東方双神録   作:ぎんがぁ!

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話数を跨いでの戦闘は初めてですね。これくらいのほうが読み応えあるかもしれません。

ではどーぞっ!


第六十九話 混乱、決着

溢れ出るオーラ。

剣の回転に比例してそれはどんどん濃く、強くなっていく。

その力の感覚に天子は自信を、双也は少々の焦りを感じていた。

 

(マトモに食らうのはさけたいな…かと言って、衣玖の技の所為で避ける事は出来ない…迎え撃つしかない…!)

 

衣玖の雷が作り出す檻の中で、天子の技に対抗しうる破道の構えに入る。

彼の結界刃からは凄まじい雷が漏れていた。

 

(なんか対抗しようとしてるみたいだけど…無駄よ!あなたの気質はもう見極めてる!)

 

その双也の様子を見ても、なおも自身の勝利を確信している天子。

それもそのはず。彼女は自身の持つ"緋想の剣"によって双也の気質を見極め、弱点に該当する気質を放とうとしているのだから。

 

人に限らず、生物にはそれぞれ気質というものが存在する。

それはその存在に宿る"気"そのものであり、気質の種類によってその存在の性格などに影響を及ぼす。

そして放出された気質には相性があり、その様相は天気に表される。

 

天子の持つ"緋想の剣"は、天人にしか扱えないが気質を見極める程度の能力を持っており、そして気質自体を変化させる事が出来るのだ。

 

(アイツの気質は"薄雲"! 薄く覆われた心の中に光を現す気質! つまり、全てを吹き飛ばす"突風"を当てればいい!)

 

天子の剣に宿るオーラは最高まで強くなった。

同時に双也も力を溜め終えた。

まるで息があったように、二人同時に技を放った。

 

「特式八十八番『覇龍撃滅天雷極刀』!!」

 

「『全人類の緋想天』!」

 

双也は凄まじい雷の爆撃が形作った超巨大な刀による突きを。

天子は回転する緋想の剣から溢れた"突風"の気質を纏う赤いオーラを。

お互いの最大出力で放ち、その二つは二人の中間地点で衝突した。

 

(勝負なんてもう着いてるわ! 弱点を突かれて平気な奴なんていない! どんな奴の弱点でもつけるからこそ私は無敵なのよ!!)

 

天子の考えは実際正しい。

どんな強者でも弱点を突かれれば平気では済まない。

そして、どんな強者にも弱点は存在するもの。

緋想の剣さえあれば、大抵の者には無敗を貫けるだろう。

 

 

 

………そう、大抵の者ならば(・・・・・・・)

 

 

 

「……? なんで…押し切れないの…?」

 

異変に気付いた天子。

弱点の気質を当てているはずなのに双也の技を貫けないのだ。

彼女はその想像だにしていなかった事態に困惑した。

 

(なんで!? アイツの気質は薄雲、それは間違いない!それに合わせて突風を当ててるのに…なんで押し切れないのよ!?)

 

天子は知らなかったのだ。

"弱点を突く"という行為そのものに弱点がある事を。

確かに、戦いにおいて弱点を突く事はとても良い判断だ。ましてやどんな状況でも弱点を突ける天子はまさに強者である。

 

しかし、弱点というのは"実力の隔たり"によっては意味を成さない。

 

例えば、左腕を失った剣豪が素人の剣士と戦っていたとしよう。

素人の剣士は、勝つ為に明らかな弱点である左側を狙う筈だ。実際懐に入り込み、左側から剣を振り下ろすとする。

力の拮抗した相手ならばそれで終わっていた。

が、剣豪の剣速が素人剣士よりも数倍上回っていたならばどうだろう。

素人の剣士が振り下ろす前に剣豪が剣を弾き、素人剣士を斬って終わりだ。

 

天子と双也の関係は、まさにこの素人剣士と剣豪の関係と同じである。

 

今まで数々の戦いを経て、霊力も経験も尋常ではないレベルに達している双也(達人)に、たかだか数百年生きただけ、強力な武器を持っただけの天子(小娘)が勝てる要素などどこにもない。

ひ弱な兎が、獰猛な獅子に小突いたからと言ってどうなるというのか。

例え弱点を突こうとも、双也の技はそれを凌駕してしまうのだ。

 

 

ゆえに、天子は双也に届かない。

 

 

「どうやら限界らしいな天子!!」

 

衝突の最中、双也はだんだんと勢いが下がってきている天子に言った。

それを聞いた天子はキッ!と彼を睨んだ。

 

