東方双神録   作:ぎんがぁ!

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なんか裁判所編は閑話が多いですね…まぁ書いていて楽しいので私はいいのですが。皆さんはどうですか?閑話…好きですか?

ではどうぞっ!


第六十二話 第一次選定会議

「さて、それじゃあ会議始めまーす。きりーつれーい」

 

「いや早過ぎです双也様!みんな追いついてません!」

 

「んな事いーのいーの。どうせ形だけなんだから」

 

「ホントいつも通りですねっ!」

 

ある日の裁判所、その会議室。大きな楕円形の机を十一人の男女が囲んでいた。一人は天罰神である神薙双也、そして彼の両サイドに向き合う形で、映姫を含む十人の裁判長が座っていた。

 

「まぁそれは置いといて、みんな今日集まった理由分かるか?」

 

若い男性の閻魔のツッコミに見向きもせず、双也は閻魔たちに話しかけた。それには如何にも威厳のありそうな厳つい顔をした閻魔、厳治(げんじ)が答えた。

 

「分からない者など居ないだろう。双也殿の配った資料もあるし、何より"新世界"なんて物…今では話の中心になることの方が多い」

 

「それもそうだな。でもまぁ一応会議だし、形保つ為におさらいしとこう。映姫」

 

"形を保つ為"という何とも気の抜けた言葉に閻魔たちは少なからず疑問を持っていたが、それを心の内に留めてスルーしてしまうのは、双也のそういう所を閻魔たち自身が気に入っているからだった。

書類などの仕事はきっちりこなす反面、上司部下の関係にそこまで拘らず、皆友人の様に接する双也。彼に対する閻魔たちの評価は、着任当初から上がることはあっても下がる事はほぼ無かったと言っていい。それだけ信頼関係が築けているのだ。

呼ばれた映姫は、手元の資料を見て話し始めた。

 

「はい。今日の議題は、"新世界に於ける担当閻魔の選定"です。一つの世界を取り仕切る為、唯の閻魔では無く裁判長クラスでないと務まらないと判断して、私たちが召集されました」

 

「ふ〜ん…双也様、なんでこんな怪しい依頼書請け負ったの?」

 

配られた依頼書のコピーを手に取って女性の閻魔が尋ねた。彼女は魅九(みく)。服こそ他の閻魔と同じだが、胸元が開いていたりスカートを折っていたりと、かなりの着崩しが目立つ閻魔である。

双也は腕を組んで答えた。

 

「俺にとっちゃ怪しくない依頼書だったから…かな」

 

「どういう事?」

 

「この"八雲"って差出人が双也様のお知り合いって事ですか?」

 

先程突っ込みを躱された若い閻魔、真琴(まこと)が丁寧な言葉使いで尋ねた。双也は頷いてから返答した。

 

「ご名答。その八雲って人は俺の友達なんだ。生前のな。だから信用できるって訳だ」

 

「…まぁ双也様がそう言うなら大丈夫なんだろうけど…」

 

理由を聞いてなお、少々怪しむ視線で紙を見る魅九。そんな真剣に物事を考える辺りが、彼女の、見た目が派手でも優秀な閻魔である証拠の一つだ。

 

と話していると、一つの紙飛行機が双也の目の前に落ちた。

 

「ん?何でこんなもんが----」

 

「双也様ー!それ私のー!」

 

双也の椅子の横から活発そうな声が響いた。彼が振り向いたそこには、閻魔の正装に身を包んだ…否、包まれた太陽色の髪をした幼女が両手を広げて待っていた。

 

「……陽依(ひより)、何で紙飛行機なんか作ってんの…?」

 

陽依と呼ばれた幼女は平然と答えた。

 

「んー?だってなんか分かんないお話してるんだもん。それでつまんなかったから、丁度机にあった紙で作って遊んでたの」

 

「コレ俺が配った資料!? 一応会議中だよ!? 何してくれてんの!?」

 

