東方双神録   作:ぎんがぁ!

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長いです。先日の人物パート並みに。
そしてサブタイトルで分かるようにシリアスメインです。

では長き七十七話……どうぞ


第七十七話 "一人"の重み

「はい、コレが完成品だよ」

 

「おお〜!…見た目は変わらないんだな…」

 

「ま、まぁ…あんまりケバケバしくても君の和式の家には似合わないだろう?」

 

「…それもそうだな」

 

俺の前に置かれている複数の家具。

見た目は普通の物と変わらないが、色々と便利になっているらしい。

これからはこの家具たちが俺の家の中を彩ってくれるわけだ。中々に嬉しい。

 

幻想郷に入ってから約一ヶ月ほど。

改めて解説するほどの変化など無いのだが、まぁ強いて言うなら生活には慣れてきた。

家でゴロゴロしてる時もあれば、人里に呼ばれて妖怪を懲らしめる時もある。実際これで反対派の妖怪を減らせてるのかは分からないが、何もしないよりはマシだと思っているのだ。

 

今日は香霖堂に来ており、完成した家具たちを眺めていた。

台所を見てみると内側に画期的な収納スペースがあったり、箪笥にはスライド式の部分が組み込まれていたり。

たくさんの諭吉さんを生贄にした甲斐があった。霖之助は予想通りの仕事をしてくれたらしい。

 

ガチャッ「こんにちは〜! 霖之助さんいるぅ〜?」

 

「おっと、客が来たみたいだ。ちょっと待っててくれ」

 

「はいよー」

 

家具を見ているとドアが開かれる音がした。

それを聞いて霖之助も店に出て行く。

今更だが、家具が置いてあるのは店の奥だ。とてもじゃないが、店内は狭過ぎて俺の依頼品を置くスペースが無かったのだ。

ちったぁ片付けた方がいいんじゃないの?

 

「おっじゃまするわよー」

 

「ああちょっと! 毎回言ってるじゃないか! 奥は入るなって!」

 

すぐ後ろから先ほどの声と霖之助の慌てた声が聞こえた。

振り向いてみれば、そこには見知った姿の女性が一人。

 

「あ、双也じゃない。久しぶりね」

 

「俺の事覚えててくれたのか、柊華」

 

軽く言い返すと、柊華はニマッと笑った。

やけに厭らしい笑いだな…

 

「そりゃ覚えてるわよ! 私を愛しの諭吉様と結んでくれたキューピッドなんだから♪」

 

「おーい、迷走してるぞお前」

 

誰かーコイツ助けてあげてー。

博麗神社なんか僻地に住んでるもんだから恋人とかに飢えてるようだ。

飢えるどころかもう餓死しちゃって感覚がおかしくなってる節もあるが。

 

「おや、二人とも知り合いかい?」

 

「まぁね、ここに来た時に世話になったんだ」

 

へぇ、と霖之助は納得していた。

 

「それより柊華! 勝手に上がるのは止してくれって前から言ってるだろう!」

 

「良いじゃない、変わりにいつも差し入れ持ってきてあげてるでしょ?」

 

「むぅ…それは確かにそうだが…」

 

まぁ…霖之助が苦労人だって事は分かった。

博麗の巫女相手にご苦労様です。

 

「そういえば柊華はなんでここに?」

 

俺はふと気になったことを彼女に尋ねた。何か買い物かな?

柊華は襟の内側を漁りながら答えた。

 

「ん〜まぁ特に用事は無いわ。ちょっとゆっくりしていこうと思ってね。これを払って」

 

そう言いながら出したのは数枚の御札だった。

それぞれ強い霊力が込められているのが分かる。

なるほど、これを対価に上がらせてもらってるのか。

 

「ここは柊華の休憩所ではないんだが…」

 

……本人は嫌がってるようだけど。

 

「これは霊力を扱えない人間用の護身札よ。妖怪に投げつければ自動で追いかけて炸裂するっていうね」

 

「中々えげつない札だな」

 

「そりゃそうよ。私が普段使ってる札の応用だもの」

 

「マジかい…」

 

事も無げに言う柊華に少し驚いた。

ホーミングする炸裂弾なんて結構難しいと思うんだけどな…。威厳というか、そういう雰囲気全然無いけどやっぱり博麗の巫女なんだな。

 

「さて、じゃあこの家具達貰ってくな。金は前払いしたからいいよな?」

 

