東方双神録   作:ぎんがぁ!

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今回は長めに書いてみました。

はい、完全に気まぐれです。でもちょくちょくこういう回があるかなと思います。

でないと話数がとんでもない事に…

ではどうぞ!!


第九十四話 ブチ壊すべき物

レーザー用の魔法陣を展開させ、掌にも魔力を集中させる。弾幕を放つ用意は万全だ。

対してこの図書館の主だというパチュリーは、浮かせた本を開いて浮遊している。

魔法使いという同業者の私だから分かるが………

 

 

コイツは、魔法使いとして私より格上だ。

 

 

対峙する事で感じるパチュリーの魔力。

元が人間である私と比べてはかなり上だ。

何年魔法を研究したらあれ程になるのか…正直言って教わりたいくらいである。

 

 

そんな奴と、今から戦おうとしている。

 

 

勝ち目は薄いかもしれない。

魔力の差に加え、おそらくは技術も相当の物を持っているだろう。あの余裕がそれを物語っている。

 

もしかしたら、勝ち目云々は"薄い"では済まされないかもしれない。

アイツは、強者なのだ。

 

 

 

 

 

でも、それがどうしたってんだ?

 

 

 

 

 

"魔法に限界は存在しない"

それは私が今まで魔法を研究した中で、見つけ出した答えの一つ。

 

考えて失敗して、やり直しては繰り返し、私はそうした努力を続けて魔法の力を手にした。

努力した分だけ、結果は本当に付いてきてくれる。

最早それは、私にとってのご褒美なのだ。

 

……人に見られるのは、イヤだけれど。

 

そしてそんな努力の中で、壁にぶち当たる事なんて日常茶飯事だ。

 

中には、今まで欠片も思いつかなかった方法で成功させた魔法もある。試した中で、偶然成功させた魔法だってある。

そういった、頭が焼き切れそうになる程考え抜いた結果生み出されたモノは、十数年しか生きていない私でも少なくない程度には持っている。

何が言いたいのかと言うと………

 

 

 

 

限界は、自分で超えるものだ。

……という事。

 

 

 

 

誰かに引っ張って貰うものではない。

時には壁をぶち壊してでも、その先へ進むのだ。

"限界"なんて、有って無いような物である。

そんな曖昧な物を決定付けてしまうのは、人の心の線引きだ。

決めつけてしまえば、それまで。

それ以上なんて有りゃしない。

 

魔法というのはそれを色濃く現してくれている。

考え抜いただけ、出来る様になる。

繰り返しただけ、上手くなる。

 

…この一戦は、ある種の壁をぶち破る為の、私にとって大きな戦いなのだ。

 

パチュリーの魔力を直に感じて分かる。

アイツは、少なからず魔力や才能に恵まれている。

対して私は、元は何もなかった普通の人間。

魔力なんて皆無だった。

つまり…才能はゼロ。

 

 

だからこその、壁をぶち破る一戦。

 

 

努力は、才能を上回る事が出来る。

その証明戦である。

 

 

魔力が高い ーーだから?

年季が違う ーーそれがどうした?

 

 

それこそが限界の"線引き"。

高い魔力の差だろうが何だろうが、超火力でぶっ飛ばすだけだ。

弾幕に必要なのは"火力(パワー)"なんだから。

どんな限界も、詰まる所壊す為にあるものなのだ。

 

 

「さぁ、締まっていこうぜ!!!」

 

 

相変わらず表情を崩さない"本物"に向けて、弾幕を放ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜双也side〜

 

「始まったな」

 

空中で派手に弾幕を飛ばし合う二人を見上げて呟いた。

魔理沙は、俺と戦った時のようなレーザーと弾幕、そして何かボムのような物を投げての戦闘。

パチュリーは、四方に回転するレーザーと花火のように蒔き散る弾幕を放っていた。

その表情はまだ(・・)余裕そうだった。

 

なぜそう思うか、それは魔理沙の表情を見れば分かる。

何か、覚悟を決めたような顔をしているのだ。

決意した者は強い。揺らがない限り、立ち上がる事ができる。

きっと魔理沙はパチュリーを追い詰める事ができるだろう。

 

さて……

 

さてさて……

 

……………………。

 

「俺は何してよう?」

 

訪れた暇。

魔理沙のやりたそうな表情に流されて戦闘を譲ってしまったが、あとの自分の事を考えていなかった。

持て余した暇をどう処理しようか、今から考える必要がある。

…全く、これじゃ魔理沙の事を言えないな。戦闘がなかったら暇になるって十分俺も戦闘好きじゃないか。

 

でも言える。

これだけは言える。

 

俺は……戦闘()ではないっ!

