ではどうぞ!
天界に存在する都。一際大きい宮殿を中心に周囲へ民家が広がっている。
民家とは言っても、その全てが天人と呼ばれる人間の一種が住む
彼らは自らが人間であるにもかかわらず、空に住むか地に住むかの違いで地上の生き物を見下し、その者が天界へ入ってくれば罵る…そんな者達だった。
特に死神に対しては、他の生き物よりも態度を悪くする。
天界に成る桃の力によって寿命までも伸ばしている彼らは、"寿命狩り"と称して殺しに来る死神たちを酷く酷く嫌っていた。
故に死神を見れば凄まじい悪態をつき、大抵は一人で来るのをいい事に"兵を呼んで八つ裂きにするぞ"などと脅して無理矢理帰していたのだ。
しかし、今回は違った。
「ふん、こんなもんか」
都の外壁よりも外。
所々に立つ林と、天界特有の白みがかった地面が美しい風景を生み出すその場所は、普段では到底想像できないような凄惨な光景を生み出していた。
「兵とは言っても、経験の足りない三流ばっかりだな」
木の半分以上がおり倒され、普段はある程度隠れている地面が丸裸になっていた。
そしてその一面は、身体中から血を滴らせる大量の兵
……その中心に、双也は立っていた。
「初めの頃から比べたら、この技も随分上達したよなぁ」
そう言い、自分の手のひらを見つめる双也。
服や顔にも血を飛び散らせ、それを気にせず手をじっと見つめる彼の姿は、傍目から見れば酷く不気味で近寄りがたい空気を醸し出していた。
パッと顔を上げ、双也は一歩踏み出した。
足元からビチャッと音がした。
「立ち止まってもしょうがないし、さっさと向こうの奴らも狩ってこようか」
転がる死体をうまく避けながら、双也は丸裸になった林を抜けた。その先にはすぐに外壁がある。
彼は壁を見て呟いた。
「……頑丈そうだな、破道で吹っ飛ばすか----!」
ドォォオンッ!!!
刹那、双也は後ろへ跳びすさった。
直後に彼の居た場所を雷撃と岩石弾が襲ったのだ。その場所は軽くクレーターができている。
双也が雷撃と岩石弾の飛んできた方を見ると、二人の女性が降りてくるところだった。うち、片方は少女である。
「流石に一撃では仕留められませんか」
「むしろそうでないとここまで来た意味がないわ。簡単に終わったらつまらないもの」
落ち着いた女性は、赤と白を基調としたフワフワ浮いている羽衣を纏い、黒いスカートをはいている。
活発そうな少女の方は、青い髪を風に揺らし、白っぽい半袖と、七色に光る宝石のような装飾がついたスカートをはいている。
彼女たちは双也の前を降り立つと、指をビシッとさして言った。
「さぁ、天界に反抗した愚かな死神よ!! この
そう叫ぶ天子の隣で、赤と白の女性は仕方なさそうな表情をしていた。
その視線に気付いた天子がジト目で問いかける。
「……何よ衣玖、文句ある?」
「いいえ、ありませんよ」
ニコリと笑う衣玖。
そんなやりとりを見ていた双也は、古い記憶を引き出していた。
(比那名居…天子と……衣玖?……こいつら確か…)
原作のキャラだったな、と思いかけた瞬間、彼は再び岩石弾が飛んでくるのに気が付いた。
不意打ちだが、冷静に判断して当たりそうなものだけ斬り落とし、自然体に戻る。
その様子を見て天子が言った。
「ふ〜ん、やっぱり不意打ちは効かないか。さすが、ここの兵を蹴散らしただけあるわね」
「……攻撃した直後なのに喋る暇があるとは…まるで楽しんでるみたいだな」
その言葉を聞き、天子は笑みを深くした。
「ふふ…そうよ!! 私は! 戦いを楽しみに来たの!!」
手に持つ緋色の剣で斬りかかる天子。
それを双也は難なく受け止め、鍔迫り合いを始めた。
「だから、簡単に負けてくれないでよね!」
天子が片手を地面にかざすと、そこから土でできた大きな棘が突き出した。
双也は、鋭く迫るそれを体を反らして避けると、天子の剣を弾きながら回転して横に斬りかかる。
しかし、その攻撃は双也の目の前を掠めた雷撃によって阻止された。
「!? ちっ」
「隙有り!!」
その好機を逃さず、天子が斬りかかる。
不安定な姿勢では双也でも受け切れず、防御の体勢のまま少し飛ばされた。
彼は着地すると、厄介そうな表情をして衣玖の方を見、話しかけた。
「……あんたも参戦するのか」
「卑怯、とは思わないで下さいね。私は総領娘様のお目付役なのです。怪我をされては困りますから」
「なるほど、な!」
「!! 避けられた!?」
「気配がダダ漏れなんだよ!」
話の最中に斬りかかった天子を避け、裏拳を放つ双也。
天子も腕を交差させて防御したが、身体が浮かされ、吹き飛ばされた。
天子と入れ違えるように空に舞った衣玖は、双也に向けて多数の雷撃を飛ばし始めた。
「厄介だなぁ…縛道の八十一『断空』!」
雷撃を面倒に感じた双也は、断空によって衣玖の雷撃を防ぎ、続けて唱えた。
「破道の五十八『闐嵐』!」
かざした双也の手のひらから、巨大な竜巻が放たれた。
