はい、今回が正真正銘最終話です。
ここらがやっと折り返しですかね?
ではどうぞーー!!
「急に押しかけて悪かったよ、慧音」
「いや、構わないさ。もうかなりの付き合いだ、遠慮する事はない」
ちゃぶ台の前に腰を下ろし、上品にお茶を飲む慧音に声をかける。突然訪れた為に少し申し訳なく思っていたのだが、彼女の寛容な性格のおかげで悩む事も無さそうだ。
「…そうだな。もう数十年にもなるのか…」
「ふふ、年寄りくさいぞ双也。若者らしく堂々としていればいいと思うぞ?」
「……一応お前より年上なんだけど…」
微笑みながら、からかうように言葉をかける慧音。
こういうやりとりも意外と楽しいものだ。
俺が幻想郷に入ってもう数十年。正確には数えていない。自分の年ですらもう覚えていないし、割と本当に年寄り臭くなってきたかも知れないな。
柊華を失った時の傷は少しずつ少しずつ癒えていき、今はもう普通の生活ができている。あの時、紫に全て受け止めてもらった事が大きかったのだろう。
悲しみがもう無くなった訳ではないが…まぁそもそも、この手の傷は完全に癒える事など無いだろう。
俺としても、癒えてしまっては困るのだ。
…一生柊華を忘れない為に。
「そういえば…双也、今日も特には…
「……ああ、みんなちゃんと
少し心配そうに慧音は言った。
"忘れてる"と言うのはあの日の事だ。
どうやら俺が柊華を殺してしまったところを影から見ていた人間がいたらしく、人里全体に"守護者様が巫女を殺した"と広まってしまったのだ。
人々を逃がすために奮闘した柊華を、里の人間たちはあの時認めた。
その彼女を殺してしまった事で俺にかなりの憎悪を抱き始める人々が出てきたのだ。
それを良しとしなかった紫が、あの時に関する記憶を人々から抹消したのだ。
彼女なりの、俺への救済措置だったのだろう。
「…もう怖がる事は無いんじゃないか? あの日の事を覚えている人はもう私以外居ないんだ。気にする事もないだろう?」
"私も詳しくは知らされていないが"と付け足して、慧音は一息ついた。
実は、慧音と稗田の直系だけはあの日の記憶を消されていない。
他に理由があるのかもしれないが、俺は紫が"忌まわしい記憶も受け継がねばならない物"と考えているからだと思っている。
直接聞いたことは無いが、アイツなら言いそうな事でもある。じゃなきゃ"幻想郷縁起"なんて保護する訳がない。
「そうは言うけど…やっぱり視線ってのは怖いものなんだよ。たとえ俺に向いてなくても、思い込んじまうんだよ」
そう、恥ずかしながら、俺は里の人間達の視線を恐れていた。
人と言うのは不思議なモノで、"もう大丈夫"と言われても、心に残った深い傷は思い込みを生じさせるのだ。
俺の場合、"実は覚えてる人が居て、影で憎悪を募らせているのでは"と。
人里に訪れる際、必ずと言っていいほど慧音の家に足を運ぶのは、先程の様に慰めてくれる人を求めていたからだ。我ながら、精神的には子供だなと嘆息してしまう。
と、その時玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「ああすまない、行ってくるよ」
「ん〜」
そう言い、慧音は玄関に向かった。
それを横目で見ながら、淹れてもらったお茶を啜る。…そういえば幻想郷に入ってからお茶くらいしか飲んでないな。
裁判所のカフェオレ(もどき)が恋しくなってきた。
そんな事を考えていると足音が聞こえてきた。慧音が戻ってきたらしい。
扉を開けた入ってきた慧音は、少し困ったような表情だった。
「? どうした慧ーー」
「…………………」
その表情の真意は、彼女の後から入ってきた人を見て理解した。
その人は
「霊、那……」
「……久しぶりですね、双也さん…」
