東方双神録   作:ぎんがぁ!

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今回は短いです。

ではどうぞー


第八十一話 博麗の後継者

「………………」

 

「はい双也、お茶」

 

目の前にお茶が置かれた。いつもと変わらない上質な香りが立ちのぼってくる。

 

「は〜、美味しいわねぇ…」

 

「………………そうだな」

 

いつものように対面に座り、いつもと変わらない仕草、感想でお茶をすする柊華。博麗神社はいつもと変わらずのんびりしている。

 

………唯一つ…一つだけ変わったことがあるが。

 

「? どうしたのよ双也、黙り込んじゃって。私どこか変?」

 

「いや変っていうか…」

 

「なら早く飲みなさいよ。冷めちゃうわよ?」

 

「お、おう…」

 

思わず返事が片言になってしまった。今日ここに来てからずーっと気になっているある事の所為で頭に余裕がないのだ。

勧められたのにも関わらずお茶を手をつけず、ずっと柊華の方を凝視していたからか彼女は少し不機嫌そうな表情を向けてきた。

 

「さっきから何よもう。そんなに見たって私は何も変わってないわよ?」

 

「いやだったらその背中のモノ(・・・・・)の事説明してくれよっ!」

 

凝視していた対象…柊華の背中で眠る赤ちゃん(・・・・・・・・・・・・)を指差して言った。

 

「背中のって…見ての通り赤ちゃんよ?」

 

「それぐらいわかるっつーの! お前いつの間に男作ったんだよっ。毎日会ってる俺が気付かないなんてさぁ!」

 

「恋人なんて居るわけないでしょ。何言ってんのよ」

 

「お前こそ何言ってんだ。子供がいるってことは夜中布団の中で組んず解れつまぐわった証拠だろうが」

 

「な!? ななな何よそれっ!! そんなのしたこと無いわよ!! っていうかセクハラ!!」

 

…あれ? こういう反応って男に耐性がない証拠じゃなかったっけ? マジで違うの?

 

「え? ホントに違うの?」

 

「そうよっ! 大体私まだしょーー」

 

と言いかけて顔がリンゴ並みに真っ赤になった柊華。

ここは茶化す頃合いと見た。

 

「ふっ、墓穴掘ったな柊華。綺麗なカミングアウトだったぞ」

 

「〜〜〜ッ!! あーもうっ!!」

 

「うわっ、札飛ばしてくるなよっ!」

 

「うるさいこのバカ人神!!!」

 

「うおわ!?」

 

茶化したら頭からボフッと何かが吹き出し、次の瞬間には大量の札が目の前を舞っていた。一瞬柊華が鬼に見えたのは気のせいではあるまい。取り敢えず、これからは不用意に柊華を怒らせない事にしよう。

 

落ち着いたら、柊華はちゃんと説明してくれた。

 

「んだよ捨て子かよ」

 

「そーよ! 勝手に思い込んで全く…」

 

説明によると、背負っている赤ちゃんは捨て子で、通りかかった柊華が引き取って養子にしたらしい。恥ずかしながら早とちりしていたようだ。

 

「っていうか、存外図太い赤ちゃんだよなぁ。あんだけ暴れても起きないとは…」

 

「まーそうねぇ。私が見込んだだけあってタフみたいね」

 

「赤ちゃんをどうやって見込むんだよ…」

 

見込みってのはその人の動きを見てから言う事のはずだ。ウネウネとしか動かない赤ん坊をどうやって見込むというのか。

独り言のつもりでつぶやいた事だが、意外にも柊華はサラッと答えを口に出した。

 

「"勘"よ。私の能力、"勘を的中させる程度の能力"によるね」

 

「ほーう。勘を的中させるねぇ……」

 

………………え?

 

「いや、ちょっと待ってくれよ柊華」

 

「なによ」

 

か、勘を的中させる? なんだその能力反則だろ!!

勘なんてモノ的中させまくったらやりたい放題じゃねぇか!!

項楽とか流廻とか結構反則級の能力は見てきたけど流石にレベルが違う!

 

「お、お前…ホントに人間?」

 

「失礼ね、れっきとした人間よ! それにあなたに言われたくないわ」

 

思わず人間である事を疑いたくなった。

だってそうだろう? 人間にも能力持ちは偶に生まれるが、ここまで強い者は中々いない。流石は博麗の巫女、と言うところだろうか。

 

「まぁいいや…で見込んだって事は…後継ぎにするつもりって事だな?」

 

そうやや真剣な視線を送ると、なぜか当の本人はキョトンとしていた。どうした。

 

「えっ? あ、あー後継ぎ。はいはい後継ぎね。分かったわ理解した」

 

「いや忘れてたよな今! コラ目を逸らすなっ!」

 

なんでこいつはこんな大事な事を忘れているのか。博麗の巫女にとって後継ぎ問題はかなり重要なモノだろうに。やっぱり柊華は天然なところがあるようだ。それが大惨事に繋がらない事を願っておく。

 

彼女は目を逸らしたまま、頬を人差し指で掻きながら言った。

 

「やーだってさ、養子とはいえ私の子供なのよ? そりゃあ、博麗の巫女なんていう危険な仕事には…巻き込みたくないじゃない」

 

恥ずかしそうにしながらも、赤ちゃんを抱いて愛おしそうに見つめる柊華。その様相はすでに一人の母親のようだった。

 

「まぁ、今までたくさんの妖怪を屠ってきた私が言う事じゃないかもだけど」

 

そう言いながら、柊華は自嘲気味に笑みを浮かべた。

考えてみれば当たり前の事だった。親は普通子を危険に晒すのを嫌がる。理由はどうあれ子を守りたがるモノだ。

さっきのは訂正しよう。"母親のようだった"じゃなくて、柊華はもう"母親"だ。

 

「はぁ…まぁ俺が決めなきゃいけない事じゃないし、そこは柊華が自分で決めるのが一番良いな。その子を十九代目にするか、どうか」

 

最終的にはそうなる気がしないでもないけど。

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

柊華は柔らかい笑みを向けながら赤ちゃんの頭を撫でた。

するとモゾモゾと動き出し、ついには起きてしまった。

ってかカワイイなこの子…。

 

「あうー?」

 

「あら〜起きちゃいまちたか〜♪ よ〜しよ〜し♪」

 

なんだかルンルンした声音で赤ちゃんをあやす柊華。赤ちゃんはまた眠そうな顔をし始めていた。

そういえばこの子なんて名なんだ?

 

「柊華、その子の名前は?」

 

「ん? この子の名は霊那(れいな)よ。博麗霊那(はくれいれいな)。良い名でしょう?」

 

「お、おう、そうだな。良い名だ」

 

あれ…十九代目があの子じゃないのか…まあ百年あったら二代くらい変わってもおかしくはない。気長に待つとしよう。百年くらい、俺が今まで過ごしてきた時間に比べれば一瞬だ。

 

(今日も平和だなぁ。平和過ぎて平和ボケしてるみたいだ)

 

柊華と、彼女に揺られる霊那を眺めながら、そんな事を思う博麗神社の一時だった。

 

 

 

 

 




こっちにも書く事が……。

ではでは。

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