特にあくびれもせずに言い放った言葉。双也が驚くのも無理は無い。

そこまで話した直後、陽依の後ろから、黒髪で陽依と同じくらいの背をした幼女がヒョコッと出てきた。二人の顔立ちは何処と無く似ている。

 

「ご、ゴメンなさい双也様! お姉ちゃんを止めようとしたんだけど…私じゃどうにもならなくて…」

 

「もー夜淑(やよい)ったらね! 私が飛行機作ってると邪魔してくるんだよ! ヒドイよね! 私遊んでるだけなのに!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「うん…陽依がバカの子って事は分かったよ…」

 

双也はつくづく、この姉妹が裁判長で大丈夫なのだろうかと疑問に思った。

実はこの双子の姉妹、現在天界に居るであろう純粋な天罰神の実の娘達なのである。ゆえに並大抵の閻魔よりも"裁く者"としての素質は桁違いに高いため、異例でここの裁判長に任命されたのである。一応、書類以外の仕事はキッチリこなせているとか。

 

「ほらほら、陽依に夜淑。双也様が困ってるでしょう? 今は会議中だから大人しくしてましょうね」

 

陽依と夜淑の後ろから優しそうな声がかけられた。二人の後ろには、閻魔の正装(ロングスカートver)をしっかり着こなした美人な女性が立っていた。

彼女を確認した双也は安心した様子で声をかけた。

 

「サンキュー流廻(るみ)。二人の相手頼めるか?」

 

「ええ。分かりました」

 

そう言ってふわりと笑うと、流廻は二人を連れて行った。

彼女は、この裁判所にいる閻魔の中でも屈指の"お姉さんキャラ"である。淡麗な容姿とスタイル、場を和ませる笑顔に、女神のように優しい性格。オマケに料理も出来ると、正にパーフェクトな閻魔だった。その魅力は、この裁判所内の男性閻魔や男性死神達にファンクラブ的な物を作らせるレベルである。

 

「全く……この書類広げればまだ使えるよな…」

 

陽依が作った紙飛行機を手に取る双也。しかし折られた書類を広げようとした手は直後に止まった。

 

「あ、あれ? 紙飛行機ってこんなに難しい折り方だっけ?」

 

羽部分を引っ張るーー広がらない。

畳まれた紙を引き出すーー別の所が引っ込む

隙間に指を入れて無理矢理広げるーー引っかけた部分の紙が千切れた。

 

「いや、待て待て待て…俺結構頑張ってコレ作ったんだよ? それこそ普段のティータイム削ってまでさ、丁寧に丁寧にと思って作ったのに……こんな仕打ちヒドくない?」

 

必死であれこれ試してみるが、千切れた部分以外は全くもって最初と変わらない。広げられない。なんでこんなとこばっか得意なんだよ!と内心泣きかけていた双也であったが、魅九とはまた違った着崩し方をした男性閻魔の声で我に帰った。

 

「なぁ双也様ぁ! 俺今日やりたい事があるからちゃっちゃと終わらせたいんだがぁ!」

 

不良の様な口調で言ったのは項楽(こうらく)。服装や言葉使いを見ても"不良"の一言に尽きる彼は、真琴よりも少し大人びた雰囲気をしている。その上裁判長を務めるほどの人物なので、見た目は不良でも聞き分けはしっかりしている。しかしそんな彼に良くない印象を持っているのが……

 

「項楽、そんな我儘を言うくらいなら双也様を助けて差し上げたらどうなの? それとも働くのは口だけ?」

 

この暮弥(くれや)である。一応言っておくが女性だ。彼女は所謂"委員長気質"とやらで、ドジはよく踏むが真面目な性格である。その為、大雑把で不良っぽく見える項楽の事をあまり良くは思っていない。彼の言動が少しでも引っかかると口を出してしまうのだ。

 

挑発的な暮弥の言葉に、当然項楽は反応した。

 

「ああ? どこが我儘なんだよ! 俺は中々進まない会議を見かねて急かしただけだろうが!」

 

