満ちるのを待っている。
パチンーー。
いやに響く柏手と共に、炎が、弾けた。
「ーー『
弾けた炎は掌からでなく、隕石の芯を捉える様に地面から噴き出した。
煌々と紅く煌めく炎が立ち上ったかと思うと、その鋒を模した劫炎は一瞬の内に隕石を貫き止めた。
その圧倒的な熱が、硬い岩肌をも溶かし貫いているのは遠目にも分かる。
何千度かも計れぬ灼熱が、周囲の空気すら焦がして天を衝いているのだ。
ーーしかし、それだけではない。
一刀が隕石を貫いたのを皮切りにして、球を形作る様にその周囲にも爆発的な炎が噴き出していく。
現れた七つの炎は、一刀目の中心を狙う様にして次々と弾けた。
「な、何じゃ……こりゃあッ!?」
二刀、三刀、四刀、五刀ーー。
その進行を妨げる岩肌を物ともせずに、一瞬で溶かしては突き崩し、遂に八つの巨大な炎刀が、幻想郷の夜空に奇妙で巨大な磔架を作り上げたのだ。
巨大な隕石を巻き込み、地面に着けさせる事はなく、周囲の空気すら焼き焦がして発現した灼熱の磔架は次の瞬間ーー八刀の交点、中心から弾けて、幻想郷の空を暫し紅蓮に染めたーー。
「だぁぁあああっ!! 負けじゃ負けじゃ! 勝てる訳なかろうこんな奴にッ!!」
灼熱によって焼け焦げた森。
その中心で、マミゾウは自棄になったかの様に喚いた。
最高の技をあんな派手に打ち破られては、マミゾウも堪らないというものである。
そしてそれを涼しげに行使するこの神薙 双也という男も、マミゾウはジトッと睨みつけた。
「さて、色々と話を聞かせてもらおうか。
誰に呼ばれたのか、目的の詳しい説明。 あと、俺を襲った理由をな」
特に怒った表情をするでもなく、双也は静かにマミゾウを睨み付け、蒼い刀身を彼女の鼻先に向けた。
そう。 そもそも、双也にはマミゾウとの因縁や因果はない。
全くの初対面で、突然彼女は襲い掛かってきたのだ。
彼にとっては謎だらけである。
少しでも解いておかなくては、夜も眠れない。
暫し視線の交錯が続き、最早虫の声もなくなった森の静寂が二人を包む。
そして、やっとマミゾウが口を開いたーーかと思えば。
「ちょっ! ストップストップちょっと待って二人ともぉぉおおっ!!」
少女特有の甲高い声が二人の鼓膜を揺らし、続いて二人に割り込む形で、間に土煙が舞った。
「いたたた……じゃなくて!
ちょ、ちょっと落ち着こうよ二人共! ねっ? 戦っても意味ないからさ! ねっ!?」
小さな煙から姿を現したのは、黒い服に赤い羽根、青い尻尾の大妖怪。
彼女は、いつにも増して狼狽した様子であわあわと言葉を吐き出した。
「……ぬえ? なんでここに?」
「……あー、忘れとったわい。 そう言えば待ち合わせしておったな」
「待ち合わせ? じゃあもしかして、マミゾウを呼んだのはーー」
「左様。 この封獣 ぬえじゃよ」
成る程ーーと、双也はすんなりと納得した。
あの時命蓮寺から飛び出したのは、マミゾウを呼ぶ為か。
もともとそれ程気にしていた訳ではなかったが、謎が一つ解けて少しすっきり、である。
まぁその代わり、他の謎がその分深まってしまった訳だが……。
「……じゃあなんでマミゾウを呼んだんだ?
確か妖怪達の助っ人……だったか? そんなのが必要になる程危険な状態か……?」
「……え? だって、なんかヤバいのが寺の地下から出てくるんでしょ?」
「……ヤバいの?」
はて、そんな奴いたか……?
この時点で、双也には何となく会話が噛み合っていない様に感じていた。
寺から出てきたと言えば、神子達三人である。
今は命蓮寺に居候していて、人里や命蓮寺にとっては人出が増えて、助かりこそすれ問題など起きようはずがない。
ーーもしかして、神子達をそんなヤバい奴らだと思っているのか?
そう結論に至った時、双也は、自分が無意識に溜め息を吐いているのが分かった。
「……おい、ぬえ」
「なにーー痛いッ!」
ごちんっ、と、双也は取り敢えず、軽く刀の峰でぬえの脳天を打った。
不意打ちに怒りそうになったぬえだったが、顔を上げた瞬間に視界に映った双也の目が、酷い呆れの光を呈していた事で言葉を詰まらせた。
ーーなんかあたし、呆れられてるっ!?
「全く、暴走するのも大概にしろよ。 悪戯が過ぎるかと思えば今度は一から十まで勘違い?
