視点変更注意。
では五十三話!どうぞー!
白玉楼、その縁側に座って、幽々子と妖忌は二人の帰還を待っていた。
「大丈夫ですかな、お二人は」
「そうね…心配ではあるけど、大丈夫なんじゃない?双也が助けに行ったんだから」
「気楽ですな、幽々子様は…」
なんとも呑気な事を言うお方だ、と妖忌は少し溜め息をついた。
二人が会話していると、庭に異変が起こった。
「? アレ、双也が使ってたのと同じじゃない?」
「ワシは良く知りませんが…行ってみましょう」
妖忌が促し、二人はスキマに似た黒いモノに近づいた。
…それが小さくなったかと思うと、そこには傷だらけの紫が座り込んでいた。
「! 紫!!」
「紫様!」
歩いていた二人は、その姿を目にすると走り出して紫に近寄った。彼女はどこかボーッとしている。
「紫!大丈夫!?」
「幽々子…私、ダメだったみたい…」
「取り敢えず手当をしましょう。双也殿の言いつけで用意してあるので」
「双也が…?」
紫は虚ろな瞳を少し見開いた。
「お説教は後よ。今は治療しましょ」
紫は妖忌に抱えられ、用意していた布団へと連れて行かれた。
庭に残された幽々子は、空を見上げて独り言ちる。
「後はあなただけよ双也。早く帰って来なさい」
友の恩人の帰還を願い、幽々子は紫達の元へ戻った。
月面。双也は泣き疲れて眠ってしまった依姫を寝かせていた。
…もちろん血溜まりのないところだ。依姫はスゥスゥと寝息を立てている。
「はぁ…依姫には悪いけど、もう戻らなきゃな…」
双也は天御雷を掲げ、来た時と同様の能力で帰る準備をする。
そこで、双也には聞き覚えのある声が聞こえた。
「気が早いな。少し我と話していかないか?」
振り返った双也の目には、月の神、ツクヨミの姿が映っていた。彼女はにこやかな表情で双也を見つめている。
「…一億年ぶりだなツクヨミ」
「ああ、久しぶりだな双也。元気そうで何よりだ」
軽い挨拶を交わすと、ツクヨミは真剣な目付きになり
「すまなかった…!」
「………は?」
頭を下げた。神が頭を下げる事など滅多にある事では無いが、ツクヨミにとってはそれ程重要な事があった。…人妖大戦の事だ。
「姉様から聞いたとは思うが、我の言葉でしっかり伝えねばと思っていたのだ。すまぬ…!」
双也はツクヨミの謝罪にかなり戸惑った。一瞬なぜ謝られているのか分からなかったほどだ。
意味を理解すると、ツクヨミに言った。
「いや、頭あげてくれよ。これも日女に伝えてもらったことだけど、俺は誰も憎んでないし後悔もしてない。謝られる必要なんて無いんだよ」
「し、しかし----」
「いいんだよ。仲間は死んじまったけど、結果的に俺は生きてるし、無事にみんなをここへ送り出せたんだから万々歳だ。だから謝らないでくれ」
そう言って笑う表情の中に、ツクヨミは隠しきれていない彼の悲しみを見た。
「………分かった。ありがとう双也」
それを察したツクヨミは、彼にそんなものを背負わせてしまった自分をなおも悔いながらも作り笑いを浮かべた。
「そう言えばさ」
「ん?」
双也は思い出したような声を上げた。日女や創顕と会った時に思ったふとした疑問だが、これからもツクヨミと付き合いがあるとするなら重要な事柄。
双也は問いかけた。
「お前の"ツクヨミ"ってのは神名だよな?名はなんて言うんだ?」
その問いにツクヨミは少しキョトンと言うような顔をし、間を空けて言った。
「ん?えっと…あっ、
「なんと言うか…そのままだな、名字と言い名前と言い」
「うるさい。少し気にしているんだ、何も言うな」
月夜の言葉の詰まりには双也も疑問に思ったが、何か触れてはいけない気がした双也はあえて言わなかった。
実は、月夜は普段"ツクヨミ様"としか呼ばれないため、自分の名すらも忘れかけていたのだ。神としては恥ずかしいの一言に尽きるそれは正しく地雷だった。怒りを買わなかったと言う意味では、双也は"助かった"と言える。
