東方双神録   作:ぎんがぁ!

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閑話+本編?

では六十一話…どうぞぉ!!


第六十一話 感傷、兆し

「あ〜…こういうの良いなぁ…」

 

「そうだねえ…のんびりするのは良いことだねぇ〜…」

 

一面彼岸花。そこにドボンと埋まった様に出ている岩の上で、俺と小町は寝転がっていた。隣には少しの酒とお菓子がある。

 

「こうも綺麗に咲いてる花があっちゃ、酒と肴は必須だね。旦那もそう思うだろ?」

 

「そりゃあ花と酒はセットみたいなモンだしな。花見には宴会…もう定説だよ」

 

「ふふん♪分かってるねぇ♪」

 

小町はそう言って、注いであった酒をクイッと飲み干した。ずいぶん機嫌が良さそうだ。

 

裁判所に住み始めて約二百年経った。霊力は大体二割程回復し、この調子なら千年くらいで完全回復すると予想している。仕事にもある程度慣れ、二時頃には全て終わらせられるくらいになった。映姫以外の閻魔達とも仲良くなって、もうすっかり立派な上司……になってると思いたい。

 

今日も今日とて早くに仕事が終わったので、久し振りに花見をしようと酒とお菓子(肴)を持って外に出た。百年ほど前に見つけた絶好の花見スポットに来てみたは良いのだが、そこには何故か小町が居り、成り行きで同席する事になった。どうやら俺よりもずっと昔にこのスポットを見つけていたらしい。

そう言えばコイツ仕事終わったのか?……………まぁいいか。本人に任せよう。

 

サァァー‥ と、そよ風が吹き抜け、彼岸花をユラユラと揺らしていった。何とも風流で、心地良い感覚。自然と言葉が漏れる。

 

「……いい風だな。静かで、平和な証拠だ」

 

「同感…透き通るみたいな気持ち良さだねぇ」

 

こうした時間を過ごしていると、何だか少し怖くなるときがある。心も身体も、こんな風に静かで穏やかに落ち着けていると、俺も気付かないうちに自分が無くなってしまうような気がしてくる。でも同時に、自分の全てをさらけ出している様な気もして、風が吹き抜ける度に心が軽くなる様に錯覚する。だからちょくちょくとここに足を運んでいるのだ。

 

「……"夜の如く 時に連ねり 愁いの意 馳せし現世 亡き身と知りつつ"」

 

「…………案外甘いんだね、旦那も」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。"死んでもなおアイツが心配"だなんてさ。天罰神とは思えない甘ささ」

 

ふと漏れた短歌。小町は意味を察して答えてくれた。

甘いとは言われたものの、その言葉はしかし責めているようには聞こえなかった。

同情ではなく、肯定するでも無く、もちろん否定する訳でも無く、スラリと言葉を受け入れてくれた。

 

「……ありがとな小町」

 

「どういたしまして、ね」

 

俺も酒を飲み干した。引っかかる事なくスーッと喉を通る感じが美味い。

肴も摘みながら、穏やかに時間が過ぎていった

 

 

ザッ

 

 

と思っていた時期が俺にもありました。

後ろから誰かが来たらしい。それはいい、ここは俺たちだけの場所って訳じゃないし、占領するつもりも無い。誰でも自由に来ていいと思う。でも問題はそれじゃ無くて……

 

 

ゴゴゴゴゴ

 

 

……その人から感じる気配である。

 

「こ、小町…」

 

「………………ッ」

 

顔を見てみると、全面を蒼白に染めて玉のような汗をかいている。所謂焦り顔ってやつだ。

 

ザッ ザッ と歩いてくる音が聞こえる。気配も大きくなり、小町の後ろで止まった。恐る恐る振り向いてみると

 

「……こ〜ま〜ち?」

 

とんでもない覇気を纏う映姫が居た。

表情はにこやかだ。でもその雰囲気が映姫が怒っていることを示している。恐らく怒りを向けられていないであろう俺でさえ、さっきから背中に嫌な寒気がしてならない。

 

「な、なな…なんでしょう映姫様?」

 

「ここで何をしているのですか?」

 

映姫は淡々と言葉を発する。対して小町は、身体どころか声まで震えている。そこにあえて触れず、回りくどく話すあたり映姫も中々にタチが悪い。

小町は震えながら答えた。

 

「な、何って…花見…です、けど…」

 

「なるほど、花見ですか。酒も摘みもあるようですし、随分長くここにいるみたいですね」

 

「あ、はい…なんか早くに仕事が終わっちゃったので…」

 

「小町、なぜ私がここにいると思っているのですか?」

 

「……え?」

 

ここにいる理由?………ああそういう事か。そう言えばこの時間帯は映姫が担当か(・・・・・・)。墓穴掘ったな小町。

 

「言い方を変えましょう。なぜ私が"仕事をしないで"ここに居ると思っているのですか?」

 

