二十話の時も言った気がしますが、早いもんですね。
久しぶりにオール三人称。
では四十話!どーぞーっ!
「さて」
天魔はそう言って双也の分と自分の分のお茶を机に置いた。
向かい側に座っている双也はなぜか正座をしている。
「では本題に入ろうか。何をしにここへきたんだ?」
「え〜っと…ひじょーに言いづらいんだけど…」
そうして何か口ごもっている双也を見て、天魔が"こやつは何かやましい事でも考えているのか"と考えるのは至極妥当なことだろう。
中々言い出さない双也にしびれを切らし、天魔は薄々だが思っていたことを口にした。
「なんだ、まさか何の用も無しにここへ来たのか?あれだけの被害を出しながらよく----」
「いやそう言うわけじゃないっ!それはホント悪かった!」
双也は慌てて訂正した。穏便に山を登りたかった双也としては不本意な入山の仕方だったので、少なからず双也は後悔しているのだ。
緊張が和らいだのか、双也はやっと話を始めた。
「えっとな、実は……ここに暫く住まわせてほしい」
「…は?なぜだ?」
「会いたい奴らがいてな、ここにいないといけないんだ。ちゃんと会えたら…まぁそれは後で決めるかな」
「ではなぜ口ごもっていたのだ?」
「それは…その…天狗たちを蹴散らした上で頼むにはちょっと気まずい内容だったと言うか…」
天魔はそれを聞いて拍子抜けし、大笑いした。
「ぷっ……くくく…あっはっはっはっは!!なんだそんな事か!心配するな。あやつらも戦う上で負けるかもしれないという覚悟は持っている。何もこの山へ入ってくるのが人間だけとは限らないからな。負けたら負けたで、あやつらの自己責任だ。お主が気負う事はない」
「え、じゃあ…」
「ああ、良いぞ。住まわせてやる。ちょうどこの屋敷には部屋が余っていてな。好きなところを使うといい」
「ありがと天魔!!」
天魔の言葉に双也は心底歓喜していた。思ったよりも円滑に話が進んだからだろう。
天魔は改めて、双也に自己紹介した。
「では改めて、私はこの山の天狗を纏める天魔、
「おおよろしく。って言うか"天魔"ってのが本名じゃなかったのか」
「それは役職名だ。本名はさっき言った通り。ずっとお主に天魔天魔と呼ばれていたのが少し気になっていてな…」
「そんなに気にしてたのか?」
「まぁな」
こうして双也は新しい宿を手に入れ、暫く談笑していたのだが、話の話題として、嵐は気になったことを双也に問いかけた。
「そう言えば双也、ここで会いたい者というのは?」
双也は言ってもいいか少し考えてから答えた。
「えっと、そのうちここに攻めてくると思うんだけど…鬼だよ鬼。一本角と幼女の鬼」
「鬼…だと?」
双也の言葉を聞いて少し眉を寄せる嵐。それを見て双也はもしや…と思い、嵐に聞いてみた。
「嵐? もしかしてもう…」
「……ああ。
双也の問いを察し、嵐はそれに答えた。
「ここは既に、
妖怪の山。主に天狗が住み、役職別に別れてとても組織的に構成されている巨山。その数多いる天狗たちを纏めるのが天魔という役職の天狗。しかし近年、額や頭に角を持った"鬼"と呼ばれる妖怪たちが、圧倒的な力でこの山に攻め入り、天魔も抵抗するがあえなく敗北。現在は山の中間から頂上までは天狗ではなく鬼が新たに住み着いている。
「………と言うのが今の現状だ」
「なるほどなぁ…てかお前負けたのかよ」
「うるさい。それだけ強いってことだ。鬼という種族は」
双也は妖怪の山の現場について嵐から説明受けていた。鬼が来るまでここで待っていようと思っていた双也だったが、どうやら鬼に先を越されたらしい。
双也は手を顎に当てて少し考え、嵐に向き直って言った。
「ふ〜む…じゃあ明日あたり会いに行くとするよ。今日はもう疲れたから休む」
「…そうか。二階の部屋が空いてるから好きなのを使ってくれ」
「はいよー」
双也はそう言いながら部屋の戸を閉めて出て行った。
「はぁ…あやつが会いに行くのか…結果が目に見えるな…」
嵐の呟きは、少しだけ暗くなった部屋に響くだけだった。
翌日の昼。昼食を食べ終わった双也と嵐は屋敷の前にいた。これから出ようという時間だ。
「よっし行くぞ嵐。案内頼むな」
「ああ。だが本当に行くのか? どういうことになるか容易に想像できるんだが…」
「まぁ…喧嘩っ早いらしいからな。霊力抑えてけば大丈夫だろ」
「だと良いけどな…」
双也は準備体操し、嵐はそれを見ながら双也に問いかける。鬼のところは嵐でも出来れば行きたくない領域。やはりあまり気は進まないのだ。
