東方双神録   作:ぎんがぁ!

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……シリアス…入ります…。

最初は紫視点。

ではどうぞ。


第八十五話 最悪の結末

双也が去った後、私は死体の処理や妖怪達の世話などをする為、その地に降り立った。

特に酷かったのはやはり、この異変の首謀者だった迦禍丸という大妖怪。

 

自ら刺した剣によって動脈が切れたようで、吹き出した血の勢いで首が千切れ飛んでいる。

……その表情もまだ笑っていた。

 

「っ………随分と、私も恨まれていたようね…」

 

そんな様子を目の当たりにし、流石に気分が悪くなった。

彼の心をここまで歪ませる原因を作った私自身にも思うところはあるが、もうどうにもできない。

死んでしまったら、戻らないのだから。

 

(でも…間違っては、いないわよね…)

 

人間と妖怪の共存。

永年の夢であるそれを実現させる為に、幻想郷を作った。

無理やりだった感は否めないが、"共存"という平和的な方向へ向かっていることは目に見えて分かることだ。

自分の行いに…悔いは無い。

 

「それにしても……どういう事…? これは…」

 

迦禍丸が従えていた妖怪達を見ていくと、ある事に気が付いた。

戦った張本人である双也と長い時を過ごしてきたからこそ分かる事。

 

 

 

 

 

昔よりも、やり過ぎている。

 

 

 

 

 

「双也が戦っている時は何度も見た事があるけど……こんなに深い傷…場所が悪ければ死んでいるところだわ…」

 

双也は基本的に殺しはしない。

神格化した時は"仕事だ"と言って殺している事もあるが、普段の時の双也は殺すのを好まない。

明確な"罪"が把握できていない時などはその普段の状態で戦っていることが多かった。

 

 

 

 

……そして、その状態の時は急所を外して攻撃する。

 

 

 

 

もはやそれは彼の癖と言ってもいい。

殺してしまうのが怖いから、なるべく急所は避けて攻撃する。

その所為で反撃を受けることもしばしばあったが、彼がそれを曲げた事はない。

 

それが今回はどうだろうか。

急所を外すどころか、場所によってはとても深く斬りつけている。

実際死にかけている妖怪も少なからず居たのだ。

この様子では、今回のこの過剰な攻撃が"初めて"ではない可能性すらある。

 

「…一体、どうしたというの…双也……」

 

彼の異変に湧き上がる不安。

双也がすぐにでも遠く届かない所に行ってしまう様な、やりきれない不安感がブクブクと、泥水の様に湧き上がってくる。

降り出した雨が、その感情を煽り立てている気がした。

 

そんな折、見知った強大な力を感じ取った。

 

「これは…双也?」

 

不安を覚えているところに感じた力。

私は直ぐにそこへ向かった。

柊華が戦っていた、こことは反対側の人里。

 

「ッ!? どう言う…事よ!?」

 

そこで目にしたのは、信じる事など到底出来ない…そんな光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

なんだろう…身体が沈んでいく気がする。

水の中の様な浮遊感はあれど、足を動かしても進むことは出来ない。

水面に見える場所には光が差し込んでいるようだけど、ここも息はできるし、居心地も悪い気はしないから別にいいと思った。

 

 

そういえば、何してたんだっけ?

 

 

今日は…寝ようとしたところで鈴が鳴って、駆けつけたら妖怪達が人を襲ってたから助けて……。

確か、幻想郷のルール的には違反してないから明確に"罪"とは言い切れなくて……能力は発動しないし、神格化はしなかったんだっけ?

 

それで…妖怪の大群と戦って、勝って……そうだ、柊華。柊華はどうしたんだ?

何か不安に駆られて急いで行ったら、何があったんだっけ?

 

……思い出せない。

 

何か、とても大切な事な気がするのに、記憶が頭から湧き上がって来ない。

穴の空いたスプーンで水を掬おうと、無駄な努力をしているような感じだ。

 

ふと、手に不思議な感触があった。

 

(何だこれ…なんかヌメッとしてる…)

 

手の次は服に重みを感じた。

濡れて重くなっているのかもしれない。

次に顔。飛び散ったように付いた。

……酷く不快だ。

 

(生暖かいし、ヌメヌメした感じが気持ち悪いな……)

 

不快に思いながらも、そのぬめりの正体を掴もうと指を動かしていると、よく知った臭いが鼻腔を突いた。

知っていながらも、かなり嫌いな臭い。

 

 

……血の臭いである。

 

 

(もしかして……このぬめりの正体は…血? なんで……!)

