東方双神録   作:ぎんがぁ!

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ちょっと(作者が)迷走したお話なので違和感があるかもです。

ではどうぞ〜!


第七十六話 仕事も約束の内

目を疑った。

最近の人里では"妖怪にはなるべく関わらない"というのが暗黙の了解となっている。

だからこそ、絡まれている私を見ても通行人達は見て見ぬ振りをしていたのだが………

 

「人間の女一人に妖怪の男が三人……さすがに見過ごせないね」

 

私と妖怪たちの間に割って入ったのは、私よりも若そうな一人の少年だった。

黒っぽい紺色の下履きに、裾を出した白い服、それの首元を緩く締めている赤い紐の様なもの。その上に彼岸花の刺繍が入った黒く長い上着を着ているその少年は、こちらに歩いてきて私に背を向けるように立ち塞がった。

 

「ああん!? なんだお前は!! こっちの問題なんだから口出すなよ!!」

 

「俺ら今さらにイライラしてるから、喧嘩なら手加減出来ないぜ?」

 

「さっさとどっか行け人間。怪我したくなかったらな」

 

少年をジロジロ見ながら気分の悪くなる言葉を投げかける三人。

仮に人間だったならば私が注意…いや、頭突きをかますところなのだが、今回はそうもいかない。

それに、今はこの少年を逃がさなければ!

 

「き、君! 私の事は良いから逃げろ! ただの人間では妖怪に勝ち目はない!」

 

そう叫ぶと、その少年は振り返り、軽く笑いかけてきた。

 

「いやいや、文句言いたかっただけだからさ。さすがに気分悪かったんだよ。さっきの見てるとね」

 

「そんな事言っている場合ではーー」

 

言いかけて、少年の後ろの様子に気が付いた。

妖怪が、無防備にも背中を向けている少年に蹴りを入れる瞬間だったのだ。

 

「っ!」

 

思わず目を瞑る。

吹き飛ばされて、横の店の中に血塗れで倒れている少年の姿を想像して怖くなった。

しかし…

 

(…? 音が…しない?)

 

想像とは違う展開に不思議を覚え、ゆっくり目を開ける。するとそこには…

 

「な、なに…」

 

「ただ、喧嘩売るってんなら買ってやるぞ?」

 

少年が、片手だけで妖怪の蹴りを受け止めていた。

 

妖怪は慌てて足を引っ込め、少し距離を取る。

その表情は驚愕に染まっていた。

 

私も、周りの人達も唖然とするしかなかった。

普通の人間が妖怪の蹴りなど食らえば、ほぼ全員吹き飛ばされて気絶する事請け合いだ。

なのに、普通に見えるこの少年はそれを片手で受け止めた。驚かないわけがない。

 

「コイツ…よく見りゃここじゃ見かけない顔だな…俺らに刃向かったからには、無傷じゃ返せねぇなぁ!!」

 

妖怪はそう叫ぶと、妖力を放出し、手元に一本の槍を作り出した。他の二人も同様に、それぞれ双剣と弓を作り出す。

それを見ていた少年は、表情を変える事なく静かに構えた。

 

「さ、喧嘩だろ? 来いよ」

 

「生意気な人間だなぁ!!」

 

額に青筋を浮かべながら、槍と双剣の妖怪たちが向かってきた。後ろでは弓の妖怪が矢を構えていた。

予想よりも遥かに悪いこの状況、私はとても焦りながら少年に反論した。

 

「何やってるんだ!! 妖怪を焚きつけてどうする!? もうさっきみたいにはいかないんだぞ!?」

 

危機迫るこの状況だ、少年も焦っているかと思いきや…振り返った少年は笑っていた。

 

「大丈夫だって。こんなガキ(・・)に負ける訳ないから」

 

「ガキ?」

 

その言葉を不思議に思った私だが、その思考は目の前の光景によって掻き消された。

 

「オラオラオラァ!!」

 

槍の連撃…突き、薙ぎ払い、柄での殴撃。次々と繰り出される攻撃を、少年はいとも容易く避けているのだ。

 

「隙有りぃ!!」

 

そこに双剣も混じってくる。

少年は槍の相手をしながら双剣も捌き続けていた。

槍による突きを頭をズラして避け、直後に来た双剣の両袈裟斬りを半歩下がって避けると、回転しながら二人を殴打して吹き飛ばした。

 

…あまりに衝撃的な光景に、私は驚くばかりだった。

何者なんだこの少年は?

