東方双神録   作:ぎんがぁ!

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少し長引きましたね。

ではどうぞ


第七十話 人として、神として

……なんだよ。

 

 

 

 

 

『なんで平気で人を殺せるの?』

 

 

 

 

 

なんなんだよ…!

 

 

 

 

 

『およそ人の出来る事とは思えないわ』

 

 

 

 

 

なんで分かったような口を利く!

他人の癖に!

 

 

 

ーーそう、他人。アイツは他人。

出会ったばかりの、赤の他人だ。

 

 

 

やらなきゃいけない事なんだよ…

この世界に転生してから、 俺の使命なんだ!

 

 

 

 

 

『あなた…人じゃないのね』

 

 

 

 

 

俺は人だ! 神薙双也だ!

他の誰でもない、俺なんだ!

 

 

 

ーーそう、俺は俺。

人と天罰神の、現人神だ。

 

 

 

とっくの昔に割り切ったことだろ?

なのに…なんでこんなに苦しい……?

 

悪寒がする。

吐き気もする。

頭が割れるようだ。

 

……どうしたら楽になれる…?

 

 

 

ーーそんなの簡単だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せばいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そっか。これがアイツの罪なのか。

 

知らない他人のくせして分かったような口を利く。

 

言葉の応酬で俺を苦しめる。

 

……全部全部…罪なんだ。

 

 

 

 

じゃあ、別にいいよな? 殺しても。

 

 

 

 

 

 

『人間でもあるあなたが人を殺してはいけない!』

 

 

 

 

 

………誰の…言葉だっけ……?

 

懐かしい……そうだ、アイツだ。初めて殺すのを躊躇ったあのときの言葉だ。

 

 

 

ーーでも、俺は天罰神なんだろ?

 

 

 

…そう、俺は天罰神。その現人神。

死んでこの世界に来た、転生者。

 

 

 

ーー……だからなんだよ?

 

 

 

やっぱり俺は、神である前に………一人の人間なんだ!!!

 

 

 

どこか遠くで、舌打ちが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「破道の九十一『千手咬天汰炮』」

 

放たれる無数の矢。

それは縛られている天子と、彼女を庇う衣玖に向けられた鬼道。

高濃度に圧縮された霊力の塊である。

 

咄嗟に目を瞑った二人へ、白く光る矢は滑らかに空を裂いて迫り……………横を通り抜けた。

 

 

ズドドドドドドーー……・・

 

 

ゆっくりと目を開いた二人の後ろは、まるで隕石が直撃した後の様なクレーターが無数にできていた。

爆雲は今も立ち込めている。

 

突然、天子を縛っていた強力な術が一気に解けた。

 

「っ! …ふぅ、危機一髪だったわね」

 

「はい…もうダメかと思いました…しかし…」

 

「ええ、アイツ…」

 

二人が向けた視線の先には、肩で息をし、片手を額に当てて苦しそうにしている双也の姿があった。

彼に向け、天子は挑発的に声をかけた。

 

「随分と苦しそうね!! 今なら私が殺してあげるわよ!!」

 

それを聞き、苦しそうな表情をしながらも彼は答えた。

 

「残念だけど……今、死ぬ訳には…いかないんでな…」

 

そう言って彼が片腕を振るうと、そこに黒い空間が現れた。

彼はフラフラとおぼつかない足取りで入っていき、黒い空間は音も無く閉じた。

 

残されたのはボロボロの天子と衣玖のみ。

 

「あの方…どうしたのでしょうか。始めとは大違いでしたが…」

 

「……ふん。アイツ、ただのバカだったのね」

 

何か知っている風に言葉を残し、歩いていく天子。

彼女を追いかけていく衣玖にはその言葉の意味はわからなかったが、とりあえずは一件落着の喜びに身を浸した。

 

「何はともあれ、食い止められて良かったです」

 

そう微笑む衣玖に少し笑いかけ、天子は独り言ちた。

 

