東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最近お話を作るのが大変になってきました。
ネタって尽きると困りますよねw

では三十六話〜ど〜ぞ〜!


第三十六話 逃走の手助け、紫の苛立ち

「我らのレーザーを弾くとは…貴様何者だ!!」

 

「驚く事ない。ちょっと強いだけの人間さ」

 

「!? ぐぅっ!!」

 

月人のレーザーを風刃によって掻き消し、輝夜と永琳の前に現れたのは双也だった。彼は天御雷を抜き、二割程の霊力を解放して月人の問いに答える。

双也は一億年以上生き続けた現人神。加えて毎日の瞑想は欠かさない。故に二割ほどの霊力でも月人達を震えさせるには十分だった。

 

「そ…双也…なの…?」

 

「ん?」

 

声に振り返った双也の目が映したのは輝夜ではなく、普段の落ち着き払った目を見開いて驚いた様子をしている永琳だった。

その様子を見て双也は心の内でこう思う。

 

(やっば…レーザーを弾くのに頭がいっぱいで永琳がいるの忘れてた…)

 

「よ、よう永琳っ!一億年ぶりっ!」

 

「…………………」

 

双也は少し引きつった声で言った。

今の双也は"永琳が居るとマズイ"という訳で引きつっているのではない。一億年前、人妖大戦時に一人地上に残り彼女に多大な心配をかけた事を怒っているのではないかと思い、引きつっているのだ。

永琳は双也の言葉に反応せず、無言で近付き………双也の胸に顔を埋めた。

 

「双也っ…生きていて、くれたのねっ…」

 

「! ああ、悪い。心配かけた」

 

そう言った永琳の声は涙に濡れていた。それに気付いた双也は、永琳の頭に手を乗せて少しの償いの言葉を発した。

そのすぐ後、双也は永琳を少し離して言った。

 

「積もる話もあるにはあるが、取り敢えずコレをどうにかしなきゃな」

 

「っ!……ええ!」

 

永琳は涙を拭い、双也は再び月人達に目を向けた。永琳との会話の間に襲ってきてもおかしくはなかった筈だが、月人たちは何やらザワザワしていた。

 

「お、おい…今"双也"って…」

 

「まさか!我らの英雄、神薙双也はとっくに死んでる筈だ!こんな所にいるわけないだろ!」

 

「あの霊力…例えあの英雄ではないとしても、気を抜けばやられるぞ!」

 

月人達は"双也"という名にあの英雄を思い出し、混乱していた。確かに本人ではあるが、月では"旅立ちの時、命と引き換えに(・・・・・・・)民を救った英雄"と伝わっている。つまり死んだことになっているのだ。月人達にとって、いるはずのない死人が目の前にいるこの状況。混乱するのも無理はないのだ。

双也はこの隙を逃さず、輝夜達に行動を促した。

 

「ちょっと予想外だけどチャンスだ!逃げるぞ!」

 

「え?逃げる?」

 

双也の登場の仕方から、てっきり戦うものだと思っていた輝夜は、その言葉に思わず疑問が口から出てしまった。

双也は二人の手を握って走り出しながら応えた。

 

「ああ!戦う利益がない。それに……」

 

そこまで言って双也は永琳を見た。

輝夜も釣られて永琳を見る。その様子を見て輝夜はハッとした。永琳は苦痛に顔を歪ませて、辛そうにしていたのだ。

 

「面目、ないわね…」

 

「かなり血も出てるし、あいつらを撒いて応急処置をする。速度あげるぞ!」

 

双也は言った通り速度を上げ、輝夜の屋敷を出た。後からは月人達がレーザーを放ちながら追ってくるが、だんだん遠ざかっていく。

やがて竹林の一角に身を隠すことに成功し、双也は永琳に傷を見せるよう言った。もちろん威圧のために放った霊力は抑えている。少しの間は見つからずに済むだろうと考えたのだ。

 

「やっぱり焼けて穴が空いてるな…。少し動かしにくくなるかもしれないけど、取り敢えず塞いでおくぞ」

 

「!! 傷が…」

 

双也は永琳の肩の傷に手をかざし、能力を使う。すると傷口はどんどん塞がっていき、最終的には跡も残らなかった。

 

「凄い…」

 

輝夜が感嘆の声を漏らすが、双也は自嘲するように言った。

 

