では五十八話、どうぞ〜!
「ふむ、割とデカイ建物だな」
"地獄の裁判所"なる建物を見ながら呟いた。小町の舟から見た時とはスケールが違う。彼岸から裁判所までは結構距離があるらしい。
「まぁ行くしかないよな…。裁判所…何だろう、すごい嫌な予感がするな…」
理由など毛頭分からないが何となく寒気がする。なにもなければ良いんだけど…ってこれからの事が決まるんだから何も無いわけ無いか、ハハハ。
乾いた笑いを心の中で零しつつ、相変わらず色の無い真っ暗な道を歩く。強いて見た色の付いた物といえば、小町と別れた彼岸に咲いていた彼岸花だ。まぁ前世でも俺はあんまり見なかった花だが、こう…一面に咲いていると流石に綺麗だなと思った。白玉楼の桜にここの彼岸花がセットだったらもう完璧。酒とみたらし団子持って来たくなる。
歩いていると裁判所が見えてきた。なにやら人が並んでいた。
「はい、この札持ってってくださいねー。呼ばれたら入るように」
「分かりました…」
「あちょっとそこの人!困りますよ抜かしちゃ!ちゃんと並んでください!」
……あれ?死後の世界ってこんなに業務的な所なの?札配って呼ばれたら入るって病院かよ。
まぁ疑問で立ち止まっていても始まらない。取り敢えず並ぶ事にした。前には大体四人くらい並んでいる。
「なぁ、あんたどんな風に死んだんだ?」
前の人が聞いてきた。特にする事もなくボーッとしているときに声をかけられたので少しびっくりしたが、時間潰すのに丁度いいし答えてあげた。
「俺?俺は…色々あって霊力を使い切ったんだよ。そのままパタンみたいな感じ」
「ほーう。あんた霊力使えたのか。まぁ何やったのかはあえて聞かないが…。俺は強盗しててな、そりゃぁもう東西南北駆け回っていろんなモンを盗んだもんさ!死んじまったから盗んだモンは後世に残したがな。俺の後はどんなやつが継いでくれるのか…」
とちょっとした自慢話を聞かされた。
ん?盗んだモンを後世に残した強盗?それなんてル○ンですか?あでもこの人どう見ても日本人だな…似非ル○ンか?
とまぁ実際この人がル○ンかどうかは知らないが、問題はそこじゃない。この人…多分俺が悪人かなんかだと思ってんな?あえて聞かなかったのはそういう事でしょ?ゲンコツ食らわすぞ。俺はあくまで善人として生きてきたつもりだぞ。
少しイラッとする時もあったが、まぁまぁ楽しく話してるうちに順番が来た。中は本当に病院みたいだった。主にイスとかソファが。
「次の方〜」
ウトウトしていたら周りの人も少なくなって、今では俺の後に来た人たちが二人程。みんな静かにしていたが、少しして俺の番が来た。扉のところに立っている人に札を渡して中に入る。
中はすでに裁判の様相を呈していた。
「それでは、裁判を始めます」
そう言ったのは、三段程高いところに座った裁判長……裁判長? どっかの子供(幼女)が座ってるんだけど
「あの、裁判長は?」
「…はい?」
「いやだから、裁判長来てないみたいですけど、始めちゃっていいんですか?」
そう言った瞬間、場の空気にピシッと亀裂が入った気がした。幼女は肩を震わせ、その他の人達は皆汗をかいている。俺何かした?
「………が……ちょ…で…」
「ん?」
「〜〜ッ 私が裁判長ですっ!!」
幼女はバンッと机を叩き、ガベルをぶん投げてきた。表情からしてかなり怒っている。ヒョイッと避けた後にはバキンッと言う木の折れる音が聞こえた。なんか擬音多いな。
「名は
手に持った勺をビシッとこちらに向けてくる。ついでに言うなら若干涙目だ。いやどこに泣く要素があったよ?そんなに気にしてたの?
そして名前を聞いて思い出した。この映姫も確か東方のキャラだった。しかも割と人気なヤツだったような…
記憶を掘り起こしていると、なぜか映姫が目の前に来ていた。
「被告人神薙双也!!そこに正座しなさい!!」
「え?なんで----」
「いいから座る!!」
「あはい…」
なんか勢いに負けてしまった。そう言えば映姫って説教好きで有名だったな。…もしかして俺が説教食らう感じ?
…あんだけのことで?
「あ、あの…映姫…さん」
「何ですか」
「その、裁判はいいんですか?」
俺の疑問は至極真っ当だと思う。どこも間違ってないし、下心がある訳でもない。そんな純粋な問いに、映姫はズビシッと勺を俺に向けて言った。
「そんな事は後回しで良いんです!!あなたを叱る事が先決です!!」
(えぇ〜…裁判長の言うことじゃねぇ…)
どうにも逃げられないらしい。他の裁判官らしき人達に目配せで助けを求めるが、どいつもこいつも目をそらして行きやがる。保身の為に俺を売るのかチクショウめ!!
