東方双神録   作:ぎんがぁ!

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ちょっと雑になってしまいました…。

ではどうぞ。


第六十五話 新たな習慣

『じゃあ、行ってきますね』

 

『ああ、またいつかな映姫』

 

彼岸花の咲き乱れる三途の川。

映姫は小町の船を背にして立っている。

そして、それに向き合う俺と裁判長達。

 

『寂しくなるなぁ、映姫の説教は割と為になるというのに…』

 

『割と、は余計です厳治さん』

 

懐かしむように言う厳治とそれを突っ込む映姫。

この光景も最後である。

 

『『映姫ちゃぁぁん!!』』

 

映姫に飛び込む陽依と夜淑。

映姫は辛うじて受け止めたが口元は優しく緩んでいる。

 

『じゃあね映姫ちゃん…もっと遊びたかったんだけど…』

 

『うぅ…私、映姫ちゃんの事尊敬してた…お説教する時は凛々しくて、カッコよくて…私もいつかそんな風になれるかなぁ…』

 

『大丈夫ですよ夜淑。大きくなればきっとなれます』

 

尊敬していたと言う夜淑に、映姫は優しく語りかけた。

その様にはどこか大人の女性のような雰囲気があった。

 

『映姫も、もっと大きくなればきっと綺麗になれるわよ』

 

そう言って流廻が近付き、映姫の頭を撫でる。

普段ならば"子供みたいに撫でないでくださいっ!"とか言って手を払いのける所だが、此度の映姫はそうではなかった。

 

『……はい。いつか流廻さんより綺麗になってみせます』

 

『ふふっ 待ってるわ。くれぐれも無理はしないでね』

 

『はい』

 

最後だから、と言うことできっと素直になれたのだろう。

普段は隠しているが、二百年映姫を見てきて気付いたことの一つに"映姫は頭を撫でられるのが割と好き"という事がある。ただ、頭を撫でられるという行為が子供っぽいと思っているらしく………まぁそういう訳で普段は嫌がっているように反応していたのである。

 

そんな感じで全員と挨拶を交わした映姫は、船に乗って小町に合図した。

 

『じゃ、旦那ともコレでお別れだね』

 

『そうだな…まぁ、裁判所同士なら連絡取れるし、話し相手くらいならしてやるよ』

 

『いいね!じゃ楽しみにしてるよ!』

 

そう言って小町は舟を漕ぎ出した。行先は新世界の裁判所(建設予定地)である。

三途の川は一つしか存在しない。しかし、数多存在する世界の全てに三途の川は流れている。

つまり、三途の川はあらゆる世界を跨いで流れているのだ。その川を渡るのではなく、流れていく事で別世界へ行くことができる。

映姫達はその方法で新世界へ行くのだ。

 

だんだんと遠くなっていく映姫たちに、俺たちは見えなくなるまで手を振っていた。

 

ー ー ー ー ー ー ー

 

ー ー ー ー ー

 

ー ー ー

 

 

 

 

 

「あれからもう百年…か」

 

「そうですねぇ。映姫達元気でしょうか」

 

部屋のソファに座ってそう呟く俺と流廻。

机には書類の束(厚さ2cm程)が積まれている。

俺はその書類達に目を通していた。部下たちが書いた書類のチェックである。

つーか量少なくね?俺が一人でやってる分の1/5くらいじゃん。

 

「ふぅ〜…流廻、カフェオレ淹れてくれない?」

 

「ハイハイ、あの少し甘いヤツですね」

 

少し休憩。喉も渇いたので飲み物を頼む。ホントはみたらし団子も欲しいが、止まらなくなるから我慢。

同じソファに座ってはいるが、流廻は別に仕事を手伝ってくれている訳ではない。

休憩としてここに寄って、本を読んでいるだけだ。

眼鏡を掛け、長めの髪を耳に掛けて足を組む姿は、どこかの秘書のように見える。

知的な美女ってコイツみたいなヤツの事言うんだろうなぁと思ったのはここだけの話。

 

目を瞑って休めていると、コトッとカップの置かれる音がした。

カフェオレのいい香りも漂ってくる。

 

「あら?双也様、書類が一枚落ちてますよ」

 

「ん?あホントだ」

 

ズズズッとすすっていたカフェオレのカップを置き、書類を拾う。

 

「……ああ、コレまた来たのか」

 

「? なんです?………地獄縮小計画?」

 

流廻が覗き込んできた。

内容をもっと見たそうだったので手渡してソファに座り直す。

う〜ん、そろそろコレも片付けなきゃか。ほっとけないしな。

 

「双也様、"また"ってどういう事ですか?」

 

「その書類な、百年くらい前に保留にしておいたヤツなんだよ。それがまた来たって事」

 

