東方双神録   作:ぎんがぁ!

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タイトルお察しですね。

ではどうぞー


第六十三話 任命、最高裁判長

壮絶な一次会議の翌日。十人の裁判長達は再び会議室に集まっていた。その表情はみなどこか暗い。

 

「それじゃ二次会始めるぞ。お前らちゃんと反省したか?」

 

「「「「はい……」」」」

 

ほんの少し苛立ちのこもった双也の問いに、散々騒いだ七人は力無く返事をした。お咎めなしだった三人…映姫、流廻、綺城はその様子を哀れんだ目で見ていた。

 

「さて、昨日言ったからおさらいは無しだ。パッパと決めてパッパと終わらそう」

 

返事をしっかり確認した双也は、そう言って本題に移った。

 

「じゃあ取り敢えず…新世界へ異動したいって奴、挙手してくれ」

 

シーン…と静まり返る会議室。閻魔達は横目で周りの様子をチラチラと確認していた。挙手する者は……居ない。

 

「ふむ、まぁそうなるよな…コレばっかりはしょうがないか…」

 

双也は机に肘をついて閻魔たちを見回した。

実際、この状況は彼も想定内だった。何も情報の無いまま、ただの興味本位で異動をしたがる様な馬鹿な閻魔はここには居ない。ちゃんとした情報を得て、その上で判断するのは裁判も同じ。それが出来ない者はそもそもここに呼ばれることは無い。

ただ、彼が何も言わなければ始まらないのが分かっていた為の切り出し。そういう意味での"取り敢えず"である。

 

「仕方ないなぁ…お前ら、新世界について何か質問あるか?できる限り俺が答えよう」

 

その言葉に、閻魔全員がバッと顔を向けた。その目はどれも"意味がわからない"と訴えている。

最初に口を開いたのは暮弥だった。

 

「双也様…それは、新世界の事を知っていると言う事ですか?」

 

「ん。ある程度はな。俺は少し特殊だから、新世界についてはある程度教えられる」

 

「なんでそんな事----」

 

「おっと!これ以上は話が脱線しすぎる。置いておいてくれ」

 

双也は片手の手のひらを向けて言った。納得いかなそうな表情の暮弥だったが、しぶしぶながら引き下がった。

 

双也が話そうとしているのは、もちろんの事前世の記憶の内容だ。ほぼ忘れていると言っても、彼は幻想郷という世界については覚えていた。"東方projectの世界そのもの"と言っていい幻想郷の情報は、悠久の時を生きてきた彼の脳にも強く焼きついていたのだ。

 

「では…その新世界での仕事はどうなっているのですか?」

 

早くも切り替えたらしい流廻が問う。双也は少し考えてから答えた。

 

「う〜ん…仕事自体は変わらないだろうな。送られてきた魂を裁き、送り出す。ここは今まで通りだ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「………本格始動する前に、建物とか器具の調達とか、やらなきゃならない事がかなりあるな…もしかしたら向こうが準備してくれてるかもしれないけど…」

 

その言葉を聞き、厳治が口を開いた。

 

「そうなると、陽依と夜淑は自然と選択肢から抜けてくるな」

 

厳治に視線が集まる。その内夜淑は理由が分かった顔をしているが、陽依は何やら不満そうに頬を膨らませて立ち上がった。

 

「むぅぅ…なんでよげんじおじちゃん!!私たちだって"さいばんちょう"だよ!!」

 

単語を知っているだけの子供のように陽依は言葉を投げかけた。厳治は彼女に視線を向け、仕方なさそうな声で言った。

 

「お前たち…裁くことは出来ても他の事はからっきしだろう?向こうが裁判をすぐに始められる状態ならば良いが、期待はしないのが無難だ。建築に資材の調達…お前達では出来ないだろう」

 

「むぅぅう……」

 

「しょうがないよお姉ちゃん…」

 

諭すように姉を宥める妹。陽依は納得のいかない表情のまま席に戻った。

 

「じゃあ陽依と夜淑は出来ないって事で除外だな。あとは〜----」

 

「あ〜双也様?そういう話なら私も降りるよ」

 

そう言ったのは魅九である。彼女は少し困った顔で言っていた。

 

「私、二人みたいに書類が書けない訳じゃないけど、そういう事務?雑用?みたいなの全然出来ないんだよ。だから降りる」

 

「…そう言ってサボりたいだけなんじゃないんですか?」

 

魅九の言葉には映姫が反応した。彼女は怪しげな目で魅九を見つめている。

真面目な映姫が、少し派手な風貌をしている魅九を怪しむのは妥当な事ではある。そこまで険悪では無いが、暮弥と項楽の仲が悪いのと理由は同じであり、彼女自身が慎みを持って行動する事を基本にしているのも一因である。魅九本人は映姫を嫌っているわけでは無いのだが。

そんな映姫に、魅九は少し不満そうな声で応えた。

 

「そんな事思ってないよ。あんたのとこの小町じゃないんだから。普通に得意じゃないってだけだよ」

 

「本当ですか?」

 

「まぁまぁ映姫、魅九がチャラチャラして見えるのは分かるけど、仕事には真剣だって俺が知ってるから。そんなにつっかかるな」

 

昨日の様に喧嘩が始まると思った双也が、会話に割り込んで鎮めた。映姫もわかっていたのか渋々口をつぐむ。

 

