東方双神録   作:ぎんがぁ!

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文字が多くて読みにくいかも知れません。

ではどうぞっ!!


第九十五話 決着、白黒の一大決戦

「月符『サイレントセレナ』」

 

 

その宣言を皮切りに、私の視界の中で小粒の弾幕が生成され始めた。

出来上がると同時に真っ直ぐ飛んでくる弾幕のようで密度も少しずつ上がってきているが、今の所密度も速度もそれ程凄くはない。

 

「なんだよパチュリー! そんなのがとっておきなのか!?」

 

「これからよ。ほら、余所見してると被弾するわよ」

 

「はっ、私もスペル発動中だって忘れてーー!!?」

 

刹那、私は目の前に迫る弾(・・・・・・・)に気が付いた。

慌てて首を傾けて辛うじて避けたが、頰に掠ったらしい。ヒリヒリする。

 

って、そんな事より……

 

「嘘だろ…私のスペルが……押されてる(・・・・・)!?」

 

広がる光景に目を疑った。

パチュリーの唱えたスペルの密度は高まっており、私のイベントホライズンと衝突しまくっている。私のスペルに対抗する程の密度になっていた事にも驚いたが、真に私が驚嘆したのはその事じゃあない。

 

 

パチュリーのスペル…サイレントセレナのその硬さ(・・)だ。

 

 

「ちっ、とんでもない隠し球用意しやがって…」

 

弾幕はパワー。

私のその口癖の通り、私の持つスペルは火力重視の物が多い。というかそれしかない。破壊力については霊夢からも太鼓判を押されているほどだ。

今発動中のイベントホライズンもその例には漏れていない。

密度が濃いスペルだが、その威力も他に引けを取らないほどに調節してある。普通の弾幕ならば簡単に押し切ってしまうほどだ。

 

 

しかし、パチュリーのサイレントセレナの弾幕は、その破壊力を上回った硬さをしていた。

 

 

威力重視の私の弾幕が、十数個衝突しなければ相殺できないほどの硬さを持っていたのだ。

さっき目の前に飛んできた弾は、恐らく相殺しきれなかった弾の一つ。

視野を広げて見てみれば、かなりの数の弾が私のスペルを押し切って流れてきていた。

 

「くそっ! これが差だって言うのか!?」

 

「そうよ。これが"本物"と"偽物"の差。分かったらさっさと力尽きてくれないかしら」

 

「だからってそりゃあ出来ない相談だな!!」

 

売り言葉に買い言葉。

パチュリーの挑発には悪態で返した。

が、そんな強がっていられる状況でもないのは確かだ。

スペルのおかげで少しは相殺している為避ける隙間には余裕がある。でもこの分ではすぐにブレイクされてしまうだろう。

早い内に打開策を考え出さなければならない。

 

「はぁ…どうやら簡単には落ちてくれないようね」

 

「当たり前だ! いくらお前が強くても私が諦める理由にはならないんだよ!」

 

当たった壁は超えてこそだ。私より強いパチュリーはまさにぶち当たった高い壁。

諦めてたまるか。

 

そんな気持ちを込めて叫ぶ私に、パチュリーはもう一度大きな溜め息をこぼし、静かに言い放った。

 

「じゃ、次の段階ね」

 

「…は?」

 

次の瞬間、パチュリーは今までの小粒の弾幕に加えて、列のように並んだ大量の弾幕を広範囲に撒き散らし始めた。

アイツの付近は最早弾幕で見えない程になっており、並べられた硬ったい弾幕はことごとく私のスペルを押し切り、怒涛の密度で飛んできた。

 

その物量に圧倒されたイベントホライズンは、曰く二段階目に突入した時点でスペルブレイク。

 

 

私の残りスペルは……一枚のみだ。

 

 

(ヤバいぜ…コレは相当ピンチだ…!)

 

迫り来る異常な密度の弾幕を、それでも必死で避け続ける。でもそんなのが長く続かないのは自明の理。

私のスタミナだって無限じゃないんだ。避け続ければ当然疲れるし、集中力も切れてくる。

 

そうなる前に、この壁をぶち破る方法をーーー

 

 

「考え過ぎて、視野が狭まってるわよ」

 

 

「ッ!!!」

 

その声に気が付いた時には、もう遅かった。

 

腹に一つの強い衝撃。当たったものは物凄い硬さをしている。

……当然、それはパチュリーの弾幕の一つだった。

 

「ぐあッ!! っ! マズイーー」

 

一つに怯めば、次の動作も遅れる。

異常な硬さを持つサイレントセレナの一発に被弾した私には、連鎖的に弾幕が飛来し、嵐の様な攻撃が一身に降りかかった。

 

「うわぁぁあぁああッ!!!」

 

身体中に大量の弾が衝突する。まるで鈍器で乱打されているような苛烈な衝撃が、休む間も無く降り注ぐ。

私は歯を食いしばって、どうにか意識が飛ばないように耐えるしかなかった。

 

やがて体の方が耐えきれなくなったようで、力も入らなくなって落下した。

衝突したらただでは済まないので、なけなしの魔力でほんの少しだけ浮力を生み出し、緩和だけしておいた。

 

「うっ…ぐぅぅう……まだ…負けて、ない…ぜ…」

 

「全く、人間の癖にまだ立つの? そのタフさだけは見習いたいものだわ」

 

放たれる弾幕を一時中断し、パチュリーが話しかけてきた。

余裕ぶっこきやがって!!とも思ったが、生憎そんな悪態をつける状態では無かった。だから震える腕でどうにか身体を持ち上げながら、睨み返してやった。

 

