東方双神録   作:ぎんがぁ!

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戦争だ戦争だぁ!!

……はい嘘ですゴメンなさい…。

ではどうぞぉ!!


第八十二話 その名、妖乱異変

双也が幻想郷に入り、しばらく経ったある日の夜。

彼は自宅の居間にて本を読んでいた。

 

「う〜ん…この本、俺より前の世代が読むヤツだなぁ」

 

香霖堂より買ってきたこの本。

彼は夜、こうして良く本を読んでいる。

しかし忘れてはならないのは、この幻想郷に流れ着く物は全て忘れ去られた物である、という事。

故に彼が買ってきた本、強いては今まで買ってきた本もほぼ全て、彼の好みに合うモノではなかったのだ。

それでもそれを読み続ける理由は一つ。

 

………暇だからである。

 

(最近は妖怪達の騒動もないし、鈴作ったの無駄になっちゃったかな…)

 

そう、先日彼が人里を訪れた時に気が付いた"妖怪たちの消失"はまだ続いているのだ。

その所為で彼の守護者としての仕事が回ってくる事はなく、柊華の居ない夜の時間帯はとても暇なのであった。

 

「まぁ平和なのはいい事だよなぁ」

 

そう独りごちながら寝る支度をする双也。

ちょうど上着を脱ぎ、着替えようとした瞬間

 

シャララララー…・ン

 

「……フラグ回収完了…ってか?」

 

腰に付いていた共鳴鈴が涼やかな音を奏でた。

言わずもがな、人里の救援要請である。

双也は脱ぎかけていた上着を着直し、人里に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっははははっ!! 食っちまうぞオラァ!」

 

「きゃぁぁああ!! 助けてっ! 誰かぁ!!」

 

人里のある一角。

そこには数人の妖怪と一人の女性がいた。

無論、この女性はたった今襲われた所である。

 

「ひゃああっ! 死ねぇえ!!」

 

「ッ!!!」

 

妖怪が鋭い爪をした手を振り上げる。

それを見た女性は、目をつむって縮こまり、襲ってくるであろう激痛に備えた。が、

 

 

痛みは結局、襲っては来なかった。

 

 

「っ! くぅ…」

 

「こんな夜中に暴れるとか、世間の事も考えろよ。俺も眠いし」

 

振り下ろされた爪は、間一髪で滑り込んだ双也によって受け止められていたからだ。

妖怪はすぐに双也から距離を取り、冷や汗を垂らしながらも余裕そうに言った。

 

「へっ、お早い登場だなぁ守護者様よぉ…」

 

「こういう時の為に、鈴を持たせてるんだからな」

 

チリンと、彼の腰で音を鳴らして存在を主張する鈴。

その音でそれを把握した妖怪は、不敵に笑いながら双也に言った。

 

「はははは! まぁ、駆けつけてもお前が俺より弱かったら意味ねぇけどなぁ!」

 

挑発的な妖怪の物言い。

それが分かっていた双也ではあったが、このまま話しても埒はあかないだろうと予測した彼は、あえてその挑発に乗る事にした

 

 

「はっ、こんな低レベルの妖怪が巣食う場所で負ける事なんて万に一つもないな。例えお前たち全員がかかってきても、な」

 

 

…否、利用して向こうを煽る事にしたのだ。

 

戦いに於いて、挑発に乗るか否かは勝敗を分ける事が多い。

感情的になれば攻撃が短略化、もしくは直線的になり、隙も多くなる。

双也の経験上、小妖怪などはこの手使えば簡単に制圧出来る。今回もその手を使った。だが、

 

「へぇ? 言うねぇ人間風情がよぉ…」

 

妖怪達は、その手には乗らなかった。

いや、正確には先頭の妖怪が、他の妖怪たちを制して止めていた。

 

挑発になど乗る事はなく、いつでも冷静に事を考え、行動する。これは知能の高い妖怪、つまり

 

 

"大妖怪"によく見られる行動だった。

 

 

(ふ〜ん…あの冷静さ、どうやら思ったよりも大物らしいな)

 

小妖怪と高を括っていた彼ではあったが、それを見て警戒を強めた。

それを確認したのか、妖怪たちも各々武器を作り出し、妖力を解放し始めた。

しかし、不思議に思う事も一つ。

 

(大妖怪のはずだけど…妖力が小さい…?)

 

大妖怪というのは、総じて妖力が凄まじく高い。

小妖怪から言わせれば"化け物"レベルである。

しかし、双也の前で不敵に笑う妖怪からは、精々中妖怪程度の力しか感じなかったのだ。

その事に不審を抱きながらも、戦闘を予想した彼は後ろで縮こまっている女性に声をかけた。

 

「…早く逃げてくれ」

 

「し、しかし守護者様ーー」

 

「早く! 向こうも待ってはくれない!」

 

バッと女性は妖怪達の方を見ると、恐怖に染まった表情で一目散に逃げていった。

これで残るは双也と、数人の妖怪達である。

 

ジリジリと睨み合い、静寂の中にザリッと音がした。

先に動いたのは、双也である。

 

「先手必勝!」

 

一瞬で間合いを詰め、袈裟斬り。

流石に軽く避けられ、妖怪たちの剣による反撃が襲ってきた。

 

「特式三十九番『甲閧円扇(こうこうえんせん)』」

 

双也がそう宣言すると、丸い小さな盾が多数出現し、彼の背を覆った。その様は亀の甲羅の様。

妖怪達の攻撃は当然それに防がれ、ガキィィンッ!と甲高い音を響かせた。

 

(今だな!)