「ああ、そのまま持って行ってくれて構わない。でも結構重いよ? 手伝おうか?」

 

「あ〜…表に出すのだけ手伝ってくれ。その後はどうにか出来る」

 

「? そうかい? ならいいんだけど…」

 

霖之助に手伝ってもらって(柊華は中で一服してる)家具を外に出してもらった。ここからは能力で家に送れば完了だ。内装とかは帰ってから考える事にする。

って、よく考えたら出してもらう必要も無かったじゃんか。

……まぁいいか。

 

「よし……よっと!」

 

地面に手をつき、まとまった家具の下に空間を開いた。もちろん俺の家につながっている。

こんな事に大技使うのもなんか馬鹿らしいが、戦闘するには問題無いだろう。相手弱いし。

 

「完了っと…ありがとな霖之助。助かった」

 

「それはいいけど…君本当に外来人かい? 能力持ちだし…」

 

「ま、まぁ色々とあるんだよ、色々と…」

 

「?」

 

霖之助は不思議そうにしているが、俺は気にせず中に戻っていった。もう一つ、出来上がった物があるからだ。

それを持ち、一服している柊華に声をかけた。

 

「なぁ柊華、今から人里に行くけどお前も来るか?」

 

彼女は視線だけこちらに向け、悩むそぶりをした。

 

「人里ねぇ…長らく行ってないし、久しぶりに行ってみましょうかね」

 

「よし決まりだ。すぐに出るから」

 

俺と柊華はいそいそと外に出た。

もちろん霖之助にはお礼を言って。

 

人里への道を歩いていると、柊華は俺が手に持つ袋を見て話しかけてきた。

 

「……ねぇ双也、あなたが手に持ってるのシャンシャン音が鳴ってるけど……鈴なの?」

 

「ん? そう。これは霖之助に作ってもらった鈴だ」

 

袋の中にはたくさんの鈴が入っており、一歩踏み出すたびにシャンシャンと音を出していた。

これは霖之助に頼んでおいた、俺を呼び出す用の鈴だ。

とは言ってもまだ(・・)普通の鈴だ。これから能力を乗せて特殊な鈴にする。

 

「ふっ…」

 

袋を青い光が包み、次第に小さくなっていく。

 

「何をしたの?」

 

「ちょっと細工をね。この鈴持ってくれ」

 

そう言って一つだけ空色の鈴を柊華を渡す。

それを確認し、俺は袋に入っている鈴を一つとって

 

シャンシャンシャン

 

と鳴らした。

一見ただ鳴らしているだけのように見えるが、実は違う。

 

シャララララー…・ン

 

「あ、こっちの鈴も鳴ったわ」

 

「そ。柊華に持ってもらった鈴は、こっちの鈴に反応して音を出す、所謂"共鳴鈴"だ」

 

「へぇぇ…いい音ね」

 

柊華が持っている共鳴鈴は俺が持つ方(・・・・・)

こっちの鈴…"呼び出し(りん)"とでも言おうか、これは人里の人間たちが持つ用だ。

俺が守護者になって一ヶ月は誰かが毎回呼びに来ていたのだが、これからはそういうこともなくなる。

おまけに呼ばれるときは涼やかな鈴の音で耳に優しい。

ようやく完成したということで、今から配るために人里に行くのだ。

 

「ふ〜ん…霖之助さん器用よねぇ…」

 

「それには同感だ」

 

鈴を眺める柊華に同調する。

いやホントに器用だよあの人は。家具やら鈴やら…色んなものを作ってくれる。発明家になってもきっと食っていけるな。

 

「あ、見えてきたわよ。ここも久しぶりねぇ」

 

「………?」

 

柊華は久しぶりで普通の表情をしている。でも、最近よく訪れている俺には何か違和感を感じた。何か…いつもより足りないような…。

 

「あ、慧音だ」

 

「ん? おお双也じゃないか! 今日はどうしたんだ?」

 

違和感の正体を探して見回していると慧音を見つけた。

ふと漏れた言葉も彼女には聞こえていたようで、振り向いてこちらに歩いてきた。

…ふむ、丁度いいし配るの手伝ってもらうか。

 

「呼び出し用の鈴が出来たんだ。限りはあるけど配りたいんだよ。手伝ってくれない?」

 

「そういう事か。なら任せておけ。数は幾つまでだ?」

 

「んー…二百くらいだな」

 

「分かった」

 

快く返事をすると、慧音は周辺の人たちに聞こえるように大きな声をあげた。

 

