東方双神録   作:ぎんがぁ!

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異変を、異"編"と掛けてみましたw
っと、それはまぁどうでもいいんです。
『〜 〜』の中身が大切なんです。

あとUA40000件ありがとうございます! 前より間隔が短くなってて私感謝感激でございますっ!

では新章、どうぞっ


第九章 紅霧異編 〜見据えた先にあるモノ〜
第八十八話 待ち侘びた"始まり"


あれから十年ほどが過ぎ、初夏の幻想郷。

梅雨に入った影響でこれでもかと雨の降る日が続く。

合間に晴れた日があっても、この魔法の森はタダでさえジメジメしている為、息が詰まるほどに湿度が高く、蒸し暑い。

 

「あ″ぁ〜…身体が…ダルい…」

 

度々猛暑の日々を過ごしてきた俺ですら、居間に寝転がって大の字になっている始末である。

あまりにも高い湿度が、俺の身体から動く気力を悉く奪っていた。

 

「オープンな博麗神社にも行きたいけど……あの始末だからな…」

 

正直に言って、強めの風さえあれば、暑さも含めてこの阿保みたいに気持ち悪い空気はなんとかなる。

その為に異常に風通しの良い博麗神社に行って寛ぎたいのだが……いかんせん、数年前から博麗神社には出禁になっているのだ。

 

と言っても、そこに暮らしている霊夢に手を出したとか、風呂を覗いたとか、そう言った理由ではない。

……単に思春期に入った霊夢が、俺が毎度訪れる事に気を張り始めたのだ。

 

(思い出すと笑えてくるなあの顔…くくくっ)

 

出禁を告げられた時の会話が脳裏に浮かぶ。

思い返すは数年前…

 

 

 

『ちょっと双也にぃ! そろそろウチに来るの止めてくれない!?』

 

『はぁ? 何でだよ、居心地良いし広いんだからいいだろ? 迷惑とかかけてないし』

 

『"ウチにいる事"が迷惑なのよ! お母さんから一人暮らしのコツとか教えてもらったし、私だけで大丈夫だからもう来ないで!』

 

『つれないなぁ、ちっちゃい頃は"そうやにぃ遊ぼー!"ってスゲェ可愛かったのに…』

 

『んなっ!? そ、それは関係無いでしょ!? 昔と今は違うのよっ! 大体今だって私はそこそこ…その…可愛いと…思うし……』

 

『んんん〜? どうした霊夢ちゃん? 可愛いお顔が真っ赤になってるぞー?』

 

『〜〜ッ もううるさぁぁああい!! 早く! 出てってよぉ!!』

 

『分かったよしょうがないな…寂しくなっても知らないからな?』

 

『フン!』

 

 

 

(あの時の霊夢は面白かったなぁ…)

 

顔真っ赤にして、必死で保とうとしてる姿はなんとも言えない面白さがあった。

俺がからかいすぎた感も否めないが、まぁ数年前の事だし、そろそろ落ち着いてると思う。

にしても、思春期だから異性を意識するのは分かるけどさ、昔からの仲ーーっていうか最早兄貴分である俺を追い出すってどこまで心荒れてんだよアイツ。

異性だからってツンツンしすぎだろ。

 

因みに、霊夢は俺の事を、"若作りしまくってる普通の人間"だと思ってるらしい。

俺自身、普段は霊力を極限まで抑えてるし、普通じゃない事に気がつかないのも無理は無いのだ。

柊華には初見で見抜かれたらしいが、決して霊夢が鈍いんじゃない、彼女が鋭過ぎただけである。

原作ではあれだけ最強キャラだった霊夢も、先人達を超える事は出来ないようだ。

………努力を渋ってついついお茶に手が出てしまうのも一因ではあるが。

 

そういえば、最近森の中をフラフラしてると何回か金髪の女性を見かける事がある。

森のパツ金女性って言ったら"白黒"か"七色"しか居ないわけだが…まぁそのうち会えるよな。

あんまり動きたくないから偶然に頼ろう。

 

