東方双神録   作:ぎんがぁ!

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久しぶりのガチ戦闘。

ではどうぞ!


第六十八話 愉しむ者、発現

天界に存在する都。一際大きい宮殿を中心に周囲へ民家が広がっている。

民家とは言っても、その全てが天人と呼ばれる人間の一種が住む屋敷(・・)が大半である。

彼らは自らが人間であるにもかかわらず、空に住むか地に住むかの違いで地上の生き物を見下し、その者が天界へ入ってくれば罵る…そんな者達だった。

 

特に死神に対しては、他の生き物よりも態度を悪くする。

天界に成る桃の力によって寿命までも伸ばしている彼らは、"寿命狩り"と称して殺しに来る死神たちを酷く酷く嫌っていた。

故に死神を見れば凄まじい悪態をつき、大抵は一人で来るのをいい事に"兵を呼んで八つ裂きにするぞ"などと脅して無理矢理帰していたのだ。

 

 

しかし、今回は違った。

 

 

「ふん、こんなもんか」

 

都の外壁よりも外。

所々に立つ林と、天界特有の白みがかった地面が美しい風景を生み出すその場所は、普段では到底想像できないような凄惨な光景を生み出していた。

 

「兵とは言っても、経験の足りない三流ばっかりだな」

 

木の半分以上がおり倒され、普段はある程度隠れている地面が丸裸になっていた。

そしてその一面は、身体中から血を滴らせる大量の兵だったモノ(・・・・・)で埋め尽くされており、残った木々にもおびただしい血が飛び散っている。

 

 

 

……その中心に、双也は立っていた。

 

 

 

「初めの頃から比べたら、この技も随分上達したよなぁ」

 

そう言い、自分の手のひらを見つめる双也。

服や顔にも血を飛び散らせ、それを気にせず手をじっと見つめる彼の姿は、傍目から見れば酷く不気味で近寄りがたい空気を醸し出していた。

 

パッと顔を上げ、双也は一歩踏み出した。

足元からビチャッと音がした。

 

「立ち止まってもしょうがないし、さっさと向こうの奴らも狩ってこようか」

 

転がる死体をうまく避けながら、双也は丸裸になった林を抜けた。その先にはすぐに外壁がある。

彼は壁を見て呟いた。

 

「……頑丈そうだな、破道で吹っ飛ばすか----!」

 

ドォォオンッ!!!

 

刹那、双也は後ろへ跳びすさった。

直後に彼の居た場所を雷撃と岩石弾が襲ったのだ。その場所は軽くクレーターができている。

双也が雷撃と岩石弾の飛んできた方を見ると、二人の女性が降りてくるところだった。うち、片方は少女である。

 

「流石に一撃では仕留められませんか」

 

「むしろそうでないとここまで来た意味がないわ。簡単に終わったらつまらないもの」

 

落ち着いた女性は、赤と白を基調としたフワフワ浮いている羽衣を纏い、黒いスカートをはいている。

活発そうな少女の方は、青い髪を風に揺らし、白っぽい半袖と、七色に光る宝石のような装飾がついたスカートをはいている。

 

彼女たちは双也の前を降り立つと、指をビシッとさして言った。

 

「さぁ、天界に反抗した愚かな死神よ!! この比那名居天子(ひなないてんし)が来たからには一歩も進ませないわ!! 覚悟しなさい!!」

 

そう叫ぶ天子の隣で、赤と白の女性は仕方なさそうな表情をしていた。

その視線に気付いた天子がジト目で問いかける。

 

「……何よ衣玖、文句ある?」

 

「いいえ、ありませんよ」

 

ニコリと笑う衣玖。

そんなやりとりを見ていた双也は、古い記憶を引き出していた。

 

(比那名居…天子と……衣玖?……こいつら確か…)

 

原作のキャラだったな、と思いかけた瞬間、彼は再び岩石弾が飛んでくるのに気が付いた。

不意打ちだが、冷静に判断して当たりそうなものだけ斬り落とし、自然体に戻る。

その様子を見て天子が言った。

 