「傷を塞ぐくらいは多分訓練でも積めば出来るようになるだろ。

……これは応急処置、傷口を繋げただけだ。焼けて無くなった部分が戻ったわけじゃないから、筋肉が引っ張られて動きにくいかもしれないけど…我慢してくれ」

 

「いえ、ありがとう双也。十分よ」

 

「ああ。…!見つかったか」

 

双也は返事した後、ある方に顔を向けた。同時に抑えていた霊力も再び解放する。その直後、その方向から月人達が武器を構えて走ってきた。

 

「ここにいたか穢れめ!もう逃げられんぞ!」

 

「ああそうだな。もう道なんか必要無いしな」

 

「…なんだと?」

 

「おーい!紫ー!」

 

双也がそう叫ぶと、双也のすぐ隣に切れ目が入り、開いていく。中からは妖怪、八雲紫が膨大な妖力を発しながら出てきた。輝夜や永琳も含め、全員がかなり驚いた顔をしていた。

 

「…ずいぶん張り切ってるな紫」

 

「もちろん!やっと来た出番ですもの♪」

 

「…そうですか」

 

双也は普段と違う彼女の様子に少し戸惑いながら相槌をうった。

紫が張り切っている理由は二つある。一つは彼女自身が言ったように、やっと出番が来て嬉しくなっている事。もう一つは…

 

「さ、じゃあ早速始めてもいいかしら?」

 

…月人達に会うことができたから。紫は、月のお迎えの事で月について双也に聞いた事があった。その時の話で月に興味を持ち、そして今回、月人とはどんなものかを見れることに興奮していたのだ。

紫は早速交戦しようと何となく双也に許可を求めるが、それは他でもない双也によって却下された。

 

「ダメだ。お前を呼んだのは戦わせる為じゃない。こいつらを逃がしてもらう為だ」

 

「…なんですって?」

 

双也は前に歩みでた紫を手で制しながら言った。紫は当然良いと言われると思って何となく聞いただけだったのだが、予想に反して却下されたことに少々苛立ちを覚えた。

 

「どうせ逃すならこの月人達を倒してからの方が安全ではなくて?」

 

紫は双也に反論の意を唱えた。確かに的は射ている。どちらかが残って逃げるより、二人で戦って殲滅した後の方が安全に逃げられるに決まっている。だが双也があえてそうしなかったのには理由がある。

 

「紫、お前が死んだら俺だって困るって昔から言ってるだろ?」

 

「そんなの勝てばいい話じゃ----」

 

「妖怪では太刀打ちできない、と言いたいのね双也?」

 

紫の言葉に割り込んだのは永琳だった。月の技術の事をよく知っている永琳が、最も早く双也の言葉の意味を察したのだ。双也は同調するように言う。

 

「そう、端的にはそういう事。納得出来ないとは思うが…向こうもそろそろ待つのに飽きてきた頃だし、紫は逃げてる間にでも永琳から聞いてくれ」

 

「!………分かったわ。行くわよ二人とも」

 

紫は何か言おうとしたのを寸前で止め、輝夜と永琳に声をかけた。同時にスキマを開いて中に入っていく。

双也はそれを見届けると、改めて月人達に向き直った。

 

「待たせたな。お前らよく話の途中で襲ってこなかったな。その精神は誇っていいと思うぞ」

 

「……よく言う。貴様が何かしていたのだろう!」

 

「さぁ?何のことかな?」

 

双也は口の端を釣り上げて言った。

双也が現れた時に襲ってこなかったのとは理由が違う。あの時は動揺と混乱から動けなかったが今回は………身体が動かなかったのだ(・・・・・・・・・・・)

 

「まぁ皮肉もこれくらいにして…能力解いてやるから、そろそろ始めるか!」

 

双也は能力を使い、薄く広げた霊力を媒体にして"運動神経の伝達遮断の能力"を月人たちに繋げていたのだ。それによって脳からの伝達が阻害され、月人たちは動けなくなっていた。

双也が能力を解くと、月人達は急いで武器を構えて警戒を始めた。

 

「最早英雄だとかは関係ない!!罪人蓬莱山輝夜の逃走補助の罪で…お前を排除する!!」

 

「……悪いな、罪だとかそういうのは……俺の仕事だ」

 

双也は天御雷を構え、月人達の元へ駆け出した。

 

 

 

 

〜スキマの中 紫side〜

 

 

「こっちよ!」

 

スキマの中を走っていく。私は輝夜と永琳とかいう月人を先導していた。

 

(早く戻って、双也に加勢しないと…!)

