東方双神録   作:ぎんがぁ!

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今回も少し長くなってしまいました…。
いや、これぐらいの方が読み応えあるかな…?

初めの方は双也視点、中盤から久しぶりの三人称視点。

ではどうぞ〜!


第十九話 為政者への手解き

「あなた……何者ですか?本当に………人間ですか?」

 

 

 

 

出会い頭に神子から言われた言葉。俺は内心驚いている。まさかいきなり人間とは違うことを見抜かれるとは…。

だが、逆に好機だとも思った。正直どうやって神子と関わろうか困っていたのだが、これなら何かしら接点を作れるかもしれない。

俺はそんな事を考えながら、あえて神子を知らない(てい)で応えた。

 

「質問の意味がよく分かりませんね。俺はただの旅人ですよ?ついさっきこの都に到着したんです」

 

「嘘を吐かないでください。あなたの霊力はただの人間が持つには大きい。それに私は人の欲と本質を見抜く事が出来る。嘘は通用しません」

 

欲と本質を見抜く…俺に正体を尋ねてくるあたり、種族の事は見抜けていない様だな。て事は神子が感じた霊力も全体の量までは分かっていないのかも…。

俺はまだ会話で神子の人物像を探っていく。今度は俺が尋ねた。

 

「仮に俺の正体が人間じゃなかったとして、どうするんですか?」

 

俺の質問に神子は少し考えてから口を開いた。

 

「………あなたがもしこの都に害を及ぼす存在、もしくはそういう気があるなら……今ここで、あなたを倒して追い出します」

 

神子は鋭い目つきで答えた。コレは本気っぽい。なるほど、確かに為政者だな、民の事を第一に考えている。さて、これからどうしようかな…

俺が考えていると、神子から俺に話しかけてきた。

 

「はぁ…話す気がないと言うなら力尽くで聞き出す事にします。旅人よ、名は?」

 

「神薙双也」

 

「では双也、今から私と決闘をしましょう。私が勝ったら、あなたの事を洗いざらい話してもらいます。あなたが勝ったなら…そうですね、その鍛冶屋に弟子入りさせてあげましょう」

 

ほーう?決闘か。よっぽど自信があるみたいだな。神子の霊力は確かにかなり大きいけど俺程じゃない。やっぱり全体の量は把握出来て無いんだな。勝てば弟子入りさせてくれるって言うし、利用しない手はない。鍛冶屋のお頭はかなり不本意そうな顔をしているが、神子の言うことなので反論出来ないのだろう。

俺はそう結論付けると、申し出を受け取った。

 

「いいでしょう、受けて立ちます。ココでは危ないですし、向こうの平原の方でやりましょう」

 

「そうですね。 ………少し待ってください」

 

神子は行こうとした俺を引き止めると、鍛冶屋のお頭に何か言った。するとお頭はすぐに工房の奥へ消え、間も無く戻ってきた。その手には見覚えのある剣が握られており、それを神子に渡した。

 

(なるほど…あれが七星剣か。……すごい剣だな)

 

その七星剣は、素人の俺でも分かるくらいの業物だった。存在感がとても強い。様々な装飾を施され、力強さも感じる。

俺がそう思っていると七星剣を受け取った神子が近寄ってきて言った。

 

「お待たせしました。さぁ、行きましょう」

 

「はい」

 

「………何も言わないのですね、これの事」

 

神子は握っている剣を見て言った。申し訳ないとでも思ってるのかな?神子も根は優しいのかもしれない。

俺はそう思いながら神子に言った。

 

「言いませんよ。勝つために何かを利用するのはズルい事じゃないですし」

 

「……随分余裕ですね。そんなに腕に自信があるのですか?」

 

神子は今この瞬間にも俺の正体を探ろうとしているようだ。だが俺はそんな事は気にせず、何食わない顔で応えた。

 

「まぁね、過去に色々ありまして。…例えそれを使っても、俺には勝てませんよ」

 

俺の一言で神子は俺を刺すような目で睨んできた。神子もかなりの強者なのだろうが、俺の本質を見切れないのはまだ未熟な証拠。そんな者に負けたりしない。

俺と神子は少し不穏な空気の中目的の平原に着いた。

 