「さて、我の用は済んだな。双也よ、依姫は我が見ておくから、早くあの妖怪の元へ行ってやるといい。……何か言伝は必要か?」
月夜が唐突に切り出したのは帰還を促す言葉だった。どうやら、一言謝る事が月夜の目的だったようだ。
月夜は眠っている依姫を抱き上げ、双也に問いかける。
少し考え、彼は言った。
「"心配かけた事は本当に済まなかった。あの一太刀で許してほしい。次の機会にたくさん話をしよう"って伝えておいてくれ」
「あい分かった。伝えておこう。ではな双也」
ああ、じゃあな、と言い残して双也は黒い空間に入っていった。残されたのは依姫を抱えた月夜のみ。
「だ、そうだぞ依姫。起きているのだろう?」
月夜は依姫に言った。するとはい、と返事をし、依姫が顔をあげた。
「双也さん…生きていて…本当に良かった…。でも、なんで妖怪の手助けなんて…?」
「それは我が説明してやろう。よく双也観察をしている姉様から聞いているからな」
「……一体なにしてるんですか…」
他愛のない会話をしながら、二人は都市へ戻っていった。
「………お前、何をしたか分かってるか?」
「…………………」
白玉楼に戻った俺は紫を説教していた。もちろん今回の愚行についてだ。アレだけ言ったのにコイツは見事無視してみせた。怒るのは当然だ。
「俺は警告した筈だぞ。"妖怪は月には敵わない"って。お前は自分の命を捨てに行くのと同じ事をしたんだぞ」
「…………………」
相変わらず紫は黙っている。何を考えているのかは分からないが、黙っているのでは埒があかない。
「あのな、何も言わないんじゃどうしようも----」
「どうしてよ……」
「…は?」
「どうしてそんなに私を弱者みたいに言うの!?」
…突然の叫びに声が出なくなった。紫の目尻には涙が溜まっている。続けて俺に叫んだ。
「私はもう昔みたいに弱くはないわ! 双也に助けてもらわなくても生きられるくらいに強くなった! なのにあなたはいつまでも私を認めてくれない! なんで!?どうしてよ!?」
「………………」
…今、理解した。…こいつは俺を見返したかったんだ。自分が強くなった事を、しっかり見て欲しかったんだ。
…どうやら、今までの俺の過保護さが、紫に誤解を与えてしまっていたようだ。
「輝夜達の時もそう!あなたは私を戦わせなかった!それは私が弱いって思っていたからでしょう!?」
違う…俺はそんな事思ってない。
「私はもう弱者じゃない!負けて殺させる側じゃない!
…もう認めてくれてもいいでしょう!?」
紫の頰を一筋涙が伝う。それでも目だけは俺を睨んでいた。
紫の想いの強さが伝わってくる。そこまで思い詰めさせてしまった事も少しばかり後悔した。
でも………
「お前こそ…なんで分かってくれないんだよ!?」
「っ!?」
「俺はお前に死んで欲しく無いだけだ!! 無謀な戦いに挑んで、消えて欲しくないだけだ!! お前が死んだら悲しむヤツだっているんだぞ!? なんでお前は俺の気持ちを理解してくれないんだよ!?」
気付けば、俺は紫に怒鳴っていた。自分でも驚いた事に、俺の頰にも熱く湿っぽいものを感じた。
俺は紫の危機にはいつも助けに行った。それは一重に、紫に死んで欲しくなかったから。世界の創造の為とか、そう言うのは関係なく紫に生きていて欲しかった。だから警告した。敵わない相手に挑むのは自殺行為、それを分かって欲しかった。
……だが結果、その想いが逆に紫を追い詰めていた。
「……悪い、取り乱した。でも、"お前の事を大切に想う奴が居る事"…忘れないでくれ」
そう言って部屋を出た。気分は非常に優れない。もう休みたかった。
「双也…」
「悪い幽々子、アイツの世話頼むよ。元気付けてやってくれ」
「……ええ」
幽々子達は部屋の襖の向こうから話を聞いていた様だった。幽々子に紫の事を頼んでその場を去る。
……部屋に戻っても、頭の中は霧がかかったようにモヤモヤしていた。
テンポ早かったでしょうか?
ではでは。