東方双神録   作:ぎんがぁ!

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この章での閑話と言う感じでしょうか?
あ、とても短いのでご注意を。

双也視点です。

ではどうぞっ!


第六十話 仕事の日々、消えた心配

裁判所に住み始めて早数日。現在自室の机に突っ伏している俺である。単刀直入に言おう………もう疲れた。

 

「うあぁ〜…もういやだ〜…」

 

積み上げられた書類を横目で見やる。右側におよそ10数cmの書類の束、左側にも同じくらいの書類の束が積んである。……今やっと半分終わったところだ。もう逃げたい。

 

「大体この仕事今まで誰がやってたんだ?俺がポッと出てきていきなり仕事入るとか普通無いだろ」

 

ガチャ「それは私ですよ。今までは私が代理で(・・・)片付けていました」

 

「お、映姫」

 

扉を開けて入ってきたのは映姫。天罰神とは言っても俺は完全にど素人なので、慣れるまでは映姫が面倒を見てくれる事になったのだ。この書類の片付け方も映姫に習った。

 

コト、と映姫は持ってきたお盆を俺の机に置いた。その上にはお茶と団子が乗っている。

 

「もうそろそろお疲れかと思いましたので、おやつをお持ちしました」

 

「あ〜ありがと。そういえばもう三時ごろか…ピッタリおやつ時だな。はむっ」

 

「書類は…あと半分ですか。まだ慣れきってはいないようですね」

 

少し仕方なさそうに笑う映姫。そりゃベテランから見たら進行は遅いでしょうよ。俺は特別器用ではないんだから。

映姫は時折こうして何か差し入れを持ってきたり、休憩を促したりしてくれる。それには実際すごく助かっているし、俺が仕事を投げ出せない理由でもある。だってさ…逃げたらなんか悪い気がするじゃん?なんて言うか…罪悪感?

因みに、俺が映姫にタメ口をきくようになったのは最初に差し入れを持ってきてくれた時だ。ありがとうございますって言ったら、上司だから敬語じゃなくていいって言われたので遠慮なくタメ口を使わせてもらっている。……心の中ではいつもタメ口だったのを映姫は知らない。

 

「ふぅ、美味かったぁ〜。それでさ映姫、話戻すけど"代理で"ってどういう意味だよ?」

 

椅子を持ってきて一緒にお茶をすすっていた映姫が視線を向けてきた。一瞬何のことか分からなさそうな表情だったが、

ああ…、と言って話し始めた。

 

「そのままの意味ですよ。その書類は、本当は天罰神が書くべきモノなんです。しかし実際は下界に降りてくる事なんてほぼありませんから、閻魔の中で私が代表して書いていたんです。…双也様が来てその必要も無くなりましたが」

 

「……映姫、もしかしてこの書類全部を毎度一日で終わらせてたのか?」

 

「一日じゃありませんよ。半日です」

 

「マジっすか…」

 

一体どんな速さでやったら半日で終わんの?皆目見当が付かないんだが。…でもまぁ、映姫ならやれそうって思ってしまうのが少し不思議だ。やっぱ出来る子なんだな映姫って。

 

そんな会話をしながら休憩し、再び仕事を始める。書類はあと半分、数日これをやってきたら流石に要領も良くなり、八時くらいには全て終わらせることが出来た。…うん、映姫に追いつく日はまだまだ遠そうである。

椅子の背もたれに寄りかかって伸びをする。

 

「んんん〜〜…はぁっ 終わった終わった」

 

「ふむふむ…ちゃんと書けてますね…はい、これで良いですよ。お疲れ様でした」

 

最後に映姫が書類をチェック。合格を貰ったのであとは自由だ。とりあえずなんか飲も。…お?なんかコーヒーみたいのがある。なんでここに存在してるのか分からないけど、まコレでいっか。コーヒーらしきモノをコップに注いで部屋のソファに座った。

一服していると、映姫が対面のソファに座って紙を差し出してきた。

 

「双也様、お疲れのところ悪いのですが、これを」

 

紙を手にとって見る。このような紙に記されているのは今までに裁いた魂の情報だ。そして、その氏名欄に書かれた名は………西行寺幽々子。

 

