あ、あと今回、いろいろごちゃごちゃしてるので注意。
次からは気を付けます。
ではどうぞ!
第百九十五話 対立する宗教家
ーー昔からふと、不安に思う事があった。
誰にも話していないーーいや、誰にも話せない事だから、思い浮かんではすぐに忘れ、思い浮かんではすぐに忘れを繰り返していた。
だから未だに解決する事も、答えを得ることも出来ていない。
……いや、違うな。
例えどんなに頭を捻っても、例え天地がひっくり返ったって、きっと解決なんてしないし、答えなんて出やしない。
全ての『結果』は、俺の目の前の風景……この世界そのものなんだと思う。
この世界は、現実だ。
紫や霊夢や魔理沙や早苗や……みんなが生きている正真正銘の現実。
疑いようもない。 みんなが息をして、自分の世界を持って、ちゃんと存在しているんだ。
ーーでも、俺はどうだろう。
みんなの世界があるように、俺にも俺の世界がある。
今はもう色鮮やかで、二度と失いたくないと思える美しい世界。
……だが、俺の中では未だ、"画面の中の世界だ"という認識も残っているのだ。
どれだけ時間が経とうとも、例え他のどんな記憶を忘れてしまっても、その認識は薄れこそすれ、消えることはなかった。
そんな俺が、"余所者"の俺が、その世界に入れ込んでしまったら、どうなるのだろう? 介入してしまったら、どうなるのだろう?
今更過ぎる、と笑ってくれていい。
もう遅い、と蔑んでくれていい。
俺がこの世界に転生した時点で、俺の介入はもう始まっているのだ。
普通この世界にあってはいけない、"画面の中の世界"の記憶は、その時既にこの世界に入ってしまった。
そして俺は、その世界の人達と浅からぬ関係を持ってしまった。
それがこの世界にどの様な影響をもたらすのかは、俺にも分からない。
俺自身がこの世界を壊滅させかけた事例はあるが、それを除けば今の所は、世界がぶっ壊れてしまう様な影響は出ていない。幸いな事だ。
みんな俺が"元から知っていた通りの"性格だったし、俺の影響によって誰かが欠けたりする事もなかった。
ーーただ、これからもそうなのかは、分からない。
俺はもともと、"ある時点"までの記憶しかーー消えかけてきているがーー持っていなかった。
そしてその記憶の末端が、もう見えてきている。
その先の事は俺も分からないし、知らない。
仮に"画面の中の世界"での正史とは違っても、俺にはそれを戻そうと頑張ることはできないし、気付くことも出来ない。
その先は、受け入れるしかないのだ。
ーーならば、俺はどうするべきか。
責任を負う者として何が出来るのか。
……答えは、決まっている。
今まで誰も欠けさせずにこの時まで来れたんだ。 例え俺がこの先の事象の変化に気が付く事ができなくても、正史に近い道は辿れるはず。
俺の所為で、本来いるはずの存在が消えてしまったなんて、笑えない。
だから。
だから。
「この世界の行く先は見届ける。
そして、自分の不始末は自分でつける」
自分に言い聞かせる様に、俺ははっきりと宣言した。
"宗教"とは、不思議なものである。
仏教やキリスト教を始め、様々な宗教がこの世には存在する。
それぞれがそれぞれの価値観や考え方を持ち、そして"何かしら"を信仰して人々の心を握るのだ。
大きなものから小さなもの、真の意味で全ての宗教を数えたならば、その数たるや星の数程。
中には、日本でいう"ヤクザ"の様な神を信仰する宗教すらあるのだから、全く驚きである。
そこで何が不思議なのかと言えば、それは結局の所、ほぼ全ての宗教の帰着は同一していると言うこと。
即ちーー宗教は人々の心を鎮め、慰め、そして掌握するためにあるのだ。
掌握する事で人々を纏め、また神は、その信仰によって力を得るーーまぁそれは結果論としても、だ。
宗教の必要性はそこにある。
誰かが人々の心を纏め、統率しなければ、そこにいる人々は混沌に包まれるのだ。
無秩序で、ルールも何もない。 何をしても誰も何も言わず、皆が皆好き勝手に暴れて、その内自らの居場所を自分で壊す。
宗教による統治は、必要不可欠なのだ。
特に、サイエンスよりもオカルトに重きをおく幻想郷ではそれが顕著である。
ーーそして、その宗教というもので人の心を握るのにも、必要不可欠なものがある。 それは宗教側にではなく、人々の側に、だ。
