東方双神録   作:ぎんがぁ!

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"あの子"の為のお話です。バレバレですねw


ではどうぞ!


第二十一話 太子様の頼み事 その1『お面作り」

「う〜ん、いったい何すんだろ?」

 

都を滞在を始めて一ヶ月。刀鍛冶の修行は順調に進み、切れ味は悪いし形も不恰好だが、なんとか太刀と言えるモノを作れるようになった。今日もまた修行に励んでいたわけだが、普段と違ったのは途中で布都が俺を呼びに来た事だ。

 

「おーい双也ー!!太子様がお呼びだぞー!!早く出てこんとお前の家ぶち壊すぞー!!」

 

「ちょ待て!!それはヤメテ!!」

 

そんな(超)物騒な事を言われたので慌てて出ると、何となく不機嫌そうな雰囲気を纏う布都が待っていた。

 

「…なんで不機嫌なんだ?」

 

「ふん!お主には関係ない!さっさと来るのだぞ!」

 

そう言うと布都は歩いて行ってしまったが、途中でこちらに振り返って一言。

 

「別に!嫉妬してるわけでは無いからなっ!太子様のお手伝いに慣れていないお前にっ!譲ってやっただけなんだからな!!」

 

「…?」

 

布都は今度こそ走って行ってしまった。なんか典型的なツンデレっぽいセリフだったけどどこか違かった。

布都の去り際の言葉から、神子に手伝いを頼まれた、と理解した俺は、お頭に断って鍛冶屋を出て今に至る。

 

「えーっと、豊聡耳神子関連と言えば……アレかな?」

 

屋敷へ向かって歩いている途中、神子の頼み事に付いて考えていた俺は、ひっっっさしぶりに前世の原作知識を使う事にした。すると、脳内検索に引っかかった事が一つだけあった。と言うか一つしかない。

 

「ふぅー、もしそうなら、ちゃんと上手く作ってやらないとな」

 

俺は少々ウキウキしながら屋敷への道を歩いて行った。

 

 

 

 

「神子〜?入るぞ〜」

 

屋敷に着いた俺は門番の人達に挨拶をして通してもらい、真っ直ぐ神子の部屋に来た。流石に何も言わずに入るのはアレなので、ノックして声をかけた。

 

「あ、はい。入ってください」

 

「お邪魔しまーす…」

 

俺が入ると、部屋の真ん中に大量の紙が敷いてあり、台座と木、その前に神子がちょこんと座っていた。

 

「来ましたね双也。手伝いの内容は聞いていますか?」

 

「いや…なんか、脅されて怒鳴られて勝手に帰られた…」

 

「なんですかそれは…」

 

複雑な表情をした神子は首を傾げながら俺を紙の上に座らせた。よく見れば彫刻刀の様な物もある。

 

「さて、聞かされていないのであれば説明が必要ですね。今から双也にはお面作りを手伝ってもらいます」

 

やっぱりか。原作では(はたの)こころと言う九十九神がいる。その子の大元は神子が作ったと言われるお面なのだ。今日はそのお面作りをする、という事らしい。予想通りだ。

俺は感情を顔に出さないように頑張って神子に質問した。

 

「なんで作ることになったんだ?」

 

「私の部下に秦河勝(はたのかわかつ)と言う者が居りまして、その者の依頼で人の感情を表す面(・・・・・・・・)を作って欲しい、と言うことです。感情を表した上で面を作るのは私だけでは大変だと思い、双也を呼んだのです」

 

「なるほどねぇ……」

 

確かに、面を作るだけなら練習すれば出来なくはないと思うが、面で感情を表現するとなると途端に難しくなる。感情って形にするのが難しい、と改めて思う。

俺は神子の言い分に納得しながら会話を再開した。

 

「どんな面を、とか指定されてるのか?」

 

「いえ、指定はされていません。ですから、どんな面を作ろうか悩んでいたのです」

 

「そうか…じゃあさ、"希望"を表す面にしない?」

 

「希望……ですか?」

 

ちょっと強引かな…と思いながらも希望の面を勧めた。そりゃあ、原作に関連のある事は早めに片付けておきたいからだ。まぁでも、他に理由を上げるなら…

 

「"希望"を宿した人の表情はよく知ってるんじゃないか?聖徳太子様?(・・・・・・)

 

「……あっ」

 

神子は気付いた顔をして早速作業に取り掛かった。

神子の仕事は民や国を平和に導く事。そして、その為に日夜ハードスケジュールをこなしている。自分達のために必死になってくれている神子に向けて、大勢の民が希望に満ちた表情を向けているはずなのだ。

程なくして、面の原案が書き上がった。

 

「こんな感じで如何でしょうか?」

 

「ほー…う? …なんだこれ?」

 

「希望の表情です」

 

「…………う〜ん」

 

神子が書き上げたのは、なんと言うか…形容しがたい人の表情だった。何かこう口元は歪んで笑ってて、目が釣りあがってて怒ってるみたいな…こんな表情ある?って言いたくなる面だった。