それは衣玖の放っていた雷撃を巻き込み、威力を増して彼女に襲いかかった。
「!!」
「まず一人目だ」
撃墜の確信を得た双也。しかしその表情はすぐに曇った。
衣玖と嵐との間に巨大な土壁が出現したのだ。
土と風では相性は最悪である。ただでさせ厚い土壁は表面を削られるだけにとどまり、双也の破道を完全に防いだ。
それが崩れ去ると、そこには無傷の衣玖と天子の姿が。
「衣玖! やるわよ!」
「はい!」
手を構える二人。声を揃えて宣言する。
「「激昂『神鳴り様の地捲り』!!」」
瞬間、双也の周囲の地面から多数の岩が突き出て空に浮かび上がった。
それは一定まで上昇すると停止し、そのそれぞれに雷が落ちる。
「!!」
雷を纏い、高速で降り注ぐ岩はまるで隕石のようである。双也はそれをうまく避け、あるいは斬り落として捌いていった。
埒があかないと判断した彼は、状況を打開するために宣言。
「破道の六十三『雷吼炮』!」
空に向けて放たれた雷吼炮は広範囲に広がり、残っていた岩を粉々に粉砕。
その隙に衣玖へ向けて"破道の一『衝』"を放った。
隙を突かれた衣玖はあっけなく飛ばされ、外壁にぶつかった。
「衣玖!!」
「余所見すんな!」
声に反応し、天子は双也の斬撃を受け止めた。
ギリギリと刃のぶつかる音がする。
「あなた、妙な術を使うのね。しかもかなり厄介…!それがあなたの能力?」
「…そうだ。これ
「も、って事は他にもあるって事ね!」
「どうか、な!」
双也は天子の横腹を蹴り、空から叩き落とした。
彼女は軽く血を吐いて吹き飛ばされた。
双也の能力。それを問うたら、もちろんそれは"繋がりを操る程度の能力"だ。
これは元々彼が持っていた能力、つまり先天的なモノである。
しかし能力というのは
双也が後天的に発現した能力……
それは"鬼道を扱う程度の能力"。
そう、彼が今まで"繋がりを操る程度の能力"を応用して使っていた"縛道"や"破道"の総称が鬼道である。
裁判所にいた八百年の内約五百年間、彼はずっとこの鬼道の修行をしていた。
技の構造、効率、コントロール、それらを考え抜き、また扱える様にする為日々努力してきた。
その結果、鬼道というスタイルそのものを彼は極め、能力として昇華させたのだ。
故に今の彼は"繋がりを操る程度の能力"と"鬼道を扱う程度の能力"の二つを持っているのだ。
「縛道の六十二『百歩欄干』!」
双也は手に杭を作り出し、天子に向けて放った。
近付くにつれてそれは分裂し、天子の身体に沿って地面に刺さった。
「!? 何よコレ!」
「特式三十三番『蒼龍堕』!」
身動きの取れない天子に対し、双也が放ったのは蒼く光る炎で作られた龍。
それは真っ直ぐ天子に向かい、食らいつかんと襲い掛かる。
しかし
「! 甘いわよ!!」
天子は、杭の刺さっている部分の地面をせり上がらせて抜き、手のひらを地面に当てて宣言した。
「乾坤『荒々しくも母なる大地よ』!」
天子の周囲から何本もの土柱が突き出す。それはまっすぐに龍とぶつかりしばらく競り合った。
蒼い炎と土の柱が衝突した事で、激しい音を響かせると共に周囲へ衝撃波を広げている。
「くぅ…中々強いわね…でも!」
天子が力むと、更に土柱が突き出して龍とぶつかる。
すると
ズドォォオンッ!!!
「くっ…!」
「うぅっ…!」
衝突部で爆発が起き、天子の技は双也の技と相殺した。
「まさか特式を防ぎきるなんてな…思ってたよりは強いらしい」
「ふん! あったり前じゃない! なんたって私なんだから!」
彼の"特式"は、"特式鬼道"の略である。
これは双也が編み出した、各鬼道に一つずつ存在する応用技。
その多くは普通の鬼道よりも威力が強い技となっている。
先ほどの蒼龍堕は、破道の三十三『蒼火堕』の特式鬼道である。
普通は爆炎として球で放つ蒼火堕を、量を増した状態で龍のように打ち出す事で、範囲的にもダメージ量的にも威力を上昇させた技である。
彼はこの様な強力な鬼道を修行の中で生み出した。
その鬼道を防ぎきった天子には驚きを隠せないでいたのだ。
「どうやら、ちゃんとやらないと………!?」
結界刃を構え、言おうとした双也は周囲の異変に気が付いた。
「…また厄介な技を使うな! 衣玖!」
「…光珠『龍の光る眼』…!」
彼の周りには、雷の帯を引く複数対の雷弾が、彼の動きを阻害するように少しずつ距離を詰めて迫ってきていた。
衣玖は少しボロボロになった姿で天子に声をかける。
「今です! 総領娘様!」
「! ええ! ありがと衣玖!!」
衣玖の声に答え、緋色の剣を回転させ始める天子。
それを見ていた双也は、逃げ場を塞がれた空中で、迎え撃つ為に構えの姿勢に入った。
剣からは凄まじい緋色のオーラが溢れ出し、集中し切った表情の天子が宣言した。
「行くわよ…『全人類の緋想天』!」
二対一には初めて挑戦しましたが……今までで一番難しいです。衣玖の出番がちょっと少なかったかな…?
要改善ですね。
ではでは。