 

 

………さて、じゃあ考えよう。思いついた物に意見していく感じで。

 

戦闘の観戦。

中々いいかもしれない。弾幕勝負なら、見た目が美しいので見ていて飽きがこないし。

でも流れ弾が飛んでくる可能性がある。

ボーッと見てて急所に被弾…なんて事は御免こうむりたい。

 

本を読む。

たくさんある訳だし、俺好みの物もきっとあるだろう。見つかるかは別問題としてだ。

しかし、どうせ読むなら静かな場所がいい。

と言うより、静かな場所でないと内容が頭に入ってこないので、弾幕勝負をしている隣で本を読むのはあまり好ましくない。

 

先に進む。

即決却下だ。俺の時にはちゃんと魔理沙は待っていてくれたんだし、そこまで薄情ではない。

それに恩…と言うと大袈裟だが、それを仇で返すのは気が引ける。

となると…………

 

「………………」

 

何も無いな。

うん、清々しいほどに何も無い。

魔理沙はよく待っていてくれたもんだな。俺が戦闘してる間一体何で暇潰ししていたんだろう?

 

「しゃーない…」

 

そこらをフラフラするか…と踏み出した瞬間、震えたような声をかけられた。

 

「ま、待ってくださいっ! あ、貴方の相手は私でひゅ!!」

 

噛んだ。

非常に美しい流れで噛んだ。

 

「……あの……ドンマイ」

 

「………………っ」

 

余りにも居た堪れなかったため、慰めの言葉をかけてやると、小悪魔はみるみる顔を赤くしていった。

…もしかしたら逆効果だったかも?

 

「と、とととにかくです!! 侵入者であるあなたをフリーにする訳にはいきません!!」

 

まだ顔は赤かったが、仕事優先と割り切ったのか小悪魔は同時に弾幕を飛ばしてきた。

 

だがまぁそんなにどギツイ密度ではない。むしろ隙間だらけな部類だ。魔理沙の方がまだ辛い。

思い返せば、この娘は現れた時もカタカタ震えていたようだし……ふむ。

 

「あれ? どこにーー!!?」

 

「ほら、これで一回分被弾だ」

 

隙間を悠々と通り抜け、瞬歩で小悪魔の背後を取った。

肩にポンッと手を乗せて言ってやると、彼女はビクッと体を震わせて驚いていた。

 

「な、なんで…攻撃、しないんですか…?」

 

「戦意もない奴に攻撃なんてしないさ」

 

侵入者を前に、誰かの後ろに隠れてカタカタ震える……これはどう見ても、恐れおののいて戦意を喪失している証拠だ。長年旅をしてきたからそういう光景も何度か見た事がある。

あ、怖がられてる対象は俺じゃなくてだ。

 

あでもそういえば、俺が怖がられてる事もあったにはあったな。

あー懐かしい、文元気にしてるかな…っと、

 

「そういう訳だから、無理に戦わなくていい」

 

「そ、そういう訳にもいきませんっ! 私だってこの紅魔館の一員なんです! お嬢様達の邪魔をする人なら、戦わなくちゃいけないんですっ!!」

 

「………う〜ん…」

 

中々引いてくれない。

俺としちゃ"戦闘狂じゃないから"あんまり無駄に戦いたくないんだけど…しょうがないか、戦う気満々だって言うなら最早止めるのもおこがましい。

存分に意気込んでもらって、早々に砕かれて貰おう。

 

「しょうがない、パパッと終わらせよう」

 

「っ……や、やってみてください!」

 

「………ああ」

 