 

「………! ……………………!!」

 

不思議に思った刹那、どこか遠くの方で声が聞こえた。

遠過ぎて聞き取れないが、叫んでいることは分かった。

 

「い…………う……の…!! …んで………こ…!!」

 

また叫ぶ声。

今度は少し聞き取れたが、理解までには至らなかった。

 

(誰が叫んでるんだ?)

 

その叫び声は、驚愕を孕ませた悲痛な感じだった。

聴き続けたら嫌になってしまうような、そんな声。

 

「柊華ぁぁあああッ!!!」

 

(!?)

 

突然ハッキリと聞こえた声に少なからず驚いた。

それにあれは…紫の声だ。

 

滅多に叫んだりしない紫が、あんな必死に大声を上げている。

……柊華に何かあったのか?

 

そう考えた途端、身体を包むような温もりを感じた。

そして小さく、でもハッキリと声も聞こえた。

 

 

「双也、あなたは…優しい。私なんかを、救ってくれた、優しい…人よ。だから…お願い…!」

 

 

今にも息絶えそうな、必死な柊華の声だった。

 

柊華が……死にかけてる!?

 

(柊華…柊華ァ!!)

 

柊華を失いたくない。死んで欲しくない。いつも通り普通に、からかい合って遊びたい。

そんな気持ちが洪水のように溢れてくる。

一刻も早くこんなところから抜け出して、今にも飛び起きたかった。

 

(死んだらダメだ!! 柊華!!)

 

そう強く思った瞬間、もう遠くなってしまった水面から強い光が漏れ出し……声が響いた。

 

 

 

 

 

「いい加減目を覚ますのじゃ。お主はこんな所で終わる存在ではなかろう」

 

 

 

 

 

光が一層強くなり、グンッと体が引っ張られた。

ものすごい速度で水面が近付き、ザバァァン! と飛び出した。

空中で見下ろしたその場所は…

 

 

……一面に水を張られたあの場所。

 

 

意識は、そこでフッと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目をゆっくり開ける。

いつの間に瞑っていたのか分からないが、そうして意識が覚醒した。

いつの間にやら降っていた雨が、顔に水滴を打ち付ける。

そして、動こうとすると体に重みを感じ、すぐに耳元で声が聞こえた。

 

それはよく知った声。か細く、震えた声。

 

「…!……よかっ、た…目が…覚めた、のね…」

 

「柊華…?……………!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柊華は、結界刃に貫かれたまま(・・・・・・・・・・)俺を抱き締めるように、力無くもたれかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……なん、で…俺は……こ…こん、な……」

 

 

全く理解が追いつかない。

いや、理解出来るはずがない。

大切な友が、目の前で死にかけている。その腹を貫いているのが、自らの持つ刃。思い浮かぶ言葉など、唯の文字列に等しかった。

 

それでも、尚も答えを求め、頭を回転させていた。

…すでにグチャグチャになって、なにも考えられないような頭の中を。ただ必死に。

 

焦点の定まらない目で見れば、柊華は酷く傷付いて、息も絶えだえになっていた。

奥の方には、柊華程ではないが傷付いた紫の姿。

……ますます分からなくなる。なぜ二人は傷付いてる? なぜ柊華は死にかけてる?

 

 

「ふふ……大好きな、親友の為に、命を…使えるなら……本望、って…ものよ…」

 

「柊、華…? おい…柊華……何だよ、命を使うって…!」

 

 

震える手で彼女を揺する。

俺自身の声もすでに震えていた。

溢れる涙も、止まらなかった。

 

 

「死ぬなよ…死なないでくれよ……誰かを失うのは…辛いんだ…!!」

 

 

今の俺はきっと、雨の中でも分かるくらい涙を流しているに違いない。もう肌の感覚ですら失いかけていた。

 

それでも今、何故か(・・・)たった一つだけ感じられるモノ。

それは俺の頭を優しく撫でる、どこか暖かみのある柊華の手だった。

 

暖かさが、心に染み込んでいく様な気がする。

でも、だんだん小さくなっていくそれは逆に、柊華の死が近い事を示しているようで…………

 

"死んで欲しくない"。

その気持ちをどうしようもなく煽り立てていた。

 

「なんで……なん、で……」

 

「そう、や…」

 

「…柊華…?」

 

 

本当に小さな声で、途切れ掛かった声で、彼女は俺の耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

ーーありがと。

 

 

 

 

 

それきり、柊華は動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

それから先は、よく覚えていない。

後からかすかに分かるのは、ただひたすらに暴れ狂ったという事。

誰かに止められ、意識を刈り取られたという事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

悲劇を生んだ妖乱異変は、人妖共々の記憶に強く刻み付けられ、幕を閉じた。

 

 

 

 

 




……………。



ではでは。
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