東方双神録   作:ぎんがぁ!

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この子の登場もやっとですね〜。
あ、R15警報発令!

三人称視点。

では新章、開幕です!


第五章 山の四天王編
第三十八話 闇の妖怪、封印


ある森の中。太陽の光さえもろくに届かず、四六時中真っ暗なその森には、ある二つの存在が相対していた。

 

「あっはっはっは! ここに迷い込んだ事を後悔しなさい!あなたはここで私に食べられてお終いよ!」

 

「…別に迷い込んだんじゃねーよ」

 

心底愉快そうに笑い声をあげたのは、真っ黒な服をにおびただしい量の血を付けた不気味な女性。

対して、余裕綽々そうに返答したのはこの時代ではあまり見ない服を着、腰から伸びた二本の紐に刀を吊るしている少年。しかし、彼の腕はなぜかグズグズに溶けたような傷があり、もう片方の腕で抑えている。

 

「じゃあ自殺志願かしら?私に食べられて死のうとするなんて酔狂な事ね」

 

「…そういう訳でもないし、そんな奴いないだろ」

 

「そ。まぁ今更そんな事はどうでも良いわ。あなたが死ぬ事に……変わりはないんだから!!」

 

女性は人間とは思えない速度で少年に目掛けて駆け出した。その手にはドス黒い何かを持っており……女性はそれを振り下ろした。

 

……時間は一時間前に遡る。

 

 

 

 

「はぁ、そろそろ野宿の準備始めようかな…」

 

都を去った後、双也は再び旅を始めた。目的はいつもと変わらない。……飯の支度も変わらない。

 

「あーくそっ、全然コツが掴めない!どーやんだよコレ!」

 

魚を釣り、火を起こし、刺身と焼き魚だけの夕飯を摂る。ここまではいつもと変わりない。多大な時間をかけ、それでも上手くいかない調理にぐちぐち言いながらも食べ進める。

普段と違うのは魚を食べている最中に風が吹いた時に起こった。

 

「もぐもぐ……ん? 血の…臭い…?」

 

ゆるく吹き通った風に乗って、かすかに血の臭いが双也の鼻に流れてきた。双也の風上は真っ暗な森。血の臭いはそこから流れてくるとすぐに確信した。

 

「妖怪にでも襲われて誰か倒れてるのか?それなら助けないと…」

 

双也は手にしていた魚を焚き火の近くの暖かい所に置き、少し気を引き締めて森の中に入っていった。

 

 

森の中はとても暗い。夜だからというのも相まって不気味さも強く感じる。双也は自らの目に僅かな光を集めて暗闇を対処していた。

中に進むほどに血の臭いは強くなって行き、双也は遂に"血を流しているのは一人じゃない"という事に気が付いた。それでも尋常ではない血の臭い。双也の足は自然に早くなっていった。

 

「おい……何だよこれ!?」

 

双也が辿り着いたのは真っ暗な森の中にある開けた広場。そこにはおびただしい量の人間の死体が転がっていた。全てが血みどろになり、内臓や脳が出てしまっているのもあれば、大量の血が付いた人の骨などもある。グチャグチャに潰されたような死体は血溜まりにプカプカと浮いていた。

どれもこれも五体満足には死ねなかった様な、そんな凄惨な現実が双也の目の前に広がっていた。

 

「うっ、おぇ…… ちっ、さすがにコレはキツイ…一体誰が----!?」

 

さすがの双也もこの惨状には耐えられず、胃のものを戻しそうになる。考えを巡らせようとした瞬間、双也は後ろから殺気を感じた。反射的にその場を離れようとするが、少し遅かったようで腕にかすってしまった。

 

「ぐっ、なんだこれ…溶けてる?」

 

双也は今まで感じた事のない痛みに疑問を感じた。見れば傷口はグズグズに溶け始め、とてもグロテスクな事になっていた。

 

(……なんで傷口を繋げられない…。俺の原子が溶けて流動してるからか…?)

 

双也はすぐに治療を開始するがいつものように出来ない。すぐに仮説を立ててどうにかしようと考え始めるが、思考は目の前に立つ女性によって遮られた。

 

「あっはっはっは!ここに迷い込んだ事を後悔しなさい!あなたはここで私に食べられてお終いよ!」

 

「…別に迷い込んだんじゃねーよ」

 

双也はそう言いながら目を凝らして女性を見てみる。

長くサラサラとした金髪に整った顔。黒い服に黒いスカートを履き、首元に赤いリボンが付いている。何より目立つのが……その服や顔に付いたおびただしい量の血液。一目でこの惨状を作り上げた張本人だと分かる容貌をしていた。

