東方双神録   作:ぎんがぁ!

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さてさて、ここから新章ですね。早く双也くんを幻想郷に入らせたいです。

ではどうぞー!


第七章 地獄の裁判所編
第五十七話 愉快な船頭


「ん〜…………ん?」

 

ユラユラと揺れる感覚が伝わってくる。背中には何か固い物が触れているのに、妙な浮遊感がある。そう……舟の上で寝そべっているようなアレだ。

……………あれ?

 

(俺死んだんじゃなかったっけ…?)

 

感覚がある。その事に根本的な疑問が湧いた。俺は西行妖を封印する際、霊力を完全に使い果たして死んだはず。未だ意識があるのはおかしいのだ。

疑問は残るが、取り敢えず目を開けてみることにした。

 

(真っ暗だな……)

 

色の混ざった境地と言うのか、俺の視界は他の色が介入の余地の無い程の"黒"だった。それこそ、暗闇というにもまだ足りない、絶対的な黒に染まっていた。もはやしっかり目を開けているのかも定かではない。

 

「なんだ、やっぱ死んだのか」

 

「そうだよ。死んだからここにいるんじゃないか」

 

なんか声が聞こえてくる。ああ、死ぬと幻聴まで聞こえてくるらしい。そう言うのって割と怖くて苦手だから勘弁願いたい。

 

「にしても、賃金がこれだけとは…アンタ随分人に尽くさなかったみたいだねぇ。いや、一人で生きてきたっていう可能性もあるか」

 

賃金? 何のことを言っているのだろうか? 死んだヤツが金なんか持ってるわけ無いだろ。それともこの幻聴はそんなに金が必要なのだろうか? 幻聴のくせに。使えもしない金なんか生きてるビンボーな奴らに渡してこい。

 

「お陰でこんなに川幅が……まぁ仕事だから仕方無いんだけどさ、また怒られたくないし」

 

川幅? 益々何言ってるのか分からない。"お陰で"って…ありもしない金の量で川の幅が変わるとかどんなビックリ世界?

しかもそれが仕事で、怒られる事もあるとか…。どうやら幻聴はやっぱり幻聴な様だ。言ってる意味が分からない。

 

「しかも久し振りに仕事しようと思ったらこんなに長い川幅してるヤツを送る事になるなんて…これじゃサボる時間が減るじゃないか……はぁ〜っ、ツイてないねぇ…」

 

なんか愚痴を言い始めた。と言うか怒られる理由だけは分かった。どうやらこの幻聴、頻繁に仕事をサボっているらしい。それを上司に怒られるようだ。そりゃサボってりゃ怒られるだろ。そもそもそれでクビにならないのが不思議なくらいだ。現代社会じゃ会社をサボろうもんなら速攻クビだろう。いや俺学生だったから予想だけども。

 

「ちょっと聞いてる?さっきから黙って…タダでさえ長い運送になったんだからアタイの話し相手くらいなっとくれよ」

 

再び目を瞑ろうとした俺の目に、新しく色が入ってきた。

赤い髪を頭の両サイドで纏め、青と白の服の襟を普通と逆…つまり右襟を前と、とても縁起の悪い着方をしている。そして何より目に付くのが………大きい胸だ。幽香とか紫とか、決して小さいとは言えない奴らと多く面識があるが、この少女のはその中でもかなりデカイ。見過ぎると目の毒である。

とまぁそんな少女が現れた。しかも声がさっきの幻聴と同じだ。どうやらさっきのはこの子の声だったらしい。

少女はムスッとした顔で俺を見下ろしていた。

 

「……えーっと、とりあえず起きるからどいてくれない?」

 

「おっと、悪かったね」

 

そう言って顔が退いていく。俺はそれを見計らって体を起こし、周りを見てみた。

一言で言えば、真っ黒。前後左右上下、全て黒だった。

そして今俺が乗っているのは本当に舟だったらしい。黒く見えた下側は水のようだ。

振り向くと、少女は俺の後ろ側で立っていた。

 

(なーんか見た事あるな…どうせ東方関連だろうけど……あー、もう前世の記憶も薄れてきてるな…まぁしょうがないか…)

 

なんだか見覚えがあるが、もはや朧げになってしまった記憶からでは中々引き出せない。原作知識ももう当てにならなそうだ…って、死んだんだから必要無いか。

まぁ取り敢えずこの子は"幻聴ちゃん"とでも呼んでおこう。

 

「なぁ幻聴ちゃん」

 

「…なんだいソレ? アタイの事?」

 

「そう。嫌か?」

 

「う〜ん、呼ばれ慣れてはいないねぇ…」

 

お気に召さなかったらしい。それなら……あ、朧げな記憶から奇跡的に出てきた。

 

「じゃサボマイスタ」

 

「なんだいそのアダ名!? 初対面の相手によく言えるねアンタ!! アタイは小野塚小町(おのづかこまち)だよ!!」

 

「おおそっか、悪い悪いサボマイスタ」

 

「小町だってばぁ!!」

 

なるほど、サボ…小町は弄りがいのあるキャラな様だ。

話していて面白い。主に俺のみのようだが。

小町はムスッとした顔を緩めて言った。

 

「全く、面倒な魂だね。アタイが振り回される側になるなんて…」

 

そう言っている割には楽しそうな表情だった。この子もいい人っぽい。

っと、小町の言葉に気になるところがあった。

 

「魂? じゃあ俺やっぱり死んだんだよな? 何でこんな所にいるんだ?」

 

「ああ、死んだとは言ってもまだやる事が残ってるからだね」

 

小町は当然のように言った。てっきり死んだら即地獄か天国だと思ってたが、そうではないらしい。……あれ、ここでも何か忘れてる気がするな。…まぁいいか。

 

「まず第一にこの舟。この舟で三途の川を渡って彼岸に行くことが一つ。その時の川幅はアタイが調節してるんだ。賃金貰ってね」

 

ピンッと小銭を弾いて俺に渡してきた。見た感じは普通の五円玉みたいだけどな。

っていうかさっきの賃金ってこれの事かよ。俺渡してないんだけどどうしよ?