「先日頼まれた資料です。とは言っても、特殊な判決でしたから私も覚えてはいたんですけどね」

 

そう言って映姫は一口お茶をすすった。

特殊な判決……原作で幽々子が亡霊になってた理由だな。内容は覚えていないが。

……紙を見れば分かるか。手元の紙に目を落とす。

 

「えーっと……"白玉楼を冥界に転送の後、西行寺幽々子に全魂の管理権、及び義務を与える"……なるほど、忘れかけてたけど、アイツは死霊も操れるんだったな」

 

「はい。彼女の遺体は封印に使われてしまったので供養は出来ませんから、天にも地にも送れず、こちらでも少々困っていたのです」

 

「そこで能力に目をつけたのか」

 

「…彼女の能力は魂の管理にはこれ以上ない程の適性を持ちます。どうせ裁けないのならこちらの仕事に協力して貰おう、と判決を出したんです」

 

映姫は紙を手に取り、資料を眺め始めた。

……そうだ、一つ聞いておかなきゃいけない事があったな。

 

「………映姫、アイツの覚醒した能力は今…どうなってる?」

 

それを聞き、映姫はパッと顔を上げた。そして、同情した様な表情で話し始めた。

 

「………"死を操る程度の能力"…ですね。残念ながらそのままです。覚醒した能力を取り除くなんて事は私たちでも出来ません。どうしようもなかったんです…」

 

「…そうか…」

 

死なせたくなんかないのに自分の所為で周りを死に追いやってしまう。それを制御することも出来ない。俺が神格化した時には、"仕事"と割り切って罰を下しているから精神的にまだマシだ。だが幽々子はそうではない。常に死に追いやる事を嫌っている。それでも殺してしまう。死んでしまう。そんな悲しみは幽々子にしか分からないだろう。幽々子のこれからを想うと胸が引き裂かれるような錯覚を受けた。

 

「ですが」

 

顔を上げる。映姫の顔は先ほどよりも明るくなっているように見えた。

 

「それなりの対処はしています。あのまま存在し続ければ生前の罪の意識は消えません。あれ以上悲しみを溜め込めば、彼女はきっと壊れてしまう。なので、生前の記憶を全て消してから亡霊として送り出しました。そして、そのお陰であの能力も記憶の始まった時から感じることができる。……今はきっと安定していることでしょう。昔の笑顔もきっと戻っていますよ」

 

映姫の言葉と笑みに、なんとも安心感を得られた。でも、俺の記憶は無くなってるって事だよな…。

 

(……少し辛いけど、幽々子に笑顔が戻ったならそれでいいか)

 

冷めてしまったコーヒーをすすった。甘いのは少しだけで、後は苦かった。ミルク無しで飲めばきっと顔を顰めてしまうくらい。それらが上手く混ざって、何とも言えない余韻が残る。一気に飲み干し、カップを机に置いた。

 

「ふぅ……よし…ありがとな映姫、調べてきてくれて」

 

「いえ、双也様の頼みであれば断る訳にはいきませんから」

 

「ちゃんと息抜きもしろよ。真面目過ぎて心配になる。ここに来て数日なのに俺がそう思うんだから間違いない。これ命令な」

 

「……はい。分かりました。ありがとうございます」

 

そう言い、眠くなったので寝室へ向かう。因みに風呂はどっちでもいい。魂だから汚れはつかないし、ぶっちゃけ必要ない。……この前?アレはただの気分転換さ。

 

扉に手をかけ、開けた所で立ち止まった。

聞きたい事あるんだった。

 

「なぁ映姫、ここって暴れてもいい様な広い場所(・・・・・・・・・・・・)ある?」

 

「広い場所?……いえ、無いですね。強いて言うなら裁判所前の広場です」

 

ああ、ここ来る時に通ったあそこか。…う〜ん…ちょっと狭いかな…。まぁしょうがないか。

 

「ん、ありがと。じゃあおやすみ映姫」

 

「はい、おやすみなさい双也様」

 

その日は、疲れや安心からかとてもグッスリと眠れたのだった。

 

 

 

 




映姫様の仕事スキルはチートレベルだと思っていますw

ではでは。

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