東方双神録   作:ぎんがぁ!

73 / 219
長かった…ホントに長かった……

では、地獄の裁判所編最終話…
どうぞっ!!


第七十一話 辿り着いた世界

「準備はいいか?」

 

俺を囲うように並んだ裁判長たちに問いかける。

見回すと、それぞれ頷き返してくれた。

 

「じゃ、頼むな」

 

裁判長達は両手を胸の前で合わせ、全員が呼吸を合わせて霊力を解放し始めた。

 

今俺は裁判所内のある大部屋に裁判長達と共に来ている。

そこはあまり光の通らない部屋で薄暗く、床には巨大な太極紋が描かれている場所だ。

俺はその中心に、裁判長達は等間隔に並んで立っていた。

ここで今から何を始めようかと言うと………所謂"復活の儀式"と言うやつである。

 

そう、この裁判所にきてから約千年経った。

つまり、やっと俺の霊力が完全回復したのだ。

ホント、超長かった。

 

霊力が回復し切ったからといっておいそれと現世に戻れるわけではなく、十人の裁判長による大掛かりな術を受ける必要がある。

その為の部屋がここ、という訳である。

 

裁判長達の霊力はいつの間にかとんでもない大きさになっていた。

 

「みんな…いくよ!」

 

「「「はい(おう)!」」」

 

綺城が掛け声を叫ぶと、全員の霊力が共鳴しているように部屋中に響き始めた。

同時に床の太極紋も光り始める。

 

「「「「輪廻返(りんねがえ)し『流魂顕世対陣回帰(るこんげんせいついじんかいき)(ほう)』!!」」」」

 

全員が両手を床にバンッとつけると、太極紋がの光が一層強くなって部屋に充満。

やがてその光が俺の胸あたりに集まったかと思うと、そこには薄い青色で描かれた小さな太極紋が浮かんでいた。

 

「成功…なのか? 何だこの小さい太極紋?」

 

「それは双也様の霊力を納める器…早い話が身体、です」

 

暮弥が丁寧に俺の疑問を解いてくれた。

一瞬ん?と思ったが、よく考えればここは"あの世"の部類。

肉体が直に存在できるわけがないと言う簡単な話だった。

 

と、言うわけで

 

「お前らともお別れか…」

 

現世に戻る為に彼岸まできた。

裁判長達はみんな少し涙ぐんでいる。

……いい部下を持ったみたいだ。

 

「うぅぅ…双也様ぁぁあ〜…」

 

「そんなに泣くなよ陽依。生き返るんだから祝ってくれよ」

 

「ぐずっ……うん…」

 

いつもは元気いっぱいな陽依は泣きじゃくっていた。

慰めながら、優しく頭を撫でてやった。

なんだかんだいって陽依と夜淑ともよく遊んだなぁそういえば。

 

「双也殿がいなくなると…寂しくなるなぁ…」

 

「厳治、元気でな。あんまり酒飲みすぎるなよ」

 

「分かっとる…」

 

厳治ですら涙を溜めていた事には驚いた。

が、嬉しい事は嬉しい。長生きを願って別れを告げた。

…どうでもいいけど、映姫の時もこんな事を言っていたような…まぁいいか。

 

「双也様よぉ、俺ぁ一回くらい戦ってみたかったぜ…一応、目標にしてたんだぜ…?」

 

「項楽、お前はまだ強くなれるさ。また機会があったら相手してやるよ」

 

「…おう」

 

項楽は手で顔を抑えて答えた。

目標にされてたのは初耳だったが、彼が強くなりたいと思っていたのは知っていた。

…正直に言えば、俺も一度は戦ってみたい。裁判長'sで最も強い奴だからな。

 

「双也様…現世でも…元気でいて下さいね」

 

「ありがとな流廻。なんだかんだ言って一番世話になった。感謝してるよ」

 

「……はい…!」

 

涙を流しながら答える流廻。

映姫が去った後の差し入れとか、休憩中の飲み物とか、結構流廻に頼った部分はたくさんある。

ホントに、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

「そ、双也様…皆さんよりは、短った、ですけど…今まで、ありがとうございました…!」

 

「おう。伽耶乃は出来るヤツなんだから、ドジをふむところだけ気をつけてな」

 

「は、はいっ!」

 

相変わらずの舌ったらずさで言ったのは伽耶乃。

映姫の後任として上司部下の関係になったが、この娘とも短くない付き合いだ。

ドジに巻き込まれた事も多々あったが、楽しい時間だった。

 

「双也様…お別れだね」

 

「ああ、元気でな、綺城」

 

「……うん」

 

