ではどうぞー!
"出会い"というのは、いつも突然である。
生きる事には、常に"出会い"と"別れ"がつきまとう。
生きている限りどんな存在も否応なく、誰かとの出会いは訪れるのだ。
生まれて親と出会い、
育って友と出会い、
街を歩けば、道行く人々とも無意識に顔をあわせる。
そして年老い、長い時間をかけて出会った家族と別れる。
それらはいつも突然であり、しかし必然でもある。
全ての出会いも別れも、世界の何処かで複雑に絡み合った運命なのだ。
今思い出せば、アイツとの出会いも突然であった。
あの日、妖怪である私は食料を探して彷徨っていた。
生まれて間もない小さな妖怪ではあったが、"空間を開く"能力のおかげで、強い妖怪からはうまく逃げることが出来ていたし、空間に人間を落とせば誰にも邪魔をされずに食べることもできる。
極端な話、空間を上手く使えば妖怪として生きながらえることは容易だった。
だが、獲物を探し、食し、また探しの生活をしていては、知能の低い本当の小妖怪と同じである。
せっかく考えることのできる頭を持っているのだから、今よりも少しだけ、ほんの少しだけ強くなりたいと思った。
だからあの時、私は最初に声をかけた。
『あらあら、こんなところに一人でいるなんて、無用心極まりないわね』
森の中、一人石に座って焼き魚を食べる少年。
声をかけても無言を貫く彼であったが、"最初はこんなものなのだろう"と私も割り切っていた。
『早速…いただきまーー』
『うっさい! 俺疲れてんの! 魚食ってんだから静かにしてろ! Are you OK!?』
『ッ!?』
今まさに襲いかかろうとした妖怪の私に、ただの人間が怒鳴り散らしてくるなど誰が思うだろう。
弱い妖怪であった私でも人間には恐れられていたのだから、とてもとても驚いたのを覚えている。
『なら、こっちよ!』
『だから、動くなって言ってるだろ?』
突きつけられた蒼く美しい刃。
冷や汗を垂らしながら、あの時の私は"ああここまでか…"と、少しでも強くなりたいなんて考えた事を後悔し、命を諦めていた。
それはそうだろう、力の弱い妖怪が、浅はかにも自分よりも強い者に襲いかかり、そして見事に追い詰められていたのだから。
首元で止めてもらえた事ですら普通はあり得ない、奇跡に等しい事だったのだ。
普通なら、すでに首は落とされている。
でも、アイツはそうはしなかった。
『魚、食べるか?』
差し出してきた焼き魚。
自分を襲った相手に対する態度ではないという事くらい、生まれたばかりの私でもよく分かっていた。
ましてや私の立つ場所はソイツの間合い。殺そうと思えばいつでも殺せる範囲だ。
差し出された焼き魚は、警戒しながら受け取った。
相手に警戒心を与えないように振る舞い、普段よりもずっと警戒して話をしていた。
が、それがバカバカしくなるほどに他愛もない話だったのは鮮明に覚えている。
その上、アイツはこう言い放ったのだ。
『紫、お前もっと強くなった方がいいぞ』
襲いかかった私に、得体の知れない私に、そして何より妖怪である私に、アイツは平気な顔で言い放ったのだ。
能力の正体、力の扱い、戦闘戦術まで、アイツは私に強くなる為の沢山の事を教えてくれた。
そしてそれに報いるために、私は確かに強くなった。
"スキマ"からいつも見守ってて、大体は側にいて、いつしかアイツに頼るようになって。
"彼なら助けてくれる"と思って一緒に来た友人の屋敷で
アイツは突然、死んでしまった。
『必ず、また帰って…来るから…絶対に、壊れたりしないで…くれよ…?』
『双也ぁ!! イヤよ! 一人にしないで!!』
"壊れるな"。
彼が最後に言った言葉。
友人を二人、こんな突然で悲惨に失った私は、この言葉を聞いていなければ、心から抉り取られた穴を埋めようと暴走し、遂にはきっと心を壊して狂っていただろう。