こちらから見ても分かるくらいに震えながらも、小悪魔は弾幕を放ち始めた。始めよりは密度は濃い。

 

対して俺は結界刃を発動させ、一瞬だけ(・・・・)霊力を五割(・・)ほど解放した。

 

ドウッと霊力解放の波が周囲へ伝わる。

爆発的に噴き出した霊力は、最早衝撃波に近い。そして、大妖怪数体分以上に匹敵する俺のそれは、周囲の物を悉く壊せるほどの威力を持っている。

これが俗に言う"霊撃"という奴だ。

弾幕も同様、小悪魔の弾幕は一瞬で掻き消えてしまった。

 

「なっ…え?」

 

「ほれ、コレで終わり」

 

掻き消えた弾幕に思考を持って行かれている間に、俺は再び瞬歩で近付き、首元に刃を突きつけた。

 

「これで分かったろ? 無駄に戦いたくないんだよ、俺は」

 

「あ……ああ…」

 

そのまま少しだけ殺気をぶつけてやると、小悪魔はブワッと汗を噴き出して座り込んでしまった。

……至近距離なんだからもっと加減すればよかった。

目の焦点合ってないよ小悪魔……。

 

……っていうか、魔理沙達の弾幕も消しちゃったかな。

まずいなぁ後でどやされるのは勘弁願いたい。

アイツ弾幕勝負大好きそうだから、邪魔しちゃったってバレたら怒りそうだなぁ……もうバレてるか。

まぁとりあえず

 

「戦わないんだから、そこに座ってると流れ弾飛んでくるぞ」

 

「へ…?ーーわぁ!?」

 

ドドンッ

 

座り込んでしまっている小悪魔に声をかけながら手を差し出すと、ちょうどそこに魔理沙達の弾が飛んできた。

小悪魔はギリギリ気がついて避けたが、なんだか震えが大きくなっている気がする。

 

………………震える女の子ってこうも和むものなのか…。

 

果てしなくどうでもいい事が頭をよぎったが、ここでボーッとしているとまた何時とばっちりが飛んでくるか分からない。

俺は中々動き出さない小悪魔の手を引いて、魔理沙たちから離れた。

 

 

 

 

 

少し離れると、本が大量に置いてある机を見つけた。

いや、置いてあると言うには足りないな。

最早山となっていて机として使える部分はほんの少ししかない。

どんだけ読書が好きなんだパチュリー…。

 

小悪魔を椅子に座らせてそんな事を考えていると、不意に目に入った物があった。

いや、この場合は目に入ってしまった(・・・・・・・)と言うのが正しいかもしれない。

 

「……なんだ…アレ…」

 

俺が目を向けた先にあったのは、他とは漂う空気が異質な、鉄製の重苦しい扉だった。

 

太陽光が遮られた、つまり日が差さず常に薄暗い今でも、まるで別空間にあるような異質さを放つ扉。

暇を持て余し、取り敢えず魔理沙たちから離れてきた俺からすれば、結構興味を引くものだった。

怖いもの見たさ故に、というところだろうか?

 

まぁ、何も言わずに離れるのは紅魔館側としても嬉しくないだろう。あくまで俺の立場は侵入者だ。戦わなかったと言ってもそれは変わらない。

座って居る小悪魔に一言かけようと振り返ると……

 

「すー…すー…」

 

「あらら、一応俺は敵の筈なんだけどな…」

 

小悪魔は背もたれに寄りかかって静かに寝息を立てていた。

さっきぶつけた殺気がかなりのストレスになっていたらしい。因みに今のはわざとじゃない。まごう事無き偶然だ。

…で、彼女たちからすれば、今は非常事態の部類のはずなんだけどな…仕方ない事だけど、なんとも呑気と言うか、天然というか。

 

声をかけられないのでは仕方ない。

なんとなく起こすのは忍びないし、寝かせておいてあげよう。

万一流れ弾がコッチにまで来て、彼女に被弾してもさすがに自業自得だろう。俺は悪くない。

 

その魔理沙たちの弾幕勝負の音も遠くから聞こえてくる。

あの分なら決着がつくのはもう少し先だろう。少しくらい探検しても問題ないはず。

 