「ふ〜ん、やっぱり不意打ちは効かないか。さすが、ここの兵を蹴散らしただけあるわね」

 

「……攻撃した直後なのに喋る暇があるとは…まるで楽しんでるみたいだな」

 

その言葉を聞き、天子は笑みを深くした。

 

「ふふ…そうよ!! 私は! 戦いを楽しみに来たの!!」

 

手に持つ緋色の剣で斬りかかる天子。

それを双也は難なく受け止め、鍔迫り合いを始めた。

 

「だから、簡単に負けてくれないでよね!」

 

天子が片手を地面にかざすと、そこから土でできた大きな棘が突き出した。

双也は、鋭く迫るそれを体を反らして避けると、天子の剣を弾きながら回転して横に斬りかかる。

 

しかし、その攻撃は双也の目の前を掠めた雷撃によって阻止された。

 

「!? ちっ」

 

「隙有り!!」

 

その好機を逃さず、天子が斬りかかる。

不安定な姿勢では双也でも受け切れず、防御の体勢のまま少し飛ばされた。

彼は着地すると、厄介そうな表情をして衣玖の方を見、話しかけた。

 

「……あんたも参戦するのか」

 

「卑怯、とは思わないで下さいね。私は総領娘様のお目付役なのです。怪我をされては困りますから」

 

「なるほど、な!」

 

「!! 避けられた!?」

 

「気配がダダ漏れなんだよ!」

 

話の最中に斬りかかった天子を避け、裏拳を放つ双也。

天子も腕を交差させて防御したが、身体が浮かされ、吹き飛ばされた。

天子と入れ違えるように空に舞った衣玖は、双也に向けて多数の雷撃を飛ばし始めた。

 

「厄介だなぁ…縛道の八十一『断空』!」

 

雷撃を面倒に感じた双也は、断空によって衣玖の雷撃を防ぎ、続けて唱えた。

 

「破道の五十八『闐嵐』!」

 

かざした双也の手のひらから、巨大な竜巻が放たれた。

それは衣玖の放っていた雷撃を巻き込み、威力を増して彼女に襲いかかった。

 

「!!」

 

「まず一人目だ」

 

撃墜の確信を得た双也。しかしその表情はすぐに曇った。

衣玖と嵐との間に巨大な土壁が出現したのだ。

土と風では相性は最悪である。ただでさせ厚い土壁は表面を削られるだけにとどまり、双也の破道を完全に防いだ。

それが崩れ去ると、そこには無傷の衣玖と天子の姿が。

 

「衣玖! やるわよ!」

 

「はい!」

 

手を構える二人。声を揃えて宣言する。

 

「「激昂『神鳴り様の地捲り』!!」」

 

瞬間、双也の周囲の地面から多数の岩が突き出て空に浮かび上がった。

それは一定まで上昇すると停止し、そのそれぞれに雷が落ちる。

 

「!!」

 

雷を纏い、高速で降り注ぐ岩はまるで隕石のようである。双也はそれをうまく避け、あるいは斬り落として捌いていった。

埒があかないと判断した彼は、状況を打開するために宣言。

 

「破道の六十三『雷吼炮』!」

 

空に向けて放たれた雷吼炮は広範囲に広がり、残っていた岩を粉々に粉砕。

その隙に衣玖へ向けて"破道の一『衝』"を放った。

隙を突かれた衣玖はあっけなく飛ばされ、外壁にぶつかった。

 

「衣玖!!」

 

「余所見すんな!」

 

声に反応し、天子は双也の斬撃を受け止めた。

ギリギリと刃のぶつかる音がする。

 

「あなた、妙な術を使うのね。しかもかなり厄介…!それがあなたの能力?」

 

「…そうだ。これ()俺の能力だ」

 

「も、って事は他にもあるって事ね!」

 

「どうか、な!」

 

双也は天子の横腹を蹴り、空から叩き落とした。

彼女は軽く血を吐いて吹き飛ばされた。

 

