東方双神録   作:ぎんがぁ!

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シリアスはいりまーす。

ではどうぞ〜っ!


第四十七話 月という理想、団子という現実

翌日。俺、紫、妖忌の三人は西行妖の前に集まっていた。封印するのに必要な情報を集める為だ。

一応幽々子には白玉楼を空けると伝えてはある。ぶっちゃけ幽々子に言ってもいいと思うのだが、準備が整ってから全て話すらしい。まぁそこらへんは紫に任せる事にする。

留守に関しても、幽々子は妖忌が認める程の腕なのだ、多対一にでもならない限りは自衛出来るだろう。…まぁそもそも、普通の人間なら近付いただけで死んでしまうのだが。

 

「本当にデカイ桜だな。一体何年生きてるんだ?」

 

「ワシが西行寺家に仕える事になった頃にはもう立派な桜の木でしたぞ。白玉楼に植えてある桜の木の中でも、取り分け綺麗に咲き誇っていたのはこの木でしたな」

 

「だから幽々子の父さんはこの木の下で死のうとしたのか…」

 

西行妖を見た俺の素直な感想には妖忌が答えてくれた。いや本当にデカイのだ。他の桜の三、四倍はある感じだ。

こうした会話を少しすると、早速計画の話に移そうと思い紫に話しかけた。

 

「それで紫、封印て言ってもどうやるんだ?全くもって素人だぞ俺は?」

 

「そうね…普通なら結界で周りを囲って、力や気配や…まぁその全てを外と遮断するっていうのが一般的なんだけど…これって定期的に力を注ぎ込まないと長くは持たない封印式なのよね」

 

「俺の遮断能力じゃダメなのか?」

 

「あなた、一つの存在を構成する全ての要素を一度に遮断出来るの?」

 

「やってみなきゃ分かんないな」

 

「冗談言わないで。いくら霊力が膨大でも脳が焼き切れて死ぬわよ?」

 

「……そうか」

 

能力ってそういうリスクもあったのか…思わぬところでまた賢くなった。気をつけよう。

にしても、そうなると別の方法を考えなきゃいけない訳か。俺が悩んでも答えは出そうにないが、どうしたもんか…。

俺が悩んでいると、それを妖忌が紫に尋ねた。

 

「別の方法は無いのですか?」

 

「あるにはあるわ。何か媒体を基点にして封印式を組み、力が解放された時にそれを抑え込むっていう方法よ。その為には、"封印対象の力の最大量を知る事"と"そのモノの存在を抑え込むのに足る器を媒体が持っている事"が必要よ」

 

「うーん、とりあえず妖力の最大を知らないといけないわけか」

 

俺は西行妖に近付いて手を添える。…ふむ、確かに妖力を感じるな。でも花はほぼ咲いていない状態だ。もっと工夫して感じないと…。

俺は"自身の全感知能力を西行妖に集中"させた。

 

「…双也?どうしたの?」

 

「双也殿?」

 

俺は数歩後ろに後退り、頰に汗を垂らして苦笑いした。

ははは…嘘だろ…こんな事…

 

「ねぇ双也!どうしたのよ!」

 

「…紫…この桜の妖力………俺よりも上だ(・・・・・・)…」

 

「……………え?」

 

「な…なんと…」

 

能力を使って上限を測ってみた結果、とんでもない量の妖力が感知された。紫にはああ言ったが、正確には俺の全開放よりも少し上という事だ。きっと人の命を喰らい過ぎたのだろう。これが満開なんてしたら一体何人死ぬのか…想像もしたくない。

 

「西行妖を封印するのに足る媒体……そんな物存在するのか…?」

 

思わず思った事が口から出てしまった。紫も妖忌もそれで黙ってしまう。ああ失言だったか、余計に気を沈ませてしまった。

気分を戻すために、俺は二人に声をかけた。

 

「ま、まぁ取り敢えず、探してみないことには始まらないだろ?何もしなかったら封印なんて出来ないんだ。頑張ろう!」

 

「…そうね、やってみないと分からないわ。じゃあ手分けして探していきましょう。二人に札を渡しておくわね」

 

そう言って紫は赤い字で何か書かれた紙を渡してきた。何に使うんだ?

 

「それをモノに貼れば器の大きさが数値化して表示されるわ。そうね…西行妖を封印するなら…三万くらいあればいいんじゃないかしら?」

 

「さ、三万ですと!?」

 

「そんな器…自然界だとどれくらいあるんだ?」

 

「……"あるかどうか分からない"くらいあるわ」

 

「それ"ある"って言わないんじゃ…」

 

「でも存在する可能性はあるわ。やってみないと分からないって言ったのは双也じゃない」

 

そう言って紫は微笑んだ。そうだな、やってみないと分からない。根気よく探す事が大切だ。

ふむ、試しに天御雷の器を測ってみようかな。俺は天御雷に札を貼った。すると札が光り、一万という数字が映し出され、それを見た紫が驚嘆の声をあげた。

 

「その刀そんな器を宿してるの!?なんで……もしかして、長年神である双也と共にあったから?」

 

「俺といると器が大きくなるのか?」

 

「神限定よ。モノや人間よりも格の高い神だからこそ、モノの器を大きくすることが出来るの。でも足りないわ。器を更に大きくするにも時間が足りない」

 

…探すしかないって事か。予想外に器の大きい刀であったが、俺と共にあったからっていうか俺が作ったから?とも思った。まぁ調べる術も無いし良いとしよう。

簡単には見つからないだろうが、今年の花が咲き切る前には必ず見つけなければならない。俺たちはそこで別れ、各々行動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅぅ〜…中々見つかんないな、やっぱ」

 

外も暗くなった頃、俺は白玉楼の風呂に浸かって呟いた。当然木造で大きい為、一人で入るには大き過ぎて逆に落ち着かない。

二人と別れたあといろいろ回って見たのだが、あいにく器になる物は見つからなかった。まぁ一日目で見つかったらそれはそれでアレなんだけど。つーか、どれもこれも器が六とか十とかばっかってどういう事だよ。三万なんてどんなモノが持ってんのか想像できない。

 

「そういえば…神の近くにあるモノだと器がでかくなりやすいんだったか…神器じゃダメかな。神器……神器?」

 

おっと…良いこと思いついたぞ…そういえば俺の知り合いには神器のスペシャリストが居たじゃんか!