 

私はそう思って走る速度を上げた。それを見てかは知らないが、永琳が私に言った。

 

「…無駄よ」

 

「…何がよ」

 

「急いで私たちを逃がして双也に加勢しようとしてるのでしょう?無駄…いえ、足手纏いにしかならないわ」

 

その言葉にはさすがに怒りを覚えた。永琳は私を冷たい目で見ていた。双也もこいつも…何で私をそんなに低く見るのよ!!

 

「あなたは私の力を知らないでしょう!そんな事言い切れないわ!」

 

私は珍しく大声をあげた。それくらい苛立っていたのだと思う。

 

「言い切れるわ。月の技術に力はほぼ関係ない。穢れを祓う、ただそれを目的に高められたのが月の兵器。地上にいるあなた達は知らなくて当然だけど、妖怪は穢れの塊みたいなものよ。あなたが妖怪である限り…月には敵わない」

 

「っ!!」

 

こんなに力をつけたのに、あんなちっぽけな武器にも敵わないって言うの?納得できない!そんなの、納得できるわけないじゃない!

 

「それに…」

 

「…?」

 

「あの双也に、手助けなんて必要ないわよ」

 

 

 

 

〜竹林〜

 

 

紫たちが逃げた後の竹林。戦いはほぼ終わった様なものだった。辺りにはたくさんの月人たちが血を流し、呻いて倒れている。残りはあと数人だった。

 

「ぐ、怯むな!我らは月の兵だ!この様な者に負けるはずはない!」

 

「…誇りは大切だけど、行き過ぎると意地になっちゃうんだよな」

 

月人達はレーザーを放つ。しかし双也には見飽きた攻撃、天御雷で簡単に斬り裂き、掻き消す。レーザーでは勝てないと判断した月人達は剣を抜き、向かってきた。

 

「はぁぁああ!!」

 

「遅い」

 

袈裟斬りを仕掛けてきた月人の腕を掴み、片手の背負い投げで叩きつけて腹に天御雷を刺す。双也はそこで体制を整えようとしたが、双也はすぐ後ろに迫ってくる月人を見逃さなかった。

 

「そこだ!」

 

月人は剣を横に振るが、それは双也には当たらず、刺してある天御雷に当たって止まった。上からは結界刃を上段に構えた双也が迫っていた。

 

「おらっ!」

 

「ぐあ!」

 

月人の剣が当たる寸前、双也は天御雷の柄を踏んで上に跳んだのだ。そのまま重力によって降下し、縦切りを仕掛ける。月人はその場に倒れた。

 

「……バレバレだぞ」

 

「うおおおお!」

 

双也は後ろから迫る月人にそう呟いた。聞こえてはいないだろうが、双也にとっては言葉に出てしまうほどに分かりきった攻撃だったのだ。

双也はその攻撃に対し…

 

(ふう)

 

刺さっていた天御雷を抜いて回転させ、切っ先を地面に当てる

 

(じん)!」

 

そのまま引きずり、風刃を放ちながら斬り上げた。刀身は月人の剣を斬り裂き、風刃は月人自身を斬り飛ばした。

月人は少しばかり宙を舞ってドシャッと地面に落ちた。

 

「後ろから攻めるってのは悪くないけどバレバレだ。これじゃ意味がない」

 

「ぐう…」

 

双也は最後に残った隊長らしき月人に向けて言った。その月人は、戦法が通じないからか小さくうめき声をあげていた。

しかし月人はすぐに武器を構え直すと、覚悟を決めた目で仕掛けてきた。

 

「ぐ、うおおおおおお!!!!」

 

「それでも向かってくる、その意気や良し。

ーー風刃『六華(りっか)宝印(ほういん)』」

 

瞬間、双也は月人の前から消え、後ろに立っていた。一つ違うのは……月人の真下に、正六角形の対角線の様な線が出来ていたこと。

そこから通常よりも出力の高い風刃が噴き出し、月人は蒼い六華模様の真ん中で斬り刻まれた。

 

「輝夜はどうせ殺せないから…

"八意永琳殺害未遂の罪でボッコボコの刑"ってところかな?」

 

双也はそう言い、血を払って静かに刀を鞘に収めた。

 

 

 

チンーー……・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紫の口調が心配。ただそれだけですはい。

ではでは。

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