東方双神録   作:ぎんがぁ!

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やっとですよやったぁ!!
みなさんこれからもよろしくお願いしますですっ!

ではどうぞぉ!!


第八十四話 真の目的

屋根を駆けて風を切る。

目指すは知らぬ間に妖怪達が襲っていた人里の向かい側。

 

(…あんなに人里が苦手だったのに、助ける為にこんな必死になるなんて…なんか変な気分ね…)

 

走りながらそんな事をふと思う。

正直に言えば…助けても怖がられるだけなのだから気は進まない。

自分を避けていく人々を助けるたがる人なんてそうそう居るものではないだろうし、仕方ない事だと思う。

 

それでも私が必死になれる理由…

それは、小さな頃からの"慣れ"と双也の存在。

 

避けられる事に対する妥協した気持ち。いや、諦めた気持ちかもしれない。

"仕方ない事"と割り切る事で心を保つ慣れた方法、

そして"人々が私を避けていっても双也だけは側にいてくれる"という安心感だ。

 

(ふふっ、つくづく支えられてばかりね、私は)

 

そんな事を考えていると、燃え盛る火が間近に見えてきた。

両手に針と札を構えて集中する。

 

「ぎゃぁあぁあ!! た、助けて…」

 

「いやぁあ!! なんでこんな事するの!?」

 

「お母さん! お父さん! イヤだよぉ! 一人にしないでよぉ!!」

 

あちこちで悲痛な叫びが聞こえる。

先ほどの爆発なのか、それとも妖怪に殺されたのか…それは知らないが、この惨状は見過ごせない。

博麗の巫女としても、人としても。

 

(妖力を感じる限り数はそれほど多くはなさそうね。嫌な予感は止まらないけど……考えてる場合じゃない!)

 

屋根から飛び降り、取り敢えず視界に入っていた妖怪に針を投げる。

まっすぐ飛んで、命中した。

 

「あなた達! 私が相手してあげるわ!」

 

襲っていた妖怪達は、私の声を聞くとこちらを向き…

 

何故か不気味に笑った。

 

瞬間、"悪い予感"の正体を知った。

 

「!? なんで…どうしてっ!?」

 

 

私の言葉は、大量の妖力の波に掻き消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

ギィンッ! ガンッ!

 

刃同士のぶつかる音が響く。

一つは刀、一つは鎌。

 

ヒュボッ カキンッ!

 

風を切る音。

不意打ちを弾く音。

そして……

 

「いい加減死ねよ!!」

 

「お前こそさっさと倒れろよ!!」

 

…俺と迦禍丸の怒声。

 

剣技が拮抗し、一太刀入れる事ですら難しい相手だった。

やはり大妖怪というのは侮れない。

 

「そこだぁ!」

 

「野次馬は引っ込んでろ!」

 

後ろに切り上げ、斬りかかってきていた妖怪を斬りとばす。

柊華が数を減らしてくれたとはいえやはり量が量。

未だに時折攻撃してくるのだ。

 

「余所見すんなよ守護者様よぉ!」

 

「ッ! チィッ!!」

 

勢いの止まらない迦禍丸の攻撃を捌きながら、俺は勝つ方法を必死に探していた。

 

(決められる技はある。でも当てられるか……)

 

そう、当てられるかが問題だった。

隠れている妖怪達もろとも迦禍丸を倒す技があるにはある。

でもその発動には時間が必要。

避ける余地など与えない、そんな技を使う必要がある。

 

 

 

……そして、ついに見つけた。

 

 

 

「オラァ!」

 

「っ!」

 

振り下ろされた迦禍丸の斬撃を受け止めた。

そして、ここで止まると見えない妖怪達の餌食になる為すぐに行動に移す。

まずは……少しばかり距離を空ける。

 

「破道の三十一『赤火炮』!」

 

地面に向けて放ち、爆発を起こさせる。

爆風で妖怪達との距離を開けたのだ。

そして解放している霊力を広範囲に広げ…宣言。

 

「!? 身体が…動かねぇ…!?」

 

「『天挺空羅』+『六杖光牢』…初めてやったけど上手くいったな」

 

縛道の七十七『天挺空羅(てんていくうら)』は、普通は広範囲かつ多人数に言葉を伝える為の鬼道だ。

しかし今回は、それに縛道の六十一『六杖光牢』を繋げ、天挺空羅の"伝達性能"を使ってその範囲内に居る全ての妖怪に六杖光牢を掛けたのだ。

…今更だが、こんな荒技もやってのける俺の能力って随分とデタラメだよな。

 

ツゥっと目の下に熱い何かが流れる感触がある。多分血だと思う。

広範囲で一気に能力を使った為脳に負担がかかっているのだろう。

 

でもあと少しだけ…保ってくれ!