まだ私は負けていない。

身体中は痛いし、関節もギシギシと音を立てている。

正直言ってかなりしんどいが、私はまだ戦える。

 

スペルもまだ残っている。そして何より戦う意思が太陽よりもはっきりしていた。

それが折れない限り、私は立ち上がれる自信がある。

……相変わらず身体は言う事を聞いてくれないけど。

 

(さて………どうやってパチュリーに一泡吹かせるか…正念場だな)

 

私のスペルカード…最後の一枚はマスタースパーク。

最も愛用し、最も威力の高いスペルではあるが……本音を言うと、なんとなくではあるがパチュリーのサイレントセレナを越えられない様な気がしている。

でも、あの固過ぎる弾幕に守られたアイツに当てるには、どの道その装甲をぶっ飛ばさなければならない。

 

私のスペルの中で最も強いマスタースパーク。

例えそれがパチュリーに届かない物かも知れなくとも、私の手持ちの中では最も届く"可能性のある"スペル。

 

……うだうだと"かもしれない説"を考えるのは一旦止めよう。

私にはもう、ただ一心に目の前の相手に精一杯をぶつけるしか道はないのだ。

 

最後の一枚を取り出し、輝かせた。

 

「はぁ…いい加減諦めなさい。偽物がいくら努力しようと本物に勝てる訳はないんだから」

 

「試してもない事…言うなよ…。今までお前が見た事ないってんなら…私が今、証明してやる…!!」

 

力を振り絞り、箒に再び跨った。

同時にパチュリーもサイレントセレナを飛ばし始めた。

再びあの驚異の硬度を持った弾幕の嵐が迫ってくる。

私は勢いよく飛び出した。

 

 

「本物だとか偽物だとか…私には関係ない!」

 

 

迫ってくる小粒の弾幕を躱していく。

 

 

「魔法は努力した分だけ上手くなる! 才能の差なんか、努力の量で吹っ飛ばしてやる!!」

 

 

並んだ弾を、擦りながらも避けていく。

 

 

「実力の違い!? そんなもん知るか!! そんな限界、壊す為にあるようなもんだろ!!」

 

 

少々顔に焦りが浮かんできたパチュリーへ、スペルを掲げる。

 

 

「今! お前っつー才能の壁、木っ端微塵にぶっ壊してやるよっ!!!」

 

 

気持ちを叫びに、叫びを力に。

掲げたスペルの輝きが、一回りも二回りも強くなり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスタースパークが、進化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔砲『ファイナルスパーク』!!!」

 

進化した砲撃は、前よりも一層強い光と熱を放った。

私ですら飛ばされそうになった程の凄まじい威力。

ファイナルスパークは、サイレントセレナをことごとく焼き尽くして進み、

 

…………パチュリーを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

ファイナルスパークを放ち終わった私は、未だ爆雲が立ち込める中をユラユラと降下し、床に降り立った。

 

と同時に、ガクッと膝をついた。

 

「ううぅ………マジできつかった、ぜ…」

 

肩で息をしながら、痛む身体をどうにか支えていると、煙の中から何かが落っこちてきた。

 

落ちてきたのは、身体中ボロボロになったパチュリー。浮かべていた魔導書も一緒に落ちてくる。

…先程までの雰囲気は何処へやら、アイツは目をクルクル回して気絶していた。

 

「むきゅ〜………」

 

「へっ、どうだパチュリー…宣言通り、吹っ飛ばしてやったぜ…!!」

 

聞こえてはいないだろう。現に私の言葉には何の反応もない。

しかし、それがわかっていても言いたかった。

努力は才能を超えられる。見事な限界突破だ。

 

「ふっ…くくく、やってやった、ぜ…」

 

疲れた。本当に疲れた。

私は嬉しさで漏れた笑いも長く続けられず、床に大の字で寝転がった。

視界に入るのは、戦いの苛烈さを物語ったように焼き焦げたり、壊れたりしている本と本棚。

 

「ああ〜…全く、大切な魔導書が…勿体無いな…」

 

しばらくその本棚を見ていると、何処からかドドドドドという地響きが鳴り出し…突然本棚が消し飛んだ(・・・・・)

 

いや、正確には違う。

床ごと吹き飛び、木っ端微塵になったのだ。

まるで、

何かの衝撃で吹き飛ばされた様に(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なっ、今度はなんだよっ!?」

 

思わず文句が漏れる中、土煙の中から飛び出した影が二つ。

 

「いいから落ち着けっ!!」

 

「うるさいうるさいっ!! あなたは黙っててよっ!!」

 

片方は黒いフード付きの羽織に白いシャツを来た男。

もう片方は、宝石をつる下げた様な特徴的な羽が目立つ、金髪の女の子。

 

 

 

二人は、蒼く長い刀と大きな炎の剣で互いを斬り結んでいた。

 

 

 

「こりゃあ……離れたほうが良さそうだ!」

 

動かない身体に鞭を打ち、ついでにパチュリーを箒に乗せて距離をとった。

 

「全く、居ないと思ったら何してんだよ双也のヤロー」

 

黒い羽織の男…双也に小言を呟く。

 

「面倒ごとにならなけりゃいいけどな…」

 

私の呟きは、二人の戦闘音に掻き消えてしまった。

 

 

 

 

 




厚さを意識した戦闘ってのも案外難しいものですね。
臨場感をどうやって出せばいいか、とか。

ではでは。

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