女性は愉快そうな笑みを崩さずに続けた。

 

「じゃあ自殺志願かしら?私に食べられて死のうとするなんて酔狂な事ね」

 

「…そういう訳でもないし、そんな奴いないだろ」

 

そう答える合間にも、双也は目の前の女性が放つ力を解析していた。感じるのは……妖力。

 

(……デカイな…それに濃い。下手したら紫くらいあるんじゃないか…? コイツは…)

 

双也の解析の結果、紫に匹敵するのではないかと思う程の量と質を持つ妖力が感知された。同時に双也の記憶の中に引っかかる存在が一人。あの服装と妖力、恐らく食べるために殺したであろう数多の人間。

 

(コイツは…封印前のルーミア(・・・・・・・・)か)

 

東方project、原作キャラの一人ルーミア。闇を操る程度の能力を持ち、人間を主食としている妖怪。原作では小さな幼女だったが…どうやら封印される前は大人の姿だったらしい。封印されるのにも納得のいく力を放っている。

ルーミアは双也の言葉の返答として言葉を放った。

 

「そ。今更そんな事はどうでもいいわ。あなたが死ぬ事に……変わりは無いんだから!!」

 

瞬間、ルーミアは手にドス黒い何かを作り出して迫ってきた。双也は反射的に霊力を解放、天御雷を抜いてそれを受け止めた。

ルーミアは少し驚き、すぐに嬉しそうな表情をした。

 

「なるほど…ただの人間じゃないのね。うふふ…美味しそう……」

 

「!?」

 

そう言って舌舐めずりをしたルーミアを見た瞬間、双也は背中にゾクッと寒気を感じた。一妖怪の殺気程度で怯む双也ではないが、ルーミアのそれには少し狂気染みたモノも含まれていたのだ。

双也はルーミアを離すべく、慌てて反撃した。

 

「ぐっ…離れろ!!」

 

「おっと」

 

双也が放った蹴りはアッサリ片腕で防がれ、そのまま上空に放り投げられた。ルーミアは即座に双也の頭上に飛び上がり、高笑いをあげながらドス黒い剣を振り下ろす。

 

「あははははは!! そらぁ!!」

 

「ちっ、くそ!」

 

双也はかろうじて天御雷で防ぐが場所は不安定な空中。そのまま地面に叩きつけられた。ルーミアはそこに大量の妖力弾を放っていく。地面は土煙に覆われていた。

 

「何よ、もう終わり?」

 

「…そんな訳、ねぇだろ!」

 

「…ふ〜ん…」

 

ルーミアが見下ろした先には、手をかざして立っている双也の姿が。双也は叩きつけられた後すぐに体勢を立て直し、魂守りの張り盾によって妖力弾を防いだのだ。しかし消耗も激しく、霊力の解放度合いも最初より一割ほど大きくなっていた。

 

「イイわねぇ!ますます食べたくなったわ!サッサと殺して----!?」

 

瞬間、ルーミアはヒュンッと風を切る音を聞いた。同時に頰と脇腹に痛みを感じた。ルーミアが頬を手で触るとベッタリと真っ赤な血が付いていた。

 

「な、何…」

 

ルーミアは再び双也に視線を戻した。すると彼は刀を振り抜いた状態で静止していた。旋空である。双也は強い力で旋空を二つ放ち、ルーミアの身体に掠めたのだ。

彼はゆっくりと口を開いた。

 

「一つ聞く、お前……"食べたい"って理由だけで殺してるだろ」

 

「…………は?」

 

「腹も減ってねぇのに、無差別に殺してるだろって言ってんだ!!」

 

双也が顔を上げた瞬間、ルーミアは目の前の男の力が別の物に変わったのを感じ取った。今までは感じた事のない力。ルーミアは生まれて初めて恐怖というものに向き合った。

双也の力は大きくなっていく。同時に、髪も白い輝きを放ち始めた。

 

「な、何がいけないのよ。妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐る!これはずっと昔から変わらない摂理よ!」

 

「自らが生きる為に他の生命を奪うのは構わない。生きている限りは必要な、減らしようのない犠牲だからな。だが俺が言いたいのは…不必要な殺しは明らかな悪だっつー事だ!」

 

「!?」

 

若干の焦りを見せるルーミアに、神格化した双也は鋭く睨みながら告げる。

 

「お前の罪は、不必要に人間を殺して楽しむその非情さだ!!」

 

その言葉を皮切りに、双也は神力で作った弾を次々放つ。ルーミアは飛んで逃げていたが、脇腹の傷が痛み、逃げきれなくなった。彼女は少し被弾しながらも回避を始めた。

 

「くっ、ぐぅ! 重いっ!」

 