「明らかに私情が入っていたでしょう! 自分の言ったことには責任を持ちなさいよ! あなたも一端(いっぱし)の閻魔なんだから!」

 

「ドジばっか踏む奴が何言ってんだ! この前だってお前裁判でやらかしたらしいじゃねぇか! お前こそ責任持ちやがれ!」

 

「それは今関係ないでしょ!? 私が言いたいのは口だけではなく行動もしろって事よ!! そんな事も分からないの!? 本当に不良閻魔ね!!」

 

話が脱線し、唯の喧嘩になっていることに二人は気付いていない。それを疲れた目でボーッと眺めていた双也の元に、真琴と同じくらいの若さに見える男性の閻魔が近づいてきた。

 

「……大変だね双也様」

 

「…ああ、これじゃ会議にならない」

 

この若い閻魔の名は綺城(きしろ)。裁判長、そして閻魔の中で最も双也と気の合う閻魔である。普段から優しく温厚な彼は、裁判所に来てから色々と苦労を重ねている双也の良き話し相手だった。男同士で、しかも見た目年も近い為気軽に話せる相手だったのだ。

 

「後日にする?」

 

「う〜ん…どうするか…」

 

双也と綺城が話していると、喧嘩していた項楽の怒鳴る声が聞こえた。

 

「ああもううるせぇんだよ!!女っ気の無い名前してる癖に(・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

その言葉に、二人を包んでいた熱い空気に亀裂が走った。他の閻魔達は今まで通りだが、二人のところだけは違った。

 

「……今…女っ気の無い名前って…言った…?」

 

その精気のない声に、さすがの項楽もヤバッ…という顔をした。瞬間、暮弥から大量の霊力が溢れ出た。

 

「私が…ずっと気にしていることを……絶対に許さない!!!」

 

暮弥は掲げた手のひらに巨大な霊力弾を精製していく。霊力が流し込まれ続けるそれは、時間が経つにつれて大きくなっていく。暮弥は本気で項楽を殺す気だった。

 

「ちっ…おお来るなら来いやクソ委員長がよぉ!! 俺の能力でひっくり返してやるぜ!!」

 

迎え撃つ気満々で構える項楽。

それを眺めていた双也は思った。

 

(なんで…こんな事になってんの…?)

 

映姫は無言で書類と睨めっこし、魅九は何やらメイクを始めている。厳治は目をつむって何か思案しており、真面目なはずの真琴ですら居眠りをしている。

陽依と夜淑は流廻と遊び、綺城は双也の隣でこの状況に苦笑い。喧嘩をしている二人、特に暮弥に至っては、項楽を裁判所ごと吹き飛ばそうとしている。

 

双也の気持ちはもうとっくに"面倒くさい"の一言に染まっていた。

 

「ふぅ……仕方ないか」

 

「え? ----!?」

 

隣にいた綺城は、双也の髪が白くなっていくのを見逃さなかった。その意味を知る彼は咄嗟に身を屈めた。

 

「堕天『ギルティジャッジメント』」

 

双也が手を軽く振り下ろした直後、綺城、映姫、流廻以外の七人に天罰の雷が落ちた。ドガァァァアン!!と激しい音が響いた後には、ポカンとしている流廻と映姫、やらかしたよこの人…と言った風に顔を抑える綺城、そして黒焦げになっている七人の裁判長がいた。

 

「…明日もう一回会議開くからー。時間は今日と同じ。じゃあ解散」

 

バタン!と扉を閉め、神格化を解きながら双也は去っていった。

黒焦げになった部屋で、残された三人は呟いた。

 

「今……双也様怒ってました?」

 

「怒ってたっていうか…この状況に耐えかねたんじゃない?」

 

「……今度肩揉みでもしてあげようかしら……」

 

各々、今日の会議の惨状を見て、酷く後悔したそうな。

 

 

 

 

 




はい、思いつく限りのネタを放り込みました。後悔はしていません。

余談ですが、閻魔'sの名前を考えるのに苦労しました。名前の由来とかは聞かないでください。少し強引なので。

ではでは。

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