神などといういるかどうかもわからないものを信じる……当たるかどうかもわからない予言を信じる……ほぼ全てに於いて説得力の欠ける、言わば"
そう考えると、なんだか人の弱さと言うものが露呈してくる様で、何か怖い。
人がその不安や恐怖を取り除くためにそれを壊そうとするーー即ち、大規模な戦や戦争が起きるのも、きっとその弱さからなのだろう。
そして、それぞれの形で人を纏めようとする宗教が、同じ地域で同じ様に勢力を拡大しようとすれば、
ーーそんな事を、双也はふと賽銭箱の隣に座りながら、ぼんやりと考えていた。
いつにも増して博麗神社が熱気に包まれているのは、別に特別気温が高い日だからではない。
いつにも増してここが騒がしいのは、虫や鳥が大量に発生したからではない。
全て全て、この博麗神社に集まった人間達の熱狂が、そうさせていることだった。
この寂れきった博麗神社に、である。
勿論理由はあった。
博麗神社に限らず、最近の幻想郷ではこの手の光景はよく見られる。 この現象を起こしている原因が、博麗神社の庭にも現れた、と言うだけの話だ。
では、それは何かーー。
「神霊『夢想封印』ッ!!」
「恋符『マスタースパーク』ッ!!」
不意に、庭で激しい音と光が響き渡った。
ぼんやり眺めていた双也の目にも、それはしっかりと映っている。
その衝撃で突風と砂煙が舞い上がり、人々はしんと静まった。
ーーそして、煙の中から現れる一つのシルエット。
一人佇む霊夢を見た瞬間、人々は雄叫びにも聞こえる大きな歓声を上げた。
「うおおおお! 流石巫女ッ!」
「無敵の博麗ー!」
ある種狂気的にすら聞こえる歓声が、博麗神社に響き渡った。
その声に気を良くしたのか、霊夢は普段あまり浮かべる事のない自慢げな笑みを浮かべ、ゆっくりと神社の庭に足を付ける。
人々を流し見ながら、霊夢は軽快に境内の方へと歩いて来た。
気絶した魔理沙は、放ったらかしである。
「ふぅ! 全く魔理沙には困ったもんだわ。 宗教家でもない癖に首突っ込んで来てさ」
「まぁ、面白そうな事にはとことん関わろうとするのがあいつだからな」
「確かにね」
すとんと腰を下ろし、霊夢は一つ溜め息を吐いた。
双也にはそれが、戦闘を終えた後の一息の様にも聞こえたが、彼女にとってはきっと違う。
魔理沙の快活さに引っ張られる霊夢を想像して、双也は小さく苦笑を漏らした。
「それで、どうだ?」
「どうって?」
「だから、人気は集められそうか?
人気を集めて、博麗神社の信仰を復活させようって作戦だろ?」
「あ〜……どうかしら? 騒いでる奴らはちょちょいっと華麗に倒してるけど、そんなので信仰って上がるもんなのかしら?」
「頼りない巫女だな……」
「仕方ないじゃない。 今までこんな事態になった事ないんだから」
唇を尖らせる霊夢を横目に、それもそうかーーと小さく呟く。
双也の視線は、先程の熱狂などなかったものの様に神社を去っていく人々の背中を、じっと捉えていた。
異常ーーと言えば、それは大袈裟だと笑い飛ばす者はいるかも知れない。
しかし、今現在の幻想郷……特に人間達が少々おかしくなっている事は確かだった。
誰かが言い始めたのだ。 "幻想郷に於いて、人間が他に与える影響など皆無だ"と。
妖怪達が
ーーならば、もっと一瞬を楽しもうではないか。
何をしても変わらない。
何もしなくても変わらない。
ただただ怯えながら嵐が過ぎ去るのを待ち、暗い心を引き摺って生きるくらいなら、もっと刹那的に快楽を求めても良いじゃないか。
ーーそう言い出した後は、止まらなかった。
好き勝手に、思うままに行動を始めた人間達は次第に統率を失い、崩れ始め、しかしそれを止められる者はいない。
恐怖や無力感から来る心の闇が解き放たれた様に、人々は狂気的に一瞬の楽しみを見出す様になったのだ。
言うなれば、これはただ人々が集団で"開き直った"結果と言える。
しかし、その所為で人里は崩壊しかけている。
人里の崩壊即ち、幻想郷の崩壊にも繋がる。 言わずもがな、人妖のバランスが崩れてしまうのだ。
ーーそこで立ち上がったのが、霊夢達宗教家だった。
「でもま、泣き言も言ってられないだろ。 幻想郷の平和は博麗の巫女が守らないとな」
「……簡単に言ってくれるわねぇ。
仏教寺として白蓮も出て来たし、あの神子も参戦してるのよ?