「だ…れが…限、界…よッ!!!」

 

天子は回転させている剣を強く突き出す。

すると吹き出しているオーラの勢いも増し、少しだけだが双也の刀が後ろに引いた。

 

「っ! ぉぉぉおおお!!」

 

「はぁぁぁあああっ!!!」

 

勢いを増した二つの力は一瞬拮抗した。

が、次の瞬間には衝突部から衝撃が噴き出し、炸裂。

そのあまりに強い爆発が、二人と、激しいぶつかり合いで近付けなかった衣玖を襲った。

 

「ぐうぅぅうっ!!」

 

双也は外壁の方に、

 

「きゃぁぁあああ!!」

 

天子は林の方に飛ばされ、

 

「総領娘様!!」

 

衣玖は能力を使って衝撃を受け流していた。

飛ばされた天子を心配するも、今は戦いの最中。飛ばされて思うように動けないだろう双也の隙を逃す手はない。

衣玖はすぐさま彼の方へ攻撃を放った。

 

「隙有りです!!」

 

「!! こんな時にっ!!」

 

放たれる雷撃弾に、双也は苦虫を噛み潰したような表情をしながらも対処を試みた。

不安定な体勢だからか所々擦りはしたものの、致命傷は避ける事ができた双也。そのまま地面に叩きつけられる。

 

衣玖は追撃と言わんばかりに宣言した。

 

「雲海『玄雲海の雷庭』!!」

 

彼女と双也を囲うように、広範囲に雷撃が迸り始めた。

網目状に、立体的に、赤外線センサーのように雷撃が張り巡らされ、そしてその一部は双也を狙って放たれている。

 

その様子を確認した双也も宣言。

 

「破道の五十七『大地転踊』!」

 

双也が地面に手をつくと、地面から多数の岩が飛び上がり、衣玖の雷撃を遮った。

その岩が作り出す隙間は、一直線に衣玖の元へ繋がっていた。

 

「まさかっ!」

 

「少し眠っててくれ」

 

双也はその道を瞬歩によって渡り、一瞬で距離を詰めると"意識を遮断する"結界刃を一閃した。

力無く倒れる衣玖を受け止め、地面に下ろす双也。

衣玖を一瞥すると、彼はすぐさま天子の吹き飛んだ林の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっててぇぇ〜…なによアイツ、思ってたより全然強いじゃない…」

 

飛ばされた先で天子は愚痴を言いながら立ち上がった。

言葉とは裏腹に表情は笑っているが。

 

「にしても、随分と物騒な事やってるものね。こんなに血まみれの林は見た事ないわ」

 

彼女が見渡す限りそこは血塗れの惨状だった。

…彼女が落ちたのは、双也が兵を皆殺しにした場所である。

 

「こんな風には死にたくないわねぇ〜…。ま、私が死ぬ事なんて無いけど♪」

 

そう事も無げに言う天子。

一応、彼女が立っているのは死体の池の真ん中である。

その中で、特に気分を悪くした様子も無く、独り言を言う彼女の光景も中々に不気味であった。

 

「まぁ、あんなつまんない生活を続けてるくらいなら死んだほうがマシよね。コイツらもきっと喜んでるわ」

 

 

 

 

 

 

「……今なんて言った?」

 

 

 

 

 

 

独り言を話していた天子にかけられた重く暗い一言。

さすがの天子もビクッと身体を震わせたほどの殺気が向けられていた。

その方を彼女が見ると、酷く冷たい目をした双也が地に降り立つところだった。

彼は再度問う。

 

「今、なんて言ったんだって聞いてんだ」

 

常人ではとても耐えられないような殺気に晒される天子。

それでも彼女は強気に答えた。

 

「ふ、ふん! つまんない生き方をしてたコイツらからすれば、きっと死ねて本望だったでしょうって言ったのよ!