 

さて、という事で……

 

 

「行ってみますか。ちょっとした肝試しだ」

 

頑丈そうな鉄製のドアの前に立ち、その冷たいドアノブを回す。

ギィィィィ……という特有の音が響く先は、どうやら地下の様だった。

 

(……何だろう…何か忘れてる……それにこの空気…)

 

心の内に陰りが差し出す。

なんとなく嫌な予感は感じるものの、肝試しというのは大抵そんなものだろう、と結論付け、俺はその暗く長い階段を降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時は想像すらしていなかった。

 

 

その悪い予感が、"どんな形"で現れてくるのか。

 

 

その悪い予感というのが、今まで一度だって外れた事はなかった事に、俺は気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜魔理沙side〜

 

「ちっ、やっぱ強ぇ!」

 

「当然よ。魔法使いもどきと比べたらね」

 

「言ってくれるじゃんか、よっ!」

 

パチュリーとの弾幕勝負は苛烈を極めていた。

いや、もしかしたらアイツにとっては苛烈でも何でもなく、ただ"コイツちょっとやるなぁ"位なのかもしれないが、少なくとも私にとっては苛烈だった。

 

私とは違って回転するように放たれるレーザー。

それに加えて周囲にばら撒かれる弾と、私を狙ってくる弾が複数。

 

向かってくる弾の隙間を、迫ってくるレーザーと周囲の浮遊弾に気をつけながら避けなければらならないこの状況。

ウザったくなったからスペルで吹っ飛ばした時もあったが、相変わらず気を休めるタイミングが無い。

 

だがまぁ私が必死こいたお陰で、向こうにスペルを使わせる事も出来た。

弾速とかがっつり変わり、嬉しい事に私的には避けやすかったので見事スペルブレイク。

 

私は残り二枚。

パチュリーは残り、一枚だ。

 

 

「どうしたパチュリー! もうあと一枚だぜ!?」

 

「調子に乗らない事よ盗人。前の二枚は前座だもの。破ったくらいではしゃがないでくれる?」

 

「っ…結構毒舌だなアイツ…」

 

軽口を叩きながらも弾幕を放つ手は休めない。というより休めてる暇がない。

いや、軽口を叩けるようになっただけ最初よりは余裕が出てきたのだろうけど。

どちらにしろ、今波に乗ってるのは私の方だ。

 

「波と来たら乗るに限る! 二枚目行くぜ!」

 

若干押している。

戦況は私に有利なこのタイミングで、追い討ちをかけないわけにはいかない。

弾幕を放ちながら、二枚目のスペルを取り出した。

 

「黒魔『イベントホライズン』!!」

 

小型魔法陣を展開、回転させ、薙ぎ払うような弾幕を放つスペル。

内側に戻ってきた魔法陣からはばら撒かれる様にも放たれる為密度は中々に濃い。

その点に関してはパチュリーの弾幕よりも上な為、相殺しながらでも攻撃できるのが利点だ。

私は力の限り弾幕を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、今日は割と喘息の調子が良いのよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾幕の中、パチュリーの声は驚くほどに良く聞こえた。

 

アイツの指に挟まれた最後のスペルカードが、今までに無い力を放っていた事に気が付いたから。

 

無意識に耳を傾けていた。

弾幕同士の相殺し合う音の中でもはっきり聞こえるほどに。

 

焦りとも言える気持ちと共に、凝視していたのだ。

 

「これで最後よ。三枚目……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月符『サイレントセレナ』」

 

 

 

 

 




気付いた方も居る…というかみんな気付いてると思いますが、この小説では紅魔郷の時点で永夜抄のスペルも何枚か登場させています。

理由は………戦闘を書くのにボリュームが足りなかったから…ですかね。

紅魔郷の時点だとスペルが一〜二枚になってしまって、どうしても戦闘に厚さがなくなってしまうんですよねw

なので一足先に、何枚かは登場させて頂きました。

"そんなの紅魔郷じゃねぇっ!!"って方々、ホントにゴメンなさい…。

ではでは。

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