続いて三人称視点です。
どうぞ!
一面に水が張られた蒼い空間。空は晴れ上がり、その全てを水に映している。その空間のほぼ中心に双也は倒れていた。
「うっ、う〜ん…ん?ここは…?」
双也は目が覚めるとゆっくり起き上がった。なぜか背中は濡れておらず、不思議な空間に居るにも関わらず双也の心はこの一面の水の様に落ち着いていた。不思議に思って一生懸命頭を働かせて居ると、後ろから声がした。
「やっと起きたか。早起きなんじゃなかったのか?」
「うおおぁぁああ!」
双也は突然の声に飛び上がって驚く。声の主を確認しようと後ろを振り向くと、
双也に瓜二つの男が微笑みながら見つめていた。
顔こそ双子ではないかと思うほど似ており、服も完全に同じだった。違うところといえば、双也の髪は茶色っぽい黒であるのに対し、男の髪は白く輝いている。
双也はすぐに起き上がって距離を取り、警戒を始めた。水面には所々波紋が浮かんでいる。そんな双也の様子を見て男は言った。
「おいおい、そんなに警戒しないでくれよ。俺は敵じゃないぞ?つーか味方だぞ?」
男は両手を顔の前で振って敵意がない事を知らせようとしている。しかし双也は聞く耳を持たない。
(言葉で油断させるなんで誰でもできる。しかもこんな不思議な場所にいる限りアイツの手の上のハズ…ここは一発!)
双也は勢いよく踏み込み、男にパンチした。が、まるで軌道が分かっていたかのように受け止められた。双也は困惑した。いくら人間と言っても神を含んだ現人神。パンチでも常人が見切れる程遅くはない筈だった。
双也は次々攻撃する。パンチ、蹴り、頭突き…しかしそのどれもが簡単に受け止められ、とうとう拳が掴まれてしまった。
「はぁ…いい加減分かれよ"俺"。自分に攻撃なんかできるはずないだろ?」
今度は男がパンチしてきた。その速さは双也でも見切ることは出来ず、顔面に直撃すると思われた。が、その拳は他でもない双也の手によって防がれていた。
「え!?」
双也は再び困惑した。男は次々攻撃してくるが、そのどれもが双也の意思とは関係なく防がれていく。すると男は途中で攻撃をやめ、後ろに下がった。
「もう分かったろ?"いくら精神世界としても自分同士で傷つけ合う事なんて出来るはずないんだよ"。だからもう落ち着いて俺の話を聞いてくれ。割とガチで」
男は仕方無さそうに笑い、双也に呼びかけた。
双也は言葉を理解するのにしばらく固まっていたが、やっと理解したようで肩の力を抜いた。
(なるほど、ここは俺の精神世界。だから俺同士で殴り合っても防がれてたのか。あの水の波紋はちょっとした心の乱れだったんだな)
「その通りだ!やっとわかってくれたか!」
「……なんで思った事を読んでんの?」
「俺がお前自身だからに決まってるだろ?」
男…(髪が白いので白双也とする)は当然のように言い放った。それを聞いて双也もああそうだったなと納得する。まだこの状況に慣れきっていないようだ。直ぐに慣れてしまっても可笑しな話だが。
ここで双也には疑問が浮かび上がった。
(俺の精神世界ならなんで俺が二人いるんだ?)