 

背を向けたまま、双也は次の攻撃の準備にはいった。

即ち、地面に手をついてからの宣言を。

 

「特式五十八番『闐刃瞬風嵐(てんじんしゅんぷうらん)』!」

 

地面についた彼の手から、一瞬だけ風速100mを超える竜巻が発生し、周囲を薙ぎ払った。

強い風は鋭い刃と化す。竜巻は大量のカマイタチをまとって彼の周囲のモノを一瞬にして斬り刻んだのだ。

 

終わった、と思い、身体を起こす双也。

しかし、周りを見渡した彼は訝しげな表情を浮かべた。

 

「妖怪たちが…いない…?」

 

先程切り飛ばしたはずの妖怪が跡形も無く消えていた。

闐刃瞬風嵐は、斬り刻むとは言っても細切れにするほどではない。

例え細切れになったとしても、それでは血だまりがあるはず。

しかし、彼の周りにはそれらが一切無かった。

 

「どこにいっーーぐあっ!?」

 

瞬間、双也の背中に切り傷が入り、鮮血を散らした。

後ろを振り向いて相手を確認しようとするが、そこは暗くなった人里があるのみ。

彼は結界刃を発動し直し、再び意識を集中させた。

 

(傷は…治療完了。 謎の攻撃…か。気配の察知…)

 

双也は頭の中で状況、対策を文字列として並べ、理解していく。

こうする事で、余計な事は考えずに集中しきる事が出来るのだ。

 

突然、5mほど離れた所で大きな妖力が現れた。

 

(そこか!!)

 

始めと同様、瞬歩を併用して斬りかかる。

普通ならば回避など出来ないくらいの速さ。

しかし、彼の刃に手応えはなく、

 

代わりに、彼の身体に複数の切り傷が入った。

 

「ッ!!? クソッ どういう、ことだ…!」

 

妖力を感じる。攻撃する。切り傷が入る。状況が理解できない双也はそれを複数回繰り返した。

 

結果、彼の周りには大量の血が飛び散っていた。

 

(くっ…傷は直せても血は戻らない…クラクラしてきたな…)

 

血の流し過ぎ、つまり貧血によって眩暈を起こし始めた双也。

しかしそこは長年の戦闘スキルと言うのか、頭では相手に集中していた。

 

(直接は近付かない旋空も使った。それでも切り傷が入る。…全て攻撃後の隙…)

 

直線的に近付いての斬撃。それは避けられ、直後に攻撃される。

なら遠距離ならば? そう考えて使った旋空でも当たる事はなく、彼は攻撃を受けた。

双也は、これがこの状況を打開する鍵だと考えていた。

 

(超遠距離からの攻撃というなら、わざわざ攻撃後を狙う必要は無い。隙を狙う理由…直接斬っているから…か?…ならば…)

 

再び大きな妖力が現れた。

分析し続けている彼は当然、それが囮である事は分かりきっていたが

 

……彼は再び、斬りかかった。

 

(予想が正しければ…)

 

ズダンッという足踏みの音と共に縦斬り。

当然刃に手応えはない。しかし彼の作戦はこれだけでは無かった。

 

(この瞬間!!)

 

攻撃を受ける直前、地面に手をついてもう一度宣言した。

 

「特式五十八番『闐刃瞬風嵐』!」

 

ズザザザザァッ「「「「ぎゃぁあぁああ!!?」」」」

 

瞬間、誰もいないはずの空間に叫び声が響き、血飛沫が舞った。……先ほど消えた妖怪達であった。

 

「へぇ〜。見破ったか」

 

そう言いながら姿を現した先程先頭にいた妖怪。

彼はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら双也を眺めていた。

 

「大方、姿を見えなくするとかそういう能力だろ? デカイ妖力を囮に攻撃を誘い、その隙をついて妖怪たちが攻撃する…考えてみれば何て事はないテンプレな作戦だな」

 

彼の推理を聞くと、妖怪はより一層笑みを深くし、高らかに言い放った。

 

「そう! 俺の能力は"あらゆるものを隠す程度の能力"! 雑魚が使えば雑魚にしかならん能力だが、俺みたいな強者が使えば……こんな事もできる」

 

「? …がぁあぁあ!?」

 

妖怪は腕をあげ、すぐに振り下ろした。

その瞬間、上空から妖力で出来た大量の剣が双也に降り注いだ。

突然の事だったので、彼は少しだけしか剣を弾く事ができず、その剣の雨を一身に受けて膝をついた。

 

「うぐっ…くそ…」

 

「ひゃははははっ!! いいざまだなぁ守護者様よぉ!! 能力のついでだ! 名も教えてやるよ!」

 

妖怪は今まで"隠していた"妖力を解放した。

その総量は大妖怪に恥じない膨大な量。

その妖力の一部を使って生み出した大鎌を双也に向け、名乗った。

 

「俺ぁ迦禍丸(かかまる)! この平和ボケした幻想郷が大っ嫌いな大妖怪だ!! さぁ守護者様よぉ、大人しく死んでくれや!」

 

 

 

 

 

異変が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……この妖力…量……ちょいとばかしヤバそうね…仕方ない! 仕事だものね、一汗かいてきますか!」

 

 

 

 

 

 




多分、あと少しでこの章は終わりです。

少し心配しているのですが、これから先起こるイベントの事…もう察してる方とかいるのでしょうか…?
もし"もう分かっちまったよ!"って方がいたら、暖かな目で読み続けてくれると私は嬉しいです。

ではでは。

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