「ガラ空きだぞ」

 

「!?」

 

気付けば双也はルーミアの懐に潜り込んで刀を構えていた。

双也は神力弾を大量に精製して停滞させ、順次自動で放つ事によって射撃中に動けるようにしたのだ。

ルーミアは双也の刀を防ぐべく、反射的に闇を使った盾を精製する。しかし

 

「無駄だ」

 

「がっ! なん…で…!」

 

双也の天御雷の刀身はルーミアの盾を容易く断ち切り、盾ごとルーミアの体を斬りつけた。続いて横腹に蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 

「ぐあっ くっ 舐めるなぁ!!」

 

ルーミアはそう叫んで体勢を整え、着地地点にて地面に手をつき、宣言。

 

深淵(しんえん)黄泉(よみ)より()づる死怨(しえん)()』!!」

 

ルーミアが手をついた場所を中心に闇が広がり、そこからおぞましいほどの量の真っ黒な手が出てきた。それぞれが高い妖力を纏っている。それを見て双也も宣言した。

 

神罰(しんばつ)(とが)(くだ)雷鳴(らいめい)』」

 

瞬間、双也の背に五つの白い円が出現した。それはだんだん光を強めていき、やがてそれぞれの円から雷鳴にも似たレーザーが放たれた。それは射線上の黒い手をことごとく砕き、消していく。

双也は再びルーミアに向かって走り出した。

 

「嘘でしょ!? 私の最強の技を!!」

 

「罪に染まった身で俺に勝とうなんざ不可能だ」

 

黒い手は次々と襲いかかるが、双也のレーザーと刀はいとも容易くそれを断ち切り、進む。

決してルーミアの技が弱い訳ではない。その黒い手一本で中妖怪は瞬殺出来るほどの威力を持っている。だが相手は天罰神。"罪"に対して絶対的な力を発揮する。ゆえに神格化した双也の前では宙を舞う埃程度の効果しか発揮出来ないのだ。

やがて双也はルーミアの前に辿り着き、言った。

 

「これが報い。お前が殺した人間の分、罰を味わえ。

ーー神剣(しんけん)断咎一閃(だんきゅういっせん)(つるぎ)』!!」

 

その宣言と同時に、双也の背で放っていた雷鳴は天御雷の刀身に集り、巨大な白い刀を形作った。双也はそれを躊躇いなく振り下ろす。

 

「がぁぁぁあぁあああ!!!」

 

強烈な雷を一身に受けたルーミアは叫び声をあげて気絶した。何もかもがボロボロになり、見るも無残な姿になっている。

 

「ぐぅ…くっ、はぁ、はぁ、はぁ…ちとやりすぎたな…」

 

双也は神格化を解き、気絶したルーミアの身体を支える。

人間を殺しまくったルーミアが死なずにいられたのは、今双也が膨大な霊力を使って"魂と体を繋ぎ止めている"からだ。そのままにしていたら間違いなく原作のキャラであるルーミアを殺してしまう、それを考慮した双也は断咎一閃の剣を放った直後に能力を発動し、ルーミアを留まらせたのだ。

双也は少し周りを見渡して叫んだ。

 

「お〜い、紫〜!出てきてくれ〜!」

 

……………………。

 

いつもなら出てくるはずが、中々紫が出てこない。

双也は少し待ってみたが、来なそうなのでもう一度呼んでみる。

 

「スゥゥ〜…ゆっかり〜ん!!」

 

「はいはい出るわよ。はぁ、こんなところ見たくないのに…」

 

どうやら紫はこの惨状を実際に見たくなくて出てこなかったようだ。しかし双也はやってもらうことがあって紫を呼んだのだ。彼女に付き合う気は全くなかった。

早速双也は簡潔に要件を伝えた。

 

「強力な封印の札をくれ」

 

「封印? その子に付けるの?」

 

「ああ。力が強すぎるからな」

 

双也はルーミアを見ながら言った。ルーミアはスースーと眠っている。その頰の横あたりの髪をまとめて札で結んだ。コレで妖力がだんだんと押さえ込まれるはずである。

双也は歩き出しながら言った。

 

「さて、元の場所戻るか…ありがとな紫。ご苦労さん」

 

「ええ。この子どこかに送っておくわね」

 

「ああ、頼む」

 

双也は紫にそう頼み、広場の出口で手を合わせて元の河原に戻った。焚き火は消え、魚は冷え切って冷たくなっていたが双也は全て食べきり、横になって眠りにつく。

 

大きな月は、丁度分厚い雲から出てくるところだった。

 

 

 

 

 




久方ぶりの神格化での戦闘です。やっぱり技一個じゃ寂しいですからね。

ではでは。

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