昔よりも大きく、美しくなった博麗霊那が、そこに立っていた。
"楽園の優しき守り神"、博麗霊那。
先代、博麗柊華に養子として引き取られ、しばらくの間愛情を注がれて育つ。
しかし、異変に出向いた事で柊華が亡くなってからは、妖怪の賢者八雲紫によって育てられる。
その際封印術、戦闘術を学び、十三歳の頃博麗大結界の管理を任される。
戦闘に関して、先代ほどでは無いにしろ非常に強い力を持っているが、先代の遺した影響によって"博麗の巫女"と"人里"の間にあった畏怖の壁は無くなり、先代とは違って非常に穏和な性格の為、人里の人間達とも仲良く過ごしている。
そして、先代博麗柊華の親友であった神薙双也とは面識はあるものの、長い間顔を合わせていない。
ーーというのが、今の幻想郷に於ける霊那への認識だ。
柊華も霊那も、英雄伝として幻想郷縁起に記されているため、こういう認識が広まっている。
因みに俺の事はまだ載っていない。
俺の詳しい情報を見て、妖乱異変の事を思い出したりしない様に予防するためである。
紫の封印術がそんなに脆い訳はないとは思うが、俺が口を出すべき事ではないのだ。
そして俺は今、霊那に頭を下げていた。
「…いいんですよ双也さん。もう過ぎた事なんです」
「いや、それじゃあ罪悪感が拭えないんだ。本当はお前に謝る事でもないのかも知れないけど、ずっと…言いたかった
ーーーごめんなさい。
そう、心からの言葉を述べた。
本当に小さい頃だったとは言え母親を殺されたのだ。その人の記憶が朧げだとしても、湧き上がる怒りは多少なりともあるはず。
今まで、"俺の事を憎んでいるだろう"と思っていた俺に、霊那と向きあう勇気は無かった。だから柊華が亡くなってからは、ほんの五才やそこらの時に会ったきりだ。
自ら関わろうとは、しなかった。
でもずっと、一言だけでも謝りたいと思っていたのは事実だ。その為の勇気が無かっただけ。
何度か紫に会いに行こうと誘われた事はあるが、それもその勇気の無さゆえに断ってきた。
結局俺は、何に対しても、誰と比べても劣る、臆病者だったのだ。
暫く頭を上げずにいると、ふぅ、と少しため息が聞こえ、すぐ後には霊那の優しげな声を聞いた。
「仕方ありませんね…双也さん、少しこちらを見てください」
「ん?」
頭だけ上げ、少し無理をしながらも霊那を見上げると
ーービシッ
「…!」
「はい、これで怒りは収まりました。また昔みたいに、仲良くできますね♪」
軽く、小気味よくデコピンされた。
一瞬なぜデコピンされたのか分からなかったが、続く彼女の言葉で真意を察した。
……これだけの事で、俺を許すつもりでいるのだ。
「本当に…許してくれる…のか?」
「はい。あなたがずっと苦しんでいたのは師しょ…紫さんから聞いていますし、一言謝って貰ったら許そうって思っていたんです」
「…もともと、霊那がウチに上がってきたのは"双也が居る"と私が話したからだ。お前は霊那を避けているきらいがあったからな、それではいつまで経っても解決しないと思ったんだ。
間違った事をしたなら素直に謝る。真摯に気持ちを伝えれば、許してくれない人なんていないんだ。
…君が思っている程、人間は酷い生き物ではない」
慧音の言葉に、不思議と納得した。
"人間はそういう生き物なのだ"と自然に受け入れる事ができる。
俺自身、半分人間だからと言うのもあるかもしれないが、それを抜きにしても彼女の言葉にはそんな力があった。
「…ごめんな、二人とも」
「そこは謝罪では無く、お礼じゃないか双也?」
「……ありがと。霊那、慧音」
「うむ」
「ふふ、どういたしまして」
「どうしていましてー!…あれ?」
さて、ずっと心に引っかかってた事も無事取り除けたし、そろそろお暇………………ん? 今四人目の声がしなかったか?