…後を追って、自害していた可能性すら十分にある。
それからずっと、片時も忘れず、帰ってくると約束した友達を待ち続けた。
何年も何年も、雨が降る時には泣いたりもして
ずっとずっと、千年間。
そしてある日、巫女に連れて行かれた森の奥。
二度目の"出会い"もまた、突然であった。
〜柊華side〜
「けほっ、けほっ、こほっ…ったく、何なのよ一体…」
身を包んでいた結界を解き、周りを見渡す。
辺りは砂煙に覆われていて、地面は家の残骸で覆われている。
ガラガラガラ「いってぇぇ〜…」
「!」
瓦礫の中から聞こえた声は双也の物だった。
砂煙で見えないが、立ち上がる様子がシルエットになって見えている。
その反対側にも、もう一つ佇んでいるシルエットがあった。
煙が晴れたその場所に立っていたのは、ボーッとして目の焦点がまるで合っていない紫だった。
「…紫?」
不思議に思い駆け寄ろうとする。
しかしそれは、双也が話し始めた事で止められてしまった。
「テメェ…ホントいい加減にしろよコラァ!!」
「!?」
突然指を差して怒鳴り上げた双也に、私は心底ビクッとした。
だってそりゃ、普段あんなに優しい彼が突然怒鳴り散らすなんて…驚かないわけがない。
「なんで再会の挨拶がこんなに苛烈なんだよ!! 意図を察してなかったら普通に吹き飛んでるトコだぞ!!」
「…………………」
「毎回毎回、出会ってからいつもそうだ!! 現れる時はいつも突然、時にはちょっかいも込み! 突然スキマに落とされたこともあったなぁ!!」
「…………………」
「今までなんやかんやで許してきたけど今回だけはそうもいかねぇ!! 俺が次の日寝過ごすまで能力使って作り上げた一軒家をお前…早速瓦礫の山にしてくれやがってコノヤロー!! 何? 喧嘩売ってんの? 俺に喧嘩吹っかけてんの? 上等だよ買ってやる、ボコボコにしてやらぁ!!」
「…………………」
最後の無言は、私である。
驚きで声がこれっぽっちも出なかったのだ。
矢継ぎ早に文句をまくしたてる双也など、今まででは想像すら出来なかったのだから仕方ない。
おかげで頭の回転も遅くなった気がする。
「大体お前ーー」
「本当に……」
「…?」
「本当に……双也…なのね…?」
「…!?」
驚いた。 彼の言葉を遮った紫を見てみれば、彼女の目は大粒の涙を溜め、ふるふると震えながら涙を零していたのだから。
普段あんなに飄々として胡散臭い雰囲気を醸す彼女が、今は見る影もなかったのだ。
「……ああ本物だ。久しぶりだな紫」
「〜〜っ! 双也ぁぁあ!!!」
彼がそれを認めると、突然紫は双也の胸に飛び込んだ。
ゴスッとか、ゴハァ!とか悲痛な音が聞こえてきた。お気の毒に。
「そうやっ! そうや! そうやぁぁああ!!」
「…ふぅ、ごめんな紫。ただいま」
「うぁあぁああぁ〜……」
何度も彼の名を叫びながら泣きじゃくる紫。
そして彼女の頭をぽんぽん撫でながら何故か謝り、なぜか帰宅したらしい双也。
………よく分からない。恐らくこの状況についていけてないのは私だけだ。
なぜ紫が攻撃したのか分からないし、なぜ双也が怒鳴り散らしたのか分からないし、"泣きじゃくる紫を慰める双也"という状況もわからない。
…取り敢えず
「あの〜二人とも? 私に説明してくれない…?」
除け者にはされたくないなぁ…。
「えぇ!!? 双也が紫の言ってたお師匠様!?」
「そうよ。まさかもう幻想郷に来ていたなんてね…」
「悪かったって。そのうち会うだろって思ってたんだよ」
「面倒くさかっただけでしょう?」
「ほ〜う? 言うようになったな紫…」
「あなたが帰ってくるまでにね」
…今日はなんだか驚く事が多すぎる。
まさか双也が紫の大好きなお師匠様だったなんて…。
どうりで強い訳である。挑まなくて良かったと心の底から思った。