簡単にいくとは思えないわね」
「そりゃそうだろうけど、このまま神社が廃れていくのもヤだろ?」
「……うん」
命蓮寺に住まう尼、仏教の白蓮。
現在は別空間に居を構える仙人、道教の神子。
霊夢の他に、我こそはと立ち上がった二人である。
どちらも宗教家、人々を纏め上げる立場にいる者だ。
まさに人々が混乱の渦を形作っているこの時に、名乗りを上げない訳がなかった。
全く、この世界は本当に飽きが来ない。
呆れるくらいに不可思議ばかりで、すんなりと上手く行くことなぞ殆ど無い。
漏れそうになったのは、皮肉染みた弱音だった。
楽しそうにしている双也の隣で言うのは何となく憚られ、霊夢は言葉を口の中で転がしてから呑み込んだ。
面倒なのは、本音である。
「あーあー、また何かしけたツラしてるなぁ霊夢!
倒された後にそんな顔されちゃこっちの肩身が狭くてしょうがねぇっ!」
「……何よ魔理沙。 倒されたら倒されたで文句を飛ばすくらいなら、最初から挑まないでよ。
あんた関係ないんだから」
「関係無くはないだろ! 幻想郷中で騒いでるんだ、私抜きで盛り上がるなよ!」
戦闘によって僅かにボロけた服には気を留めず、魔理沙はそう愚痴を放ちながらも霊夢の隣に座った。
相も変わらず憎まれ口を叩き合うが、それでも二人は親友だった。
「はぁ……自分から乗り出した事とはいえ、面倒よねぇ……。
なんかこう……パパッと簡単に解決する方法とかないかしら?」
「うーむ、地道にやるしかないんじゃないか?
心でも操れたら楽なんだろうが、そんな事出来ないしな」
「魔理沙の言う通りだ。
霊夢、お前は確かに天才だけど、そういう所は直した方がいいと思うぞ。
もっと地道な努力って物を知った方がいい」
ーーとまぁ、言ったところで霊夢は大抵何でも出来てしまうのだろうが。
内心でそう思い、しかし口は噤んでおく。
甘やかし過ぎは良くないとでも、言うようだった。
とは言っても、面倒臭がりなのは双也も同様だ。 霊夢の気持ちが分からない訳ではない。
人々を導くために立ち上がったは良いが、同じような理由で出て来たもう二人。 宗教の関係上対立する事は避けられず、やると決めた以上争わざるを得ないのだ。
しかし、地道な努力を経験する良い機会に変わりない。
変わりないーーのだが。
そんな双也の気持ちを霊夢が汲むかどうかは、また別の問題である。
「あ、楽な方法思いついたわ」
ポンと一つ拳と掌を合わせると、双也と魔理沙が反応するよりも早く、霊夢は隣に座る双也に詰め寄った。
彼女の純黒の瞳は、困惑する双也を真っ直ぐに射抜いていた。
「双也にぃが手伝ってくれれば良いのよ。 私の身内として」
「「……はぁ?」」
漏れ出た声は、見事な具合に同調していた。
霊夢の突拍子のない提案には、流石の魔理沙も堪らずに反論した。
「おいおい霊夢、"宗教家でもない癖に首突っ込むな"とか言ってたのは何処のどいつだったか思い出せよ」
「確かに私はそう言ったわ。
宗教に関係ないどころか関心すらない魔理沙が関わるべきじゃないってね」
ーーでも、双也にぃはそうでもないでしょ?
魔理沙の追求を物ともせず、霊夢は唄うように告げた。
魔理沙の歪んでいた表情は更に皺を深くしたが、当の双也には、彼女の言わんとしていることがなんとなく想像出来た。
ーー成る程、そう来たか。
と。
「双也にぃは厳密に言うと現人神よ。
しかも、本来は祀られて然るべきである位の高い天罰神。 加え、言ってしまえば私の身内。
魔理沙、あんたよりもよっぽど参戦する理由ーーいえ、義務があるわ!」
霊夢には見られないよう、双也は陰で苦い顔をした。
魔理沙には上手く隠せているのかもしれないが、霊夢の弁には幾つか誤った箇所がある。
先ず、確かに双也は現人神であるが、そもそも現人神は祀られる者ではない。
早苗が良い例である。 現人神は人間でもある影響で、信仰による存在の維持には無関係なので、祀られる必要はないのだ。
加え、天罰神はもともと信仰の必要ない神である。
次に、これは双也もあまり言いたいことではなかったが、霊夢と血の繋がりはない為"身内"で括るのは無理がある。
立場と経緯上お互いが兄妹と認めているだけである。
それに、"双也の身内"と括るならば、どちらかと言えば霊夢よりも紫だ。
どちらも、心の内で密かに思った事だが。
最後に、実は双也自身も宗教には興味がない。
元を正せば仏教徒であるーー日本人故にーーのだがそれは前世の話。
一体どんな考えで、信仰を必要としない天罰神が他の宗教を信仰すると言うのか。
結論的にーー双也に参戦する意思は、全くなかった。
「ね、良いわよね双也にぃ!?