 

中指と人差し指を立て、口の前に構えて詠唱を開始した。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる」

 

霊力の濃度が上昇していく。

迦禍丸の表情は焦りに染まっているようだ。

 

「何する気だ……テメェ!!」

 

「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ!!」

 

霊力が弾け、辺りが暗くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「破道の九十『黒棺』」

 

 

 

 

 

 

 

超重力と刃の本流に、飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒棺が発動し終わり、ガシャァアアンと崩れて月明かりが照らすと、そこには姿を現した、無数に切り傷の入った妖怪達。

そして…傷だらけで呻いて倒れている迦禍丸の姿があった。

 

「ケッ…こんなヤツに…負けるたぁ、情けねぇ…」

 

ドバッと血を吐いた彼を見ているのは少々辛い。

やはり俺は殺すのが苦手らしい。

 

「これでお前の企みも終わりだな。家に帰って反省でもしてろ」

 

そう言って柊華の元に向かおうとした。

が、呻きながらの迦禍丸の言葉に引き止められた。

いや、驚愕して立ち止まった。

 

 

 

 

「ハッ、まだ異変は終わってねぇぜ…」

 

 

 

 

「…なに?」

 

…意味が分からなかった。

コイツを倒したのに異変が終わらない? 他に真の首謀者がいるというのか?

血を垂らした口の端を吊り上げて、迦禍丸は言った。

 

「もう一度言うぜ…俺はこの幻想郷が大っ嫌いだ。何もかも壊してェぐらいにな」

 

「………………」

 

紡がれる彼の言葉を聞くたび、何かモヤモヤしたものが心に広がっていく感じがした。

 

「人里を蹂躙するだけでこの幻想郷を壊せるなんて、大妖怪であるこの俺が本気で思うわけねぇだろ。………なら、どうやって幻想郷を壊す? この強力な結界の、弱点はなんだ(・・・・・・)?」

 

「……ッ!! お前ーー」

 

「ククク…もう遅いぜ…神薙双也ァ…」

 

この妖怪の真の目的を理解し、反射的に怒声を浴びせようとした瞬間、迦禍丸は最後まで気味の悪い笑みを崩さず、妖力で作った剣を喉元に刺した。

 

彼の首元から一気に血が吹き出し……首が吹き飛んだ。

 

「〜〜っ! クソっ!!」

 

自害した彼の死体を一瞥し、俺はすぐに人里の向かい側へ、柊華の元へ急いだ。

 

 

 

迦禍丸の狙いは、最初から"柊華の殺害"だったのだ。

 

 

 

博麗大結界を管理しているのは代々博麗の巫女だ。

本当に結界を壊す気なら柊華の存在は真っ先に消すべきモノだろう。

もしかしたら、結界に関しては紫も関わってるかもしれないが…。

そして反対派の妖怪が集まり、結界を壊そうと反乱を起こしたのだ。

恐らく、人里での妖怪の喪失もその予兆。

 

人里で派手に暴れ、まず俺をおびき出す。

俺がアイツと戦って柊華が到着するのを待ち、来たら向かい側の騒動を教えて分断。

おそらく俺の方にも柊華の方にも、俺たちが想像する以上の妖怪が"隠されていた"に違いない。

もしあまりにも多い数の利を活かして攻められたとすれば……いくら"歴代最強"を誇る柊華でも勝てないかもしれない。

 

「間に合えよっ!!」

 

瞬歩の最高速で向かった。

人里は大きいが都程ではない。すぐに到着した。

そこで目にしたのは血相を変えて逃げていく人々、姿を現した膨大な数の妖怪達、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血を流して膝をついている柊華の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息が詰まる。

鼓動が激しくなって、大気を揺らしているように感じる。

目の前に光景を、頭で受け入れる事ができなかった。

 

 

 

柊華が…死ぬ…?

 

 

 

視界が激しく揺れていた。

身体中が硬直しているような、痙攣しているような、不快な感覚に包まれる。

 

 

 

イヤだ。

 

 

 

誰かを失うのは

 

 

 

イヤだイヤだ。

 

 

 

心に穴が空くのは

 

 

 

イヤだイヤだイヤだ。

 

 

 

人が死ぬのは

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやダいヤだイやだいやだ嫌だイやだいヤだ嫌だイヤだイやダイやだいヤだいヤダ嫌ダイやだ……

 

 

 

ただひたすらに"いヤだ"。

気付けば、頭を抱えて駄々を捏ねるように、空っぽの言葉をただただ並べていた。

 

 

 

不意に、声が響いた。

どこかで、聞いた事のある声だった。

 

 

 

ーー憎いか?

 

 

 

「憎い」

 

 

 

ーーどこまで?

 

 

 

「殺してやりたいほどに」

 

 

 

ーー殺すの、苦手だろ?

 

 

 

「ああ、苦手だ」

 

 

 

ーーフッ…なら、手伝ってやるよ(・・・・・・・)

 

 

 

 

意識が、プツンと切れた。

 

 

 

 

 




明らかにアレな感じですね。先を察しても言わないでいただけると嬉しいです。…再三申しておりますが。

ではでは。

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