「っていうか、なんで唐突に攻撃なんかしてきたんだよ。危うく吹っ飛ぶところだったじゃんか」
過ちを起こさなかった事に内心安堵していると、双也がとても不機嫌そうな声で紫に尋ねた。
当の紫も済まなそうな表情で答えるかと思いきや……実に飄々とした声音で言うのだった。
「前々から、戻ってきたら勝手に消えた罰として少し痛い目に合わせてやろうと思ってたのよ。どう? 少しは痛かった?」
「…理不尽だろそれは…」
「それに」
紫はそこで言葉を区切ると、扇子を開いて口元を覆った。
目線も少しだけ逸れている。
「……私の攻撃が防がれれば、本物だって確証が持てるじゃない…」
少し小さめになったその言葉も、私達には良く聞こえていた。
扇子で隠したのは、恐らく恥ずかしかったからだろう。隠し事や企み事、そして表情を悟られたくない時など、紫はこうして扇子で口元を隠す。
それはもう紫の癖といって過言ではない。
気付いているかは知らないが。
紫の慣れない様子に、少しばかり会話が白けてしまった。
この微妙な空気を変えるべく、私は双也に話題を振った。
「で、でさ双也、あなたは一度死んだんでしょ? どうやって蘇ったのよ?」
そう、ずっと気になっていた根本的な疑問はこれである。
死んだ者が蘇ることはないというのは至極普通のことである。というより、普通あってはならない。
自分の大親友が蘇生に成功したゾンビとあっては気になるのも仕方ないだろう。
…ゾンビは言い過ぎた。
「えっとだな…死んだ後裁判所に行って…それで実は俺がそこの閻魔たちの上司だったって判明して…生き返らせてもらった」
「酷くアバウトなのね双也…」
「そうとしか言えないからな」
「じゃあ、その黒い上着もそこでもらったってことね?」
彼岸花の刺繍が入った黒い上着。
紫は双也が身に纏うその服に目をつけ、裾を持ってじろじろと見始めた。
「……ふむ、私が双也の侵入に気がつかなかったのはこの服が原因みたいね」
「は?」
「この服、霊力的な観点から見てとっても頑丈に出来ているわ。それこそ、私と柊華が本気で攻撃してやっと破れるってくらいにね。おそらく、この上着のせいであなた自身の霊力が遮断されて、私の感知に引っかからなかったんだと思うわ」
「へぇ〜。全然気がつかなかったな。頑丈に出来ているとは聞いたけどそこまでなのか」
私も裾を持ってじっくり見てみた。
…確かに、かなり無理しないと破れないくらい強力だった。
死者の世界も伊達ではないらしい。
その状態でしばらく見ていると、双也が思い出したような声を上げた。
「あそうだ紫。アレを取りに行きたいんだけどさ、冥界まで送ってくれないか?」
「ああ〜ゴメンなさい双也。そうしたいのは山々なんだけど、今少し忙しくてね。送るのは良いんだけど迎えに行くのがかなり遅くなってしまいそうなのよ。だからゴメンなさい…」
「そっか…じゃあ仕方ないか…」
"アレ"と言うのが何かは分からないが、どうやらとても大切なモノらしい。
双也は珍しくガッカリした雰囲気だった。
それにしても冥界ね…私は行ったことないわね。
大結界を超えればどうにかなるとは紫から聞いたことがある。なんでも桜がとても綺麗な場所だとか…。
一度花見に行ってみたいモノだ。死ぬ必要が無いなら。
う、ウチの神社の庭にある桜並木も素晴らしいんだけどねっ! もちろん!
「はぁ、じゃあこれからどうしましょうか。双也と私は遊ぼうって思ってたんだけど…紫はどうするの?」
紫は少しキョトンとしたが、すぐに表情を戻して
「じゃあ私はーー」
「待て紫」
「? なによ…!?」
言葉を遮った双也の表情は……暗い笑みに染まっていた。
「俺の家……直せよ?」
「……………はい」
結局、紫はしぶしぶ元どおりにしていったとさ。
そういえばもう八十話ですね。一体どこまで続くのやら…w
ではでは。