私を手伝ってよ!」
「………………(う〜ん、しかしどうしたもんか……。
期待を裏切りたくないのも事実なんだよなぁ)」
しかし、やはり妹とは可愛いもので。
期待の眼差しを向ける霊夢の提案を、きっぱりと斬り捨てられる程双也の心は強くなかった。
助けを求めようとしても、魔理沙は既に興味を失ったのか、帽子から取り出した煎餅ーー内部がどうなっているのかは分からないーーをかりかりと齧っている。
自分でどうにかするしかないかーー。
思った、その時だった。
「はぁ……こっちでもコレなの……?」
呆れたような疲れたような、しかし双也にとって最愛の人の声が、不意に聞こえた。
三人がそちらを向いたのは、ほぼ同時である。
視線の先には予想通り、僅かに疲れた表情の八雲 紫が、佇んでいた。
「……紫、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも……私も困り果ててあなたを呼びに来たのだけど……」
「……は?」
疑問符を返す双也に対して、紫は無言のまま溜め息を吐いた。
彼女にしては珍しい、心の底から困り果てた表情である。
紫は伏せていた目を薄く開くと、ちらと霊夢と魔理沙の方を見た。
「……あなた達も来る?
どうせなら、全部一緒に話を付けてもらいたいのだけど」
「「……
内心では、人間関係も相当に面倒なものだと言う認識を確かに認めていた。
長い時間を過ごしてきた双也だからこそとも言える認識だが、実は皆、無意識には知っている事なのではないだろうか?
人は、人の気持ちを考えなければならない。
会話するのにだって何にだって、どのような人がどんな事を聞いて、どんな事を思うのか、予想を立ててから行動しなければならないのだ。
皆無意識にやっていることではあるが、言葉か文字に起こせばほら、どんなに面倒な事をしているか。
機嫌を損ねれば喧嘩になるし、逆に機嫌を取れば仲良くもなる。 しかし、常に心にも無いお世辞を並べていれば良いのかと言うとそうでもない。
加えて、その程度は人によって事細かに異なる。
双也自身、人間関係とその扱いというものにどれだけ辟易してきたか、と訊かれれば、目を逸らしながら苦笑いを零してしまう程だった。
ーーそしてこの時、双也はかつてない面倒臭さを感じた。
"人間関係って、やっぱりめんどくせーなッ!!"とは、彼のその後の弁である。
博麗神社からスキマに入った四人は、相も変わらず気味の悪い内部を歩いていた。
先頭は紫、続いて双也、霊夢と続き、魔理沙は霊夢の隣を歩いている。
「んで、何があったんだ?」
「行けば分かるわ。
まぁ、一言で言うならあなたに客よ。
「……二人って、まさか……」
そう呟いたのは、霊夢であった。
当然双也も、この時点で検討はついていた。
きっと彼女も、全く同じ想像をしているはずである。
「その二人が来たようだったから、あなたの代わりに私が相手をしたんだけど、なんだか話が拗れてしまって……あぁ、二人の間でね」
「……うーん、てことはやっぱ……」
「……ご想像の通り。
どうやら、あの二人も霊夢と同じ事を考え付いたらしいわよ」
新たなスキマが開く。
そこから覗いたのは、青々とした木々の葉、そして魔性のキノコ類だ。
踏み出せばそこは、魔法の森の奥地ーー双也宅の目の前である。
スキマから出た一行は、その瞬間に紫を困り果てさせた原因を突き止めたーーもともと検討はついているがーー。
「神子さん、あなたの言い分も御尤もなのですが、やはり道教よりも仏教の方が、今回に関しては向いているのでは?」
「だから譲れと? 白蓮、確かにあなたには恩がありますが、ここは引き下がれません。
そもそも、人を纏める上で私は誰にも引けを取らない自信があります。
ここは、あなたが引き下がるべきです」
双也宅の目の前で議論を熱くする二人の姿。
表情だけはにこやかに、丁寧な口調で話してはいるが、二人とも目は笑っていない。
お互いに喧嘩腰なのが火を見るよりも明らかだった。
「……おい、なんだアレ」
「簡単に言えばあなたの取り合いよ。 全く、考える事はみんな同じなんだから……」
ーーと、言う事は。
紫の言葉で結論を出そうとしたその時である。 不意に、議論を交わしていた二人の視線が双也に向いた。
どちらが申し合わせた訳でもないのに、二人はずんずんと歩み寄った。
その、威圧感と言ったら。
「「
「うぉいちょっと落ち着けっ!」
押され気味に制止を促すも、長い事口論を続けていた二人には耳に入らず。
お互いに、議論が平行線をを貫いていた事に余程苛ついていたのか、我先にと捲し立て始めたのだ。
なんと、面倒な事になったものか。
どうやってこの場を収めたものか。
双也は二人それぞれの言い分を聞き分けることもできず、たじろいでいた。
ーーともかく、何が言いたい訳……?