 

「武器の扱いもまだまだだなぁ。小妖怪ってとこか?」

 

「そこだぁ!!」

 

吹き飛ばした直後、残っていた弓の妖怪が妖力を纏った矢を三発放った。

それらは曲線を描きながら背を向けている少年に迫っていった。

 

「危ないっ!」

 

思わず叫んだ。

少年は完全に背を向けており、矢の方を見ていない。矢が刺さり、血が吹き出す光景を想像した。

が、さっきと同じ様に、現実はことごとく私の想像を壊していった。

 

「うそ…だろ…!?」

 

「バレバレなんだよ。妖力ダダ漏れじゃあな」

 

少年の目の前で、折れた三本の矢が無残に落ちていった。

彼の手には、いつの間に持っていたのか、青白い刀が握られている。

 

…? あの刀を形作っているのは……

 

「これで分かったろ? お前らじゃ俺には勝てない。紫に目ェ付けられる前に早く帰れ」

 

少年の言葉に、三人の妖怪は突然怯えた目をした。

 

「ひっ!? ゆ、紫って…あの紫か!?」

 

「そーだ。悪さしてる上に反対派なんじゃアイツはきっと容赦しない。だから早く帰れ。また何か悪さしたら…今度は本気で潰すぞ」

 

さっきまでヘラヘラしていた少年の声が急に低く、重くなった。

同時に、見ているだけの私ですら、身が凍る程の悪寒が走る殺気を感じた。

 

「ヒ、ヒィィイイ!! 逃げろぉぉおお!!!」

 

殺気を間近で受けた妖怪たちは一目散に逃げていった。

妖怪たちが見えなくなった頃、見て見ぬ振りをしていた通行人達はワッと歓声を上げ、こぞって少年に集まって行った。

 

「いやぁあんたすごいねぇ! 妖怪を圧倒しちまうなんてさ!!」

 

「どこに住んでるんだい? ぜひお近づきになりたいよ!」

 

「お願いします! 弟子にしてください! あなたのように強くなりたいんです!」

 

少年に群がる人々からはこんな声が聞こえた。

私はというと、先ほどの殺気のせいで動けなくなっていた。

はしたなく座り込んでしまっている。

 

「大丈夫? 怪我ないか?」

 

差し出された手の主を見てみると、それは群れた人混みから抜け出てきたらしい少年だった。

さっきの強さなど想像もできない、優しい顔をした少年だった。

 

「あ、ああ、大丈夫…立ち上がれないだけだ。ちょっと手を貸してくれ」

 

「ああ。よっ」

 

少年の手を借り、やっとの事で立ち上がる。

まずはお礼を言わないと。

 

「危ない所を助けてくれてありがとう。私は上白沢慧音(かみしらさわけいね)だ。寺子屋の教師をしている。君は?」

 

「俺は神薙双也。最近ここに来た外来人だ」

 

「…え? 外来人!?」

 

「そうだけど…そんなに驚く事じゃないだろ?」

 

いや、みんな驚くだろう。

私も周りの人たちも、あり得ないものを見たような目をしている。

 

博麗大結界は、忘れ去られた者が超える事の出来る結界だと聞いている。

外の世界にはまだ妖怪はいるだろうし、順って妖怪を倒す事のできる人間も忘れ去られたとは考えにくい。

そもそも、あれだけ強い人間ならば忘れ去られる事など無さそうなものだが…不思議な少年である。

 

……ふむ、いいことを思いついた。

 

「ま、まぁ…取り敢えずお礼がしたい。丁度今日は奮発するつもりだったから、夕飯をご馳走しよう。それでいいか?」

 

「えっ、夕飯貰えんの? そりゃあありがたいな。じゃあ頼むよ慧音さん」

 

「"慧音"で良い。ここらでは先生とよく呼ばれるが、君は私の教え子ではないしな」

 

「…そっか、よろしく慧音」

 

「うむ」

 

こうして、夕飯をご馳走する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

包丁を選んでたら襲われてたので助けた。

そしたら夕飯を貰うことに。

 

…あった事を話すならばこの二言で事足りる。

つまり、俺は昨日に引き続いてまたご飯をもらう事になってしまったわけだ。

妖怪から助けてもらった礼、と言われると断り辛いのだが、俺からすれば小妖怪の相手なんて朝飯前だ。

それくらい簡単な事でご飯をもらうってのは、何だか罪悪感がフツフツと湧き上がっきて変な気分である。

 

