東方双神録   作:ぎんがぁ!

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奈良編も終わりです。諏訪編と比べたら若干短いかもです。ついでに言うとこの回も短めです。

それでは奈良編最終話、どうぞ!


第二十六話 暫しの別れ

神子に仙人になると聞かされてから一週間経つ。都では"太子様が重い病にかかった"と噂が流れていた。確か、原作でのこの文句は神子の死を偽装するために流したモノだった気がする。

俺はいつも通り、鍛冶屋にて刀鍛冶をしていた。

 

「双也、おめぇ太子様の見舞い行かなくて良いのか?仲は良いだろう?」

 

「…ああ、良いんです。喧嘩した訳では無いですけど、そのうち行きますから」

 

俺が作業をしていると、お頭が心配して声をかけてくれた。やっぱり良い人だ。

お頭は心配した様な目で俺に言った。

 

「……双也、今日は休め。太子様の病は重いんだろ?見舞いには早めに行ったほうがいい」

 

「え、でも…」

 

「いいから行け!今日は休みだからな!!」

 

お頭に襟を捕まれ、工房の外に放り出されてしまった。少々乱暴だが、それにはお頭の優しさが詰まっている感じがした。

 

「……ありがとうございます…お頭…」

 

俺は工房の奥に消えていったお頭に小さく礼を言い、神子の屋敷へ歩き出した。

 

 

 

 

「そこをなんとか!一目だけでも!」

 

「ダメだダメだ!太子様は今療養中だ!騒がしくしてはお体に響く!」

 

神子の屋敷の前にはたくさんの人集(ひとだか)りが出来ていた。みんな神子の見舞いに来たのだろうが、家来によって侵入を防がれている。

コレも神子の努力の結果か…と思いながら人を掻き分けて進み、家来の前まで来た。

 

「通してくれないか?」

 

「!… 神薙双也様ですね。あなただけは通すようにと神子様から言われております。どうぞ」

 

俺は家来に軽く会釈して中に入った。後ろからは"なんでアイツだけ!!"とか"お前が一体何をしたんだよ!!"とか聞こえるが、生憎相手してやれる気分ではない。

俺はまっすぐ神子の部屋まで来た。

 

「…神子、居るか…?」

 

「はい。入ってください」

 

扉をノックして言うと、中から返事が帰ってきた。俺が中に入ると、それぞれの布団に入って座っている神子と屠自古、布都、そして立っている青娥がいた。

青娥は俺の姿を確認すると話しかけてきた。

 

「予想通りですわ。御三方も送るのが私だけでは寂しいでしょうから、あなたを待っていました」

 

「ああ。…青娥、俺の警告…分かってるな?」

 

俺は青娥を睨んで言った。しかし、青娥は調子を狂わせずに笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ♪寸分の狂いもなく完璧な術式を組ませて頂きましたわ!万が一にも失敗はしません!」

 

「ならいい」

 

俺は三人に向き直って声をかけた。

 

「……やっぱり、二人も一緒にいくんだな」

 

原作知識で分かっていたとはいえ、死ぬつもりでいる人を見るのはやはり少し辛い。少し表情が暗くなったからか、二人はいつものように元気な声を出した。

 

「何を暗くなっておる双也!!我らは仙人になるのだ!祝う所だぞここは!」

 

「祝うのはともかく…お前が思い詰める必要はないだろう。…安心しろ、太子様には私達がついてる。お前は願ってるだけでいいんだ」

 

「…なら、神子を頼む」

 

二人は力強く頷いた。これから自分達も一度死ぬってのに…ホント、優しい奴ら。

俺は神子の側に近寄って話しかけた。

 

「…気分は?」

 

「ええ、少し怖いですが…落ち着いています。双也のおかげでしょうか…?」

 

「ふふ、だといいけどな」

 

神子の手を握る。まだ暖かい、柔らかな手だった。

俺は神子の目をまっすぐ見て言った。

 

「…神子、少しの間は会えなくなるけど………目覚めた先で、必ず会える。神子にも、布都にも、屠自古にも、…青娥にも、必ず会いに行く。みんなの繋がりを…忘れないでくれ」