「覆われた雲の中に光…"薄雲"……ね。はてさて、アイツはそこまでたどり着けるのかしら…?」

 

言葉は、天界の青い空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ぅぅ…く……」

 

足が上手く動かない。

視界も定まらないし、頭が痛くて前も見れない。

おまけに強い吐き気、激しい動悸。

なんだか重い病にかかったみたいだ。

 

フラフラの足取りでゆっくり歩いていく。

振動が伝わるたび頭がガンガンと痛み、今にも吐きそうになってくる。

壁伝いに自室へ向かっていると、前から声が聞こえた。

 

「あれ、双也様おかえり………どうしたの!?」

 

誰か駆け寄ってきて肩を貸してくれた。

声からして多分綺城だと思うんだけど……もう気力が……

 

「取り敢えず部屋のベッドいくよ!」

 

「う…おう…そう、してくれ……俺もう…眠い…」

 

そこでぱったりと、意識は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうしたってんだよ?」

 

不意に意識がはっきりしてくる。

ふかふかの何かに寝かされているようで、額のところがとても冷たく心地いい。

頭痛もいくらか引いている。

 

「こんなになるほどの強敵がいたのか?」

 

吐き気はまだ少しあるが、今にもって程ではない。

少しくらいなら歩いても大丈夫だろう。

でもまだもう少し寝ていたい。

身体があまりにだるくて動けない。

 

「う〜ん…外傷は少ないし、おそらく精神的な事だと思うわ」

 

周りが何やら話しているようだ。

あー、今日もコイツら俺の部屋来てたのかな。もしかして全員集まってるのだろうか?

まぁそこら辺は普段から許してることだし、騒がないでいてくれさえすれば問題ない。

もう少し寝るかな……。

 

「す、すいませんっ…私が頼んだばっかりに…双也様に…こ、こんな…」

 

……やっぱり起きよう。

 

「別に、伽耶乃の所為じゃないさ」

 

目だけ開き、視線だけ裁判長達に向けて言うと全員がバッとこっちを向いた。

…正直ちょっとビビった。

 

その裁判長達を押しのけ、後ろの方から伽耶乃が出てきてガバッと頭を下げた。

 

「す、すいませんでした双也様!! 私が…も、もっとしっかりしていれば、双也様が天界に行く事も、無かったのに…! 本当にすみま----」

 

「こら」

 

コテッと軽く頭をチョップする。

伽耶乃は目をパチパチさせていた。

 

「だから、お前の所為じゃないって言ってるだろ。誰が悪いだの言い出したらキリがないし、俺がこうなったのは全面的に俺の所為だ。そもそも戦闘でのダメージはそこまででもなかったしな」

 

「で、でも----」

 

「命令だ。頭をあげろ、伽耶乃」

 

「…はい」

 

すこしだけ納得できていなさそうだったが、伽耶乃はしぶしぶ頭を上げた。

そのまま少しうつむいて、近くにあった椅子にストンと座った。

……今度何かあげるか。元気が出るようなもの。

 

「それにしても、何があったんですか双也様?」

 

一番近くにいた暮弥が問いかけてきた。

何があったって……まぁ……

 

「ちょっと…混乱しちゃってな」

 

「混乱?」

 

そう、俺のあの状態はまさに混乱だった。

俺の思ってた事と、やってる事が噛み合ってないことに初めて気が付いた。

流石に混乱せずにはいられなかったのだ。発狂しなかっただけまだマシである。

なんで今まで気が付かなかったんだろう…?