「いいですか神薙双也、人を見た目で判断してはいけません。人にはそれぞれ個性というものが………」
(始まっちゃったよ…)
と言うわけで映姫様によるありがたい(笑)説教が始まった。
どうでもいいけど、世の所謂"ドM"と呼ばれる種族の人達はこういう事でも興奮するのだろうか?いじめられると言う意味では割と同じな気もするし。だがまぁ、そういう人たちには映姫の説教も受けてみて貰いたいものだ。きっとそれでも生き残った奴は"天性のM"として讃えられる事だろう。俺は多分そんな感情一生かかっても理解出来ないだろうがな。
バシッ「ちゃんと聞いているんですか!?」
「…はい」
余計な事を考えていたら勺で叩かれた。案外痛い。
とそんな感じで映姫による説教は予想通り長く続いた。
ピンポンパンポーン『只今裁判が長引いております。今しばらくお待ちください』
「……この放送何回聞いたかなぁ」
「さぁ?もう七回くらいじゃない?」
「一体どんな大物が裁判受けてるんだかね…」
「「はぁぁ〜〜…」」
待合室は既に人が溢れかえっていたそうな。
「………と言う事です。分かりましたか?」
「……ハイ、ワカリマシタ…」
「よろしい。では裁判を始めますよ」
………どれくらい時間が経っただろうか。体感では何年も叱られ続けた気がする。もう精神的にもゲッソリだ。正直映姫を舐めていた。これはどんなMでも許容超えてるわ。
内容なんか九割頭に入っていないが、なんか最後らへんは世界平和がどうのこうのとか言ってた気がする。見た目の話からどうやったら世界平和に繋がるんだよ。映姫の議題拡大スキルが気になる。
「それでは、これより開廷します!」
いつの間にやら持ってきたガベルを打ち付け、映姫が宣言した。裁判官達も起立して礼をした。
椅子に座り直した映姫は、どこからか手鏡をだして言った。
「では、これよりこの"浄玻璃の鏡"を使って被告人の生前の行いを投影します。照明を」
バツンッと明かりが消え、スクリーンらしきモノに映像が映し出された。映し出されたのだが……
「な、何ですかコレは…」
「わーお…」
映し出された映像は一面砂嵐だった。アナログTVによくあるアレだ。映姫達の反応から、恐らくこういう事は普段無いらしいが、俺には心当たりがあった。
(もしかして、今映っているべき本当の映像って…俺の前世か?)
俺が他の被告人達と違うことがあるとすれば、それは転生者であるかどうか。行いを映し出すって言うなら前世の事が映し出される可能性も無くはないハズだ。
……まぁ多分、今起こっている現象は竜神の配慮なんだと思う。知られると面倒だからな。ちょっぴり感謝。
そう考えながら見ていると、少し困った表情の映姫が言った。
「仕方ありませんね…砂嵐が晴れるまで映像を飛ばしましょう」
そう言って鏡をスクリーンに向ける。すると映像の流れが早くなった。まさにテレビの早送りのようだ。
映し出された映像は人妖大戦の時だった。
(…懐かしい…あの時は必死だったな。確かあの妖怪たちにムカついて初の神格化したんだっけ…。お、ちょうどココだ)
映像ではちょうど、ギルティジャッジメントを打ち下ろす所だった。必死でやってたから気付かなかったが、どうやらあの妖怪たちは跡形もなく消えて無くなったらしい。スッキリだな。
そんな事を考えながら見ていると、かすかに声が聞こえた。
「…ん? これは…」
「?」
映姫は少し首をかしげ、難しそうな顔をしている。
映像は流れていき、今度は青娥のところ。
(あー、青娥元気かな…まさか死んではいないだろうし、何してるんだろうな…)
かつてはその考え方に激昂して殺しかけたが、結果的には俺も感謝をしている青娥。別れてずいぶん経つが、まだどこかでフラフラしてるのだろうか?まぁ心配はしてないが。
映姫は神妙な顔付きで映像を見ている。その頰には少しばかり汗が見て取れた。
そして映像はルーミアのところへ。
ここでは確か神格化での技を新たに使えるようになった。
"咎を砕く雷鳴"と"断咎一閃の剣"だ。あの時はどうしてかフッと名前が浮かんだのだが、今でも少し不思議な現象だったなとは思う。これも天罰神の性質とやらなのだろうか?
と、少し頭を悩ませていると、突然照明がつけられた。
周りを見てみると、裁判官達、そして映姫でさえも顔をうつむかせている。
「え、何コレ」
「か、神薙双也…一つ聞いていいですか?」
「え? はい」
顔はうつむかせたまま映姫が聞いてきた。その声は心なしか震えているように聞こえる。
「あなた……本当に種族は人間ですか…?」
「え?」
基本的な状態では今まで言ってきた通りなのだが、本当の、となると答えは変わる。
俺は当たり前のように、軽々と言った。
「人間とは言っても半分です。もう半分は天罰神…俺は現人神です」
「ッ!!!」
そう言うと、みんながみんな肩をビクッと震わせた。中々シュールな光景ではある。
その光景を眺めていると、極々小さな声だったが、映姫の声が聞こえた。
「そんな…うそ…」
「え、映姫さん?」
声をかけると、映姫はガタンッと立ち上がった。
突然だったのでちょっとのけぞってしまった。気付けば裁判官達も立ち上がっている。
「……す」
「す?」
「す…すすす…」
引きずった声でそこまで言い、映姫は顔をバッとあげた。そしてとんでもない速さで俺の前に出てきた。
近くで見たその顔はとても焦っているような表情をしていて…
「す…すみませんでしたぁぁあああ!!!!」
物凄い綺麗な角度で頭を下げたのだった。
「え……何が…?」
はい、少し補足です。本編で双也くんが言って(思って)いたように、もう双也くんの頭にはほとんど原作の知識が残っていないという事になりました。
具体的にどの程度かって言うと、
"名前とか異変とかの大雑把な事は思い出せるけど、容姿の特徴とか細かいことは覚えてない"くらいです。
まぁ一億年以上生きてたらそれくらい妥当かな、と思った次第でございますので、参考程度に覚えていてください。
ではでは。