「なんで保留にしたんです?」

 

「まだいいかなと思って」

 

「…ホントに適当なんですね…」

 

ちょっと流廻に呆れられた。今更なんだよ、もう三百年の付き合いだろうが。

でもまぁ"まだいい"と思ったのは嘘ではない。

前は確か原作に絡んでくるからって事で保留にした気がするが、今となっては内容なんぞ覚えてない。

でももう幻想郷が出来て百年経つし、そろそろ縮小に伴ってどこか地獄を切り取らないと"あの姉妹"がいなくなってしまう。

原作キャラが居なくなるのは困るのだ。

次はこの書類を片付けよう。

 

「……地獄……ん?地獄って広過ぎるからこんな話が持ち上がったんだよな?」

 

思い出したことがあったので流廻に確認してみる。彼女は不思議そうな顔をしながらも答えてくれた。

 

「ええ、そのはずですけど……どうかしたんですか?」

 

「いや…どうせ切り離すなら一部は俺が貰っちゃおうかと思ってな(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…………え?」

 

「よし流廻、行くぞ」

 

「え、どこにですか!?」

 

驚く流廻に、振り返って言った。

 

 

 

 

 

「この計画の責任者のとこだよ」

 

 

 

 

 

そこからの行動は早かった。

この書類を送ってきた閻魔のところへ行き、責任者を聞く。

その責任者のところへ行き"地獄の一部をくれ!"と説得(上司命令)する。

死神や閻魔総出でその地獄に住まう魂や獣を移動させ、灯とする分の火以外を全てを消し、スッカラカンの空洞にした。

 

 

 

そして現在、その空洞の入り口。

 

 

 

「よっしゃぁぁあ!!やっと広い所とったどーー!!」

 

「いや、早すぎるわよ…割と大仕事だったのに、死神と閻魔をほぼ全員動かして半日で完了させるなんて……」

 

俺の後ろで流廻がブツブツと何か言っている。だが今は喜びの方が大きいのでスルーした。

 

「双也様、なんでこんな所を私物化したんですか?」

 

「いやぁ〜、かなり前から欲しかったんだよ。こう…暴れても良いほど広い空間!」

 

「……なんでです?」

 

流廻は全く意味がわからないと言った表情をしていた。

まぁ理由なんて至極簡単だ。それは……

 

「ちょっと修行しようと思ってね」

 

「…………え?」

 

そう、修行である。修行の為だけにこの切り取った地獄の一部を貰い受けた。

西行妖との戦いで思い知ったのだ、"俺はまだ未熟すぎる"と。

能力の扱い、剣術、体捌き…元は普通の高校生だった俺が、そのにわか極まる技術であそこまで生きられた事は自分でも誇っているが、そのにわか技術のままではいつか必ず死ぬ。

 

今度は本当に、戦って傷ついて死ぬだろう。

 

そうすれば今回のように蘇る方法もないし、転生することもない。"俺"という存在の終わりを意味する。

 

…………そんなのは嫌だ。

 

予防出来ることは早めに予防する。

未熟ならば、霊力が回復するまでのこの期間で強くなってやろう。

霊力は全盛期の三割、修行するには十分だ。

ここでまずは、幅広い応用が利く"鬼道"をマスターしよう。

 

「まぁ今日はたくさん仕事したし、もう休むか。行こう流廻」

 

「え、ちょっと、まだ理由を聞いてないんですが!?」

 

「いーよそんなの。お前が気にすることじゃないって」

 

「気に"してる"んじゃなくて気に"なる"んです!」

 

俺はこれからの修行メニューを考えながら自室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜綺城side〜

 

 

ガチャ「双也様〜、休憩しに………今日もか…」

 

裁判が一区切りつき、疲れたので双也様の部屋に来た。

こうして来ると、前までは机に片肘をついて片手だけものすごい速さでペンを走らせていたり、ソファに座って寛いでいたりだったが、何故か最近姿を見かけない。

今まで"この時間帯なら絶対居る"って思っていた時間に来てもいなくなっている。

……どこいったんだあの人。

 

「う〜ん…書類は全部書き終わってるからサボってるわけじゃないんだよなぁ」

 

机に山積みになっている書類の束(厚さ数10cm)を見やる。綺麗な字とは言えないが、余すところなく書き詰められていた。

………まだ昼前だと言うのに、俺たちの倍以上ある仕事をこんなにも早く終わらせるなんて……あの人の頭の回転速度はどうなっているのだろうか…。

 

しばらく考えていると、バンッとドアの開く音が聞こえた。

 

「双也様〜!なんかお茶くれ〜…って、なんでお前が居んだ?」

 