「みんなー! 守護者様が呼び出し鈴をもってきてくれたぞー! 先着二百個までだから並べー!!」

 

…とまぁどこかの卸売店みたいな声をあげると、それに気付いた人たちがこぞって集まってきた。

 

「守護者様! 私に一つください!」

 

「俺は二つだ!」

 

「子供と俺の分五つくれ!!」

 

「うおっ、ちょ、ま、ちょっと待ってくれよっ!」

 

我先にと俺に向けて手を伸ばしてくる。

もはや掴みかからんという勢いだ。

お前ら慧音が並べって言ったの聞こえなかったのかよ。

 

ほんの少しだけ湧き上がった怒りを抑えながら何とか配り始めると、隣に居た柊華が茶化す様に話しかけてきた。

 

「人気者ねぇ双也♪ 羨ましいわ♪」

 

「そんなこと言うなら配るの手伝ってくれない?」

 

「イヤよ。なんで商売敵の手伝いしなきゃなんないのよ」

 

「は?」

 

商売敵? なに言って…………あ、博麗の巫女は妖怪退治も生業にしてたんだっけ。

柊華にとっては、人々の前で妖怪退治をする事でお賽銭集めでもしたかったのかもしれない。

なるほど、そう考えると確かに俺は"商売敵"だな。

 

「私向こうに行ってるわね〜」

 

「ああ、終わったら呼びに行くよ」

 

「は〜い」

 

気の無い返事をして歩いていく柊華。

その姿は何だか物悲しいような雰囲気を持っていた。

 

「…なぁみんな、俺ばっかり頼ると博麗の巫女が困っちゃうからさ、あっちにも問題解決頼むようにしてくれない?」

 

ほんの軽い気持ちで言ったつもりだった。

妖怪退治が俺ばかりになれば、柊華の、博麗の巫女としての存在意義が危うくなってしまうからと。

 

 

しかし、ここではそんな甘い考えは通らないらしい。

 

 

「え…博麗の巫女に…ですか?」

 

「俺…あの人は怖ぇよ…昔妖怪と戦ってるの見かけた事があるけど、複数体相手に圧倒してたんだ…」

 

「私、"あの人は妖怪よりも妖怪な人間だ"って…お母さんから聞いたことあるよ…守護者様の方がいい…」

 

「………………」

 

言葉を、失った。

本来人を守る側の博麗の巫女に対して、その守られる側の人々は畏怖を抱いていたのだ。

こんな悲しい事…あるのかよ。

 

博麗の巫女の生業が妖怪退治である限り、その者は必然的に妖怪よりも強くなくてはならない。

そしてそれは、人から見れば"異質"そのものであり、その人たちからはその者が人には見えなくなってしまう(・・・・・・・・・・・・・)

……出る杭は打たれるというが、これはあまりにも悲しかった。

 

(柊華があんな雰囲気を持っていたのは、周囲の人達からの畏怖を感じ取っていたからなのか…)

 

 

 

ーー恋人に飢えている。

 

 

 

俺はそう思ったあの時、軽い気持ちで柊華を馬鹿にしていた。でも今は、その事を酷く後悔した。

柊華はきっと、孤独で寂しかったのだ。

自分をもっと見てくれる人を、求めていた。

 

「……………………」

 

しばらく無言で鈴を配り続けていた。

柊華の悲しみの事を、ずっと考えて。

 

「そ……、双也!」

 

「! …なんだよ慧音」

 

「なんだよではない。ボーッとしてどうした? 鈴はもう無くなったぞ?」

 

「ん? あホントだ」

 

いつの間にか鈴も配り終わっていた。

慧音が呼んでくれなかったらずっとボーッとしてたかも知れない。

 

「何か考え事か?」

 

「ん〜…うん」

 

なんだか柊華がいたたまれなく感じるようになった。

孤独の辛さ、俺ならよく分かる。

だからどうにかしてあげたかった。

 

「……………よし、そうするか」

 

「?」

 

「ありがとな慧音。また今度ー!」

 

「え!? あ、またなー!」

 

いい解決策なのかは分からないが、思いついた。

慧音に別れを告げて、柊華を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜柊華side〜

 

もうすぐ夕暮れ。

人里の子達が遊んでいたこの広場にも影が伸びて、子供達の親が自分の子を連れて帰っていく。

居合わせた親達もお互い挨拶し、他愛の無い会話をして去っていく。

 