流石にダメだと思ったので、もっと原案を書くよう神子に提案する。

 

「な、なぁ神子。一回で決めるのはアレだからさ、もっとたくさん書いてみよ?」

 

「あ…はい。時間はまだありますしね」

 

 

〜数十分後〜

 

 

俺たちの目の前にはたくさんの原案が広がっている。それを一通り見渡して思った。

 

(コイツ…意外とセンスねぇ…)

 

広げられた紙には、最初の一枚と似たり寄ったりの表情が書かれている。正直に言うとほぼ変わってない。

どーすれば良いんだ…。

俺が悩んでいると、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「太子様!話は聞いておりましたぞ!!希望の面ならこんなのはどうですか!?」

 

扉の先には何か紙を握った布都が立っていた。言葉から紙はおそらく面の原案なのだろうが……なんでそんな事知ってる?

 

「なんで希望の面にしようって話を知ってるんだよ」

 

「ま、まぁ…この子はよく私の部屋に忍び込んでいますから…」

 

神子は疲れた表情をして言った。もしかして今回も潜り込んでたって事か?…まぁいいか。

俺は一抹の疑問を振り払い、神子に渡された布都の原案を覗き込んだ。

 

「コレは…私?」

 

「神子の…顔、だよな…」

 

「さよう!!太子様のご尊顔なのだ!!」

 

布都の原案には、神子の顔と思われる顔がデカデカと描いてあった。

それを見て神子が布都に言った。

 

「布都…気持ちは嬉しいのですが、私達が考えているのは希望の"表情"ですよ?」

 

「はい!だから表情を……表…情?」

 

布都は確かめるように言葉を反復したあと、やってしまった!!と言うような表情をした。デデ〜ンと音が聞こえてきそうだ。

 

「うぅ〜…また失敗してしまった…」

 

「まぁまぁ、元気を出してください布都!ありがとうございますね!その気持ちは嬉しいです」

 

神子は落ち込んでしまった布都を慰めている。

俺は布都の原案をじっと見ていた。

 

「……コレにしよう」

 

「「………………え?」」

 

「これで決まりだよ神子!」

 

「え、はぁ?な、何故ですか?さっき布都にも言いましたが、私達が考えてるのは表情なのですよ?」

 

そう、俺たちが考えているのは希望の表情だ。細かく言えば希望を表した面。失念していたが、この面を作るにあたっては希望が表現できていればいいという事に気が付いた。

 

「よく考えろよ神子!この面は確かに表情じゃないが、しっかり希望を表せてるじゃないか!」

 

「?……………あ、象徴…と言いたいのですね?」

 

「当たりだ」

 

今まで希望を宿した表情に囚われていたが、コレは希望を表すのにはピッタリだ。神子は民達の希望の象徴。故に神子の顔の面は希望を表す面に十分になりうる。

俺たち二人で納得していたが、少々ついてきていない者がいる事に気が付いた。

 

「?? つまりどういう事なのだ?」

 

「お前の案に決定って事だよ。よかったな布都!」

 

「!!」

 

布都はやっと理解して嬉しそうな顔をすると

 

 

どやぁぁあああ!!

 

 

…って感じの表情を"俺に"向けてきた。この瞬間、布都が俺を呼びに来た時の去り際のセリフの意味が分かった。

 

(……アレ、"私だって出来るんだからな!!"って意味だったんだな…)

 

俺は布都に手を伸ばして頭を撫でてやっていた。

 

「…!!? な、何故我の頭を撫でているのだ!!?」

 

「いやぁ…布都は可愛い奴だなと思ってさ」

 

「か、かかか可愛い!?!?わ、わわ、我がか!?」

 

布都は顔を真っ赤にして手をワタワタしている。俺はそこまで鈍感な訳ではないから、自分の言った言葉の意味は分かっているが、ここまで反応が激しいと心配になってくる。

 

「だ、大丈夫か布都?」

 

「だ、大丈夫な訳あるか!!誰の所為だと思っておる!!もう知らんからな!!」

 

布都は立ち上がって早足に部屋から出て行ってしまった。あのハイテンションな性格だから直ぐに立ち直ると思うけど…

そんなことを考えていると、神子の視線が俺に向いていることに気が付いた。

 

「なんだよ神子?」

 

「いえ?別に?ただ女の子を弄ぶのは良くないと思っただけです」

 

「いや弄んでなんかないけど。純粋にそう思っただけ何だけど」

 

「はいはい続きをやりますよ。原案さえあれば私が削って完成できるので、原案を書いていきましょう」

 

神子は次の原案を書く準備を始めた。なんか勘違いされたままな気がするが、恐らく何を言ってもダメそうなので諦める。

原案作りは夕方まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが豊聡耳神子…ふふ、これを教えるには十分な逸材ね♪ そしてあの男……さて、どう使おうかしら…ふふふふふ♪」

 

 




因みに、双也くんは前世でも今世でも女誑しではありませんよ?ホントに純粋にそう思っただけなんです。許してやってください。

ではでは。

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