俺は湯船から立ち上がり、体を拭いた。

 

「そうと決まれば…探し出して、見つかったら会いに行こう」

 

そうこれからの予定を定め、風呂を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…俺の部屋あっちだっけ…」

 

風呂から上がり、部屋を目指して廊下を歩いている。

実は今日は白玉楼に泊まっていくことになったのだ。嵐には一応伝えてある。

で、絶賛迷子中。何ココ広すぎだろ。こんなの巨大迷宮としてアトラクションに出来るレベルだぞ!

歩いていると、縁側の曲がり角の方からあの気配(・・・・)を感じた。

 

「幽々子?」

 

「あら双也、どうしたの?」

 

曲がり角から顔を覗かせると、そこでは幽々子が縁側に座って団子を食べていた。月も出てるし、月見団子を楽しんでいるのだろう。

 

「あー、ここ広すぎて迷ってたんだ。俺の部屋どこだっけ?」

 

「双也の部屋?それならこの部屋の向かい側よ」

 

「お、そっか。ありがとな。じゃおやす----」

 

「待って双也。折角だから少しお話しない?」

 

部屋に向かおうとしたら幽々子に止められた。まぁ急いでるわけじゃないし、いいかな。

俺は幽々子の隣に座り、幽々子に断って一つ団子を口に放り込んだ。うむ、うまい。

俺が団子を味わっていると、幽々子が話しかけてきた。

 

「知ってる双也?月見団子の本当の楽しみ方」

 

「(ゴクッ)そんなのあるのか?」

 

「ええ。元々月見団子って言うのは中秋の名月の日に食べる物なのよ。でもあの時期って曇りやすいでしょ?だからせっかくの名月も見える事が少なくて…月見団子って言うのは、まん丸のお団子を名月に見立てて、想像してたのしみながら食べるものなのよ」

 

「へぇ…じゃあ今のコレは月見団子って言うよりただのお月見なんだな」

 

「ふふ、そういう事になるわね」

 

幽々子はクスッと笑って団子を一つ摘んだ。それを月に重ねるように掲げると、さっきよりもやや静かな声で言った。

 

「……私はね、小さい頃からずっと想像してたの。お父様が居て、妖忌が居て、使用人の子達が居て、幸せな日々がずっと続くんだろうなって。でも、今はもうただの理想。叶わぬ夢になってしまったわ」

 

重ねた団子と月を見る幽々子の目は悲しそうな光を放っていた。

幽々子の言葉は続く。

 

「…私はこのお団子と同じ様な存在よ。姿形は同じでも、理想と現実は中身も本質も全てが違うもの。…いくら私が理想と同じになりたいと願っても、それは想像するだけに留まって、叶うことは絶対に無い。…幸せな日々は…取り戻す事も、これから作ることも出来ない」

 

幽々子の目からは一筋涙がこぼれた。幽々子がどれだけ今を悔やんでいるのか分かる気がした。

 

「…理想である月と思い描いた想像、現実である団子と今の幽々子…か。確かに、いくら団子で想像しても、それが理想の月になる事は無いけど…作る事が出来ないって言うのは違うんじゃないか?」

 

「え?」

 

「まだ紫や妖忌、俺も居るだろ?」

 

「!」

 

確かに幽々子の家族はいなくなってしまった。でも、幽々子の事を大事に思う紫や妖忌がいる。俺だって幽々子が悲しんでいるのを見たくはない。

 

「まだお前を大切に思う人たちは居るんだから、幸せな日々は取り戻せるんだよ。四人で話してる時、楽しくなかったか?」

 

「!…そうね。そうだったわね。私にはあなた達が居る。四人でいる時は本当に楽しくて、ずっとこんな時間が続けばって思うわ。……ありがとう双也。気持ちが軽くなったわ」

 

「どういたしまして」

 

俺はそう言って最後の団子を食べた。食べている間に幽々子が言った。

 

「あの桜の事も、双也たちが頑張ってくれてるみたいだしね」

 

「んぐっ…ゴクン…あの話聞いてたのか?」

 

「ええ、お手洗いに行ったって言うのは嘘。本当は襖の向こうで聞いていたわ」

 

「なんだそうだったのか…まぁどうせ言うつもりだったらしいから良いんだけどさ。

……必ず媒体は見つける。花が咲き切る前に見つけて、お前の悲しみを三人で断ち切ってやるから、元気出してくれ。紫も妖忌も俺も、悲しむ幽々子の顔なんて見たくないんだよ」

 

「…………本当に…ありがとうね」

 

幽々子は少し笑って言った。先ほどの悲しそうな表情はもうどこにも無かった。

 

俺はその後幽々子の部屋を去り、無事に自分の部屋にたどり着き、布団を敷いた。布団に潜り込んで身体を落ち着けると、俺はすぐに眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 




表現が難しかったです。わからなければご質問下さい。

ではでは。

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