ではどうぞ!
「さぁ皆さん!! 美しく! 過激に! 月を蹂躙しましょう!」
妖怪達は進んで行った。活気に溢れた声、でもすぐに声は悲痛なモノに変わった。
「ギャアアアアア!!? 何だっ!? これはっ!?」
沈んでいく。血の海は広がり続け、無残な"妖怪だったモノ"は飲み込まれていく。
「話が違うじゃねぇか! 紫さんよぉ!? ッ! がぁああ!」
なんで?
「助けてくれ! 俺たちはそそのかされて----ぎゃぁあ!!」
どうして?
「穢れごときが月に攻め入ろうなど…なんとも滑稽な。死になさい」
私は、こんな事望んでいなかったのに。
「クソがぁあ!! 死んでたまるかぁ!!」
幽々子を、救いたかっただけなのに。
「死ね死ね死ねぇ!! 妖怪なんざ敵じゃねぇ!!」
双也に、認めて欲しかっただけなのに。
「あそこに立ってるヤツがいるぞ! 撃て撃てぇ!!」
やっぱり私には、敵わないっていうの?
「あなたが首謀者ね。自らの行い、存在に後悔する事ね」
あれだけ修行した。これだけ強くなった。それでも友を救えない? 認めさせられない?
「月に刃向かったことを、地獄で詫びなさい」
見返そうと思った私が馬鹿だったのか。
戦いを望んだ私が馬鹿だったのか。
……力も無いのに、誰かを助けようなんて思ったのが間違いだったのか。
「……死ね」
いろいろな想いが渦を巻く。そこから答えは出てこない。
何が正しくて、何が間違いだったのか、私にはもう分からなかった。
「…ごめんなさい皆。さようなら」
刃が、振り下ろされる音がした。
「諦めてんじゃねぇよ!!」
刹那、声が響いた。私のよく知る声、ここに響くはずのない声。
「何で……ここに……」
刃を受け止める、双也の姿がそこにはあった。
…間に合った。刃が振り下ろされる瞬間に受け止める事に成功した。紫はボロボロになって座り込んでいる。目は虚ろだ。
「何で? お前に言いたい事が山ほどあるからに決まってんだろうが!!」
俺は久々に頭に来ている。ここまで怒ったのはいつぶりか分からない。
「双也…私……」
俺は刃とその持ち主を弾き飛ばし、紫に向き直った。そして……
バキッ
一発殴った。
「…お前は先に帰ってろ。後始末は俺がする」
「双也! 私は----」
「いいから行け!!」
俺はここに来たのと同様の能力を付加して紫を斬った。
黒い空間が閉じた後には影も形も残っていなかった。
「………………」
手当は妖忌がしてくれるだろう。紫のメンタルも心配ではあるが……大丈夫だろう。仮にも大妖怪だ、負けた程度で塞ぎ込んでたらまた殴ってやる。
…説教はこれを片付けた後だ。
俺はさっき弾き飛ばした剣士に向き直って言った。
「久しぶりだな………
剣士…依姫は驚愕の表情で俺を見つめていた。
息を飲む。目は開き過ぎて乾ききり、動悸は激しく、息苦しい。思わず握りしめた刀を落としそうになる。
私の視線は、目の前に立つ男に釘付けになっていた。
「久しぶりだな………依姫」
男は薄く笑ってそう言った。耳は声を聞き入れても、脳が理解しない。この状況を理解する為に、私の頭は焼き切れる寸前だった。
やがて一つの結論に達した。
そしてその刹那、私は男に斬りかかった。
「おいおい、再開したのに斬りかかるか普通?」
「黙れ!! 喋るな!! その姿で動くなぁ!!」
私は怒りのままに刀を振り回す。見境など無かった。
「あの人は…双也さんは死んだ!! この月にいる人達を護って! 妖怪の軍勢とたった一人で戦った!! その人が…敵である妖怪を助けるなんてありえない!! あの人の皮を被る偽物なんか…許さない!!」
純粋な怒り。私はあの人を穢した偽物のコイツに怒っていた。
あの人は、大戦で民を護って妖怪の大軍勢と戦い、死んだ。その生き様は私の憧れる人物像にそっくりだった。…いや、あえて言おう、私は双也さんに憧れていた。羨望といった方がいいかも知れない。あの人の強さに憧れていた。
それを"この男"は、妖怪を助けるという形で踏みにじった。双也さんを侮蔑した!!