この疑問を感じ取った白双也が口を開いた。
「その事なら、俺の正体と直結する。まぁ先ずは座ろうか」
白双也が指をパチンッと鳴らすと双也の目の前に椅子と机、その上にミス○ードー○ツの箱、そしてマグカップに並々と注がれたレモンティーが現れた。双也は唖然としていた。自分よりも心の住人の方が自分の精神世界を使いこなしていたから当然だ。
「……なんでこんなモンが出てくんの…?」
「精神世界だからな。いわば俺たちの心の中。俺たちが味わったものや触ったもの…まぁ五感で感じた物なら何でも出せるぞ?想像するのはどんなヤツでも自由だからな」
双也はもう呆れ始めていたが、自分の精神世界に自分が呆れるのはなんとなく悲しかったので考えるのをやめた。
ドーナツを手に取りながら白双也が話を始めた。
「さて、本題だけど…まぁそんなに長い話じゃあない」
「長くないのか」
「ああ、俺の正体明かすだけだし、焦らすつもりも無いし。じゃあ話すぞ。まず、お前の種族は何だ?」
そうして白双也は聞いてきた。その問いに双也はなんの苦もなく答える。
「現人神」
「そう、現人神。人と神が混在する存在。じゃあお前の能力は?」
「繋がりを操る程度の能力」
「そうだ。じゃあお前はその能力をどんなモノだと思ってる?」
白双也の質問にいまいちピンと来ない双也はだんだんイライラしてきた。それは白双也も感じ取ったようで。
「おお!?そんなにイライラするな!起きた時の為にちょっとゆっくりやってるだけだよ!」
少し焦った様に双也を宥めている。白双也はため息をついて話を再開した。
「はぁ…俺ってそんなに短気だったかな… まぁいいやイライラしてるし、結論から言うぞ?」
「最初からそうしてくれ」
「うっせ!お前の為なんだぞ! ……俺はお前の中に存在する神の面。所謂"天罰神"だ」
「………え!?」
双也は少なからず驚いていた。確かツクヨミは、現人神は人であり神である的な事を言っていたはず。なぜ心の中で分かれているのかと。その疑問には当然白双也が答えた。
「確かにツクヨミに起こされた時には一つだった。でもあの戦争の最後、絶体絶命の中でお前キレたろ?あの時にお前が無意識に能力を使い、主に人間のお前と、主に神である俺が別れた。まぁあの能力だからまた戻る事はできるんだけどな」
「あの時か…でもどう関係するんだ?」
「お前の能力は 繋がりを操る程度の能力。あの時にその遮断の力が発動して現人神の中の人間と神が別れ、純粋な神に切り替わったんだ。おそらく、アイツらを潰す為には神にでもなるしかない。そのためには、ってお前の本能が働いたんだろうな。そして俺の能力を使って見事ぶっ潰したと」
双也は納得していた。白双也の言い分は筋が通っている。今思い出せば、あの時使った"慣れない力"はツクヨミから放出された力とよく似ている。所謂神力だったのだろう。
そして白双也の言葉に引っかかるところがあった。
「"俺の能力"?」
白双也は今まで、繋がりを操る程度の能力のことを"お前の能力"と言っていた。その為"俺の能力"と言った白双也の言葉が引っかかったのだ。白双也は思い出したように答える。
「ん?そう、俺の能力。…あれ、言ってなかったっけ?神になった状態だと新たに能力が追加されるんだ。それが俺の能力。天罰神としての能力だな」
「新たな能力って?」
「新たな能力、今は俺の能力って言うけど、俺の能力は"罪人を超越する程度の能力"、そして"力を抑える程度の能力"だ」
「何それ?」
「まぁそうなるよな… 順番に説明するぞ。まず前者の能力。コレは、お前が罪のある者とみなした相手よりも、あらゆる面でとんでもなく強くなる。まぁつまりは次元の違う強さになるってことだ。天罰神たる者、罪人から反撃されたんじゃしょうがないしな」
「なんだそれ…チート……」
「そう思う気持ちも分からなくはない。でも天罰神としては妥当だと思うけどな。発動条件も意外に厳しいし」
双也は今回何度目になるかわからない呆れを零した。自分の事なのだが、強すぎる能力に頭を抱えていた。こんな能力をちゃんと使えるのだろうか?と。
「はい次、後者の能力はいわばストッパーだ。前者の能力に繋がってる。具体的には、罪人の善行の量に応じて自らの力を抑制する能力だ。毎回次元越えてたらいいことをした事のあるヤツまで殺しちゃうしな。必要不可欠な訳だ」
「な、なるほどな……無闇やたらには殺さないってことか」
「まぁ善行で抑制仕切れなかったヤツは死ぬけどね。裁判でいう死刑ってヤツだ」
双也はやっとこさしてすべての内容を理解した。白双也は言いたい事を全て言ったようでドーナツをパクパク食べている。やがてレモンティーも空にすると口を開いた。
「さて、俺が言いたかったことはコレで全部だ。あとは自由にしてくれ。頃合いだし、そろそろ起きるといい」
「ああ、ありがと じゃあな」
「自分に礼を言われてもな……じゃあな!またいつか話そう」
白双也は微笑んで手を振ると光になって消えていった。すると同時に強烈な眠気に誘われ、その場で倒れた。
精神世界から戻り、目を開けるとそこは……
「ん? なんか真っ暗だなぁ。あ、出口っぽいのあった」
洞窟の中だった。幸い出口は近かったようで外に出てみると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「…………はぁ!?なんでこんなでっかい国ができてんの!?」
そう、双也の視界にはいっぱいに広がった家や田畑、それに店、神社。まさに国が出来ていた。
驚いている双也の横の方から声が。
「あれは私の国だよ。そんな事より、その洞窟から出てきたみたいだけど…お前何者だ?」
そこにはたくさんの兵を引き連れた、大きな帽子の幼女が立っていた。
次回からは諏訪大国編です!
諏訪子だよ〜!みんな〜あつまれ〜!
あ、この回と同時に双也くんのプロフィール?を載せておきました。良かったらみてください。
ではでは