 

「………はい!」

 

神子は最後に微笑んで応えた。瞬間、三人の下に太極の模様が出現し、光が包み込んだ。光が止んだ後には、目を瞑って横たわっている三人の姿が。

……暖かかった神子の手は、既に氷のように冷たくなっていた。

 

「…………っ…く……」

 

俺は目と頰に熱を感じた。泣くのなんて稲穂の時の以来だ。人の死を見るのは、やっぱり辛い。

 

「術式、完全に成功致しましたわ。双也は少し外に出ていてくれるかしら」

 

「……ああ」

 

青娥にそう言われ、神子の部屋を出る。向かった先は、神子に仙人の事を打ち明けられたあの縁側。そこに座ってボンヤリとする。

 

「……死に際を看取るのは、損な役回りだな…」

 

空を見上げてそんな事を考えていた。看取る側はいつも立場が同じ悲しむ方、辛い方。稲穂の時もそうだった。

そうしてボンヤリしていると、やる事が終わったのか青娥が近寄ってきた。

 

「何をしてたんだ?」

 

「術の最後の仕上げよ。媒体にする道具と一緒に埋めてきたの」

 

青娥は隣に座りながらそう言った。

 

「ああ、そう言えば、蘇りの術式には媒体が必要だったな。

…………ありがと、青娥。ちゃんと成功させてくれて」

 

俺は媒体の事を思い出し、最後までやってくれた青娥に礼を言った。青娥は少し複雑そうな表情をしていた。

そして青娥は、意を決したように俺に話しかけた。

 

「ええ、それはいいのだけど……

 

 

 

 

 

双也、あなたは一体……何を知っているの?」

 

 

 

 

 

「…………………そうだな、口を滑らせたのは俺だったな」

 

俺は一週間前の、この部屋であった出来事を思い出した。俺が青娥のやり方に怒って神格化し、殺しかけた時だ。その時うっかり元々青娥を知っていたような口ぶりをしてしまったのだ。

ここまで来てしまっては、少しくらい言わないと青娥は引いてくれそうにない。

 

「………そうだな…このお話の行く先(・・・・・・・・)…かな」

 

「………え?」

 

青娥は訳がわからないといった顔をしている。でも全部の事を明かす気は無い。俺は立ち上がって青娥に言った。

 

「お前はまた放浪でもするんだろ?俺は旅を再開しようと思う。この刀も完成したしな」

 

俺は腰に挿してある天御雷を見て言った。

 

「…お前にも、神子が目覚める時にまた会うだろ。じゃあな、青娥」

 

俺は青娥にそう言い残し、瞬間移動で家まで来た。支度(したく)をし、家を出る。鍵は誰かが使えるように刺したままにしておいた。もう来ないだろうし、勝手に使ってもらって構わないのだ。

最後に、今まで世話になった鍛冶屋に訪れた。

 

「……お頭」

 

「おお?なんだ双也!今日は休みにするって言っただろ!」

 

お頭は俺が来たのを見て少し怒った口調で言った。

だが、俺は旅に出ることを伝えに来たのだ。休みも何も関係ない。

 

「お頭、俺…旅を再開しようと思ってます。お頭に教えて頂いた技術の数々…このご恩は忘れません」

 

「お、おい双也!それは、ココを抜ける…そういうことか?」

 

「…はい。勝手ながら、この工房の刀鍛冶を抜けます。すいません。でも…やる事があるんです」

 

俺はお頭の目をまっすぐ見て言った。暫くして、お頭は仕方なさそうな顔をして俺に言った。

 

「そうか…残念だが、どうも決意は固いみたいだしな。俺が言っても意味は無いだろう。

………じゃあな双也。元気でな」

 

「はい!短い間でしたけど、有難うございました!」

 

俺は会話を聞きつけて出てきた工房の仲間たちに手を振りながら門へ歩いて行った。門より外は敵だらけ。油断はならない。

 

俺はこうして、奈良の都を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後のテンポが早くなってしまった…。

ではでは。

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