何か事件になったら動くの俺なんだぞ。
お前は俺を過労死させる気か?」
「いや、あのーー」
「言い訳すんな」
ごちんっ。
ぬえは頭を抱えて蹲った。
その様子にもう一度大きく溜め息を吐くと、双也は刀を鞘に納めた。
「……時にぬえよ、さっきの言葉何じゃが……」
「な、なに……?」
「意味がないーーとは、どういう事じゃ? それに勘違いとは……?」
あからさまにギクリとしたぬえの様子に、彼女を見下ろしていた双也は軽い溜め息を零した。
彼はもう察していた。
ぬえのおっちょこちょいぶりに散々と振り回された双也だからこそ、ぬえが今回何をしでかしたのかがよく分かったのだ。
次いでに、自分がマミゾウに襲われた理由も。
「えっと、そのぉ……事後で本当に申し訳ないんだけど……」
「なんじゃ?」
「………………あ、あたしがマミゾウに倒して欲しかったの、こいつじゃないんだ!
本当は別のやつを相手しもらいたかったんだけど、あたしの言葉が足りなかったばっかりに勘違いさせて……ご、ごめんっ!」
ぬえの突然の謝罪に、マミゾウは唖然とした表情を浮かべたーー訳ではなく。
むしろ、彼女は微かに笑ってすらいた。
頭を下げたままのぬえには、もちろん見えるはずもなかったが。
マミゾウも、予想はしていたことだったのだ。
彼女もぬえの性格くらいは知っている。 その落ち着かない様子も然り。
初めに双也との会話が噛み合っていないと感じた時点で、"ああ、これは人違いをしてしまったかもしれないな"と、彼女自身も考えていた。
ーーただ、それをぬえの所為だとは思っていない。
責任転嫁など虚しい事をする程、彼女は落ちぶれていなかった。
むしろ、笑い飛ばせるくらいに余裕があった。
「ふぉっふぉっふぉっ! 構わんよぬえ、儂は別に怒っておらん!」
「……え?」
「お前の落ち着きのなさは知っておるからの、少し間違ったくらいでお前を打つほど、儂ゃ器の小さい狸ではないでの。
そう嘆くな」
ーーこの神薙 双也と戦えたことも、いい経験になったしの!
にかっと笑うマミゾウを見上げ、ぬえは目尻に溜まっていた涙を慌てて拭った。
やはりいい奴だな、と。
彼女が許してくれた事を確認して、ぬえもまた、マミゾウに笑い返すのだった。
「全く、お騒がせな奴らだ。
つーか、なんで俺は巻き込まれたんだ。 買い物行ってただけなのに」
二人の和やかな空気を見て、双也は軽く愚痴を零した。
言ってしまえば、双也は今回の件に関しては完全に巻き込まれた側である。
面倒臭がりな彼が自然と愚痴ってしまうのも、当然の事だった。
「傍迷惑この上ないな……」
「ホント、迷惑な人達よねぇ。
こんな夜中にドンドンガラガラと……」
「全くだ。 こっちの気も考えろってーーッ!!?」
瞬間、双也は背後からの奇襲に身体を硬直させた。
いや、奇襲ではない。 襲われた訳ではないのだ。
ただ、すぐ後ろから今だけは会いたくなかった者の声が聞こえたから。
その会いたくなかった者に、後ろから抱かれて動けなくなってしまったから。
「ねぇ、双也……この森、こんなに開放的だったかしら?」
「……あ、え……っと……」
その突然の変化には、マミゾウとぬえの二人もすぐさま気が付いた。
現場の三人の中で最も堂々としていた者が、一瞬にして縮こまった様子に様変わりしたからだ。
そちらを見てみれば、彼の後ろには一人の影が。
双也を背後から抱き締め、しかしその抱擁に優しさなど欠片もない。
「ねぇ双也……この場所は、昔からこんなに焦げ臭かったかしら?」
「……ゆ、紫……?
なんか……ふ、雰囲気が……」
普段の何倍も色っぽい声で、紫は双也の耳元で囁く。
しかし彼にとってそれは、むしろ背筋を駆け抜ける悪寒にしかならなかった。
背中に愛しい女性の温もりがあるはずなのに、今の双也には、それを感じる余裕すらなかったのだ。
「ねぇ、双也……私が今からしようとしてる事……分かるかしら?」
「な、なぁ紫? 聞いてくれ、ああでもしないともっともっとでかい被害がーー」
「そ・う・や?」
「…………ご、ゴメンナサイ……」
正座で地面に座り、潔く説教されている双也。
突如現れた見慣れない大妖怪の姿を眺め、マミゾウは思わず苦笑した。
「(何じゃ、あやつにも弱点はあるんじゃないか)」
紫の前で先程よりも小さくなる双也の姿に、マミゾウは溜め息混じりの笑いを零す。
上には上がいるもんじゃなぁーーと、彼女は疲れたように背後へと体重を落とした。
ここから見える夜空は、清々しいほどに美しい満天の星空だった。
マミさんはいい人イメージが強いです。なんとなく。
ではでは。