双也が準備体操し終えるのを確認し、嵐が先行して山を登りはじめた。
「ふーん、結構妖力が大きいな鬼ってのは。チラホラと大物がいる」
「それはそうだろう。天魔である私が中妖怪などに負けると思うか?」
「いや、そうは思わないけど……って言うか嵐の本気見たことないから何とも…」
「お前があんなことするからだ」
「お、おう…」
嵐と双也はちょっとした雑談をしながら登っていた。しかし、こんな軽口を叩きながら歩いていられるのは双也と嵐が強者だからだ。双也たちが歩いている山道の左右、そこに生い茂る木々の隙間からチラホラと眼光が覗いている。つまりは鬼たちが登ってきた双也たちを見ているのだ。プレッシャーは並ではない。
そのうち一体が双也たちの前に出てきて言った。
「おい天魔ぁ!何だそいつは!人間じゃねぇか!」
「…はい。この者が
嵐は珍しく敬語を使っていた。対して鬼は態度が軽い。こいつも他人を見下す部類かな…?と双也は思っていた。
嵐の言葉に、鬼は声を荒げて言った。
「四天王に? 天魔ぁ、分かってんのか?俺らは卑怯な手を使う人間を遠ざけるためにここに住みついてんだぞ!? 見ればその人間、霊力を放つ刀持ってんじゃねぇか!陰陽師か何かか!?」
どうやら鬼たちは人間から遠ざかる為にこの山を乗っ取ったらしい、と双也は理解した。
声を荒げる鬼を前に、嵐は対応に困っている。見れば鬼たちが出てきて周りを囲っていた。
「山を乗っ取られた復讐か知らねぇが、そんな奴を四天王に会わせる訳にはいかねぇ!!」
鬼はそう言うと、ものすごい速さで嵐の横を通り抜け、双也に殴りかかった。双也はそれを見て一言。
「…遅いな」
「なに!? がふぁあ!!」
拳を受け止め、引き寄せながら刀の柄で鬼の腹に一撃を入れた。鬼は血を吐いて吹っ飛び、5mほどの所でとまって双也を睨みつけた。
「テ、テメェ……」
「悪い嵐、やっぱりこうなっちまった」
「…もういい。覚悟は出来てた…」
双也はそう言って嵐に謝るが、当の嵐はため息をついている。双也は未だに睨みつけている鬼を見て言った。
「さて、鬼は喧嘩が好きなんだよな?今日は拳でやるとしますか!」
「腐れ陰陽師め…後悔するなよ!!」
双也と鬼は駆け出し、拳をぶつける。衝撃は風となって周囲へ伝わったが、吹き飛んだのは鬼の方だった。
「くそぉっ!」
「まだまだいくぜ!?」
「!!」
双也は瞬歩で鬼の頭上に移動し、能力を併用して拳を打ち出す。拳は空気を伝って鬼に迫り、当たった。
「舐めんなぁ!!」
しかし鬼も喧嘩好きの実力者。腕をクロスさせて防御し、双也の拳を受け切っていた。地上に降りた双也に向かって鬼が飛び、蹴りを放つ。
「うおらぁあ!!」
「おっ、とぉ!」
蹴りをしゃがんで避け、鬼の足首を持って背負い投げの要領で地面に叩きつける。双也は跳ね返った鬼を蹴り飛ばした。鬼はくの字になって飛んでいく。
少し休憩とばかりに立ち止まり周りを見渡すと、集まっていた鬼たちはなにやらガヤガヤしていた。
「いいぞーもっとやれー!!」
「おいおい!そこはこう…ガツンといかないと!!」
「すげー!あいつつえーなー!」
「おいもっと酒飲ませろー!!」
(喧嘩で宴会開いちゃうのか鬼って…)
みんな酒を飲み、どんちゃん騒いで双也達に何か言葉を飛ばしている。その様子はまさに宴会。鬼が喧嘩好きという証明の一つだった。
「なんかもう、こういうの見たらなんかめんどくさくなってきたな…」
双也がそう言うのと同時、さっきくの字になって飛んで行った鬼が、まさに鬼の形相で迫ってきて双也に殴りかかった。妖力をこれでもかと込めた拳。鬼の渾身の一撃だった。
「これでぇ…終わりだぁ!!」
そう叫んだ鬼は、手首を捕まれ勢いを使った双也の手刀を首にくらった。ズドンッと激しい音が響き、鬼は泡を吹いてその場に倒れた。
「そうだな、確かにこれで終わりだ。楽しかったぜ、喧嘩」
双也がそう言った瞬間、観戦していた鬼たちはワアアアアア!!と歓声をあげた。双也も嵐の所に戻って案内を再開するように頼もうとするが……周囲から、
「いいねいいねぇ!!こういうの奴を待ってたんだ!」
空気が言葉を発しているように、その声は場に響き渡った。双也が後ろを振り向くと…
「なぁ人間、次は私と喧嘩しないか?」
頭から太い角を二本生やし、大きめの瓢箪を持った幼女が双也を見つめていた。
あの呑んだくれ幼女鬼の口調はこれでいいんでしょうか?
間違いが目立つようだったら感想にでも書いてお知らせ下さい。
ではでは。