…………その視線が、私にも向いているような気がしてならなかった。

 

 

ツゥゥー……

 

「! ……やだなぁ、私……」

 

無意識に流れた涙を拭う。

でもまたすぐに滲んできてしまう。

 

「…人里なんか、来るんじゃなかったかな…」

 

人里の人間たちが私を怖がっているのは知っている。

博麗の巫女としての仕事に慣れてきた頃、その恐怖に満ちた視線に気が付いた。

 

双也が鈴を配っている中、手伝わなかったのは別に商売敵と思っているからじゃない。

………周りの人の視線に耐えられなかったから。

 

「っ…うぅ……」

 

拭っても拭っても涙が止まらない。

一度思い出すと、連鎖的に昔の事も思い出して悲しくなってしまう。

 

 

 

ここで一人になると、やっぱりダメだ。

 

 

 

「柊華〜!」

 

「!」

 

広場の向かい側に双也が見えた。その途端、溢れてきた涙もピタッと止まった。

ああ、やっぱり、今まで通りで頑張れって事なのかな。

目尻に残っていた涙も拭い、歩いてきた双也に向き直る。

 

「終わったようね鈴配り。じゃ帰りましょうか」

 

パンパンと袴の埃を払って立ち上がった。

私としてはあまり居たくない場所なのでさっさと歩き出した。が、

 

「ちょっと待ってくれ」

 

双也に呼び止められた。

 

「…なによ?」

 

「柊華、お願いがある」

 

双也が私にお願い? それなら神社にでも香霖堂にでも帰ってからにしてほしいんだけど…。

 

「不思議なこともあるものね。里の守護者様が私にお願いなんて」

 

普段通りの茶化したような口調。

もう随分と慣れてしまった、空元気だ。

 

でも、そんないつもの私(・・・・・)ですら、次の言葉には息を呑むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と、友達になってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………え?」

 

トモダチ……ともだち……友だち……友達!?

頭の中で、言葉が反復した。

それがだんだん形になって、やっと理解出来た。

でも…友達って…!?

 

「え、えと…なんで私と…? 双也なら、里の人達とでも友達になれるでしょ? ほ、ほら、みんな双也のこと気に入ってたし…」

 

真っ白になった頭の中でどうにか言葉を紡ぐ。

湧き出したたくさんの疑問を少しずつ。

ああ、私変なこと言ってないかな…

 

「里の人たちは守る対象ってだけだ。友達になったら優先順位が出来てしまう。それじゃダメだろ?」

 

 

「で、でも、私と友達になっても面白くないわよ? 私は人をからかって、ばっかりだから…」

 

 

「それが柊華の面白いところだろ? 少なくとも、俺は柊華と話してて面白かったけどな」

 

 

「で、でも、いつかは嫌になるかも…人は急には変われないって言うし、私も人間だし…」

 

 

「変わる必要なんてないだろ。面白いところをわざわざ変えたって何にも良いこと無いし」

 

 

「そ、そうしたら私には何にも残らないわよ? それこそ、友達になっても、つまんなくなって…」

 

ああ、だんだん何を言ってるのか分からなくなってきた。

それに双也の言い分にも取り付く島がない。

…少し涙が出てきた。

 

「そ、それにーー」

 

「はぁ…」

 

私の中身のない空っぽな言葉は、双也の溜め息で途切れてしまった。

 

そして次の双也の言葉で、グジグジと考えていた事が、パンッと軽く音を立てて吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、柊華と友達になりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が、心の中で反響した。

 

 

 

「……っ…う……うぅ…ぐす……」

 

せき止められていた涙が一気に溢れ出してきた。

拭い切る事なんて絶対できないだろうって程に、大粒で、酸っぱくて、たくさんの、嬉しさが溢れてきた。

 

「お前の悲しみ、分かるよ。今までよく頑張ったな」

 

そう言いながら、双也は私を抱き締めて頭を撫でてくれた。

…すごく、心が安らかになる。

 

「無理なんてするな。心まで強くなる必要なんて無いんだよ。…一人は…寂しいんだから」

 

「うっ…うぁあ…ひっく…うああぁあぁあぁぁあ!!」

 

 

 

時間も、慎みも、自分の事さえ忘れて、ただひたすらに"友達"の胸で、泣き続けた。

 

 

 

 




………………。

割と女の子を泣かせやすい双也くん。依姫に続いて二人目ですね。

ではでは。

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