「お前だけは!! 絶対に葬る!!」
全速力で走り、袈裟斬りを仕掛ける。男は刀で簡単にいなした。しかし払った私の刀は地面に突き刺さる。これは私の得意な形だ。
「祇園様!!」
瞬間、男の真下から大量の刃が突き出る。大抵の妖怪ならこれで終わりの筈だが、男は跳んでいとも容易くそれを避けた。
どうやらそこそこ強いようだ。
でも、どれだけ強かろうと絶対に…
「殺す!!」
男に向けて叫ぶ。ただただ純粋な殺意の奔流に、呑み込まれていく様だった。
「愛宕様!!」
私は能力を使用し、刀に神殺しの炎を纏わせる。それを振るって大量の炎弾を飛ばした。
私の能力、それは"依り代となる程度の能力"だ。これは月に移住して修行した結果開花した能力である。自らの身体を神々を下ろす依り代とする事で、神の力を借りる事が出来る能力だ。
「おっと! 俺の話を聞け依姫!」
「うるさいっ!! 黙れと言ったはずだ!!
炎天『崩天流星弾』!!」
宣言し、空に炎を放つ。それは上空で集まって巨大な炎球となり、そこから男に向かって大きな炎弾を飛ばす。それはさながら流星群のようだ。
「ちっ、厄介なの使うな!」
男は斬ったり交わしたりして対処していた。意識は完全に流星弾に向いている。
…そんな隙は見逃さない。
刀を振るい炎弾を飛ばす。それについていく様に駆け寄り、地面に刃を当てながら斬りあげる。同時に、大量の刃が男に向かって突き出した。私の誇る連携の一つだ。
「なに!?」
男は炎弾には被弾しながらも刃を防いだ。懸命な判断とは言える。でもまだだ!
私は身体を捻り、足元から背中側に剣跡が残るように刀を振るった。地面から刃が離れた瞬間から、大量の刃が刀を付いてくるように男に襲いかかる!
ギャリリリリリッと音がして、刃が止まった。否、見えない壁に阻まれて止められたようだ。
「…縛道の八十一『断空』……依姫、俺は本物だ、双也だ。話を聞いてくれ」
「黙れ黙れ黙れぇぇえ!!」
その壁に向かってがむしゃらに刀を振るう。ガンッガンッガンッとぶつかるが、壊れる気配は一向に無い。
頭の中はもうグチャグチャだった。刀を振るうたびに思い出すのだ。双也さんの動きと重なるこの男の動き、刀の扱い方、話し方、纏う雰囲気。どれを取ってもあの双也さんそのもの。
"もしかして本物なのでは?"と言う考えも少なからず湧き上がってくる。反面敵だと思っている自分もいる。普段の自分には似つかわしくない様な今の行動も、恐らくは脳の許容を超えた思考への拒絶反応。
ただただひたすらに、定まらない気持ちを刀にのせ、それをぶつけて暴れ回る。
…やがて刀に手応えがなくなった。
「…………………」
私の刀は男の肩口を斬り裂いていた。そこからは鮮血が噴き出し、飛び散る。
突然の事で動けなくなっていた私は、気付けば男に抱き締められていた。
「え…あ…?」
「…悪かった。お前がそこまで思い詰めてるなんて知らずに、勝手に居なくなって………本当に悪かった」
抱き締める力が強くなっていくのを感じる。一緒に気持ちが伝わってくる。
暖かくて、後悔に満ちた優しい気持ち。
ああ、ああ、そうだ、この暖かい感じは……
「そう、や、さん……そうやさぁぁん!!」
「ごめん。ごめんな依姫…」
「うぁぁあぁあぁあああ!!!」
私は、双也さんにしがみ付き、彼の胸に顔を埋めて泣いた。こんなにも泣いたのはいつぶりだろうか、そう思う程にたくさんの涙を流した。
別れた日を思い出した為の悲しさ、生きていてくれた為の嬉しさ…いろいろな感情が胸の奥で渦巻く中、私は気が済むまで泣き続けた。
夜中の執筆なので矛盾が無いか心配です。
ではでは。