余談だが、とっさに投げた数本の包丁はきっちり買い取っておいた。

そりゃ勝手に使っちゃったんだし、買わないと損するのは店の人だし…。

まぁ、原作キャラの慧音と知り合えたから対価としては十分過ぎるか。

 

というわけで、今慧音の家に上がらせて貰って夕飯を戴いている。昨日から上がらせてもらってばかりだな。

まぁ"お礼"って事になってるから悪いことじゃあ無いと思う。

 

「う、美味い…やっぱ一人暮らしなら料理できた方がいいのかな…」

 

「そうだな、一人暮らしなら料理は出来ないとまずいぞ。せめて味噌汁くらいは作れないと」

 

「…頑張るかぁ」

 

慧音の料理は、俺にそう思わせるほどに美味かった。

焼き加減とか、調味料の加え方とか、素人の俺でもわかるくらい。

……キノコとか採取してなんか作ってみようかな…

 

料理を堪能していると、突然慧音は箸を置いて問いかけてきた。

 

「それで…本当に君は何者なんだ?」

 

「ん? だから外来人だってーー」

 

「それだけじゃ無いはずだ。君が最後に使った刀…アレは霊力で作られていただろう? ただの外来人が霊力を扱えるわけが無い」

 

「………………」

 

…あんまり人里で騒がれたく無いんだけどなぁ。

"一億年以上生きてる現人神だ"とか広まったら大騒ぎになるだろうし。

昔から変わらず、俺は面倒くさがり屋なのだ。

 

でも何か言っとかないと引いてくれそうにないしな…

悩んでいると、痺れを切らしたのか慧音が話題を変えてくれた。

 

「ふぅ、答えにくいか。なら別の質問をしよう。

君は"紫"と口にしていたが…あの妖怪の賢者、八雲紫と知り合いなのか?」

 

それが来たか。

紫との関係ねぇ…まぁ、"知り合い"くらいなら面倒ごとにはならない…かな?

 

「ああ、一応な」

 

「やっぱりか…なら、霊力の扱いも八雲紫に習ったのかな?」

 

と、思考している慧音。

本当は逆だよ。俺が扱いを教えた側だよ。

なんて思っていたが、"一応"と言った手前言い出すことは出来ず、結局慧音の中では"紫の弟子"的な立ち位置で完結したらしい。

正したいのに正せない、このむず痒さはどうにかならないだろうか…?

 

「それでだ、本題なのだが…」

 

「うん?」

 

区切りがついたっぽかった為また料理に手を出そうとしたのだが、どうやら本題は別にあるらしい。

あの、料理冷めちゃうから早く食べたいんだけど。

そんな俺の気持ちは意に介さず、慧音は真剣な目付きで話し始めた。

 

「賢者の弟子である双也を見込んで頼む。この人里の守護をお願いできないか?」

 

「守護?」

 

「ああ、さっきの妖怪たちも同様だが、最近の妖怪たちの中に乱暴になった者達がいる。困った事に、そういう妖怪達は人里にも降りてくることがあるんだ。だから、そういうもの達からここを守って欲しい。頼むっ!」

 

慧音は頭を下げて俺に頼んできた。正直に言えば…どっちでもいいかな。

暴れてる妖怪ってのはつまり"隔離に反対の者達"ってことだろ? それならどの道紫との約束の内に入るし、俺がどうにかすることになる。

う〜ん、こういう約束は受けた方が効率がいいよな。

 

「ん〜いいよ。人里は俺が守護しよう」

 

「! ありがとう!!」

 

頭を上げた慧音の表情は物凄い明るかった。

ここに生きる人達を大切に思ってるんだって事がヒシヒシ伝わってくる。

 

「俺を呼ぶ用の何かを作って今度渡すよ」

 

「ああ、分かった」

 

そんな約束をし、冷めてしまった料理を食べ尽くしてお暇させて貰った。

帰りはもう真っ暗になっていたが、香霖堂で俺を呼ぶ用の"鈴"を依頼していった。

少々嫌な顔をされたが、百人の諭吉さんをチラつかせたら快く引き受けてくれた。チョロいな霖之助。

まぁそんなに難しい依頼じゃ無いだろう。

形だけ作ってもらったら能力をを使って工夫していくつもりだ。

 

そうして暗い森の中を一人、トボトボ歩いて家に帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがッ!…もう我慢の限界だぜ!……だがじきに準備ができる…ふふふふふ…これで幻想郷も終わりだなぁ!! ははははは!!!」

 

 

 

 

 




導入ですが、イベントは起こすつもりでいます。

ではでは。

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