 

「なぁ、ちょっと聞いていいか?」

 

全員がこちらを見る。

俺は天井を見つめたまま独り言のように呟いた。

 

 

「"俺"って…なんなんだろう…?」

 

 

空気が少しピリッとした。

 

「人としての俺ってなんなんだろう? 逆に、神としての俺って…なんなんだろうな…?」

 

部屋が静まり返ってしまった。

みんな考えてくれているのか、それともボーッとしてるだけなのかも分からない。

ただ、空気は少しばかり張り詰めている気がした。

 

しばらくして、野太い声が部屋に響いた。

 

「う〜む…難しい質問をするなぁ」

 

そう言ったのは厳治だった。

他のみんなも同調するように話し始める。

 

「そうだね…双也様がなんなのか、とか、双也様じゃない俺たちが考えても…」

 

「人として……性格的にはなんの問題もないと思わよ。私的にはね」

 

「神としてか……仕事できるし、戦闘も強いし、神としては十分なんじゃねぇか?」

 

上から順に綺城、魅九、項楽である。

綺城の言うことも最もだと思うが、それでは答えが出せない。

魅九と項楽の意見に対しては…方向性が少しズレていると思う。

 

「やっぱり、尊敬できる上司じゃないですか?」

 

そう言ったのは真琴だ。

んでも、言わせてもらうなら…

 

「それってあなたから見ての双也様像じゃないかしら?」

 

そうそれ、俺も流廻と同意見だ。

真琴の意見では、"俺がどういう存在か"じゃなくて"真琴にとって俺がどんな存在か"になってしまう。

俺の求めている答えとは違う。

 

 

「どちらでも無いんじゃないんですか?」

 

 

ふと、割と小さな声だったが、静まった部屋には十分なくらいの声が響いた。

 

「もしくはどちらでもある…それが双也様なんじゃないですか?」

 

声の主は夜淑だった。

流廻の後ろからヒョコッと顔をのぞかせている。

 

「それ…どういう意味だ?」

 

「だって、人の双也様も天罰神の双也様も、双也様である事には変わりないじゃないですか」

 

「!」

 

その言葉に、全員がピクッと反応した。

確かにそうかもとは俺も思う。

 

「そうだな…。人であろうと神であろうと、俺らが普段から接してるのは双也様に変わりねぇ」

 

「人である事も神である事も、双也様の一部って事だな。特に悩むことなんて無い」

 

みんなはウンウンと頷いていた。

…"悩む事ない"…ね

最後、俺はもう一つ尋ねた。

 

「……自分が抑えられない時(・・・・・・・・・・)って、どうすればいいかな」

 

その問いには流廻が答えてくれた。

 

「自分の抑え方なんて、双也様以外が見つけられる事ではないと思います。私たちがいくら頭を悩ませても、結局は双也様の内側の問題ですから。強いて言うなら…心を強く持つこと、じゃないですか?」

 

「……そう、か……」

 

自分で見つける……か。

時間はかけてもいい、自分で見つけて、自分で処理しないといけないって事か。

 

「ありがとなみんな、答えてくれて」

 

「…結局なんで混乱してたのかわかってませんけどね…」

 

ザッとみんなを見回して言った。

真琴の空気を読まない発言は取り敢えずみんなで無視だ。

 

「じゃあ、双也様も回復したようですし、私たちはもういきますね。お大事に」

 

「「おだいじに〜双也様ぁ〜!」」

 

「安静にしとけよ双也様」

 

「今度なんか持ってきてやるわ、じゃあね」

 

「お大事に、双也様」

 

「では、安静にしてて下さいね」

 

「ちゃんと水分を取っておけ双也殿」

 

「じゃ、双也様。お大事に」

 

九人は一言ずつ残して部屋を出て行った。

最後には伽耶乃が残っていた。

 

「あの、双也様……」

 

「ん?」

 

「す、すみませんでした! お大事になさってください!」

 

ペコッと頭を下げ、伽耶乃は去っていった。

それを見送ると、部屋が妙に静まり返った。

もう一度ベッドに潜り込む。

 

「人の俺と神の俺……一体、いつから……」

 

湧き上がった言い知れない不安が溢れる。

このまま目を瞑ってしまえば溺れてしまいそうなほどだった。

 

今の俺は(・・・・)……人…だよな」

 

この日は、いつまでたっても寝付くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「双也……こうなってしまったのは私の責任…。必ず…救ってやるからの…!」

 

 

 

 

 




……理解できたでしょうか…?

ではでは。
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