東方双神録   作:ぎんがぁ!

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最近さらなる文章力が欲しくなってきましたw

ではどうぞっ!!


第八十九話 それぞれの目的で

一面の曇り空。もはや幻想郷全土が日陰になっていると言っても過言では無い。

暑い初夏にはとてもありがたい天気だけれど、今日の幻想郷を覆う雲はいつもの雪のような白ではなく……血のような赤だった。

 

それを見上げると、どうしても溜息が出てしまう。

 

「はぁ……どう考えても異変ね。太陽が陰って涼しくなったのは嬉しいけど、その代わりが異変なんじゃ本末転倒もいいとこだわ…」

 

正直、涼しくなったのだから居間に戻ってお茶を啜っていたい気分ではあるが、これ程大規模な異変を見逃す事はできない。

四六時中目に悪い赤色の空を見上げるなんて私が嫌だし、何より、博麗の巫女としてのプライドが許さない。

 

「ならやる事は一つね……さっさと解決して居間で一服する!」

 

グッと拳を握り、一つ決心。

早速神社に戻って、陰陽玉と札を持ってくる。

っと、最近導入したアレ(・・)も必要よね。

引き出しに仕舞ってある数枚の紙を持ち、袖の内側にしまった。

 

近年、私はこの幻想郷に"弾幕ごっこ"なるものを導入した。

それは人間が妖怪と対等な勝負をできるようにし、幻想郷のバランスを保つ為のルールだ。

 

一つ、決闘の美しさに名前と意味を持たせる。

 

一つ、開始前に命名決闘(スペルカード)の回数を提示する。

 

一つ、命名決闘で敗れた場合、残り体力に関わらず負けを認める。

 

………などなどである。

戦わなければ消えてしまう妖怪達、人間と妖怪との絶対的な実力上下…それらを鑑みて、胡散臭い古妖怪と一緒に考えたのが、この弾幕ごっこ…別名"スペルカードルール"である。

今回の異変も、このスペルカードルールの元に解決するつもりである。

相手がこれを知ってるかは関係ない。

異変を起こしたからには、力尽くでもコッチのルールに乗ってもらう。

嫌がったら無理矢理弾幕ごっこに移行させてやるわ。

 

「これで良し! それじゃ……ってあら?」

 

勘を頼りに飛び立とうとすると、人里の方で霊力が広がっていくのを感じ取った。

それは里を覆うように広がっていき、遂には包み込むと固定化して結界となった。

 

その様子を感じ取り、不意にフツフツと疑問が湧き上がってくる。

…一体誰が、結界を展開しているのか。

 

(結界が張れるのは私と紫くらいしかいない。里にはお母さんも居るけど…異変に関しては私に一任してるし…)

 

結界を張る事のできる人物に心当たりが無く、少々不安が募ってくる。

ご丁寧にも里の為に結界を張ってくれているので悪人ではなさそうだが、正体不明というのはなんとも不気味なものだ。

幽霊とかは平気なのに…なんでだろう?

 

とはいえ、私の手間が減った事に変わりは無い。

さっきまで頭からは抜けていたが、霧が及ぼす人体への影響も、誰かが張ってくれた結界のおかげで心配には及ばない。

私は、私の仕事をするまでだ。

 

「じゃ、サッサと終わらせましょうかね!!」

 

陰陽玉を浮遊させ、私の勘が示す方角へ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

「ふぅ…これで良いかな…」

 

一息つき、人里の門の前にかざしていた両手を下げる。

久しぶりに大規模な結界を展開したせいか、なんとなく腕が疲労している気がした。

 

香霖堂で霧を確認した後、取り敢えず人里に結界を張っておく事にした。

原作の知識でどんな異変なのかは把握しているが、実際目の当たりにすると色々と心配事が湧き上がってくるのだ。人への影響は、とか妖怪が暴れたりしないか、とか。だから取り敢えず、里を覆うように結界だけ張っておいたのだ。

杞憂かとは思うけど、得体の知れないものを用心しておく事に越した事は無い。

 

結界に綻びが無いのを確認し、早速向かおうと振り返ると、突然スキマが開いた。

出てきたのは当然、先刻俺に雪を降らせたグータラ妖怪。

 

「あら、今度は槍でも降らせてあげましょうか?」

 

「槍は降らせるもんじゃねーよ」

 

スキマから出てきていきなり言うセリフではないだろう。

おそらく俺の顔から読み取ったのだろうが、もう表情だけでわかるレベルを超えていると最近思うようになった。

そのうちスキマ妖怪やめて覚妖怪に転職するんじゃなかろうか。

 

そんな事を考えていると、機嫌が戻ったらしい紫が本題を持ちかけてきた。

 

「今日は少し頼み事があって来たのよ。聞いてくれるわよね?」

 