「それでは始めましょうか双也。……あなたが口だけでないことを祈ります」

 

神子はそう言いながら七星剣を抜いた。刀身が日の光を反射して眩しいくらいに輝いている。

俺は手に強めの結界刃を発動し、神子と同じくらいの霊力になるよう解放して言った。

 

「まさか太子様と戦えるなんてな…。がっかりさせないで下さいよ?」

 

俺と神子は同時に駆け出し、交わる刃が火花を散らした。

 

 

 

 

 

〜神子の屋敷〜

 

 

「う〜ん、太子様遅いなぁ…剣を受け取るだけならそんなにかからない筈なんだけどなぁ…」

 

神子が屋敷を出て暫く、留守を任された屠自古は予想よりも帰りの遅い神子を心配していた。その表れか、さっきからずっと部屋の中を歩いて回っている。

 

「布都のヤツもまたいなくなってるし、どこいったんだよ…」

 

「我ならここに居るぞ?何独り言をブツブツ言っているのだ?」

 

「うわぁ!?」

 

屠自古が愚痴をこぼした直後、彼女の隣に愚痴の中心人物、物部布都が現れた。突然のことでさすがの屠自古も驚いている。

それを見て布都は大笑いしていた。

 

「あっははははは!!なんだ屠自古!ひっくり返っておるではないか!あはははは痛いっ!!」

 

「いい加減にしとけよ布都…そんなことしてる場合じゃねぇんだよ!」

 

布都に怒鳴った屠自古の拳は固く握られ、若干煙も出ている。布都はたんこぶを抑えながら屠自古に言った。

 

「なんだ屠自古、やけに焦っておるな?何かあったのか?」

 

「太子様が例の剣を受け取りに行ってから中々戻らないんだよ。それでピリピリしてる時にお前が脅かすから…」

 

屠自古は怒りや悔しさに再びこぶしを震わせ始めるが、そんな事は気にせずといった風に今度は布都が声をあげた。

 

「何っ!?太子様が戻らない!?何をやっているのだ屠自古!!太子様に何かあったらどうするつもりだ!!」

 

「いやそれはそうなんだが、太子様自身とてもお強いし、心配無いと思ってな?」

 

屠自古は少し済まなそうに言っているが、布都は一秒でも惜しいとでも言うように屠自古を急かした。

 

「もういい!!早く行くぞ!!太子様に何かある前に!!」

 

そう言って直ぐに駆け出す布都に、屠自古は内心こう思いながら着いていった。

 

(全く…太子様の事となると別人の様になるんだからな…)

 

屠自古は薄く微笑んでいた。

 

 

 

 

 

〜都の外れ 平原〜

 

 

ここでは神子と双也の戦いが続いていた。神子の七星剣と双也の結界刃が日の光で瞬く斬撃の応酬。力は拮抗していた。

 

「ちっ、さすがは太子様ですね。こちらの攻撃が通らない」

 

「あなたの太刀筋は綺麗というよりも、むしろ実践に特化したモノの様ですね。これなら斬撃が…読みやすい!!」

 

そう言うのと同時に神子は空いた双也の脇腹に攻撃を仕掛けた、が

 

「!! 何!?」

 

「そういう太子様も、まだ剣が未熟なのでは?」

 

脇腹を切り抜いた筈の七星剣は、双也の、他でもない脇腹で止まっていた。

双也は神子の剣が当たる瞬間、自らの腹の部分の原子結合を強め、七星剣の斬撃をも防げるほどに強化したのだ。驚きで出来た隙を逃さず、双也は神子を横から蹴り飛ばした。間髪入れずに追撃として旋空を放つ。

 

「はぁぁあ!」

 

「ぐうっ」

 

しかし神子はとっさに霊力を七星剣に込め、体勢を崩しながらも剣で旋空を防いだ。そこへ双也は駆けていき、縦斬りを仕掛ける。しかし持ち前の洞察力と能力によってそれを読んでいた神子は、冷静に体を逸らして避け、霊力を込めた拳を双也に叩き込んだ。

 

「ふっ!!」

 

「がはっ!」

 

もろに受けてしまった双也は肺の空気を吐き出しながら少しばかり吹き飛んだ。その様子を見て神子が言う。

 

