では新章、始まりです!
第七十二話 "知らない"幻想郷
視界を埋め尽くしていた光が止むと、そこは紫色の桜が咲く静かな場所だった。
「ここが無縁塚か…確かに桜は綺麗だな」
紫色の不思議な桜を見上げながら歩き出すと、なにやら違和感を感じた。
なんだか身体が重くなったような…そんな動き辛さ。
「っ…千年間も魂のままだったからかな…身体を取り戻すと意外に重いな」
慣れって怖い。肉体を持たない魂のままで生活し過ぎて生前の感覚が無くなっている。まぁ、それですらそのうち慣れるよな。準備運動だけしとこう。
「いっちにっ、さーんしっ、ごーろっくしっちはっち…」
グッグッと体を動かして感覚を掴んでいく。
筋肉の伸縮、指の感覚、力の入れ具合、どれも問題はなさそうだ。
「……そっか、やっと生き返ったんだな…長かったけど、楽しかったな…」
身体を取り戻す。その事に千年間費やした。
今思えばとても長い数字だが、それでもあの場所は居心地が良かった。
思い出はきっと忘れないだろう。
「生き返って早々だけど……まずはあそこに行かなきゃな」
生き返った嬉しさはひとまず胸の内にしまい、今するべき事を定めた。
すなわち………
「じゃ、少し飛ばしますか」
俺は瞬歩で無縁塚を飛び出した。
「あ〜…忘れてた…
無縁塚を飛び出し、俺は上空に来た。
因みに霊力で足場を作ってそこに立っている。
飛ぶ練習もしていかないとダメだな。
で、俺は相棒を取りに行く為に
……いや待て、俺には空間同士を繋ぐ技があったじゃんか。
「なら早速……よっ!」
手を振り下ろす事で目の前がバクッと開いた。
簡単そうに聞こえたかもしれないが、これでも結構な霊力を使っている。
それだけ大規模な使用法なのだ。
「問題ないな。じゃあーー」
入ろうとして動きを止める。
開いた黒い空間に違和感を感じたからだ。
なんか……遮ってあるような隔たりが見える。
バチンッ!!
「つっ!! これやっぱり結界か。なんだよ、思ったより全然強力だな。まさか能力でも他世界と繋げないとは……」
その結界に触れると手が弾かれた。
幻想郷を覆っている結界が強力すぎて能力でもこじ開けられないらしい。
いよいよもって異変が起こるのを待つしかなくなったようだ。
「はぁ……生き返ったら最初にやろうと思ってたのに、出鼻をくじかれたか……」
先行きを不安に思うところもあるが、できないものは仕方ない。
俺は内心落ち込みながらも地上に降りる事にした。
「あ、生き返った事紫に報告した方が良いかな…でももう千年も経ってるし、呼んだだけじゃ来るわけないしな…」
まぁ…いつかは会う事もあるだろ。その時に言えば良いや。
グチグチ言われはするだろうけど、怒られたりはしないと思う…多分。
そんな事を考えていると地面が見えてきた。
整備されていないような
「ん〜…ここどの辺りなんだろ…幻想郷の地理は前世でもよく知らなかったしな…」
道は二手だ。
片方は木々の隙間をかろうじて通っている獣道。
もう片方は木々の隙間をかろうじて通っている獣道。
…………うん、どっちに行っても変わんないな。
どっちでも良いならもう神様に任せよう。
俺は近くの小枝を折って道の真ん中にしゃがんだ。
「さあ、俺はどっちに進むべき?」
小枝を立ててやると、ユラユラと揺れてコテッと倒れた。
枝が指した方は木々の隙間(ry。
「よし…コッチだな」
厄介な事になったら今後はもう信じないからな神様。
獣道を一人歩き出す。
日は少しだけ傾いていた。
十分程歩いて行くと、目の前に長い階段が現れた。
そしてそれを見て若干イライラしている俺。
「なんで…なんで俺の出会う階段は長いやつばっかなんだよ…」
白玉楼の階段、創顕の神社への階段、そしてこの目の前の階段。
なんかもう階段が嫌いになりそうだ。
住む家は一階建てのにしよう。
「はぁ……登るか」
仕方ないのでゆっくり登り始めた。
時間潰しには考え事が最適だ。
そうすればいつの間にか登りきってるはず。さて……
(そういえば…今の幻想郷はいつの時代なんだ?)
結界に穴が開いてないから、少なくとも
多分近い時代だとは思うけど…
(…調べる方法なんてあるか?)
最悪能力で原子を繋げていけば、苦労はするが多分なんでも作れる。
人を探して、それを餌に教えてもらえばそれで済むが…その"苦労"が俺にとってはとても苦痛だ。面倒くさすぎる。
他にあるとすれば…
「幻想郷縁起…か」
幻想郷の歴史が書いてあるという書物。
それを見れば時代の事などすぐにわかるのだが、ここにも問題が。
そもそも俺………人里の場所分かんないじゃん。
(溜息しか出ないな、この状況…)
少々幻想郷に関しての知識が少なすぎたようだ。
早めにどうにかしないと後で困るかもしれない。
ひと段落したら何とかしようおぉああ!?
「あ、あっぶねぇ〜…本気でこけるとこだった……」
段差を上がる為に足をあげたら足がどこにもつかず、危うく盛大にこけるところだった。偶にあるよねそういう事。
すごくどうでもいいけど、幻想郷に来ての初びっくりがこんな事ってなんとなく悲しい。
で、前を見てみれば、そこには割と綺麗にされている神社があった。
「あ…ここもしかして博麗神社?」
神様ありがとうございます。これからも信仰させて頂きます。
訪れた場所がいきなり博麗神社とは中々に運が良い。
何もない状態ならばこの神社程頼りになる場所はないだろう。
なんたって幻想郷の管理者に近い立場だからな。何かと助けてくれるはず。
誰も出てきてくれないところは気にしない気にしない。
「えーっと、
何かお賽銭すれば優遇してくれるかも。能力で金を作ろう。
値段は……まぁ、作れるんだから諭吉さんに出張って貰おうか。幻想郷の金が外界と同じなのかは分からないけど。
一万円札を作って、こう言いながら賽銭箱に投げ入れた。
「手札からモンスターカード、フクザワユキチを召喚! フクザワユキチの効果で……」
神社の扉がバタンッと開いた。
「モンスターカード、ハクレイノミコを召喚!!」
「誰がモンスター巫女よ!!」
開いた扉からは、赤と白の巫女装束を着た博麗…………
「て、そんな事よりあなた! 今いくら入れてくれたの!?」
博麗…………どなたですか?
俺の知る博麗の巫女とは違う女性が出てきた。
いや、"原作の絵なんかちょくちょく変わるから容姿固定されてないだろ"とか思うかもしれないけど、明らかに見た目の年が違うし! 俺が知ってるのは
「わぁ!! ホ、ホントに一万円!! ずっと会いたかったわ諭吉ぃ!!」
はてさて、コレは一体どういう事なんだろう?
目の前で大喜びするその女性に聞いてみたかった。
「ていうか、ホントに貧乏なんだな博麗神社…」
終わり方が変ですいません。
さ、遂に幻想入りした訳ですが…どうなるのでしょうね彼?w
あ、一応補足しておきますが、双也は"紙を構成する原子を結合"させて諭吉さんを召喚しています。
っと、2016.1/18日にご指摘戴いたのですが、大正には諭吉さんの一万円札は存在しないそうです。
私の知識不足で申し訳ないのですが、今から直す事もできないので、そういう事を頭の片隅に置いて、これからも双神録を宜しくお願いします。
ではでは。