この粗雑な言葉使い、乱暴なドアの開け方。すぐに項楽だと分かった。

悪い人じゃないのは分かるけど、ちょっと苦手なんだよなこの人…。

項楽はドアを閉めずに近付いてきた。

 

「あ〜?なんだ今日も居ねぇのか。全く、ここ最近ずっとだな」

 

「そうだね…どこにいるんだろ」

 

部屋を見回す。特に変なところは無い様だった。

と、そうしていると、ドドドドドという音が聞こえてきた。

…なんか近付いてくるようだ。

 

「「そ、う、や、さ、ま〜〜!!!」」

 

ダンッと踏み込み、飛び込んできたのは陽依ちゃんと夜淑ちゃんだ。

双也様を目当てに来たらしい。

だがあいにく、飛び込んだ先にいたのは項楽だ。

彼は二人に押し倒された。

 

「ねぇねぇ双也様!言われた通りお仕事終わったよ!だから遊んでよ!!」

 

「わ、私も遊んで欲しいですっ!」

 

……もう一度言おう。飛び込んだ先にいたのは項楽だ。

 

「うおあ!? おいコラガキども!!早くどけよ!!首が締まる!!」

 

「あれ、項楽おにいちゃんだ」

 

「あわわ、すいませんっ!」

 

そう言っていそいそと項楽の上から退く二人。

項楽が怒って暴れなくてよかったと思う。

……まぁ彼もそこまで乱暴じゃないか。

 

「ゴメンね二人とも。今双也様居ないんだ。また今度ね」

 

そう言うと、二人は見るからにガッカリした様子になった。なんか……ホントごめんね。

 

「じゃあ双也様探そうよ!!」

 

「どこにいるんですか!?」

 

二人が訴えかけてくる。

陽依ちゃんはともかく、夜淑ちゃんまでこんな活発になるとは…双也様ずいぶん懐かれてるなぁ…。

なんて考えていると、ドアの方から声が聞こえた。

 

「双也様なら、今旧地獄に居るわよ」

 

全員が振り返る。そこには流廻が立っていた。

すぐさま陽依ちゃんと夜淑ちゃんが詰め寄る。

 

「どこ!?それ!?」

 

「一体何しに行ってるんですか!?」

 

「ちょ、ちょっとまって二人とも……」

 

普段よりも勢いの増した二人に気圧されているようだ。

こういう光景を見ると、彼女もまた苦労人なのだと再確認させられる。

 

「でもよ、ガキどもの言うことも最もだぜ?地獄を縮小した話は知ってるが、そこで一体何してんだ?」

 

腕を組んだ項楽が流廻に聞いた。

彼女は陽依ちゃんと夜淑ちゃんを宥めながら答えた。

 

「ん〜…じゃあちょっと見に行きましょうか」

 

即決。先頭は陽依ちゃんと夜淑ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

ヒュッヒュッと音が聞こえる。何か振るっているようだ。

 

「はっ!やぁ!」

 

ドアを少しだけ開き、その隙間から様子を覗く。

双也様は手に青白い刀を持って舞っていた。

 

「せいっ! オラァ!!」

 

ヒュオッと何かが剣から放たれ、先にあった岩を斬り飛ばした。双也様は高くに飛んだ岩を見据え、手の剣を消した。

そして手のひらをかざし……

 

「縛道の六十一『六杖光牢』!!」

 

六本の光の杭が、岩に刺さって固定した。

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛』!!」

 

太い縄のような光が、杭ごと岩を縛り上げる。

 

そして双也様は、左手を突き出して右手で抑えた。

その左手からはバチバチと稲妻の様なものが溢れている。

 

「破道の八十八『飛竜撃賊震天雷炮』!!」

 

そう叫ぶと、その左手から強大な雷の爆撃が放たれた。

それは爆音と共に旧地獄を振動させ、飲み込まれた岩は文字通り塵となった。

 

その光景を目の当たりにし、俺たちは絶句した。

 

「まさか…双也様がここまで強いとはな…予想以上だったぜ…」

 

「すごぉい…双也様カッコいい……」

 

「アレでまだ三割とは…戦慄するわね…」

 

口々と感嘆の声を漏らす。

それほどに衝撃的な光景だった。

 

「つまり、修行してたってことかな?」

 

俺の問いに、流廻が頷いた。

 

「そうね。理由は知らないけど修行してるらしいわ。……そう考えると、私たち邪魔ね」

 

「……そうだね。帰ろうか」

 

上司の現状を把握して満足した俺たちは、各々仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…行ったか。カッコつけようと無理しちゃったけど…お陰で凄い疲れちまったな……もう休も…」

 

 

 

 

 




鬼道って……良いですよねw

ではでは。

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