「にしてもマジで居心地悪い……取り敢えずこのジメジメ地獄から脱出するか…」

 

暑さの難、加えてジメッ気の難を逃れるというなら、取り敢えず香霖堂だ。

この前行った時に現代のクーラーっぽいものが見えたし、もしかしたら使えるようになっているかもしれない。

 

霖之助だけで扱えるようになる可能性など皆無に等しいが、そんな淡い希望を抱いてしまうほどに参っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ウチに来たという訳かい、常連さん?」

 

「悪いね、俺からすれば地獄そのものだったんだよ森の中は」

 

「…まぁ君はちゃんと代金払ってくれる"お客様"だから、少しくらい良いんだがね」

 

そう言って、霖之助はまた手元の本に目を戻した。

暑っ苦しそうないつもの服は変わらず着ており、その顔に汗は見えない。

つまり"暑くはない"って事なのだが……少々期待が外れていた。

 

「なぁ霖之助、涼しいのに変わりないから別に良いんだけど…」

 

「ん?」

 

「なんでこの前のデカイ白箱(クーラー)じゃなくて扇風機使ってんの?」

 

そう、クーラーを求めて、さらに言うならキンキンに冷えた冷蔵庫と化した室内を求めて香霖堂に来たわけだが、その室内は冷蔵庫ではなく、少しの風が吹き交わす乾燥室だったのだ。

 

淡い期待を秘めていただけに、それを見事に裏切られて内心ガッカリしたのだが、まぁ風が吹いてるだけいいだろう。

最早キノコの巣窟となる恐れすらある我が家よりはよっぽどマシだ。

 

にしても、扱えないならまだしも"無くなってる"ってどういう事だよ。

アレなんか非売品にするには十分価値あるだろうに。

しかもあんなデカイもの、失くす事なんか普通ないと思うんだけど。

その旨を霖之助に伝えると、少々困った顔で説明してくれた。

 

「ああアレね…僕も手元から離したくなかったんだけど…逆らえなくてね…」

 

「は?」

 

「実はアレ、妖怪の賢者が扇風機を直すのを条件に買い取っていったんだ。鬼気迫る表情でね…」

 

「…ウソだろおい…」

 

まさかの紫。

もしや自分だけクーラーで涼しく夏を過ごそうって魂胆か!?

賢者様が住民の事考えないでどうすんだよ!!

そんな事してる暇があったら外界でクーラー買い占めて配布しろよこのグータラ妖怪!!」

 

「そ、双也…そんな滅多なこと叫んだら…」

 

「あ? いつの間に声に出てどわぁああ!?」

 

突然頭上から真っ白な冷たい物がドサドサドサッと落ちてきた。

突然だったので流石にその重量に押しつぶされてしまった。

よく見てみればそれは、夏には溶けてしまって見る事の無いアレだった。

 

「なんで…雪が…」

 

「どう考えても八雲紫の仕業だね。君には見えなかっただろうけど、それスキマから落ちてきたよ」

 

「あのヤロウ…」

 

感情に任せて叫び散らした俺も悪い気がしないでもないが、雪を落としてくる事ないだろう。

アイツは時々ツッコミが苛烈すぎる。どうにかならないもんか……。

 

「はぁ、しょうがないな。コレ固めて目の清涼剤にでもしようか。被ってると濡れるし…」

 

見事に散乱してしまった傍迷惑な雪を集め、雪だるまにして店内の至る所に置いておいた。

ついでに溶けないよう能力を付加して、これでよし!っと納得していた時

 

 

 

 

外が突然、赤暗くなった。

 

 

 

 

「…あ〜なるほど」

 

「どうやら…異変(・・)が始まったみたいだね」

 

外に出た俺たちが見上げた空は、何か赤い霧のような物で厚く覆われていた。

 

 

 

 

 




お察し展開ですいません。

ではでは。

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