 

「う〜ん…」

 

「お?困った顔してるね。もしかしてアンタの賃金のことで悩んでる? 心配ないさね。中々起きないアンタから、すでに賃金抜き取ってあるから♪」

 

「おいそれドロボ----」

 

「起きないのが悪いっ♪」

 

と言って良い笑顔でデコピンしてきた。でもやってる事犯罪だよね?罰していいですか?

そんな感じで軽く睨んでいると、小町は俺が持ってる五円玉を手にとって言った。

 

「とまぁそれは冗談さ。このお金は、生前その人の為に使われたお金の量を示してるんだよ。これで大体は善人か悪人か分かる。あくまで大体だけどね。それを目安にアタイが川幅を調節してるって訳さ」

 

「なるほどな〜…」

 

納得。幻聴だと思ってた時に聞いた話も大体繋がった。つまりは俺ってあんまりお金使って貰ってないっていう…。

ってちょっと待てよ? 川幅を一々調節してるってことは…何か試練があるって事か?

いやだって、ただ渡るだけなら調節なんて必要ないよね?

 

「な、なぁ小町さんよ。この川を渡るのってアレか? 試練的な何か?」

 

「まぁ…そうだね。賃金少ない魂の川幅が長くなるのも舟に乗る時間を長くする為の事だし、むしろここまで何も出てきてないのが不思議なくらいさね」

 

「マジですか」

 

「マジマジ。そのうち何か出てくるんじゃない?」

 

何とも軽い感じで言われたが、正直不安だ。何が不安って…さっきから自分の霊力を感じないのだ。まぁ使い果たして死んだんだから当たり前っちゃ当たり前だけど、問題はそれによって能力が使えないこと。何か来ても撃退出来ないって事だ。

頭を悩ませていると、パチャンッと言う小さな音が聞こえた。

 

「……なぁ、今のは…?」

 

「う〜ん…ついに何か来たって事じゃない?」

 

「…なんで余裕なんだ?」

 

「だって、ここで襲う役目の奴らもアタイの同僚だし。襲われるの魂だけだし」

 

「同僚? じゃあ人型か?」

 

「いんや、魚だよ? こんな川の中にアタイみたいのがいる訳ないじゃん。死獣って言って大小様々が住んでるけど…さてどいつが来るかね…」

 

なんと…試練って言うだけあって魂には優しく無いようだ。

さっきから悪寒がする。襲ってきた時にどうするか考えないと……。

そう思っていると、ドボォォォンと嫌な音が聞こえた。

そっちを振り向けば、ちょうど"ヤツ"が舟の近くの水面から飛び出す所だった。

 

「おお〜! 珍しい! 最大級のヤツがきた!」

 

「マジでっ!?」

 

舟の上を飛び越える巨大魚を見上げて小町が言う。

ノリ軽すぎじゃない?勝てる気しないんだけど。

 

「小町、これ川に落ちたらどうなるんだ?」

 

「地獄行き決定だね。まぁ頑張って」

 

ポンッと肩を叩かれる。いや頑張れって言うならその同情した顔やめようか。こちとら危機が迫ってるんだから。

そんなやりとりをしていると、どうやらあの魚が迫ってきたようだ。某人食いザメよろしくな感じで近付いてくるのが見える。

 

「いやいやこれどうしろってーの!? 回避出来なくない!?」

 

「そんな事言われても…それが運命なら仕方ないさ」

 

「だからその同情顔やめてくれよっ!」

 

そうこうしてる間に魚の勢いは増し、ついにザバァァァアンと襲い掛かってきた。

俺はとっさに目を瞑った。

 

 

 

………………あれ?

 

 

 

「え、なんで止まってんの…?」

 

衝撃が襲ってこないので目を開けてみると、魚は俺の目の前で大きな口を開けたまま静止していた。いや、正確には震えていた。

 

「ど、どうなって…」

 

「驚いたねぇ…こんな事があるんだ…」

 

魚は震えたままゆっくり後退し、川の中へ戻っていった。

一体何だったのだろうか?

 

「まぁ何はともあれ、助かったんだから良かったじゃないか! アタイは信じてたよ!」

 

「どの口が言ってんだよ。直前まで諦めてた顔だったろーよ」

 

見え見えの嘘をかます小町にツッコミを入れる。割と本気で危機だったがまぁ…何とかなったからいいか。

そんな風に考えていると、小町が何かに気が付いたように言った。

 

「お、見えてきた見えてきた!」

 

「ん?」

 

「見てみな。あれが次のやるべき事がある場所だ。いやぁ長かったねぇ!」

 

小町の指差す方を見る。そこは何だか黒と橙の総称をたくさん施された建物だった。その屋根あたりに掲げられている看板を見てみる。

 

「裁…判…所…?」

 

「そう! あれがアタイの上司がいる場所! そしてアンタの今後が決められる運命の裁判所だ!!」

 

「運命って言うかさぁ……地獄の(・・・)ってバッチリ見えたんだけど…」

 

「そりゃそうさ。だってココ、天国より地獄に近い場所だし」

 

「………………」

 

小町の言葉に、気分がどんどん下がっていくのを感じた。

 

 

 

 

 




ちょっと終わり方が変ですがご勘弁を。

ではでは。
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