「どうせこの異変の事だろ? 俺が出向いてくれって言うつもりだろ」

 

そう言うと紫の微笑みが少し深くなった。予想通り、というところだろうか。

彼女は扇子を広げ、口元に当てながら話し始めた。

 

「さすが、理解が早くて助かるわ。正確に言うと、万が一の為に霊夢を影から見守ってて欲しいのよ。今回は規模が大きいし、首謀者も恐らくは強い力を持っているわ。用心するに越した事は無いの。お願いね」

 

「ふ〜ん…」

 

"まぁ今から行くつもりだったけどな"と言おうとして、言い留まった。ふといい事を思い付いたのだ。

紫の言葉に、白々しくも反応してみる。

 

「えー、俺今から帰ろうと思ってたんだけどなー(棒)」

 

「……何よその言い方。私の頼み、聞いてくれないのかしら?」

 

あからさまな棒読みを聞いて、紫も少し苛立ち始めたようだ。眉間に寄せられた皺がそれを示している。

だが、俺は更に畳み掛けた。

 

「条件付きなら聞いてもいいよー(棒)」

 

「………内容次第ね」

 

意外と沸点が低いのか、眉の端をピクピクと震わせながらも承諾してくれた紫。

それでいい、それでいいんだ。快適な夏を奪われた俺からのささやかな仕返しである。これくらいイライラして貰わないと割に合わない。

 

俺の表情を読み取ったのか、紫はドン引きしたような声音で言ってきた。

 

「……言ったはずよね、内容次第よ。例えあなたでも、"襲わせろ"なんてふざけた内容だったら認めないから。というより即殺してやるわ」

 

「お前の中での俺のイメージはどうなってるんだ。そんな事言うわけ無いだろ」

 

長年の付き合いである友人にそんなイメージを持たれていたとあっては、さすがの俺も傷付いてしまう。

俺のハートはガラスでないにしても、せいぜい"陶器"レベルなのである。深い傷は治りにくい。

 

紫の鈍器のような言葉で盛大に溜息が出るが、何とか気を取り直し、人差し指をビシッと指して言い放った。

 

「夏の間お前ん家に泊まらせろっ!!」

 

「………は?」

 

うっ、そんな"何言ってんのコイツ"みたいな表情を向けられると困るんだけど……本当に心当たりが無いのだろうか? アレだけ俺は叫んだのに。

 

「お前香霖堂でクーラー買い取ってったろ! 現在進行形で我が家は住めない状況にあるから、夏の間お前っ家の快適な部屋に住まわせてくれよ! コレ呑んでくれなかったら霊夢のトコには行かねぇ!」

 

自分でも、なんだか駄々を捏ねる子供のようだなと思ったが、実際切羽詰まっているのだから仕方が無いだろう。

幻想郷でも屈指の"おじいさん"である俺が幼児退行してしまう位なのだから、紫もきっと受け入れてくれるはず…

 

「そう、じゃあ他を当たるわ。札さえ渡せば霊那でも良いかしらね〜」

 

「待ってっ!! ホントお願いだから泊まらせてっ!! 死活問題なんだって!!」

 

振り返ってスキマに消えようとする紫を半ば必死で止める。

まさかそんな返答が帰ってくるとは思ってなかったので背中に嫌な汗を感じた。

紫って偶に冷たいんだよな。何故かは知らないけど。

 

「今まで野宿してきた人が何言ってるのよ。サバイバル生活なんてお手の物でしょう?」

 

「うっ…いやまぁ…それは、そう…なんだけど……」

 

挙句言い包められる始末。

会話の優位に立って宿を得ようとした数分前の俺が恥ずかしくなってきた。

反論できずに黙っていると、紫の溜息が聞こえた。

 

「仕方ないわね…いいわ、泊まらせてあげる。その代わり霊夢の件はちゃんと完遂して頂戴。いいわね」

 

「ありがと紫! グータラ言って悪かった!!」

 

「わ、分かればいいのよ、分かれば…」

 

なんだかんだ言って優しい紫に礼を言い、霊夢の霊力を感じる方向へ向き直って脚に力を込める。

 

「じゃ、行ってくるよ。部屋キンキンに冷やしといてくれよ?」

 

「はいはい、行ってらっしゃい双也。心配はしてないけど気をつけなさい」

 

「ああ、要らぬ心配ってやつ…だな!」

 

ダンッと地を蹴り、勢いよく飛び出した。耳には風を切る音しか入ってこない。あの館(・・・)に着くのもすぐであろう。

これから始まる異変の事を考えると、胸のドキドキが止まらなかった。

 

「さてさて、存分に楽しませてもらおうか」

 

呟きは、風の中に掻き消えていった。

 

 

 

 

 




異変で章を区切ると、一章分が短くなりそうで心配です。

ではでは。

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