言い分を聞くことは諦め、双也は結論を二人に求めた。
「ーーで、何が言いたいんだ?」
「「
「オーケー分かった、取り敢えずマジで落ち着け」
ジトッと自分を見つめる二人を前に、双也は内心でどうしたものかと困っていた。
双也にとっては二人共大切な友人である。 幾ら弾幕ごっこという遊びとは言え、どちらか片方に手を貸してもう片方を吹き飛ばすと言うのも非常によろしくない。
落ち着けと言った手前、しかし何も言い出すことが出来ずに黙っていると、そんな彼を急かすかのように更なる追い討ちが。
「ちょっとあんた達っ! 何勝手に話進めてんのよっ!
双也にぃは私を手伝う義務があるんだから、どっちが手伝ってもらうかなんて勝手に決めないでくれるっ!?」
ーーああ、こいつやらかしやがった……。
内心で、双也は頭を抱えた。
「義務? 何を言ってるんですか霊夢さん、そんな私的な義務、この宗教戦争に於いては通りませんよ」
「だったら白蓮、あんたの主張も通らないわよ。 神子をぶっ飛ばしたいって、ただライバルを消したいだけじゃない!」
「義務だの主張だの言うのならどちらの話も通りませんけどね。 やはりここは私がーー」
「「
ぎゃいぎゃいと言い合う三人を見つめるのは、呆れ切った紫、我関せずと言った具合の魔理沙、そして歪んだ苦笑いを零す双也の視線。
話が余計に面倒臭くなり、もうどうにでもしてくれと嘆くような溜め息が漏れた。
全く、当人の事など何も気にしていない三人である。
「まぁ……アレだ。 お前も苦労してるな」
「…………同情するくらいなら場を収めるのを手伝って欲しいんだが」
「それは遠慮しておくぜ。
お前の問題はお前が片付けないと、お前の為にならないからな!」
ニカッと笑う魔理沙を前には、最早屁理屈に文句を飛ばす元気も湧かなかった。
はぁ、と一つ大きな溜め息を吐き出すと、双也は仕方なさそうに頭を掻く。
しょうがない、俺が話を纏めるかーーと。
幸い自分の意思は決まっている。 それを告げるだけだ。
問題なのはその後である。 参戦の意思がない事を話した後、きっと文句を投げつけてくる三人をどう切り抜けるか。
頭の隅で考えながら、双也が口を開いたーーその時だった。
「ねぇ……あなたが神薙 双也?」
少女の声が、双也を呼び止めた。
聞き慣れない声だった。 双也は勿論のこと、騒いでいた三人に魔理沙、紫でさえも聞いたことのない声。
その声の主を確かめるべく振り向けば、そこにはいくつかのお面を浮かべた、まるで感情の読めない表情の少女が立っていた。
「……そうだけど。 俺に何か用か?」
「うん。 私、
取り込み中の様だけど、あなたに用がある」
実の所、彼女の登場には多少の嬉しさを感じる双也であった。
イレギュラーには違いないが、だからこそこの八方塞がりな空気を打破してくれた。
そこには少しばかりの感謝すら感じる。
しかし同時に、何処かもやっとした感じも否めなかった。 彼女の登場が、果たしてどう転ぶのかーーその答えは、彼女の次の言葉がこれ以上無くはっきりさせた。
「現人神の神薙 双也、
最強の座を掛けて勝負を申し込むッ!!
「………………はぁ??」
ポンポンと、魔理沙と紫は、彼の肩を優しく叩いた。
色々詰め込んだら長くなってしまった……。
ではでは。