「双也様、魅九がその様な理由ならば、このだらしない男も降ろすべきでは?」

 

会話の区切りを察したのか、指をさして暮弥が進言した。

その指の指す先は………腕を組んで座っている項楽。彼は片眉を釣り上げて"は?"といった顔をしている。

 

「一応聞くけど…なんで?」

 

「このダメ閻魔はダメです。ダメでダメだからダメなのです」

 

「おいちょっと待てやコラァ!!」

 

最早この裁判所ではお決まりとなりつつあるこの現象。一度暮弥と項楽が絡めば、それは超長期口喧嘩、もしくは実力の行使有りの取っ組み合い…所謂"大惨事"の始まりを意味する。

二百年余りをここで過ごしてきた双也は度々その現象も見てきたわけだが、今回のはさすがに項楽に一言言わせてあげなければ可哀想と判断し、少しばかり目と耳を塞いでいた。

…もちろん、危なくなれば止めるつもりではあるが。

 

「ダメダメうるせぇよ!!双也様は理由聞いてんのにそれじゃ唯の嫌味じゃねぇか!!」

 

「ええ嫌味よ!?ただそれでも理由には十分だわ!!ダメな閻魔なんだからこんな大仕事は務まらないって意味よ!!」

 

「んだとゴラァ!!」

 

「大体!!あなた集中力ないんだからそもそも出来ないでしょうが!!出来ない仕事なんか引き受けるべきでは無いわ!!」

 

如何にも項楽の逆鱗に触れそうな言葉。それを聞いた双也は"そろそろかな"と思ったが、項楽の様子を見て"必要無かったか"と割り込む気を霧散させた。

項楽は先程までの怒りを嘘のように消し、キョトンとしていたのだ。

 

「……んだよ、それならサッサとそう言えよ。ちゃんと理由があるなら無駄に怒ったりしねぇのに…」

 

「………え?」

 

「さっきから考えてたんだよなぁ…俺裁判とか書類の片付けとかは出来るけど、どうも長く続かないんだわ。建築なんて明らかに長い仕事になるし、降りるべきかなってな」

 

「な、あ……え?」

 

急に大人しくなった項楽に戸惑いを見せる暮弥。それもそのはず、暮弥は今まで"怒りで乱暴になった時の項楽"しか見ていないのだから。

 

暮弥が真面目な委員長気質なのは周知の事実である。周囲がそう認めるほどの性格である彼女は、真面目すぎる故に、第一印象で相手への接し方をほぼ決めてしまう所があった。そんな彼女が不良のような雰囲気の項楽と出会えば、その末路は誰もが想像できる。

 

事あるごとに項楽へ口を出し、喧嘩になり、結果彼の"素の部分"を見落としていたのだ。

暮弥と項楽、両方の素を知っていた双也は、その光景に少しばかり安堵する己の心を感じ取った。

と、優しい目で二人を眺めていた双也に、項楽は声をかけた。

 

「そういう訳だから、俺を降ろしてくれ双也様」

 

「……ん。分かった。じゃあ項楽は選定から除外する。暮弥……仲良くしろよ?」

 

「…………………」

 

無言で席に戻る暮弥。関係を改めて欲しいと願う双也だった。

 

「ん〜…そうなると、残ったのは俺、流廻、真琴、暮弥、映姫ちゃん、厳治さんの六人か」

 

状況を整理するように綺城が言った。それに頷いて双也も言う。

 

「そうだな。選定対象が減ったのはいいけど…まだ決めきれないな」

 

頭を悩ませる双也。少しして、彼は仕方なさそうな声を発した。

 

「ふぅ…多数決取るしかないか」

 

困った時には多数決。誰が言ったのかは定かでは無いが、双也は最終手段としてコレを考えていた。ただ、十人も居たのでは多数決するにも大変である。そう考えて今まで言わなかったのだ。

しかし今は、なんやかんやあって結果六人。多数決をとってもどうにかなるレベルにまでなった。

やるならば、行き詰まったこのタイミングがぴったりである。

 

「よし、じゃあせーので全員指させ。多かったやつを担当とする」

 

六人の気が引き締まる。双也は全員を確認して言った。

 

「行くぞ?せーのっ!」

 

ビシっと指が差される。バラバラになるかと思われた六人の指は、意外にもほぼ一点に集まっていた。

 

「え……私…ですか?」

 

その指の先は……四季映姫。彼女の疑問に、五人は次々と言った。

 

「だって映姫ちゃん真面目だしね」

 

「若くて活力にも溢れとる」

 

「白黒つける能力は裁判にも適正ですし」

 

「まぁ極論、映姫に任せれば"失敗"はしないってところかしらね」

 

「………だ、そうだ。やれるな、映姫?」

 

五人の言葉に、映姫はキリッとした目になって言った。

 

「…分かりました。この四季映姫、誠心誠意やらせていただきます!!」

 

その宣言にはこの場の十人全てが頷いた。

 

「よし、本日をもって、裁判長四季映姫を新世界に於ける最高裁判長に任命する。頑張ってくれ映姫」

 

「〜〜〜っ はいっ!!」

 

 

 

 

 

 

こうして、波乱の連続だった選定会議はお開きとなった。

 

 

 

 

 




予定通りの結末になりましたね。やっぱり映姫様は最高裁判長でないとw

ではでは。

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