綺城とは拳をぶつけ合った。

一番仲が良く、話をした男友達。本当にたくさんの思い出ができた。

そういう意味では綺城にもとても感謝している。

 

最後まで真面目な顔で、それでも涙を流す暮弥。

意外とピュアに別れを惜しんでくれた魅九。

結構な大泣きをしていた真琴。

みんなと別れを告げ、俺は舟に乗った。

みんなは、こちらから見えなくなるまで手を振ってくれていた。

 

これからは、隣にあいつらは居ない。

そう思うと、胸の奥がギュッと苦しくなる感じがする。

やっぱり少し、寂しい。

溢れそうになる涙をグッと堪え、舟に座った。

 

「双也様、普通に現世に戻るんですよね?」

 

俺の乗る舟の船頭をしている死神が聞いてきた。

…勘違いされると困るからちゃんと言っとこう。

 

「いや、幻想郷って世界の裁判所まで行ってくれ」

 

「裁判所? …ああ…」

 

首をかしげ、すぐに何か思い当たった声を上げる死神。

舟はスイスイと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……や…ま! 双也様!」

 

「ん…?」

 

死神が俺を揺らした事で目が覚めた。いつの間にか眠ってたらしい。

まぁ結構時間かかるとは分かってた事だし、別にいいのだが。

死神は俺の顔を覗き込んで言った。

 

「着きましたよ。ここが幻想郷地域の裁判所です」

 

目の前には、前の裁判所に引けを取らない立派な建物が立っていた。

赤や橙、黒を使った中国風の立派な建物。

うむ、見事だ。

 

「お? おおお!? 旦那じゃないか! 久しぶりぃぃ!」

 

彼岸に降り立つと、横の方から聞き覚えのある元気な声が聞こえた。

それにこの呼び方。

 

「久しぶりだな小町! 裁判所の通信以来だな!」

 

「いやぁホント久しぶりだよ! 実際に会ったの何年前だい?」

 

「ん〜…七百年くらいは経ってるな。小町も変わってないようで何よりだよ」

 

「ふふん♪ 旦那もね♪」

 

相変わらずノリが軽い。

それが小町のいいところであり、俺の好きな所なのだが。

 

「? 旦那、その胸のとこの…それなに?」

 

小町は胸のところの太極紋を指差して言った。

そうだ、報告しないとなっ!

 

「小町、俺ついに霊力が回復し切ったんだ。この紋はいわば俺の器」

 

「おお! ついに生き返るんだね! 良かったじゃないか! 映姫様もその心配ばっかりしてたんだよ?」

 

「映姫が?」

 

こりゃ驚いた。前の裁判所を旅立った後は仕事が多く、映姫に俺を心配する余裕なんて無いモノと思っていたが。

まぁ取り敢えず、顔を出しておこうか。

 

「小町、映姫のとこに案内してくれないか?」

 

「ん。じゃあついてきて」

 

送ってきてくれた死神に礼を言い、小町に案内してもらう。

内装は前の裁判所と大きな違いは無かった。

 

「ほら、ここだよ旦那。私は仕事場に戻ってるね〜」

 

「おう」

 

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと捻ってドアを開ける。

覗いた隙間からは机についている映姫が見えたのだが…

 

シュガガガガガガッ

 

もう少し開くと、もはや残像が残るレベルの速さで動いている彼女の手が見えた。

 

「ん? 小町ですか? 覗いてないで用があるなら……」

 

俺の呆れた視線と、映姫の視線が重なった。

 

「…双也…様…?」

 

「お、おう映姫、久しぶり」

 

「双也様ぁぁああ!!!」

 

軽く手を上げて答えると、映姫は走って飛び込んできた。

…あれ? こんな活発だったっけ?

 

「双也様! 七百年ぶりです! 遂に霊力が戻ったんですね!?」

 

「えっ、なんでそれ知ってんの?」

 

突然の事で驚いた俺に、映姫は得意げな表情を向けてきた。

 

「ふふ、何言ってるんですか。霊力が回復するまで裁判所で仕事をする…これを提案したのは私ではないですか。年を指折り数えていたんですよ」

 

「ああ、なるほど…」

 

そう言えばそうだったが。

映姫はやっぱり面倒見がいい。

そうやって話していると、俺の視線は机の上の書類に移っていった。

 

「? あの書類ですか?」

 

「ああ。さっき、随分な速さで書いていたからな。前より早くなってないか?」

 

裁判所に着きたての頃を思い出す。

あの頃は映姫の仕事スピードにひどく驚いた(呆れた)ものだ。

まぁ、今となってはあのスピードを超えた自信はある。あったのだが……さっきの速さを見てその自信は粉微塵に砕けてしまった。常識が全く機能してない。

 