「……………あ、やば…」

 

気付いたらしい小町が小声で言う。映姫の暗黒微笑はさらにドス黒くなった。

つまりはだ、小町が彼岸へ魂を運んで来なかった所為で、この時間帯の裁判長を担当している映姫に仕事が回ってこなかったのだ。その異変に気付いた映姫が小町を問い詰めると"早くに終わった"と言った。この矛盾によって、小町が仕事をサボっていた、と映姫は結論を出したのだろう。

 

……うん、小町が悪いな。

 

「小町、ここに正座しなさい」

 

「うぇ!?」

 

「し、 な、 さ、 い ?」

 

最後のがトドメになったらしい。小町は蒼白の表情のまま彼岸花の上に正座で座る。

それを見ていると、映姫の首がグリンッとこっちを向いた。

 

「双也様?」

 

「は、はいっ!」

 

「あなたはもう終わってるんですよね?」

 

「も、もちろんですっ!キッチリカッチリ終わらせましたぁっ!」

 

「……いいでしょう。部屋に戻っていてください。私はこのおバカに説教しなくてはいけませんので」

 

小町が両手を合わせ、涙目でこちらを見つめてくる。

恐らく"助けて!!"と言っているのだろうが、こうなった映姫は俺にも止められない。代わりに、グッドラックと意味を込めて親指を立ててやった。…小町の顔が絶望に染まっていく様は中々に凄かった。

説教の場には居合わせたくないので足早に裁判所に戻る。

 

『何度も言っているでしょう!!あなたも子供では無いんですから…………』

 

『はいぃい!すいませんでしたぁあ!!』

 

映姫の怒鳴る声と悲痛な叫びが聞こえてくる。

……ドンマイ小町、俺はお前を助けられなかった。

 

部屋に戻ると、他の閻魔の一人が来ていた。

 

「あ、お帰りなさい双也様。映姫を知りませんか?」

 

「映姫なら、今絶賛ストレス解消中だよ」

 

「は?」

 

その閻魔は首を傾げていた。まぁそりゃ分からないだろうね。

 

閻魔は俺の机のところから書き終わった書類を取って渡してきた。

 

「双也様、この書類のココ、空白のままでしたよ」

 

「ん? あホントだ」

 

書類を見ていく。すると一つだけ空白の部分があった。

案件の名は"地獄縮小計画"。

 

「ふむ、保留……だな」

 

「え?保留なんですか?」

 

「ああ。今は必要無い事だし、どうせそのうちまた送られて来るだろこの書類?」

 

「適当ですね…」

 

「それ位が丁度いいんだよ」

 

目を通すのは当たり前として、全部のことを深くまで考えていくとキリがない。こういうのは経験が導き出した直感が最も役立つのだ。

それに、確かこれは原作にも絡みがあった気がする。もう少し後でも良い。

 

俺はカフェオレ的なモノをカップに注ぎ、仕事机についた。閻魔に声をかける。

 

「それで?お前は何の用で来たんだ?」

 

「あ、はい。先日送られてきた書類の処理に困っていまして…双也様の判断を仰ごうかと」

 

「ふ〜ん…」

 

差し出される書類を取って見た。

えーっと…

 

「"新世界担当の閻魔選定のお願い"?」

 

「はい。どうも怪しくないですかコレ?まず新世界って話自体聞いたことありませんし…」

 

「……………」

 

新世界……ねぇ……。何でそんなものが?ここ二百年、俺ですら聞いたことないぞ?

 

「これ、差出人は?」

 

「それに書いてあると思いますよ」

 

言われて書面を見ていく。すると一番下の行に、流れ文字で"八雲"と書かれていた。

 

……自然にニヤッと笑ってしまった。

 

「そ、双也様?」

 

「ん、いや何でもない。近々コレに関する会議を開こう。日時とかは俺が書類作るから、それを裁判長全員に渡してくれ」

 

「え!?そんな怪しいモノを容認するんですか!?」

 

閻魔の表情は驚愕に染まっている。事情を知らないなら当然か。

俺は安心させるように笑いかけて言った。

 

「大丈夫、俺が保証するさ。それに怪しいのはいつもの事だし」

 

「え?」

 

「まぁそういう事だから。よろしくなー」

 

ちょっと戸惑い気味な閻魔を送り出す。詮索されても面倒だしね。

まだ熱いカフェオレを一口飲んだ。

 

「思ったよりも上手くいってるみたいだな……紫」

 

立ち直れてはいるのかもしれない。心の傷はまだあるかもしれないが……まぁ元気なら良かった。

 

「幻想郷………完成まであと少し……か」

 

また一口すする。そのカフェオレは妙に美味しく感じた。

 

 

 

 

 

 




"現世"は"うつしよ"と読みます。
短歌初めて作りましたw

ではでは。

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