「えっと、どういてたまして? あれれ?」
声のする方ーーー霊那の袴辺りに引っ付いている赤、白、黒の混じったちっこい塊に目を向ける。
すると黒い部分がコクコクと左右に揺れていた。
「どういたしまして、ですよ」
「どーうーいーたーしーまーしーて? あははは! おもしろーい!」
霊那がしゃがんでその塊に話しかけると、ゆっくり復唱して微笑む霊那に抱き着いた。
よく見れば、その塊は霊那と似通った巫女服を着た子供だった。
「えと、霊那…その子は…?」
そう呟くように問いかけると、霊那はその子の頭を撫でながら微笑ましそうな表情で言った。
「この子は私の一人娘、
「! お前、子供居たのか」
「なんだ、双也はやっぱり知らなかったのか。私は偶に霊夢に勉強を教えているんだぞ。今日霊那がここに来た理由はそちらが主だ」
「そうだったのか…」
と表では驚いている反面、内側では全く別の事を考えていた。
そう、子の名前が
(はは、やっっとここまで辿り着いたか…)
この世界に転生してから幾星霜。本当に長い旅だった。
苦難を孕み、たくさん寄り道し、転々と移り住み、生死すら超えて、遂に俺が本当に辿り着きたかった時間軸まで来た。
いや、後十年ほどか。でも、すぐそこまできている事には変わりない。
「そ、双也? なぜそんなにニヤけてるんだ…?」
「ん? おっと顔に出てたか。いや、嬉しい事があってね」
「?」
あまりの嬉しさと感慨深さに、気持ちが顔に出てしまっていたらしい。
慧音は少し引いたような表情をしているが、何故だろう?
俺は撫でられて嬉しそうな霊夢の近くで屈み、優しく話しかけた。
「霊夢ちゃん」
「えへへ…ん? にぃに、だぁれ?」
「お兄さんは双也って言うんだ」
「そうや? そうやにぃだね!」
そう言ってニパッっと笑う幼女霊夢。ヤバい、想像以上に可愛い。俺子供好きなのかな…?
…おっと、脱線しかけた。
「霊夢ちゃん、お兄さんとも仲良くしてくれたら嬉しいな」
「え? そうやにぃ、れいむと遊びたいの?」
「ん、そうとも言うかな」
「ふ〜ん…じゃあ遊びに行こっ!!」
そんな会話をし、霊夢に袖を引っ張られながら外に出る。
霊那も黙って見ている辺り、一緒に遊ぶ事は許してくれる様だ。
慧音からは小さく"いや、勉強…"と聞こえたが、知らないフリをした。だって遊ぶより勉強したがる四歳児なんていないだろ。小さい子は遊ぶ事が仕事なんだよ。
「やー! むそーふぅいーん!!」
「うわーやられたー!」
慧音の家の庭で、霊夢とそんな遊びを繰り広げる。
縁側では慧音と霊那が微笑ましそうに眺めていた。
そんな目など気にもせず、俺も柄にもなくはしゃいでいた。
ある日の、人里の正午を彩る楽しい時間なのだった。
「そういえば慧音、俺がここに来てどれくらい経つっけ?」
「ん? そうだな…四〜五十年くらいじゃないか?」
「マジ? じゃあ俺がここに来たのってやっぱ大正じゃ無いのか?」
「おそらくそうだろう。柊華から聞いたのだろうが、彼女は抜けてるところがあったからな。それに、霊那の年をいくつだと思ってるんだ? 大正ならばとっくにお婆さんだ」
「あ〜そうか…二十〜三十くらいか?」
「二人とも? 女性の年齢の事なんて話し合うものじゃ無いと思いますよ? 夢想封印喰らいたいんですか?」
「ああいや…ゴメン」
「素直でよろしいですね♪」
(…怒らせちゃいけないのはいつの巫女も同じか…)
幼女霊夢…ゴクリ。っと危ないですねこの表現w
最後のヤツは…まぁ、やってみたかったんです、ああいうの。
そして最後に、過去編完結を記念して一つだけヒントっぽいものを皆さんにプレゼントいたします。
それは………
"物語の最序盤に、ひっじょ〜に分かりにくい伏線が存在します"
という事。
ではでは。