双也の能力。それを問うたら、もちろんそれは"繋がりを操る程度の能力"だ。

これは元々彼が持っていた能力、つまり先天的なモノである。

しかし能力というのは後天的(・・・)に発現する事もあるのだ。

 

双也が後天的に発現した能力……

それは"鬼道を扱う程度の能力"。

 

そう、彼が今まで"繋がりを操る程度の能力"を応用して使っていた"縛道"や"破道"の総称が鬼道である。

裁判所にいた八百年の内約五百年間、彼はずっとこの鬼道の修行をしていた。

技の構造、効率、コントロール、それらを考え抜き、また扱える様にする為日々努力してきた。

その結果、鬼道というスタイルそのものを彼は極め、能力として昇華させたのだ。

故に今の彼は"繋がりを操る程度の能力"と"鬼道を扱う程度の能力"の二つを持っているのだ。

 

「縛道の六十二『百歩欄干』!」

 

双也は手に杭を作り出し、天子に向けて放った。

近付くにつれてそれは分裂し、天子の身体に沿って地面に刺さった。

 

「!? 何よコレ!」

 

「特式三十三番『蒼龍堕』!」

 

身動きの取れない天子に対し、双也が放ったのは蒼く光る炎で作られた龍。

それは真っ直ぐ天子に向かい、食らいつかんと襲い掛かる。

しかし

 

「! 甘いわよ!!」

 

天子は、杭の刺さっている部分の地面をせり上がらせて抜き、手のひらを地面に当てて宣言した。

 

「乾坤『荒々しくも母なる大地よ』!」

 

天子の周囲から何本もの土柱が突き出す。それはまっすぐに龍とぶつかりしばらく競り合った。

 

蒼い炎と土の柱が衝突した事で、激しい音を響かせると共に周囲へ衝撃波を広げている。

 

「くぅ…中々強いわね…でも!」

 

天子が力むと、更に土柱が突き出して龍とぶつかる。

すると

 

 

ズドォォオンッ!!!

 

 

「くっ…!」

 

「うぅっ…!」

 

衝突部で爆発が起き、天子の技は双也の技と相殺した。

 

「まさか特式を防ぎきるなんてな…思ってたよりは強いらしい」

 

「ふん! あったり前じゃない! なんたって私なんだから!」

 

彼の"特式"は、"特式鬼道"の略である。

これは双也が編み出した、各鬼道に一つずつ存在する応用技。

その多くは普通の鬼道よりも威力が強い技となっている。

先ほどの蒼龍堕は、破道の三十三『蒼火堕』の特式鬼道である。

普通は爆炎として球で放つ蒼火堕を、量を増した状態で龍のように打ち出す事で、範囲的にもダメージ量的にも威力を上昇させた技である。

彼はこの様な強力な鬼道を修行の中で生み出した。

その鬼道を防ぎきった天子には驚きを隠せないでいたのだ。

 

「どうやら、ちゃんとやらないと………!?」

 

結界刃を構え、言おうとした双也は周囲の異変に気が付いた。

 

「…また厄介な技を使うな! 衣玖!」

 

「…光珠『龍の光る眼』…!」

 

彼の周りには、雷の帯を引く複数対の雷弾が、彼の動きを阻害するように少しずつ距離を詰めて迫ってきていた。

衣玖は少しボロボロになった姿で天子に声をかける。

 

「今です! 総領娘様!」

 

「! ええ! ありがと衣玖!!」

 

衣玖の声に答え、緋色の剣を回転させ始める天子。

それを見ていた双也は、逃げ場を塞がれた空中で、迎え撃つ為に構えの姿勢に入った。

 

剣からは凄まじい緋色のオーラが溢れ出し、集中し切った表情の天子が宣言した。

 

 

 

 

 

「行くわよ…『全人類の緋想天』!」

 

 

 

 

 




二対一には初めて挑戦しましたが……今までで一番難しいです。衣玖の出番がちょっと少なかったかな…?
要改善ですね。

ではでは。

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