「はい。前よりも速くなっていますよ。今では十五分もあれば全て片付きますね」

 

「いやそれはおかしい。物理法則叩き壊してるから」

 

なんと、俺の四倍の速さだった。

俺は普段一時間で厚さ10cmの書類の束を終わらせているのに……一人で管理してるから自然と速くなったのかな? いやそれにしたって度が過ぎてる。

映姫はきっと天才なんだろう。うんそうなんだよきっと。

 

……うっかり現実逃避しそうになった。

 

 

「それで、これからどうするんですか?」

 

にこやかだが、少し真剣な表情になった映姫。

どうってそりゃ…行くよ、幻想郷に。

 

「幻想郷に入る。ここには顔を出しに来たんだ。せっかく来たのに、映姫の顔を見れないんじゃ勿体無いからな」

 

「ふふ、ありがとうございます。私もまた双也様に会えてよかったですよ」

 

じゃあ、行きましょうか、と映姫は切り出し、何か黒いモノを手に取って部屋を出た。

ついていくと彼岸が見えてきた。

どうやら三途の川を渡るようだ。

 

「お、旦那に…映姫様? なんで??」

 

「小町、私達を向こうまで送ってください。双也様を見送りますよ」

 

「! そういう事なら!」

 

ユラユラと揺れる小舟に乗る。

そういえば、死んでから最初に会ったのが小町だったか…初めは幻聴だと思って、"幻聴ちゃん"とか呼んだな…懐かしい。

そんな事を思ってると、どうやら岸についたらしい。

なんか短かった気もするが…まぁそこは小町の配慮なんだろう。

 

少し岸を歩いて行くと、前を歩いていた映姫と小町が立ち止まった。

 

「双也様、ここに結界が張ってあります。向こうの世界と、この世界を繋ぐ結界が緩んでしまった場所へ繋がっています。この結界を越えれば現世…幻想郷です」

 

「この先は"無縁塚"ってところでね。旦那の好きな桜とか彼岸花がたくさん咲いてるところさ」

 

二人が軽く説明してくれる。

つまり…ここで二人ともお別れって事だ。

 

「うん、ありがと二人とも。ホントに、千年間ありがとう」

 

俺にしては珍しく、ちゃんと頭を下げてのお礼の言葉。

それくらい感謝してるって事だ。

俺の事も、幽々子の事も。

 

「ふふふ、今日くらいは素直に受け取っておきましょうかね、小町」

 

「そうですね。もうお別れですし」

 

普段なら"頭をあげてください!"と言うところだが、今回はしっかり受け止めてくれたようだ。

誠心誠意の感謝の意だ、そういう心遣いはありがたい。

 

「双也様、行く前にコレを」

 

「ん? これは…服か?」

 

頭をあげると、映姫が出がけに手に取った黒いモノを差し出してきた。

広げてみると、それは一着のガウンだった。

 

「私達からの餞別です。双也様はずっとその服を着ているでしょう? もうあちこちボロボロですし、良かったらその服を着てください。私達閻魔の制服と同じ素材で作ってある頑丈な物です」

 

「…分かった。ありがとな」

 

ボロボロのブレザーを脱いで黒いガウンに袖を通す。サイズがぴったりで着心地がいい。

ガウンにはフードが付いており、ボタンはあるものの前が開いていた。

そしてその裾には、白い糸で大きく、一輪の彼岸花が描かれていた。

 

「…いい服だな、コレ」

 

「ありがとうございます」

 

向き直って進み、手を軽く突き出す。

手のひらには確かに結界の感触があった。

 

「じゃあな映姫、小町。またいつか会うまで」

 

そう言って結界の中に身体を進めた。

同時に胸の太極紋が身体の中に入っていき、光に包まれるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い永い旅の果て。

遂に幻想への第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 




やっと…やっと幻想郷入りですねっ!!

まさか七十話も使うと思ってませんでした。この調子で行ったら完結まで百四十とか必要になりそうですw

あ、今回と一緒に、第二回プロフィール公開を載せました。今まで出てきた単語とか技の説明、オリキャラの説明まで加えたので凄い長さになった次第でございますw。見ていってくれると嬉しいです。

あと一つ補足を。
最後辺りの映姫のセリフ「双也様、ここに結界が〜〜」の部分。
"結界が緩んでしまった場所に繋がっている"、というのは、"結界を超えれば転送される"的な意味と捉えてください。
……無理やりですが、そのまま幻想郷に入ると妖怪の山の裏手に出てしまって…話を作るのが…その…アレなんで。

ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。