「…どうやら、斬撃は防げても打撃は効くみたいですね。ただただ硬くなる能力ではないと言う事ですね」

 

「くっ…思ってたよりやりますね。誰かから戦い方を学んだのですか?」

 

双也のふとした質問に、神子は双也自身も驚くような言葉を発した。

 

「あなたは自分で言っていたでしょう、私の剣は未熟だと。私は戦闘を誰かに習った事はありません。全て独学で戦っています」

 

双也は驚いた。双也自身、依姫との壮絶な稽古の末に上達したこの剣での戦闘。それを神子は誰の手習いも受けずに着いてきている。これが天才って奴か…と双也は少し劣等感を抱いていた。しかし、双也の心には別の感情も湧き上がった。神子には…もっと強くなってもらいたい、と。

 

「そうですか、流石ですね。ならば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が少し手解きしてやろう(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

神子は一瞬で身が震えた。突然双也が敬語ではなくなったのにも少々驚いたが、そんなことよりも双也から発せられる膨大な霊力に恐怖した。初めに見た時には想像もつかない、彼女自身の霊力の三倍以上はあろうかという霊力が、今双也の身体から溢れ出ている。

 

「あなたは…一体何者なんですか!!?」

 

「お前が未熟だと言った理由だけどな……相手の力量をしっかり見抜き切れていないからだ!」

 

双也はそう言って神子へ向かって駆け出した。と言っても、神子からすれば瞬間移動したように見えるほどの速さだが。神子の懐に入った双也はそのまま結界刃で切り上げる。辛うじて反応した神子は七星剣でそれを受けるが、あまりの圧力で体ごと飛ばされてしまった。

双也はまだ終わらないとでも言う様に霊力弾を大量に放っていく。

 

「一つ目、向かってくる攻撃から目を離すな。避けれるものは避け、当たりそうな物は受け切るか叩っ斬るんだ」

 

「うっ…ぐぅ!」

 

神子は数弾掠ったり被弾したりしているが、的確に判断して霊力弾を斬ったり受けたりしている。

双也は放つのをやめると、瞬間移動を駆使して神子の周りを不規則に飛び回り、偶に斬撃を浴びせる。

 

「二つ目、常に周囲に神経を張り巡らせろ。攻撃が読めなかったり、見えなかったりする時は気配を察して対処するんだ」

 

神子は最初の方こそ斬撃を受け続けていたが、だんだんと双也の攻撃を避けたり弾いたり出来るようになっていった。

双也は瞬間移動をやめて、始めのような接近戦を始めた。

 

「最後、ここだと思った隙は絶対に逃すな。一瞬の隙に渾身の一撃を叩き込め!!」

 

双也の斬撃を受けたり弾いたりしている間、神子は双也の隙を探していた。傷だらけの身体で、疲労した体で、剣を受け続ける中で見つけた隙に、神子はありったけの霊力を込めた七星剣を振り下ろした。

 

「はあぁぁぁあああ!!!」

 

爆発の様な音を響かせ、平原の草や土が巻き上がった。

 

舞い上がる土煙の中、双也は神子の一撃を受け止めていた。

 

「上出来だ、神子」

 

双也がそう言って神子の七星剣を弾いた瞬間、いつかの大和の兵の様に神子の身体が一瞬で斬り刻まれた。神子は力無く膝をつき、仰向けに倒れた。

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

肩で息をして、苦しそうにしている神子に歩み寄り、双也は神子を見下ろして話しかけた。

 

「神子、もっともっと強くなれ。旅人なんかに負けず、どんな者からも民を守れるように」

 

「ハァッ…ハァッ…っ…はい……」

 

神子はゆっくりとだが頷いた。それを確認して、神子の傷を治そうと手を伸ばすと…

 

「そこの者!!動くな!!!」

 

都のあった方面から怒鳴る声が響いた。

 

 

 

 

双也が気付いた時には、武具を装備した人間たちが周りを包囲していたのだった。

 

 

 

 




キャラにやらせたい事が纏まってると、戦闘描写も長くなりますね!

*今回の開放は双也の全力ではありません。もし全力なら神子さんの五十倍以上はあるでしょうね。

ではでは。

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