なんか文句----」

 

「仲間じゃないのか?」

 

「………は?」

 

「コイツらは、お前と同族の仲間じゃなかったのか?」

 

双也の視線は先程よりも冷たくなり、明らかに天子を軽蔑していた。

それに気付きながらも、彼女は双也のいう事の意味が分からなかった。

 

「…そうね。確かに同族よ。中には昔遊んだ事のあるヤツもいたし、ちょっとした知り合いも居る。でもそれがなんだっていうのよ」

 

その言葉に、双也は明確な怒りを示した。

 

「それは死ぬ事の意味が分かってないヤツの言葉だ!!」

 

突然怒鳴った双也に少し身体をビクつかせる天子。

それには目もくれず彼は言葉を投げつける。

 

「死ぬってのは酷く悲しい事だ!! それを本当に望むやつなんていない!! 周りの人との関わりや繋がりが切れる事に何も感じないヤツなんているか!!」

 

彼の髪は少しずつ白くなっていく。

これは、命を軽く見ている者に出会うたび彼が散々と説いてきた言葉だ。

双也の頭にいつも刻まれていた記憶と経験である。

人との別れは惜しむもの、死別は悲しむものだと。

彼の頭の中には常にこの言葉があった。

 

……ゆえに、その先の天子の言葉には身を凍らせざるを得なかった。

 

「何を…言ってるの?」

 

双也の言葉に、心底分からないという表情を向ける天子。

そんな彼女に対し、さらなる批判を叩きつけようとした双也だったが、それは天子の言葉によって喉から先には吐き出されなかった。

 

 

 

 

 

 

「そんな価値観を持ってるくせに、なんでこんな平気で人を殺せるの?」

 

 

 

 

 

 

白い輝きが弾け飛んだ。

 

 

 

頭の中では、言葉が反復する。

 

 

 

「人との繋がりが切れるのは辛い…確かにそうかもね。私だって衣玖が死んじゃったら多分悲しむ。でも、それが分かってるのに、なんであなたは他人の繋がりを平気で切ってるのよ」

 

 

 

それを飲み込み、理解し、反発する。

 

 

 

「矛盾してるわ。繋がりが切れるのが辛いって思うのは、実際あなたがそうだからでしょ? なのに、他人に対しては平気でそんな悲しみや辛さを味合わせられる。普通、自分の悲しむ事を他人にはできないでしょ」

 

 

 

紡がれる言葉は、なおも頭の中を駆け巡る。

 

 

 

「私はそもそもこの天界自体嫌いだから他の天人が死んでも何とも思わないけど、あなたは違うでしょ? ここの天人たちには良くも悪くも思ってない。そんな他人を平気で殺せるなんて、およそ人のできる事とは思えないわね」

 

 

 

許容しきれない言葉は悪寒となって、

吐き気となって、

頭痛となって、

そして怒りとなって現れる。

 

 

 

「あなた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人じゃないのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……縛道の六十一『六杖光牢』!!」

 

瞬間、怒りを孕んだ双也の宣言が響いた。

天子は反応できずに縛られる。

 

「特式七十九番『八十一式黒曜縛』!!」

 

天子の周りを、十八個の黒い塊が囲う。

そのそれぞれが中心の黒塊と繋がり、天子を縛った。

 

その拘束の硬さに少し顔をしかめた彼女だが、なおも双也に言葉をかける。

 

「なによ、ムカつくからって私も殺すの? 人じゃないってのは流石ね」

 

「黙れ…」

 

「まぁそうやってせいぜい人を殺してくといいわよ。そのうち誰かが復讐かなんかであなたを殺してくれるかもよ?」

 

「黙れ黙れ黙れェェェエエエッ!!!」

 

フラフラと揺れながら絶叫する双也。

彼の鬼道はその現れのようにより一層拘束の力が強まる。その強さに少し苦しそうにする天子には目もくれず、双也は右手を突き出して詠唱を始めた。

 

 

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて迷うな 我が指を見よ」

 

 

双也の周りに高濃度の霊力が溜まっていき、無数の巨大な矢を作っていく。

 

 

「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 咬咬として消ゆ」

 

 

詠唱を終えると、双也の周りには白く輝く矢が無数に出来、その全てが動けない天子に向いていた。

 

と、その瞬間赤い何かが天子の前に現れた。

 

「お待ちくださいっ!!」

 

天子をかばうように両手を広げて現れたのは、双也の能力を振りほどいて来た衣玖であった。

しかし彼女も息が上がっている。

 

「私たちの負けです!! どうかこの方を殺す事だけはおやめ下さい!!」

 

必死で訴えかける衣玖。

それを聞いた双也は一言だけ答えた。

 

 

 

 

 

 

「ダメだ」

 

 

 

 

 

 

矢の放つ光が強くなる。

それはまるでこの空間を白で塗りつぶすかの様だった。

 

 

 

 

 

 

「破道の九十一『千手咬天汰炮』」

 

 

 

 

 

 

光が、解き放たれた。

 

 

 

 

 




戦闘にシリアス追加! なんかベタな展開ですいません…

ではでは。

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